遊星からの物体X
廻
「はぁ!?異世界の精霊ぃ!?!?!?」
「あぁ、こっちの世界で言うところな」
急に呼び出したと思えば、鉄兄ぃの第一声はそんなファンタジー溢れるもん。隣にいる転の顔を見てみると、口をあんぐり開けて固まっている。うわぁ、なんて間抜け面。いや、双子の姉であるアタシもきっと、さっきまではあんな顔をしていたに違いないんだろーけど。気を付けないと。今の転、すっげぇブス。
「…んで、その精霊っていうのは何なんすか?ていうか、東浪見のやつは妖精って言ってたけど、その違いは…」
「んなもんただの呼び方が違うだけだ。ただ、俺の前世の世界では、シエラの中にいるものはそのように呼んでいた。」
じ、じゃあ東浪見の言ってたことは妄言とかそういうのじゃなくて、全部本当だったってこと?それじゃあ、東浪見は…その…。
「鉄志君、その精霊というのはやっぱり厄介なものなんですか?」
「向こうの世界では精霊の『力』を手に入れたらそりゃあもうすげぇことになるわけよ。善人であれば貧困な土地には豊かさをもたらし、悪人が使えば、一つの街を壊滅にまで追い込んだという話もあるくらいだ」
「えっ!?このままじゃあまずいじゃないっすか!?早いとこ東浪見を…」
「まぁ聞けって。この世界では違う。そもそも精霊の存在なんてものが伝説上のものだけだしな。それに、あんな『力』持ったところで生かせるような機会はねーだろうし、現にシエラはその『力』を持っておきながらそんなことしてねぇわけだろ」
そう言うと鉄兄ぃは椅子の背もたれにもたれかかって、大きく伸びをした後にあくびをして、そのまま頭の後ろで手を組んでぼーっと天井を見始めた。深刻そうな話題を出している割にはめっちゃリラックスしてんじゃん。所詮は他人事ってか?
「ていうかさ~、なんで鉄兄ぃは東浪見に自分のこと話さなかったのさ。鉄兄ぃも同じようなもんだって分かってればもう少し違ったんじゃない?」
「…そこを突かれると痛ぇけど、俺自身の『力』を知られるわけにはいかなかったからな。シエラはあんな感じで片っ端から会う人間に精霊のこと、言いふらしてたろ?俺のことを知れば、必ず同じように吹聴しただろうし。大体、廻や転、燈和にだって俺のことを話したのなんてここ最近のことだしな」
そう言うと鉄兄ぃは椅子から立ち上がり、窓の方に行くと、目線を外に向けたまま続けた。
「俺は自分の父親に対して一度、『力』を見せてしまっている。ま、あんな人間の言うことなんて信じるような人間はいねぇとは思うが、これでシエラの話とあの父親の話を結び付けられて、俺の『力』が知れるところになれば『そういう機関』が動き、危険因子扱いを受け、捕獲され、モルモットにされたか…あるいは『処分』されたか…。その場合、もちろん俺だけでは済まない。シエラも、そして廻と転も巻き込む形になっただろう」
鉄兄ぃには鉄兄ぃの考えがあってのことだったんだよね。そりゃそうか。ちょっと意地悪したの、反省。
「いやいや、お頭の『力』ならどんな奴でもこてんぱにできるでしょう!?」
「転、俺の持つ『力』はそこまで万能じゃない。それに俺は当時まだ小学生だぜ?成長速度は周りよりも多少早かったとはいえ、成人との体格差は歴然だ。例え『力』を使って戦ったとしても戦闘経験があって、未知の武器を携帯した大人が複数人で捕えに来ようものなら逃れるのは難しい。仮に俺一人だけだったならまだ対処できるだろうが、周りの人間を守りながら戦えるか…となると当時の俺には不可能に近かっただろう」
「そ、そんな…」
鉄兄ぃは窓から顔を話し、再び椅子に座るとふぅっとため息をついて、続けた。
「だが、ま、こうして俺のことについてシエラも精霊も知るところになった今、対策は立てなければならなくなったわけだがな」
「だけど、東浪見さんは『力』を使うわけでもなく、ただ言いふらしていただけだから大丈夫なんでしょう?それに今はもう言いふらすことすらもしてないわけですし…」
