厨二病の少年
ベッドの隅まで後退り、全く隙を見せない少年は射殺しそうな程、ミアを睨みつけている。
「その滑稽な異形の耳……さては、貴様が無様に生き残っていたというダークエルフだな?この、化物め」
ミアは少年のあまりの尊大な態度と無礼さに、面食らってしまいすぐに言葉が出てこなかった。
「……はぁっ?!ば、ばけもの〜〜〜?!」
トビコがこの様子を見て、呆れた様にため息をついているのが視界の端に映る。
(あれ?日本はもっと、礼儀を重んじる国ではなかったか?)
この態度はいくら幼いとはいえ、教育的指導が必要だと判断し、私は少年の片方のほっぺを抓り上げた。
「だぁれが、化け物だ!助けてもらったら、まずはお礼が先でしょーが!」
「あぃだだだだだっ!おいっ、離せ!!くそっ!」
少年の態度は変わらないどころか、抓り上げてますます傲慢さに勢いがつく。全く、どんな躾をしたらこうなるのか。
「貴様、どこの手の物だっ!まさか、俺が壊滅させたダル=クラフトの」
「はぁあ?何わけのわかんない事言ってんの!」
少年はジタバタと暴れ、なんとか私に攻撃を加えようとしてくるが、人間がエルフに敵うわけがなく、私は一切ノーダメージだ。
「……とんだクソガキを拾っちゃった」
寝顔はあんなに可愛かったのに。
「クソ……ガ、キ?」
少年は自分が寝ていたそばに置いてある姿見鏡に映っている自分の姿を見て、漸く大人しくなった。少年は自分の顔をまじまじと見ている。彼は自分の頬をすりすり撫であげたり、目の中を確認したり、髪の毛を弄っていたりしていた。
先程までの勢いが消え無くなり、酷く焦燥している少年を見て、私は唐突に理解した。
(ははーん、成る程。これが俗に言う、思春期というやつか。そして、さっきの尊大な態度も、きっと厨二病というやつだな)
ムカつきはしたがこれも、この少年の大切な成長過程の一つなのだと思えば生温い感情へと変わり、理解した今となっては、先程の生意気な態度も微笑ましい。クソガキと罵ってしまった自分の狭量さを恥じた。
ミアは前世含め子供はいないが、伊達に150年も生きてはいない。そういう事であれば、それなりに理解はあるつもりだ。
「な、なんて不細工な……この、俺が……くそっ!そうか、あの時……」
少年は変わらず鏡に齧り付き、一人でブツブツ譫言を呟いている。彼は鏡で一頻り自分の姿を確認した後、顔から一切の表情が抜け落ち、がくりと肩を落としてとても落ち込んでいるようだ。
ミアは思春期の少年の、目紛しい感情の起伏を目の当たりにして、これから彼とちゃんとコミュニケーションが取れるのか一抹の不安を抱いた。