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偽物文学少女

作者: 南まんもす

 北条みゆきは偽物文学少女である。私がそのことに気づいたのは一ヶ月前だ。

彼女は休み時間にいつも本を読んでいる。大抵は私が知らない題名の本だ。私も読書が趣味だが、ほとんどがライトノベルである。彼女が読んでいるのはいわゆる純文学とか古典的名作文学といったものらしく、私の読書の興味とはあまり重ならない。


 一ヶ月前、北条みゆきは、私が読んだことのある本を手にしていた。最近ノーベル文学賞を受賞した世界的に有名な作家の長編小説である。あるマンガがこの小説を元ネタにしているのではないかという噂を知った私は、ライトノベルではない小説に挑戦した。ちょっと読むのに苦労したが、SF仕立ての面白い小説だった。私は北条みゆきと会話したことはほとんどなかったけれども、その本について話してみようかと思って、ページをめくっている彼女に近づいた。

 

 私はすぐに気がついてしまった。彼女が読んでいる本の文章に見覚えがあったからだ。それは私が大好きなシリーズ物のライトノベルだった。北条みゆきはライトノベル本にノーベル賞作家の小説のカバーをつけて読んでいるのである。

私は頭に血が昇った。バカにしている。ライトノベルがそんなに恥ずかしいのか? ノーベル賞作家を読むことがそんなにカッコいいと思っているのか? 私は本にカバーを付けたことがない。


 北条みゆきは無口な性格で、黒髪ロングのストレートだ。おそらく「文学少女」キャラを演出しているのだろう。長身でショートヘアの私とは見た目も対照的だ。

そのことがあって以来、私は彼女に対するもやもやとした気持ちを抱えながら過ごした。


 ある時私は目を疑った。北条みゆきが私が大好きなあのライトノベルの最新刊を手にしていたのだ。

私はつい話しかけてしまった。

「へーえ、北条さんも()()()()()()読むんだ」

我ながら嫌味な言い方だった。

「あの、これは……ちょっと、読んでみたくて」

私は更に攻撃を続けた。

「この間、ラノベに別の本のカバーつけてなかった?」

「それは、その、ライトノベルって、あまり、慣れないもので、ちょっと恥ずかしくて」

「恥ずかしい? それでその恥ずかしいラノベをなぜ読みかったわけ?」

「あの、それは……その、塚原さんが読んでいる本と同じものをどうしても読みたかったんです……」

本を握りしめてうつむく彼女は耳まで真っ赤になっていた。



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