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燈 和
意識を取り戻し、瞼を開けても目の前は真っ暗なままでした。耳から入ってくるエンジン音とその揺れ方から今自分が車内にいることは分かりますが、現在地がどこであるのかは全く検討が付きません。
声を出そうにも、口には何かを、恐らくタオルのような厚い布をはめられ、また手も縛られています。
どうすることもできません。恐らくここで暴れても無意味でしょうし、一旦は流れに任せるとしましょうか。
『燈和、必ず助けに行く。待っててくれ…。』
鉄志君の言葉がふと頭の中に響き渡りました。いつも私に頼もしい言葉を掛けてくれる鉄志君の存在は、やはりいついかなる時も私の中では大きいですね。
…ってそうだ!!鉄志君は!?鉄志君はどうなったのでしょう!!?あの時、確かに銃弾を受け、流血していました!!無事なんですか!!?無事に病院に運ばれたんですか!!??鉄志君っっ…!!!!!て つ し く ん っ・ ・ ・ ! ! ! !
「~~~~~~!!!!!~~~~~~~!!!!」
思わず鉄志君の名前を叫びましたが、今の状況のせいで声にはなりませんでした。
そしてその直後、私の意識を奪ったあの刺激臭がまた私の中に流れ込んできました。私が目を覚ましたことに気付き、私が暴れださないよう先ほどの薬品をまた嗅がせたようです。
声にならない叫びも出せなくなり、私の意識は再び深い闇の中に沈んでいきました。
キキッ…!!!
車が停まる揺れとブレーキ音で再び私は目が覚めました。
スライド式のドアの開く音が鳴ると、私は両側から腕を掴まれ外に出されました。
もうっ。気安く触らないでください。私に触れていい男性はお父さんを除けばこの世でただ一人、鉄志君だけなのですから。
そのまま車外へと連れ出され、何かの建物の中に入り、エレベータへと乗せられ、着いた先の部屋に入れられるとようやく目隠しと口にはめられていた布、そして腕を縛る紐を外されました。
部屋はそんなに広くはありません。どこかの雑居ビルの一室でしょうか。窓を見てみるともう暗くなっており、周りのビルにも明かりがついていました。
私の両隣に男が一人ずつ、後ろを振り返るとさらに3人、そして目の前には5人の男がいました。
目の前の5人の内の真ん中。グレーのスーツを着て、黒髪をオールバックにし、顎の下に髭を生やしている男は、何というか、他の者とは何か違う雰囲気を醸し出していました。あの人がきっとこの集団のリーダーなのでしょうね。そして恐らく、私をここに連れてくるようにこの部下達に指示したのも。
そしてその手には、実物を見るのは初めてですけれども、恐らくは本物の拳銃が握られていました。先ほど戦った手下の様子から見ても分かりましたが、やはりまともな集団ではないようですね。
「あなた、私に一体何の用があるんです?一刻も早く鉄志君のところに向かいたいんですけれど!!!」
「てつし…。あの男は『てつし』というのか。銃弾を腹に3発も受けてもなお私の眷属に立ち向かい、挙句には全員倒してしまうとは恐れ入ったよ」
?この人、あの場にはいなかったはずですけれど、何でそんなことを知っているのでしょう?それに、全員倒したってことは…鉄志君は無事なんですね!?
「鉄志君は!?鉄志君はどこにいるんですか!!??」
「それは俺も知りたいところであるが、あいにくその後は分からなくてね。まぁ今はいい。」
そう言うと男は私に向かって歩み寄り、目の前にまで来ました。
うっ…。臭い…。何ていうか、何かが腐り始めたような嫌~な悪臭がこの人を包んでいます。
「あなた…一体誰なんですか?私はあなたのような知り合いはいないですし、恨みを買った記憶もないですけれども。」
「名前は、『とうわ』と言ったかな?俺は君を探し求めていたのだよ」
私の名前を知っているだけでも吐き気を催すというのに「私を探し求めていた」という言葉に鳥肌が止まりません。何なんですか?これは。拷問ですか?天罰ですか?私は今までの人生、悪いことは一切してきていないというのに。むしろ鉄志君の行っている悪いことを止めるくらいには善人であったつもりですのに。やっぱり神様というのは存在しないか、人間の行いには全く興味を示していないのですね。
あまりの気持ち悪さに眉間に皺をよせ、口を閉ざしているとその男が顎に手を添え、無理やりに顔を上げさせてきました。
あ~~っ!!!もう本当に最悪!!腕でさえ他人に触れられるのは我慢ならないというのに今度は顔ですか!?鉄志君でさえ普段はあまり触れてきてはくれない、私のこの顔に!!素手で触りやがりましたよ!!目の前のこの物体は!!早く帰ってシャワー浴びたい!!!怒りと嫌悪感で頭に角生えてきそう!!!