「まぁな。だが」
鉄兄ぃは体を起こし、顔を燈和ちゃんに近づけ、直後、燈和ちゃんの頬が少し赤くなった。けど、鉄兄ぃはお構いなしに続けた。
「放っておくのは危険だ。例えば発狂したシエラが精霊の『力』を使って破壊の限りを尽くす可能性だってあるだろう。精霊には常に頭ン中覗かれて、精霊の声は勝手に頭ン中に入ってくるわけだからな。現にシエラは一度、自分の耳を切り落とすという事件を起こしているわけだ」
「ていうか、既にその『力』とやらを使ってんじゃん」
「あの地震と風の話ですねぇ…」
「あれは恐らく、精霊がシエラの体を乗っ取って『力』を使っただけでシエラの意志ではないだろうな。だがもし、シエラが自分の意志で自由に『力』を使えるようになってしまったら、非常に厄介なことになるだろうな」
「そ、そんなことできんのぉ?」
「できるんだなぁ、これが。さっきも言った通り、使うやつが使えば街一つ壊滅できるようなものなんだよ。そういえば、向こうの世界では『力』を使って俺に戦いを挑んでくる奴らもいたな。まぁ全員ボコボコにしてやったけど」
「さらっとすげぇこと言ったなこの人」
「つーかそれだと全然厄介じゃないじゃん、鉄兄ぃにとっては」
「あくまで前世の話。今の俺でもそんな『力』使われたら太刀打ちできんよ」
「その『力』っていうものは具体的にどういったものなんすか?」
「生命の四要素って知ってるか?」
「何それ?」
「確か、火、水、風、土…でしたっけ?」
「その通り。さすがだな、燈和」
「なんでその4つが命に関係するのさ?」
「…もう一個質問。食物連鎖の底辺といえば?」
「植物ですね」
「その通り。その植物の種は、風に乗って運ばれ、土へと降り、火…要は温度と水で育ち、芽を出す。生物の命の源を辿ればその四つに行きつくってことだ。向こうの世界でもそれは同じ。だがその四要素は自然に発生するものではなく、その『精霊』が作っているんだよ。」
「な~んか急~にファンタジ~。で、それの何が危険なのさ?」
「四つ全ての精霊が体の中にいるシエラがもし、その四つの力を自由に使うことができれば、その気になれば、岩の雨を降らせ、街を炎で焼き、あるいは水没させ、風圧で目障りなもん吹き飛ばすくらいのことは容易にやってのけるさ。場合によっては新種の生命体を作り出すこともできるかもしれん」
「そ、そんな大規模なレベルのことを…。」
「そこまでいったらもう神レベルじゃないすか」
「でもでも~、妖精に体を乗っ取られた状態でも、そいつらはそのくらいのことやるんじゃないの?」
「精霊は生命の源。故に命についてはかなり重んじているわけだから虐殺のようなことはしないだろうさ。それに」
そう言うと鉄兄ぃは立ち上がり、また少し伸びをすると話を続けた。
「…前世でも四種類全てをコンプリートしている奴はいなかったから、ここからは俺の憶測でしかないが、恐らく、シエラの体を支配できるのは一度に一種類の精霊まで。つまり使う『力』は一種類に限定されるはずだ。その場合、ある程度の対策をすることはできなくもないが…」
「東浪見さんが『力』の使い方を理解すれば、その四種類全てを同時に、場合によっては組み合わせて使うことができるということですね」
「そういうことだ。今はまだ大丈夫そうだが、追い詰められた人間てのは何しでかすか分からん。それに、精霊どもがシエラに入れ知恵していることも考えられる。その前に手ぇ打っとかねぇとな」
「んで~?そこまで想定してるってことは、当然、鉄兄ぃには秘策があるってことだよね?」
「おう、まぁな。」
そういうと鉄兄ぃはにかっと笑った。この笑み、東浪見のためというよりかは絶対自分が楽しんでやがるよ、この男。まぁそんな鉄兄ぃと一緒にいるアタシも楽しいんだから似た者同士なんだろーけどさ。




