蘇る金狼
鉄 志
『どういうことだ?』
そう問いかけるも、紫慧羅と精霊どもは答えない。
だが代わりに、私たちのいた校庭は消え失せ、置き換わるように巨大な建築物がいくつも現れた。見回してみると、私はその光景に見覚えがあった。
新宿駅の東口。私が立っているのは、ロータリーだ。だが、現在のものではない。恐らく、数年前のもの。これは、紫慧羅の幼少の記憶か。それが一体、どこの範囲までかは分からない。この東口付近だけか、あるいは新宿全域か。そして私と紫慧羅しかいないこの空間には人影は一切なく、現実の新宿ではありえない静寂に包まれていた。
目の前に視線を戻すと、そこには紫慧羅が先ほどと同じ体勢でアスファルトの上に横たわっていた。その間にも私のかけた術により体中から始祖植物が生え、成長をしている。
傍から見れば気を失っているように見えるが、この疑似空間の構築を行ったということははっきりとした意識があるということだ。ならば油断はならない。奴らがどう仕掛けてくるか…。
ぼごぉっ…!!!
突如、倒れている紫慧羅の周りのアスファルトが陥没し、そのまま紫慧羅は地中へと入っていった。
土の精霊の『力』。土中に逃げ込んだ…わけではないだろう。先ほどの、あの言い方。私の『力』を取り入れ、勝てる算段が奴らの中でついたと。
ならば見てやろうではないか。その私に勝てる算段とやらを。
間もなく、周囲のビル群は長く伸びた蔓や巨大な葉、そして様々な色の花に覆われ始めた。
しばらくの間、その変化に目を奪われていると、やがて私の立っている場所でも、次々にアスファルトを突き破って植物が生え始め、それと同時に、私の体は段々とアスファルト共に沈んでいき始めた。アスファルトが急激に老朽化し、私の体の重みに耐えられなくなってきているのか?
…いや、違う。これは…!!!
私は急いで離陸し、地上数十メートルまで飛躍した。その直後。
ドガアアアアアァァァァァンンンンンッッッッッ!!!!!
私が先ほどまでいた場所から蠢く巨大な植物の蔓がアスファルトを突き破って現れた。その蔓は何かを掴もうとするような動作を延々と繰り返している。間違いなく、私のいた場所を正確に把握し、捕えようとしている。
そして。
ガアアアアアァァァァァアアアアアンンンンン……!!!!!
鋭い音が響き渡り、見てみると、アルタの看板が外れて地面へと落ちていた。そして看板があったところに、一定のリズムで脈を打つ巨大な白い花の蕾が現れた。
そして間もなく、その花弁がゆっくりと開き始めその中身を露にした。
そこにいたのは、紫慧羅だった。しかしながら、その姿は人間のそれとは異なっていたのだ。
衣服は一切身に着けていない。その代わりに、私の植え付けた始祖植物が成長し、その胴体のあらゆる箇所から葉や蔓、花が突き出している。
肩から上腕にかけては所々で植物の芽のようなものが出ている以外は人間のそれと変わらない。しかし両前腕から先は無数の蔓が長く伸びており、紫慧羅の腕の先までは見ることができない。
下腹部からは無数の根のような器官が露出し、どうやらそれが花の奥に繋がっているようであるが、ここからでは詳しいことは分からない。
顔は元のままのように見えたが、よく見るといたるところに、まるでコンクリートに貼りつく蔦の枝のようなものが見え、頭部にも数か所、シダの葉のような植物が生えていた。
その両目は閉じられたままで、一目だけでは眠っているか気を失っているようにも思えるが、この新宿と、その全体を覆う植物を出現させたのだ。覚醒はしていると思って間違いはないだろう。
その変わりように少しの間、私は見入ってしまったが、すぐに我に返り、別の感情が湧きだした。それは、これまでに感じたことのない高揚感だった。
…素晴らしい。
私は前世においては妖精の力を得ることなどなかった。故に私の持つ『力』と精霊の持つ『力』、それらを同時に取得した時、どうなるのかなど考えもしなかった。
まさか、それがこのような結果になるなどとは。この世界に転生してからもこのような発見に出会えるとは。
やがて閉じられていた紫慧羅の瞼がゆっくりと開き、普段と変わらない表情に乏しいあの顔となった。そして私の姿を捉えると、ゆっくりとその口を開いた。
私のいる位置からでは紫慧羅の声は届かない。だが、その唇の動きから、何を言ったのかはすぐに分かった。
『てっくん…』
ドオオオオオォォォォォォォンンンンンッッッッッ!!!!!