するとその時、視界の端で何かが動くのが見えました。窓の外。私が視線をそちらにやると、その直前にはもうそれは姿を消していました。
「鴉だろう。気にするな」
そう言うと目の前の物体は私の顔を再び正面に向けさせました。この私に偉そうに命令ですか!?私に命令できるのは鉄志君だけですよ?それ以外はたとえ親の命令だって聞きません。
「俺が何故お前を求めていたかは知る必要などない。さっさと事を済ませてしまおう」
事?事って?え、やだ。まさかこの男、この場で?嫌。絶対嫌!!!!!!!!!!!
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ぁぁぁぁぁっ…!!!!
「鉄志君!!!助けて!!!鉄志君!!!!!!」
私は目の前の物体に抵抗しようと拳を固めました。けれど、見透かされていたのか両側の男たちが腕をがっちりと締めてきました。
「これで…、これで全て手に入る。あらゆる世界で俺に敵う者はいなくなる」
何言ってるんですかこの物体は!?頭に蛆でも沸いてるんじゃないですか!?
男はそれだけ言うと、かぁっと私に向かって大口を開けてきました。そこからは比べ物にならないレベルの濃い悪臭が漂ってきました。私は思わず顔を背け、叫び続けました。
「鉄志君っっ…!!!!!て つ し く ん っ・ ・ ・ ! ! ! !」
ドオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオンンンンッッッ!!!!
「ぐぉっ!!!???」
突然、鼓膜を突き破らんばかりの轟音が部屋中に響き渡ると同時に、私のすぐ近くの天井が崩れて大きな穴が開きました。そこからは夜空が見えています。この上は屋上だったようですね。そして落ちてきた天井はちょうど目の前の男に目掛け降り注ぎ、そのおかげでそいつは私から離れました。ふぅ。取り敢えずは助かりました。私に瓦礫が落ちてこなかったのはまさに奇跡としか言いようがないですねぇ。
ですが、そんな奇跡に喜んでいる暇などありませんでした。私の目の前には、新たに何かの別の物体が現れました。生物ではあるんだろうけれど、見たことも聞いたこともないような見た目をしています。
一見すると、人間の掌のように見えました。私から見て親指が右側にあることから、それは左手だと思われます。
けれど、指はやけに太く、また、その中央にはギョロリとした目玉が付いていました。そしてその手のようなものには腕と思われる部分が付いているのですが、それは異様に長く、恐らくは3メートル程で関節がいくつもあり、手首も含めて掌から3番目の関節が異様に膨らんでいます。それを目で追っていくと屋上へと続いていますが、その先に何があるのかは分かりません。一体、屋上には何がいるのでしょうか…。
目の前の掌についている目玉が周りを見回すようにぎょろぎょろと動いたかと思うと、急に握りこぶしを作り、私の左側にいる男の顎に勢いよくアッパーを食らわせ殴り飛ばしてしまいました。
…私を、助けようとしている?理由は分かりませんが、とにかくこのチャンスを逃してはいけません。左腕が自由になったため、今度は私が握りこぶしを作り右側の男の顔面に叩き込みました。さほど勢いはつけられなかったため男を少しよろけさせる程度に留まってしまいましたが、それでも私の右腕を掴む力を緩ませることには成功しました。
続けてもう一発、今度は鳩尾に一発叩き込むと男は腹を抑えてうずくまりました。ようやく私の腕に伝わってくる不愉快な感触は無くなりました。良かった。本当に良かった。安心の涙が出そう。
さて、ようやく自由の身となりはしましたが、出口の前には3人の男がいます。そして私を挟んで反対側には瓦礫の下にいるリーダーを含めて5人います。このよくわからない生き物が助けてくれているとはいえ、戦闘経験が殆ど無い私一人でここを抜け出すことが果たしてできるでしょうか…。
いえ、弱気になってはいけません。もしここで再び拘束され、「事」を済ませられてしまうのであれば…。うぅ…考えるだけで頭が破裂しそう。出られるかどうかではなく、絶対に出なければならないのです。どんな手を使ってでも。私と「事」を済ませることができるのは鉄志君だけです。
私が気合を入れ直し、攻撃の構えをした、その時でした。私は首根っこを強い力で掴まれ、そのまま上へと持ち上げられてしまいました。あの生物が私を屋上へと連れて行こうとしている????
