問題が多いレストラン
予約していた二人の客に謎の因縁が!?
「予約のお客さんまだかなー」
ここは地元の方は知っている小さいレストラン。高校の少し奥にあり、休日のランチは学生も来たりする。この前もカップルらしき男女が来店した。頭に数字ついてたな。そして俺はそのレストランのウェイター。20時予約のお客様が15分過ぎているのに2組とも来ていない。どちらもお一人様の予約なのだが、何かあったのだろうか。そういえば救急車のサイレンが鳴っていたが、巻き込まれてなければいいなと思う。そんな事を思っていると入り口の扉がゆっくり開いた。
「いらっしゃいませ」
俺は笑顔でお客様を出迎えた。その笑顔は一瞬にして消えた。
「お客様どうされました!?」
入ってきた客は、服も体もボロボロで息も上がっている。
「よっ予約していた…田中です…」
どうやら20時から予約していた田中という男性らしい。来てくれたのは嬉しいが、今はそれどころじゃない。
「田中様、大丈夫ですか?何があったんですか!」
「ここに来る途中にひき逃げにあって…でも予約してたのに申し訳ないと思い…」
「いやそこまでして来られなくても大丈夫ですよ!電話一本いただければキャンセルできたのに」
「食材が無駄になっちゃいます…あと初めて来るレストランなので楽しみで…今日は楽しませてください」
そこまで言うならと俺は田中様を席に案内した。
「かしこまりました、本日はごゆっくりと当店をお楽しみください」
田中様は足を引きずりながら移動したため、肩を貸した。
席に案内し座らせると田中様は事故の話をした。
「私が横断歩道を歩いていたら急に車が突っ込んできて、しかも僕を引いたあと一旦降りて確認したんですよ、青いポロシャツにジーパン、絶対忘れません。食事を楽しんだら警察に行こうと思います」
今病院と警察に行った方がいいと思ったが、機嫌を損ねまいと我慢した。厨房に田中様が席についた事を報告し、前菜を出したところでまた入り口の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
また笑顔でお客様を迎えた。今度の笑顔は消えなかった。
「予約していた山本です、遅れて申し訳ありません」
その客は、20時に予約していた山本様だった。30分ほどの遅れだが、今日はお客も少ないので問題ない。
「山本様お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
俺は山本様を席へ案内した。お一人様なので田中様の隣だ。山本様を席に座らせ厨房に行こうとすると、田中様に呼ばれた。
「あいつです」
俺は何のことか分からなかった。
「何がでしょう?」
「あいつが私を引いた犯人です」
「え!?」
俺は山本様をもう一度見た。確かにジャンパーをチャックを閉めて着ているが、中は先ほど言っていた青いポロシャツにジーパンを履いている。
「確かに先ほど言っていた格好ですけど、警察に連絡されますか?」
「いや、あいつに最後の晩餐ではないが猶予を上げよう、こんなにいい店に面倒をかけたくないからね」
「かしこまりました」
それでいいのか?と、犯人目の前にしたら口調変わったという二つの事を思いながら厨房に向かい山本様が席に着いたことを報告した。山本様に前菜を持って行ったとき、小声で質問された。
「あの…隣の人なんですけど、なんで服とかボロボロなんですか?」
やばい質問が来た。これは悟られてはいけない。刑事の気持ちが一瞬分かった気がした。犯人に逃げられてしまう。
「やばい質問ですね」
「やばい?」
心の声が漏れてしまった。これは俺がやばい。
「あっいえ失礼いたしました、あの方は有名なファッションデザイナーの方であの服は自分でデザインしたものだそうです」
「そうだったんですか、最近のファッションは全く分からないですね」
共に笑いあった。何とか大丈夫そうだ。
「それでは隣の方にご挨拶を」
すると急に山本様が田中様に話しかけようと席を離れようとした。俺は必死に止めた。
「どうされました山本様」
「いえ、せっかく有名なファッションデザイナーの方に会えたんですから、少しご挨拶をと」
いやそれは絶対にあってはならないことだ。とりあえず山本様をもう一度席に座らせた。
「あの方に私が聞いてみますね。お食事を楽しまれているところですので」
「そうですね、ではよろしく頼みます」
そう言って俺はすぐに田中様の席に向かった。田中様は少し怖い顔をしている。
「何を話していたんだね」
「その、少しご相談なのですが山本様が少しご挨拶をされたいと…」
声を小さくしながら俺は田中様に質問をした。
「挨拶だと?そうだな、二人とも食べ終わったら話してやってもいいと伝えてくれ」
「かしこまりました」
いいんだ。そのことを山本様に伝え俺は二人が食べ終わるのを待った。
コーヒーを飲み終わったところで、山本様が席を立ち田中様のところへ行った。田中様は少し睨みながら山本様を迎えた。俺は少し冷や汗をかきながら見守る。
「初めまして、私百貨店に勤めております山本と申します」
「何の用だ」
「はい、本題はとりあえず置いときましてここのお料理おいしかったですね」
「そうだな、少しメインの肉が固くナイフが入りにくかったが、味は良かった」
「そうですか?私はうまく切れましたけど、それにしても着ておられる洋服非常にかっこいいですね、センスが最高です」
その瞬間、肉の話で顔が少し引きつっていた田中様が鬼のような形相になって立ち上がった。俺はすぐに止めに入った。
「このやろう!何が服のセンスがいいだ!お前のせいでこうなったんだろうが!」
「僕のせい?何の話ですか!」
「お前が俺を!このやろう!」
俺が止めているのを振り切り、田中様は痛めている足を庇いながら山本様に飛びかかった。少しの間組み合っていると、ジャンパーのチャックが下ろされ、青いポロシャツが見えた。だが腹部のあたりに何かついている。
その場を見ていた人達の時が一瞬止まった。腹部には血がついていたのだ。しかも自分の血ではなく、返り血のようなものだった。田中様はそれを見た瞬間すぐに山本様から離れた。山本様はゆらりと立ち上がり奇妙な笑い声をあげた。
「はっはっはっは!ふぅ、バレたならしょうがない、ここでお前らも殺す。一人から何人増えても変わらないだろ」
山本様はそう言いだし、バックから血の付いたナイフを取り出した。その瞬間、入り口のドアがバンッと開いた。俺は反射的にいらっしゃいませと心の中で言った。もちろん笑顔は無かった。
二人が食べている途中で呼んでおいた警察が間一髪のところで来てくれて助かった。警察によると、山本様は来る途中に以前付き合っていた彼女をナイフで殺し食事に来ていたという。なんてサイコパスな人だ、だからジャンパー着てたのか。田中様の服がボロボロの理由も分からないはずだ。救急車のサイレンが鳴ったのもこれのせいか。そして田中様を轢いた犯人は出頭してきたらしい。ほとんどの問題が解決した。もう一つ残っているとするならば、あの二人から代金を支払ってもらっていない。
おいしく感じるわけないでしょ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。 きんたつ。