その直後、私の後方から破壊音が鳴り響いた。そして。
どずぅ…!!!
…右の翼の膜を破られた!!すぐに再生を…!!!
だが翼の膜を破った太い蔓が凄まじい速さで体に巻き付き、私は空中で身動きが取れなくなってしまった。
ドォッ…!!!
蔓に操られるがまま、私は地面に叩きつけられ、地上で待っていた無数の蔓も体に巻き付き始めた。…この蔓、あらゆる箇所に返しのような棘が付いている。力ずくで振り払うのは難しい。ならば。
ぶしゅぅぅぅぅぅぅっっっっっ……!!!!!
鱗の隙間という隙間から霧状の酸を放出すると、締め付けていた蔓の表面はボロボロと崩れ落ちていき、その締め付ける力は弱まり、私に自由が戻った。この隙に反撃せねば。
が、直後、私を覆っていた蔓の表面が再生し、さらにその上から深緑色の鱗のようなものが生え始めると、締め付ける力がもとに戻った。…いや、私の攻撃の前よりもさらに強くなっている。
いずれにせよ、先ほどの私の攻撃は無意味だということか。見たところ、再生には若干のタイムラグがあるようだ。少しの間締め付ける力が弱まったのがその証拠である。
今の私が自由に動かせるのは左の翼と尾のみ。強固となった蔓を力任せに引きちぎるのはかなりの体力を消耗する結果となるだろう。その直後に紫慧羅からの攻撃を受ければ…状況は悪化してしまうだろうな。
左の翼の膜を消失させると、刃の爪を半分程度の短さにし、私の胴体に絡みつく蔓にそれを立てた。
ザシュッッッ!!!!ザシュザシュザシュザシュッッッ!!!!!
蔓を覆う鱗は予想していたよりも硬度はあまりなかったようだ。一気に引き裂くと次々に切断され、ボロボロと地面に落ちていき、私の体に自由が戻った。自由になったこのチャンス、逃すわけにはいかない。
私は口を大きく開き、『力』を集中させ冷気に変換すると、私はアルタビルにいるその花の中心、紫慧羅に向かってそれを放った。
だが、私の攻撃を予測していたのか、紫慧羅を包むその花は花弁を閉じ、本体への攻撃を防いだ。
コオオオオオォォォォォオオオオオッッッッッ!!!!!
私の放った冷気は直撃したものの、再び蕾となったその花はこの攻撃をものともしない。それどころか、よりその大きさを肥大化させ、その表面は白色から多種多様な色彩に代わり、それがまるで万華鏡のように絶えず模様を変え始めるようになった。このような生物、私の記憶する限りでは見たこともない。
ドッフウウウウウゥゥゥゥゥウウウウッッッッッ!!!!!!
突如、蕾の先端から粉上の何かが噴出され、それらが地面やビルの表面、そして私の体に付着すると、そこから一気に苔のような植物が生え始めた。
ドドドドドドドドドドドドォォォォォッッッッッ!!!!!!!