「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!!????」
思わず変な声を出してしまいました。抵抗しようとじたばたと手足を動かしましたが、掴む力はとても強く、あっという間に私は屋上へと連れ去られました。
空いた穴から出ると、バイク用のゴーグルとマスクで顔を隠し、上半身が裸で、ハーフパンツを履き、腰にバッグを着けた裸足の男の人の姿が目に入りました。ですが、それはちょっと…いやかなり異様な姿をしています。
まず左腕の肩から先がありません。事故で欠損したというよりも、元々生まれつきなかったというような印象を受けます。そして逆に右腕はどう見ても人間のものではありません。異様に細く、そして長いその腕は5つの関節を経て私の首根っこを掴む手へと続いていました。
空いた穴から現れたあの生物は、この人の右腕だったのでした。そして目の前のこの男の人が身に着けているバイク用のゴーグルとマスクには見覚えがありました。よく見ると、その体つきにも見覚えがあります。えぇ、この私が見間違えるはずがありません。
「鉄志…君?」
首根っこから手が離れ、私の体が地面へと着くと、肩から数えて3つ目の、異様に膨らんだ関節部と左肩の皮膚にそれぞれ裂け目が入り、その内部が露出しました。そして露出した部分同士がお互いを隠すようにくっつくと、それらの皮膚はくっつき、境目が無くなっていき、自分の体と腕で数字の「6」を描いたような体制になりました。その後一瞬の間、皮膚の下がもぞもぞと動いたかと思うと、今度は膨らみの上部に裂け目が入り、そこから腕へと繋がる右手首から先が現れ、膨らんでいた左肩から離れると、開いた皮膚は再び閉じ、またそれと同時に異様に太くなっていた指と、細くなっていた腕が元に戻って見慣れた普通の人間のものになりました。
そして鉄志君が掛けているゴーグルを額にまで上げると、その瞳が姿を現しました。ですが、それは片方、右だけ。左には、眼球の入っていないただの穴が空いていました。
鉄志君は空いた穴へ左の掌をぐいと押し付け、その後離すと空いていた穴に眼球が戻っていました。
そして最後に、鉄志君は両目をぎょろぎょろと動かすと同時に、両手を閉じたり開いたりして何かを確認した後にようやく口を開きました。
「燈和、無事だったか!?遅くなって済まなかった!!」
「て、鉄志君…。あの…一体…これは…」
突然のこと過ぎて頭が追い付きません。意味が分からなさすぎます。鉄志君は、一体何なのでしょう?自分の眼球を、掌に付けていた…のですか?えっ!?一体…何が…どうやって!!?それに、右腕に左腕を付けて伸ばして…。はっ!?えっ!?鉄志君は一体、何をしたんですか!?それによく見れば、お腹に銃撃を受けたはずなのに、傷一つありません。
「…燈和。詳しいことは後で包み隠さずちゃんと説明してやる。何もかも。とにかく今は、この場を離れねぇと」
そう、ですね。約束通り、鉄志君は私を助けに来てくれたのですから。それに、たとえ正体が何であろうと鉄志君は鉄志君なのですから。
鉄志君はそのまま私の手首を掴み、屋上の出入口へと向かいました。
あぁ。鉄志君の手。温かい。その温もりからやっぱりこの世で私に触れることのできる男性はただ一人、鉄志君だけであることが再認識させられます。あ、お父さんもか。
しかしその時です。少し離れた扉が開き、そこから奴らが現れました。そこには、あのリーダー格の男の姿もありました。血だらけで、よろよろとしてはいますが、あれだけの瓦礫が落ちてきたというのに、もう回復したというのですか。その生命力と気持ち悪さはまるでゴキブリそのものですね。そしてリーダーはこちらに気付くと銃口を向けてきました。ま、マズい…。
「ま、そうなるわな…」
そう言うと鉄志君はバッグに手を突っ込み何かを取り出しました。
取り出したのは、液体の入った瓶と布の切れ端でした。瓶には「SMIRNOFF」と書かれています。
…鉄志君。未成年の飲酒は犯罪ですよ?私言いましたよね?
バァンっ!!
銃声が一発、屋上に鳴り響きました。が、私たちは無事です。何ともありません。
「その距離じゃあ軍人か殺し屋でもなけりゃあ当てられねぇよ!!ちったぁ考えなぁ!!」
そう吐き捨てると、鉄志君は瓶の蓋を開け、布を半分出した状態で突っ込むと、ポケットからターボライターを取り出し布に火を着けました。そして、その状態のままやってきた集団に向かって投げました。
投げた瓶は集団には届かず少し前で落ちましたが、その瞬間、落ちた所には大きな火柱が上がりました。そしてその炎で追ってきた男たちはしどろもどろしています。どうやら足止めには成功したようですが…。
ていうかこれ…、火炎瓶?
