表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亢龍、悔いあり(バイオ・サイボーグより改題)  作者: 詩歴せちる
凶暴な純愛
50/64

そこに…あなたが…

          燈       和


 

 それから数日後の放課後のこと。いつもの通り授業が終わり、鉄志君の家へと向かうため、校門まで着くとあら不思議。そこには見慣れたその姿があるではありませんか。

 「あら鉄志(てつし)君。こんなところで何をなさっているんですか?私のことを迎えに来てくれたんですか?もぉいやだぁ鉄志君たら。それならそうと連絡くだされば…」

 「燈和、ストッ~プ。止めい。それ以上続けられると話が拗れて収拾がつかなくなんぞ。」

 むぅ、ダメでしたか。こうやって強引に押し通せば鉄志君を無理にでも連れ帰れるかと思いましたが、そう甘くはないですねぇ。

 鉄志君がわざわざ私の通う学校にまで来た狙いは分かっていますよ。東浪見(とらみ)さんですよね?この前のお仲間のお話を聞いて再び興味が湧いたに違いありません。

 もし、もしもですよ?私以外の幼馴染との再会によって二人がいい感じになったり~なんてことになったら…私は…私は…!!!

 「燈和。言っておくがお前が考えているような事態にはならないだろうから安心しとけ」

 おぉっと、心を見透かされてましたね。いやはやお恥ずかしい。

 「…燈和先輩?」

 「あっ!?東浪見さん!」

 と、さっそく東浪見さんが現れましたね。相も変わらず、眠たそうな目で私のことをじぃっと見てきます。そしてスマートフォンを取り出すと操作し、耳に着けているヘッドフォンから漏れ出ていた音楽は無くなりました。

 う~ん、なんとなく、この目つき苦手なんですよねぇ。なんというか、私の心の中を見ようとしているような感じがして。

 「よう、シエラ。久しぶりだな。」

 鉄志君が声をかけると、東浪見さんは目を少し見開き、そして消え入りそうな、でも明らかにうれしさが伝わってくるような声を出しました。

 「…てっくん?」

 て、てっくん…。いえ、まぁ小学校時代の呼び方ですからね。あだ名で呼びますよねぇ。そうですよねえ。別に深い意味はないですよねぇ。知っていますよ。えぇ、うん、分かっていますとも。

 「はんっ、懐かしいな。その呼び方」

 「…何しに来たの?」

 「…あまり驚かねぇんだな。ま、俺と燈和(とうわ)は知り合いでな。ンで、燈和とシエラが知り合いだって聞いたもんだから懐かしくなってな。久しぶりに話でもしようかと。ほら、シエラは卒業式、出なかったから別れもまともにできなかっただろ?」

 「…そ」

 東浪見さんはそっけなく言いましたが、髪から少し覗く耳が真っ赤になっているのを私は見逃しませんでした。

 …ていうかこれ、結構私まずくないですか?さっきから空気ですし。が、そんな私の心の焦りにお構いなく鉄志君は続けます。

 「おいおい、久々に会って『そ』の一文字はねぇだろ。もっと他に言うことあんだろ?『てっくん元気だったぁ?』とか。『今何してるのぉ?』とか」

 「…別に。ていうかてっくんの噂、いろいろと耳に入ってくるし」

 …つまり、東浪見さんは鉄志君の最近の動向はしっかりと把握していたってことですか。う~ん、果たして東浪見さんにとって鉄志君の存在というのはどの程度の大きさなのでしょうか。それにしても、一体どういう『噂』なんでしょうかねぇ。

 「そうかい。んじゃあ俺のほうからお話をしますかねぇ…」

 そういうと、それまで砕けた感じの表情をしていた鉄志君の表情が一気に引き締まりました。

 「シエラ、まだ妖精の声は聞こえるか?」

 鉄志君がそう言った瞬間、それまでどこか眠そうで気だるげだった東浪見さんの目が一気に大きく開かれ、眉間に大きな皺ができ、体はプルプルと震えています。明らかに怒っています。誰が見ても明らかに。当然のことながら鉄志君も気づいているのでしょうが、彼は表情一つ変えません。

