にじのたすき
赤の世界の火口の近くで一羽のホウオウがはねを休めていました。間もなく空からはねの飾りの美しい白銀の女性騎士が虹と共にホウオウの元におり立ちました。
「初めまして、わたくしは『虹の女神マチルダ』、またの名を『戦女王』。ほのおをまとえる鳥よ、この『虹のたすき』を橙の世界の生き物におわたしなさい。なお、わたすさい、黄の世界の生き物にこのたすきをわたすようお伝えなさい。」
マチルダはホウオウに赤、橙、黄、緑、青、紫の六色の帯をつなげた『虹のたすき』をわたしました。虹のたすきは火で燃えないとくしゅな素材でできています。
「しょうちいたした…。」
ホウオウがたすきを受け取ると、虹のたすきの赤い部分に『鳳』の文字が浮かびました。そしてホウオウは橙の世界に飛び立ちました。
橙の世界は地下の世界です。ホウオウは一匹のカブトムシを見つけました。
「カブトムシよ…、このたすきをぬしにたくそう…。黄の世界の生き物にわたすが良い…。そして緑の世界の生き物にわたすよう伝えるのだ…。」
ホウオウはカブトムシに虹のたすきを渡しました。
「うん。」
カブトムシがたすきを受け取ると、橙の部分に『甲』の文字が浮かびました。カブトムシは黄の世界に向かいました。
黄の世界はさばくの世界です。カブトムシはサボテンのひかげであつさをしのぎつつ、月夜の砂漠をかけ、満月が映るオアシスで一休みしました。
「どうしたの?カブトムシのお兄ちゃん。」
一匹のホタルがカブトムシに声をかけました。
「このたすきを緑の世界の生き物にわたして…。わたしたら青の世界の生き物にわたすように伝えてほしいんだ…。」
カブトムシは虹のたすきをホタルにわたしました。
「まかせといて。」
ホタルがたすきを受け取ると、黄の部分に『蛍』の文字が浮かびました。ホタルは緑の世界に飛び立ちました。
緑の世界は森の世界です。ホタルは一匹のカエルに出会いました。
「カエルさん、このたすきを青の世界の生き物にわたして。わたしたら紫の世界の生き物にわたすように伝えてほしいんだ。」
ホタルはカエルに虹のたすきをわたしました。
「うん!」
カエルがたすきを受け取ると、緑の部分に『蛙』の文字が浮かびました。カエルは青の世界に飛び跳ねました。
青の世界は海の世界です。しかし、先にある海にはだれもいません。
(だれもいないのかな…?まあ、この先が海じゃね…。)
海に入れないカエルはたすきをわたすべき生き物がいないことでとほうにくれていると、海の上で一頭のイルカがジャンプしました。
「カエルさん、こんにちは。ぼくはイルカです。」
イルカはカエルに寄ってきました。
「ちょうど良かった。このたすきを紫の世界の生き物にわたして下さい。わたしたら赤の世界の『鳳』という生き物にわたすよう伝えて下さい。」
カエルはイルカに虹のたすきをわたしました。
「わかりました。」
イルカがたすきを受け取ると、青の部分に『鯆』の文字が浮かび上がりました。イルカは紫の世界に泳いで向かいました。
紫の世界はどうくつの世界です。岸にはだれもおらず、イルカは海から出てさがすことができません。
(困ったな…、だれもいないのかな…?)
イルカがとほうにくれている中、一頭のバクが現れました。バクは真っ黒な身体に真っ白い大きな模様をしています。
「イルカさん、お困りですか?ぼくは『バク』っていいます。」
バクはイルカにたずねました。
「このたすきを赤の世界の『鳳』っていう生き物にわたしてほしいんです。」
イルカはバクに虹のたすきをわたしました。
「お任せ下さい。」
バクがたすきを受け取ると、紫の部分に『獏』の文字が浮かび上がりました。バクは赤の世界にかけていきました。
赤の世界にやってきたバクですが、お目当ての生き物が見当たらずとほうにくれました。
(『鳳』って生き物は一体なんだろう…?そうだ…、火口の女神様にでもたずねてみよう…。)
バクは火口に向かいました。火口の女神にたずねようとするも、誰もいないためますますとほうにくれました。そんな時、マチルダとホウオウがバクの元にやってきました。
「あの…、ぼくはバクといいます…。イルカさんから『鳳』という生き物にこれをわたすよう言われているんですが…。」
「我がその『鳳』だ…。」
ホウオウはバクに自分が鳳であると答えました。
「おおとりさん、これをお受け取り下さい。」
「うむ…。」
バクが虹のたすきをホウオウに渡すと、虹のたすきは七色の光を放ち、そらにうかびました。
「鳳、甲、蛍、蛙、鯆、獏…、みなでつなぎしたすき…、美しい限りです…。」
マチルダは虹のたすきを手にしてその美しさをたたえました。
「地上の生者たちよ、あなた達のきずなをしかと感じました。これからも全ての世界の生者が手をたずさえ合うよう伝え合いなさい。」
「ぎょい…。」
「しょうちしました。」
マチルダの呼びかけにホウオウもバクもうなずきました。
「それでは、あまねくたましいに虹の祝福を…。」
「そなたにも火のかごを…。」
「お姉さんにも闇のかごがありますように…。」
「ふふっ…。」
マチルダはホウオウとバクに見送られながら虹と共に大空へ飛び去りました。その後、ホウオウとバクはマチルダの『全ての生き物が手をたずさえ合う世界に』という言葉を世界中に伝えるたびに出ました。
それから長い年月が過ぎ、この話は『鳳、甲、蛍、蛙、鯆、獏、鳳…』という年の数え方の形で世界中に語りつがれていきました。