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亢龍、悔いあり(バイオ・サイボーグより改題)  作者: 詩歴せちる
水色の街
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水色の街


                  鉄         志



 天気は雲一つない快晴。市街地から外れ、自然が溢れるこの辺りの木々につく葉の色は黄緑から濃緑にシフトし始めており、いよいよ夏を迎える準備を始めていることが感じ取れる。このような天気の日には、今の私にまだ翼が残っているのであれば是非とも大きく広げ縦横無尽に飛び回りたいものである。

 しかしながら、もし仮に翼が付いたままだとしたならばこうして単車で地面を走る気持ちよさを味わうことができなかったのもまた事実。緑の濃くなった木々の葉の青々しい匂いが生温かい向かい風とともに感じられるのはやはり地面に体が付いているこの時であろう。

 と、私が体全体で自然を感じていると、後ろに乗りナビをしてくれていた燈和が私の胸板辺りを軽く叩いた。

 「鉄志君、そろそろ休憩しましょうか。すぐ近くに喫茶店があるんですよ」

 時刻は14:22。燈和の家を出て気付けば1時間ほども休まずに単車を走らせていた。私は全然大丈夫であるが、燈和はそろそろ疲れてきたころかもしれない。

 その後3分ほど単車を走らせると、レトロな雰囲気の小さな喫茶店が見えてきた。人工物ではあるが、こういった古めかしい造りの建築物と言うのは自然豊かな場所には良く似合うと思うあたり、私は中身まで人間になりつつあるのだろう。

 「ここはですねぇ、お父さんの知り合いが経営してるお店なんですけれども、手作りのケーキが絶品なんですよぉ!!!」

 体をくねくねさせながら燈和は満面の笑みを浮かべている。普段は比較的落ち着いている彼女でも、こういう時にはまわりのようなしぐさをする。甘いものが好きなあたり、やはり燈和も女子なのだ。

 「あ、そうだ。ヘルメットは中に持っていけるか?」

 「えぇ、大丈夫だとも思いますけれども、なんでですか?」

 「この前メンバーの一人がメットにインカムつけっぱなしにしてバイクにかけておいたら盗まれちまったんだよ。」

 「そうなんですか…。でもこの辺で盗む人が果たしているか…」

 「善人だけの国なんて前世でも見たことねぇよ。どこにどういうやつがいるかなんて分からんだろうに。」

 「それもそうですね。まぁ持って入って怒るような方たちではないので大丈夫だと思いますよ。」

 私と燈和、二人分のメットを抱え、錆びたベルの付いている木製のドアを開け店の中へと入ると、優しい笑顔の中年と老年の間位の女性が我々を出迎えてくれた。

 「いらっしゃい…あら、燈和ちゃん。今日はどうしたの?彼氏とお出かけ?」

 「いやぁだぁ、もう!!!そんなぁ彼氏だなんてぇ!!!」

 そのセリフは普通、彼氏と間違えられた方が言うような気がするが…。というか燈和、これを狙ってわざわざ喫茶店に入ろうとか言ったのではないか?

 「…巽谷(たつみや)さんて人のとこに荷物を取りに行くんだと。その手伝いですよ。」

 「あぁ~、そう言えばもうお祭りの準備を始めないといけない時期だからねぇ。長旅で疲れたでしょう。今は混んでないから、ゆっくり休憩していってね。」

 「どうも。」

 「…もう。鉄志君は少しドライすぎますよぉ…。」

 何百年も生きれていれば嫌でもそうなるさ。逆にそこまで長生きしてこんなことで動揺するような者はどう考えたって小者だ。

 店内には私たちを除いては中年の夫婦と小さな子供を2人連れた家族の二組しかいなかった。店員の女性は我々に気を使ってくれたのか、その二組とは少し離れた窓際の席へと案内をしてくれた。休憩がてら寄っただけではあるし、そこまで気を使わなくてもとは思ったものの、窓から見える景色を楽しみながら茶を嗜むというのは気分が良い。

 「もう、鉄志君。景色ばかりではなく、少しはこちらのほうも向いて下さいよ。」

 …私に中々楽しむ隙を与えてくれないのがこの燈和である。そちらの用事に付き合っているのだから少しはこちらにも気を使ったらどうなのだ。いや、この場合だと私が気を使ってなさすぎるのか?単独で生きてきた期間があまりに長すぎる私にはさじ加減かいささか掴みにくい。

 お互いアイスコーヒーと店主が勧めてくれたケーキを食べ終え、少し離れたところから聞こえる子供の笑い声を後ろに燈和と談笑をしていた、その時だった。

ガチャァン…!!!

