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真名

 

 確かに犬が育ての親だなんて、(にわか)には信じられないのかもしれない。


「お前は……俺のこの姿が厭わしくないのか?」


「へっ?」


 少年に犬に育てられたエルフについてどう説明しようか考えていた所で、予想外の質問がされて固まった。少年はこちらを探る様な目つきで見てくる。

 ミアは彼の妙に必死な様子に、一つの仮説を立てた。


(そうか!少年は思春期だから、自分の見た目にコンプレックスが……)


 彼はガラスの十代である。幾ら個人的な記憶が今はないとは言え、取り扱いに注意しないと彼の一生の傷になってしまうかもしれない。


 ミアは少年の両肩に手を置いて、励ます様に力強く掴んだ。


「?!」


 少年は突然ミアが強めに肩を掴んできた事に、動揺している様だ。


「少年。君の事は、見た目はまずまず可愛いらしいけれど、中身は傲慢で生意気なクソガキだと思っている。でも!必ず!元の世界に帰してあげるからね!大船に乗ったつもりでお姉さんに任せなさい」


 ミアは150歳にもなるのにお姉さんと言うのは我ながら少しばかり図々しいとは思ったが、この世界ではミアはまだ成人したてのピチピチギャルなのである。


「ふん、物好きな」


 少年は中身を貶されたせいか、少し頬を染めつつも複雑な表情をしていた。


「……ところで、お前の名前は何というのだ?」


 少年は何でもない事を聞いてきた。しかし、その瞳には明らかに期待を込めた様な煌めきがある。


(あれ?名前言ってなかったっけ?)


 少年のこのセリフを聞き、ミアが口を開いた瞬間。


 それまで二人のやりとりをただ静観していたトビコが飛び出してきて、ミアと少年の間に割って入り、牙を剥き出しで少年を威嚇した。今迄あまり聞いたことがない程の大きな唸り声を上げて、最早トビコは臨戦態勢だ。

 いきなりのトビコの(はげ)しい剣幕に、犬嫌いの少年が恐慌状態になったらどうしようかとミアは慌てたが、意外にも少年は涼しい顔をしながらトビコを睥睨している。


「ト、トビコ、大丈夫?どうしたの、急に……」


 トビコは唸るだけで、ミアの質問には答えない。


「で、お前の名前は?」


 少年はこちらが一生懸命狂犬と化したトビコを抑えているにも関わらず、先程の質問を繰り返す。


「え、ああ……えーと、ミア。ユーフェミアだよ」


ミアの答えを満足そうに聞き、少年はいたく満足げだ。


「ユーフェミア……それが貴様の真名(まな)だな。覚えておこう」


 ミアは、こんな時にもマイペースに厨二発言を繰り返す少年の将来が心配になりつつ、ひきつった笑いをしながらトビコを宥め続けたのだった。


 ♦︎♦︎♦︎


 ミアが名前を少年に教えた後は、トビコはフンッと荒く鼻を鳴らして、のしのしとミアの部屋を後にした。トビコは見た目は犬のくせに、中身はまるで猫の様な気まぐれさがある気難しい獣なので、ミアはさして深刻に考えなかった。


 少年が夕食を食べた後は、疲れたからまた眠るというので、そういえば部屋の件を話さなければとミアは慌てて家の狭さと部屋数の少なさを説明した。


 この部屋で暫くミアと同室になり、今日は一緒のベッドで寝る事になると伝えると、ごねると思っていた少年は意外にも快く了承をしてくれた。

 自分の部屋なのに了承を得るなど、おかしな話ではあるのだが、相手は未成年でこっちは一応大人という自負がある。ベッドはなかなか広いものをドルイド君は作ってくれていたので、二人で寝てもきっと余裕だろう。


 ミアが風呂から上がると、もう少年は寝息を立てて寝ていた。魔法を使えば体など一瞬で綺麗に出来るのだが、お風呂にゆっくり浸かり、お気に入りのハーブ入り自家用石鹸で体を洗うというのはミアにとってはまさに至福の時間だ。


 トビコ曰く、エルフは人間では使い切れていない脳の機能を、100%近く使う事が出来るらしい。その為、睡眠時間が長くなる。下手をすると二日間寝ているというのもザラな為、ミアは必ずトビコに起こしてもらえる様に頼んでおり、この日も寝ている少年に気遣いながら布団へと潜ったのだった。


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