 「てっくん…こんなところまで来て、ボクをバカにしに来たの?」

 静かに、しかし怒りに震える声を絞り出すように言いました。

 「誰がいつ馬鹿にしたってんだよ。俺は声が聞こえるかって聞いただけだろ?」

 「…医者を紹介してやるとかそういう話?生憎だけど、妖精の声はもう聞こえないよ」

 「うん、嘘だろ?それ」

 東浪見さんの言葉に鉄志君はすぐさま言い返しました。

 「聞こえてんだろ?未だに。だからごまかすためにそんなごっついヘッドフォンを肌身離さず耳に着けて音楽を大音量で流してる。そして声のせいで夜もまともに寝られねぇからそんな眠たそうな目ぇしてんだろ?」

 …そういう理由だったんですね。傍から見ればただ単に音楽が好きなだけかと思いましたが。

 「てっくんいい加減にして。怒るよ?」

 「すでに怒ってんじゃねぇか。人の話もろくに聞かずに怒るってのは社会出てから苦労するぜぇ?」

 て、鉄志君。それ以上の挑発はいけませんよぉ。東浪見さん、握った拳がぶるぶる震えてますし。今にも鉄志君を助走をつけて殴りそうな勢いじゃないですかぁ!!

 耐えきれず、私が二人の間に割って入ろうとしたその時でした。


 「@#$%&‘*:+!“;-/」


 「!?」

 「は?え?何ですか鉄志君、それ」

 突如、鉄志君は何か意味不明な言葉を発し始めました。いえ、言葉というよりかは、何かの物音を組み合わせたような感じ…。言葉にあるようなイントネーションが感じられない。どこからそんな音を出しているんですか…。

 「おい精霊。シエラの中にいんだろ?シエラと五感を共有してるんだったら、今俺の言ったこと、分るよなぁ?」

 鉄志君のあの目。鉄志君は冗談なんか言ってない。本気だ。本気で東浪見さんの中に妖精がいると思ってるんだ。…いえ、鉄志君の前世を考えてみれば、確信を持ってるいて不思議ではありませんよね。間違いなく、それがいるという確信を。そして今、鉄志君は()()と…。

 「う…うぅぅ…うぅ…」

 突如、鉄志君の言葉に反応するかのように東浪見さんがうめき声を上げ始めました。やがて白目を向き、体が小刻みに痙攣し始めました。口からは少し泡を吹いています。

 「た、大変!!!鉄志君!!救急車を…!!!」

 「いや、少し待ってくれ…」

 「待ってくれって…手遅れになったらどうするんですか!!あぁ~もう!!」

 私がカバンの中からスマートフォンを取り出そうとした直後、東浪見さんの痙攣が止まりました。倒れたりはしていませんが、(こうべ)を垂れ、じっとしたまま動きません。

 「と、東浪見さん?」

 恐る恐る声をかけてみました。すると急に首を上げ顔が見えるようになりましたが…。

 こう言っては悪く聞こえるかもしれませんが、その顔はこの世のものとは思えない形相をしていました。

 眉間には深いしわが何本も刻まれ、目は耳元まで吊り上がり、両目の黒目はそれぞれ別の方向にぎょろぎょろと動いています。また、口元は歯茎がむき出しになり、吊り上がった唇がぶるぶると震えています。…鉄志君のお仲間が言っていた、異世界の怪物のような表情とはこのことだったんですか。

 「ひぃ…」

 私は思わず後ずさりしてしまいましたが、そんなことはお構いなしに東浪見さんはその形相のままじぃっと鉄志君の顔を見ていました。そしてしばらくして口を開きました。

 「‘&%$#“!@‘+;*:-!?」

 東浪見さんの口からも出たものは、今しがた鉄志君が放ったものと同じものでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