その直後、紫慧羅を包んだその蕾は轟音を立てながらアルタビルを破壊し、地中へと潜って後には大きな穴だけが残った。同時に、私の体に巻き付いていた蔓も地面の中へ消え失せ、後には静寂だけが残った。
私は立ち上がり、改めて辺りを見渡した。
妖精の『力』のみならず、私の『力』さえも取り込んだ紫慧羅。四つの精霊の『力』と私の『力』。それが相互作用を起こしこのような事態を引き起こした。
しかし、なぜこのような結果となったのか。私は紫慧羅に放ったこの術を前世で精霊の『力』を持つ者にも使用したことがあった。だがその者は成すすべなくその『力』で作り出された始祖植物の栄養にされ、その体を浸食されていくのみだった。
だが紫慧羅はどうだ?逆に私の『力』を取り込んでしまい、この様だ。やはり、精霊四種全ての『力』を手に入れた者とは根本的に作用の仕方が異なるのだろうか。
…いや、それだけではない。そうだ。私は現世で、紫慧羅の脳内に特殊な器官を造り、そこに私の『力』を植え付けた。その器官は精霊どもの『力』と私の『力』が交錯する場所。推測の域を超えないが、恐らくはあの器官、私が紫慧羅に植え付けた『力』をコントロールする役割を果たすこととなったのだろう。そこに生命の成長を促す精霊どもの『力』が加わり、その四種全てが揃った今、紫慧羅の体に植え付けた始祖植物は爆発的成長を遂げた…といったところか。
そして、この事態の根源である私の『力』を新たに取り入れる度、この疑似新宿を覆う始祖植物は未知の領域にまでやはり爆発的な速度で進化を成し遂げたのだろう。
しかし、まさかあの程度の微量な『力』を植え付けた結果がまさかこのような大きな『力』をコントロールできるまでになるとは。そして、この疑似新宿全体を覆う、始祖植物だったものは今やその全てが紫慧羅の体の一部なのだ。全く、自分の『力』ながら未知なる部分が多い。
さて、未知なる部分の多い、今の紫慧羅とどのようにして戦うか。
『力』を直接変換した先ほどの戦い方ではその全てを取り込まれ、進化を促してしまう結果となってしまった。私の体に生えるこの苔のようなものを取り除きたいところではあるが、先ほどと同じように体から酸を出せばさらなる進化を促し悪い方向に行くのは目に見えている。幸い、どうやらこの苔には現時点では私に害をなすような効果はないようだ。
始祖植物とは無限の進化先を持つ植物である。『力』を取り込み続ければ、その先にたどり着く形態を私は想像することはできない。そしてこの始祖植物は組成などは異なるが、弱点については現世界の植物と大差はない。ならば植物特有の弱点を突くのが得策と言える。
となれば、進化される前に、火で焼きつくすか、土壌全体を乾燥させ水源を絶つか、土壌を猛毒で汚染するか、極度の低気温にするか、あるいは酸の雨を降らせるか。
『力』はあくまで触媒として利用し、物理攻撃の強化やあるいは先ほどの校庭での窒素固定からの硝酸作成の流れのように私のいる世界での物質を作成しての攻撃が一番現実的である。私の中にある『力』を直接使わずとも、前世と現世の知識に加え、この疑似空間の性質を利用すれば、これらを発生させるのは造作もないこと。紫慧羅の構築したこの空間内でも物資を手に入れたり現象を引き起こすことに関しては可能だ。先ほどの校庭での戦いがそれを証明している。
…いやだめだ。いずれも防がれるのが目に見えている。何しろ、今の紫慧羅は単に私の植え付けた始祖植物と融合しただけではない。紫慧羅と共生する精霊どもの『力』も健在だ。いや、むしろ私の『力』との相互作用により強化されていると言ってもいいだろう。
火を放っても土壌を乾燥させても水の『力』で防がれ、土壌を汚染しても土の『力』で浄化され、極度に気温を低くしても火の『力』で戻され、酸の雨を降らせても風の『力』で雨雲を払われてしまう。どうしたものか。
これは一筋縄ではいかないな。単なるごり押しでは勝てそうにない。
私の記憶からの空間構築…は不可能。空間構築ということに限っては先に構築した側が取りやめるか、あるいは気を失うかしない限り解除はされないのだ。
…ふっ。まさか、再びこんなにも高揚する戦いが楽しめるとは。こんな戦いは燈和の先祖との戦闘以来だ。
…そうだ。あの時。燈和の先祖と戦った時。
奴は正確に私の弱点を突き、一撃で死に至らしめた。余計な攻撃をせず、防御に徹し、私の『力』の中心が心臓であることを早々に見抜き、そこを突いた。
なんてことはない。今、紫慧羅が操っている植物など、所詮は私と精霊の『力』を用いて作り出した付属品でしかないのだ。ならば紫慧羅本体のみを叩き、その『力』を奪いさえすればよい。
先ほど見た紫慧羅の姿。体中を始祖植物で覆われてはいたが、人間の姿かたちを完全に失ったわけではない。すなわち、あの本体を無力化すれば私の勝利。…ま、手加減はしてやるか。
いずれにしても、まずは紫慧羅の居所を突き止めなければならない。
あの触手にわざと捕まり、そのまま運んでもらうという手もあるが、これでは紫慧羅の思う壺となってしまうだろう。何しろ、今の彼女は未知なる部分が多い。様子を見ながら戦うべきだ。ならば、私の足で紫慧羅の元に向かった方が良い。
手っ取り早いのは、今しがた紫慧羅が地面に開けたあの巨大な穴に入り、その後を追っていくことだろう。
歩みを進め、その巨大な穴の前に立ち、私がその穴に入ろうとした瞬間。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!
