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亢龍、悔いあり(バイオ・サイボーグより改題)  作者: 詩歴せちる
凶暴な純愛
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終章4

 「いただきます」

 ある日の学校でのお昼休み。またまたいつもお昼をご一緒しているお友達が部活の会議があるとのことで別々にお昼を食べることとなりました。

 中庭のベンチで自作のお弁当を食べていると、前から見覚えのある人影が現れました。

 そして私の前に来ると、スマートフォンを操作して音楽を消し、私に声を掛けました。

 「燈和(とうわ)先輩、こんにちは。お隣、いいですか?」

 「えぇ!もちろんですよ!どうぞ!」

 紫慧羅(しえら)さんはゆっくりと座ると、手に持っていたお弁当箱を取り出し、その蓋を取ると、色鮮やかな中身が現れました。

 「シエラさんもお弁当なんですね」

 「…ボクも、燈和先輩を見習って、お弁当、作ることにしたんです。」

 「そうなんですね!もしよろしければ、今度…」

 ヴヴ…。

 私が話していると、紫慧羅さんのスマートフォンが震えました。紫慧羅さんはスマートフォンの画面を確認すると、すぐに私にその画面を見せてくれました。そこには。


 フェアリートーク

 『火:仲直りできそう?』

 『水:僕たちも一緒に謝るから、その時は画面を燈和先輩に見せてね』

 『土:大丈夫。燈和先輩は優しいからきっと許してくれるよ』

 『風:やっぱり贈り物とか買った方が良かったのかな…』


 そう、あの日鉄志(てつし)君は、紫慧羅さんと妖精さんたちを永遠に分離する…ということはしませんでした。きっと、やろうと思えば鉄志君はできたに違いありませんけれども。

命がけで戦った相手にも情をかける。それが鉄志君の良いところの一つですね。

 「お、贈り物なんていいですよぉ!!もう私は全然気にしていませんし!!もちろん、(まわり)ちゃんと(ころび)ちゃんもですが!!」

 「ありがとうございます。でも、燈和先輩」

 「な、なんですか?」

 「…ボク、まだてっくんのことは諦めてません。廻ちゃんと転ちゃんも、きっと。なので、油断しないでください」

 「…そうですか。分かりました。でも、私も負けるつもりはありません。それに、今はまだ私がリードしている状況ですからね!シエラさんが知らない鉄志君のこともいーっぱい知ってます!」

 私がふふんと鼻を鳴らすと、紫慧羅さんはふっと僅かに表情を緩めて笑いました。良かった。紫慧羅さんも、ようやく自然な笑みを浮かべることができるようになっている。

 「そうですね。ボクはこれまで、遠くからただ見ていることしかしなかった。だからボクはこれから、逃げずに、隠れずに、てっくんと向き合っていくしかない。でも。」

 「でも?」

 そういうと紫慧羅さんは右の側頭部に人差し指を当てると、静かに言いました。

 「ボクのここに、てっくんの『力』がまだ残ってる」

 「えっ!?あっ…!!」

 そ、そういえばそうでした。これは最早、鉄志君の体の一部が紫慧羅さんの体の中にあると言っても過言ではない!!!

 「…それにボクも、燈和先輩も知らないてっくんのこと、知ってます」

 「えぇっ!?」

 「あの日、ボクは燈和先輩も、廻ちゃんや転ちゃんも知らない、てっくんの本当の姿を見て、短い間ですけど、繋がったわけですし。」

 「ほ、本当の姿!?繋がったぁ!?なんなんですかぁ!?それは!?」

 「…内緒です」

 「シエラさん!!!!!」



 ***************************************



 「ローン!!国士無双!!」

 「げぇっ!?」

 「マジっすか!?頭ぁ…」

 「勘弁してくださいよぉ…」

 「お頭ぁ、そろそろ勘弁してあげたらどうですか?三人とも泣きそうな顔してますよぉ?」

 「つーか、10代の男子が四人そろって家で麻雀てどーなのよ?」

 いつもと変わらない、私の家での日常的な風景。

 私はメンバー三人と遊びの麻雀をし、廻と転は広いとは言えないベッドの上でこちらには興味を示さずスマートフォンでSNSを見ている。

 「ていうかスマブラやんない?そっちのが六人でできるし盛り上がるじゃん?」

 「ここにはテレビねぇからやるなら廻の部屋にテルミを入れることになるな」

 「ごめん、アタシが悪かった。やっぱそのまま麻雀やってて」

 「ちょっ!?頭ぁ!!!」

 バァン!

 私が廻や転、仲間たちといつも通りの他愛ない日常会話をしていると突如、扉が開き、息を切らし肩を怒らせている燈和が乱暴に入ってきた。この様子は…穏やかではないな。

 「鉄志君!!!!」

 そう叫びずかずかと入ってくると私の肩を持ち激しく体を揺らしながらいつも通りの尋問が始まった。

 「聞きましたよぉ!!シエラさんと繋がったってどういうことですかぁ!私や廻ちゃんと転ちゃんに見せたことのない姿を見せたってどういうことですかぁ!?」

 「えぇっ!?頭、ついに大人の階段上っちゃったんですかぁ!?」

 「ちょっと鉄兄ぃ!!どういうこと!?アタシもそれ詳しく聞きたいんだけどぉ!?」

 「お頭…あの時すっぽんぽんだったのは、やっぱり…」

 「えぇっ!?頭、マジっすかぁ!?」

 「頭ぁ!!」

 こ、これはまずい。話がどんどん良くない方向へと進んでいっている。完全なる誤解を生んでいる。

 「ちょ!!お前ら落ち着け!!決して今お前らの頭の中に膨らんでいる妄想のようなことは起こってない!!断じて違う!!ていうか燈和ぁ!!そういう話はここですんじゃねぇ!!」

 「だってぇ!!鉄志君!!」

 と、その時、再びドアが開き人影が現れた。そこにいたのは。

 「やっほー、てっくん」

 「と、東浪見(とらみ)ぃ!?」

 「…シエラ?何しに来たんだ?」

 「バイトの面接」

 「ば、バイト?」

 「あれ?お頭、聞いてないんすか?」

 転はやや間の抜けたような声で会話に入ってきた。

 「聞いてないって、何をだよ…」

 「シエラ、今のとこ辞めて親父のとこでバイトすることにしたんすよ。ウチが紹介しました」

 「聞いてねーよ!?」

 「サプライズ」

 そう言うと紫慧羅はいつも通りの無表情に近い顔のまま、ピースサインを作った。

 「だったら私もここでバイトします!」

 「…もうシエラで募集締め切りましたけど」

 「なんでぇ!!!!」

 「早い者勝ち。てっくんもここでバイトしてるんだよね。転ちゃんから聞いた。よろしくね」

 やれやれ。一難去ってまた一難。異世界の怪物どもと戦うよりも厄介なことになりそうだ。でも、この他愛ない日常こそ素晴らしいものだと思っている自分がいるのもまた事実か。

 純愛、友愛、恋愛、情愛、敬愛、慈愛、仁愛。

 愛の形というものは多岐にわたる。種類や形がどうであれ、それは決して一方的に押し付けるでも、他から奪って手に入れるものではなく、そのどれもが、与え、受け入れ、そして育んでいくものなのだ。


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