「鉄志君!!!???」
「説教は後!!後でまとめて受ける!!今はこの場から離れるぞ!!」
そう言うと鉄志君は再び私の手首を強く握り、今度は出口とは違う、向かって右側の金網の方に掛けていきました。
「鉄志君、こっちは…」
「いいから!!」
そう言うと鉄志君は、私の腰をギュッと強くつかみ、そのまま跳躍しました。
その跳躍力は、決して人間のものではありません。修行とか経験とか、そのようなものでは一切説明が付かないような跳躍力。2メートルはあるかという金網の上にまで達し、そのまま絶妙なバランスでその上に立ちました。
「しっかり捕まってろよ」
「えっ?」
そう言うと鉄志君は腰をかがめ、今度は目の前にある別のビルの屋上に向かって跳躍し、そのままいとも簡単に到達し、そして着地しました。まだ未成年であるとはいえ、人間二人分の体重がかかっているというのに、鉄志君は何事も無かったかのように立ち上がりました。
「こっち!!」
休憩する間もなく、鉄志君は私を引っ張って再び駆け出しました。
鉄志君の走り方に違和感を覚え、足元を見てみると、それは人間の形をしていませんでした。地を掛ける哺乳動物のような、趾行型の足です。さっき見た時には普通の人間の足だったのに。どうして?いつ入れ替わったの?
と、私が疑問に感じていると、再びビルの端が見えてきました。今度は向かいのビルとの間には道路があります。道幅は決して広くはないものの、それでも5メートルはあるでしょうか。
すると鉄志君は走りながら私を抱え上げました。
お、お姫様抱っこ…。普段の私であれば昇天するレベルで嬉しいことなのですが、今のこの状態では素直に喜べません。
鉄志君はそのまま勢いを止めず、ビルの端にまで到達すると、そのまま跳躍をしました。
「ひぃゃぁああああああああああああ!!!!」
「叫ぶな!!バランスが崩れる!!」
無茶言わないでくださいよ。恐怖心が麻痺している鉄志君とは違って今の私は恐怖心の塊なんですよ!?
ダンっ!!!!!
大きな音を立て、鉄志君は着地し、直後私を地面に降ろしました。
「燈和、お前少し太ったんじゃないか?結構重かったぞ…」
「し、失礼ですね!そんなこと今はどうだっていいじゃないですか!!今は逃げるんでしょう!!??」
「そうだったな。んじゃ、再開しますかねぇ。」
そう言うと鉄志君は右手を頭に乗っけました。すると、鉄志君の髪の毛がまるで液体のように動き始めそれが右手に移動し、大きく曲がった爪を4本作り出しました。よく見ると、変化した足の方にも似たようなものが生えています。
髪の毛の無くなった鉄志君の頭部はまるでお坊さんのようです。この姿は初めて見ましたが、個人的にはやっぱりいつもの髪型の鉄志君が良いですね。
「ほら!!こっち!!」
鉄志君は爪を作っていない左手で私の手を掴むと、向かって左側へと走り出しました。そしてビルの端にまで来ると今度は先ほどと同じように私の腰に腕を回すとギュッと力を込めました。まさか…。
「しっかり捕まってろよぉ!!」
そう言うと鉄志君は私を抱えたままビルから飛び降りました。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいっっっ!!!!!」
「だからでけぇ声出すなってのに…」
恐怖心で叫ぶ私とは対照的に鉄志君はいたって冷静でした。そして先ほど作っていた爪をビルの外壁に引っ掻け、スピードを緩めさせていきました。
がっ…がががっ…ががっ…がががががっ…ががががががががっ…ががががががっ…!!
凄まじい音を立て、外壁に爪痕を残しながら私たちは落ちていきました。スピードが緩んでいるとは言っても、二人分の重さがかかっているため、それなりの速度で落ちていっていることには変わりありません。
そして地上からの高さが5メートル程にまで迫った時、突如鉄志君はビルの外壁を蹴り、私たちの体を宙に浮かせると、近くにあった道路標識に捕まり、それを伝いながら地面へと降りました。
生まれて初めて本気で死ぬかと思いましたね。そしてそういう思いをこの私にさせるのがまさか鉄志君だったとは。
「息ついている暇はねぇぞ。こっちだ。」
そう言うと鉄志君はまたもや駆け出しました。そして少し走ると、目の前に鉄志君のバイクが停めてあるのが目に入りました。わざわざ取りに戻ったんですか?
「顔を見られると面倒だ。被れ。」
そう言って私に向かってヘルメットを投げると、鉄志君の変化していた爪が元の髪の毛に戻り、サイドバックからサンダルを取り出して一瞬で足を元の形に戻してそれを履き、バイクに跨るとエンジンを掛けました。
その何度見ても慣れない鉄志君の異様な体の変化に私はただポカン見ているだけでした。
「何もたもたしてんだ!!置いてくぞ!!」
鉄志君が私に向かって叫んだことで我に返り、ヘルメットを被って鉄志君の後ろに跨ると、彼はバイクを発進させました。
「鉄志君のヘルメットは?」
「今お前が被ってるよ!!大丈夫!!顔は隠れてる!!」
普段の私でしたらそういう問題ではないでしょうと突っ込むところですが、今の私にはもはやその気力は無く、私と鉄志君を乗せたバイクはそのまま高速道路の入口へと入っていきました。