突如、巨大な火柱が上がり、私の行く手を阻んだ。
火の精霊の『力』か。やはり私の『力』の影響で強力になっている。この中に入ってもある程度は耐えられるだろうが、紫慧羅が確実に見つかるという保証がない今、長時間浴びせられ続けられるのは危ない。
一歩下がると途端に火柱は消え失せたが…もう一度、穴に入ろうとしても同じことだろう。この中には入るなということか。
別ルートで探すか。私は踵を返し、反対方向へ歩き出そうとした、その瞬間。
ガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッ…!!!!!
私のすぐ前で地割れが発生し、周囲のアスファルトや建築物がその中へと消えていった。続いて。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッ!!!!!
その中から巨大な岩が出現し、私の目の前はその山のような岩ただ一つだけとなった。そして動きが止まって少し経つと、今度は岩の表面に苔が現れ始め、続いて芽や花が出現し、蔦のような植物に覆われ、あっという間に本物の山と変わらないような姿となった。
…こうなっては仕方がない。空から探そう。私を捕えることが目的であれば、紫慧羅本体は必ず再び地上に姿を現すことになる。それに、紫慧羅の『力』も、さすがに空の彼方まではその効果は届かないだろう。
私は膜を再生すると、大きくかがみ込みながら両翼伸ばして上に掲げた。そして勢いよく足を延ばすと同時に力強く羽ばたき、一気に地上から飛び立った。が。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!
突如、上空から私を押し戻すかのように地上に向かう強風が吹きつけ、私の体は少しずつ地面へと戻されていった。この疑似新宿の中ではどうやら私は紫慧羅の手の内のようだ。しかし、何故?空間構築だけであれば監視カメラも構築されるだろうが、その映像を見る術までは得られないはずだが。
…いや、そんな現実的な方法ではない。そうか。紫慧羅が地下に潜る前に、私の体を含むあらゆる場所に植え付けた、この苔のようなもの。これが私の行動を監視する役割を果たしているのだ。すなわち、地面や建物に付着しているのがセンサー、私の体のものはGPSといったところか。
この苔が体に付着している限り、どうやら、私の位置と行動は筒抜けのようだ。
そして突如、風が吹き止み、体が軽くなった直後、地面が裂け、数本の触手が現れ私の左足に絡まると、そのまま地上まで引っ張られついに私の体は地面に着いた。
このままでは地中に連れていかれてしまうな。ならば。
疑似空間の効果を使い、チェンソーを出現させると、胸の第二腕で持ち起動させ、それを足を掴む蔓へ押し当てた。
ヴィィィィィィィィィィィ……ギャリギャリギャリギャリギャリッッッッッ!!!!!
その触手は切られ始めると目的を果たしたからか、すぐに私を離し、地面へと潜っていった。
…どうしても地上を歩いてほしいようだ。私を捕えるために。あるいは私を誘導するために。私に不意打ちをかけられぬよう、目に見える形で、自身のいる場所に。
それより、先ほどからの紫慧羅の妨害と攻撃…。違和感を感じる。なんだろう、『力』の使い方がどうもさっきから…。
…もしかしたら、紫慧羅は…。いや、そうに違いない。ならば、作戦は決まったな。
いずれにしても飛行を妨害されてしまうこの状況では今の形態ではどちらにせよ圧倒的に不利だ。ならば。
私は持っていたチェンソーを投げ捨てると、翼の膜を消失させ、長く伸びた爪を縮小させ、さらに肘から伸びる刃を消失させると両腕を陸上動物の形態、続いて足の鉤爪を収縮させ足底を引き延ばし、より陸上哺乳類に近い趾行足に作り替え四足歩行とした。さらに風の抵抗を最低限に抑えるため、首を縮め短くし、胴体を細長く流線形にし、さらに背中から垂直に伸びていた突起と背びれを後方へと倒した。最後に両足の踵から、地面と平行になるように鎌状の爪を形成させた。
この形態なら、地上でも紫慧羅と対等に渡り合うことは可能だろう。
最後に、心臓の防御壁を完全に閉じると、私は高速で駆け出した。物理攻撃を主として用いるなら、心臓の防御壁を開けて攻撃を行う必要はない上、攻撃のための『力』の源を吸収する必要もない。
この巨体でこの速度で駆けると、地面のアスファルトに足が付くたびに小さなクレーターができるが、私と紫慧羅しかいないこの疑似新宿では関係のないことだ。
ドドドドドドドドドッッッッッ!!!!!!
突如、目の前の先100メートルくらいのところの地面が割れ、無数の触手が現れた。
私の変化を察知したのか。
ドガドガドガァァァァァアアアアアッッッ!!!!!
今度は、周囲のビルの至る所から触手が現れ、その内の一本が私に迫ってきた。だが、今の私の形態ではその程度では捕えることはできん。
ダンッ!!!
左手のみを地面に着け、そのまま側転をし、その勢いを使い…。
ザシュッッッ!!!!
予め形成しておいた鎌状の爪で触手の内の一本を切断すると、体液を噴き出しながらのたうち回り、やがてビルの中へと引っ込んだ。やはり耐久力は高くはないらしいな。
それにしても、この姿で体術を使ったのは初めてであるが、思ったよりも軽やかに動ける。
と、私を満足感に浸らせる間のなく、今度は先端に無数の針のようなものが付いた触手が頭上から迫ってきた。
後方に向かって宙回転すると同時に。
ザシュッッッ!!!!
攻撃を受けた触手はその断面からはドロッとした体液をまき散らしながら引っ込み、後には無数の針の付いた先端が地面へと落ちた。
この攻撃では私の『力』が紫慧羅に吸収されることはない。が、この始祖植物は再生能力は向上していることだろう。ここでの攻撃は一時的な撃退に過ぎないか。
残りの触手全てが私に向かって迫ってきた。まだやるか。
私は胸の第二腕で切断した先端を掴み取ると
ドガァッ!!!!
一気に跳躍し、左側のビルに着地すると、そこからさらに跳び、
ザシュッッッ!!!ザシュッッッ!!!!
一度に二本の触手が切断されるとビルの中へ引っ込み、残った触手が空中にいる私に向かってきた、
ザシュッッッ!!!ザシュッッッ!!!!ザシュッッッ!!!ザシュッッッ!!!
空中で回転しながら触手の切断をし、さらに。
ゴッ!!!ゴスッ!!ゴシャアッッッ!!!!
持っていた針の付いた先端を振るって打ち付けると、やがて無駄を悟ったのか、触手はビル群の中や地中へと戻っていった。
紫慧羅の奴。自身は姿を見せず、精霊の『力』や触手などと遠距離攻撃ばかりを仕掛けてくるとは。その根性、叩き直してやらねばならんな。
私は喉に声帯を作り出すと、疑似新宿内に響き渡る声を出した。もちろん、普段の村井鉄志の声で。
「シエラァ!!!!!こんなことをしても無駄だぁ!!!俺を手に入れてぇのならこそこそ隠れて卑怯な手ぇ使ってねぇで、その姿見せて正々堂々と戦いやがれ!!!!」
直後。
ドドドドドドドドドドッッッ…。
遠くの方で轟音が鳴り響いた。私の挑発に乗った紫慧羅が地上に姿を現したようだ。
轟音のした方へ駆けていき、ついに私は彼女を発見するに至った。
私がたどり着いたのは、とある一角にある病院だった。