 何かが割れる音が店内に響き渡り、それにより私と燈和の会話が途絶えた。

 「あぁ、ごめんなさいねぇ。グラスをしまおうとしたら…」

 音のした方を見てみると先ほどの店員が動揺しながら立ち往生している。ここからでは見えないが、厨房内の床にはかなりのガラス片が散らばってしまったらしく、下方に目を向けながらおろおろとしていた。

 「大丈夫ですか?怪我ありません?」

 「えぇ、大丈夫よ。燈和ちゃんは相変わらず優しいねぇ。」

 「いいえ、そんなそんな!片づけ、手伝いますよ」

 「こっちで片づけるから、燈和ちゃんはゆっくりしててね。」

 店員はさっさと割れたコップをほうきとちり取りでささっと片づけると、こちらからでは見えない厨房の奥へと入っていった。

 「…燈和ちゃんは相変わらず優しいねぇ~」

 「何ですその言い方?小ばかにしてません?」

 「いいや、本心だよ。」

 普通の人間であれば少し驚いただけであとはスルーしそうなものであるが、そこで店員の心配をし、さらには自ら片づけようとする。言葉にすると簡単であるが、これができる人間というのは中々いないというのが現実だ。それを自然に行えるのはやはり燈和は優しさに溢れていると評価できる。

 「それより燈和、そろそろ行かなくていいのか?」

 スマートフォンを取り出し、時刻を確認すると15:13と表示されている。なんだかんだで結構な時間を過ごしてしまったな。

 私に続くように、燈和は自分のスマートフォンを見ると、少し顔が引きつった。

 「あ、本当だ!いけない!15時には着くと伝えてしまってたのに。」

 「よし、急ぐか。ていうか今更だけど、その巽谷さん、俺は初対面だけどいいのか?」

 「本当に今更ですね…ここまで来ておいて。まぁ親戚の集まりの時とかに私やお父さんが鉄志君のことお話ししているので存在は知っていますよ。」

 さらっと言ったが、なんか外堀を埋められている感じがしないでもない。まぁ、これから会うのであれば、要らぬ誤解を持っていたとしても弁解はできるか。燈和は阻止してきそうだけどな。

 燈和は立ち上がって注連縄(しめなわ)の入ったカバンを背負い、私は会計をしようと財布を取り出した、その時だった。私は額部分に何か違和感を感じた。その違和感は一瞬で取れるということもなく、段々とそれが痛覚へと変わってくるのを自覚した。

 「ん…んん…」

「?どうしたんですか?鉄志君。」

 心配した燈和がカバンを背負ったまま、再び椅子に腰かけ、私のことを覗き込んだ。

 「あ?あぁ、いや、何か少し頭痛がな…」

 「えぇっ!?大丈夫ですかぁ!?どうしましょう…。私今、頭痛薬持ってないですし…。この辺ドラッグストア無いですし…。あぁもう!!こんなことなら頭痛薬を常備していれば…!!!」

 お前のその大声でもっと頭痛がひどくなりそうだ。大体、自分のため以外に頭痛薬を常備する奴なんか、子を持つ親以外に殆どいないだろう。それとも、燈和は私のことを自分の子のようにでも思っているということなのか?

 しかし、この私が…頭痛?おかしい。何か変だ。

 私は常に自身の力を使い体調を万全に整えることができる。風邪などひいたことがない。細菌やウイルスが一定量入り込めばそれを感知し、その時点で免疫機能を最大限に働かせ取り除くことができるからだ。器質的なものでも、器官の機能を調節することで痛みは取り除くことはできるし、なんなら痛覚を完全に麻痺させることすらもできる。体調不良を訴える時など、戦闘においてエネルギーを使いすぎた時くらいのものだ。

 その私が、頭痛?予兆もなくこんな突然に?何だ?何が起こっている?

 『力』を使って痛みを取り除こうにも、原因が分からないためそれを行うこともできないまま、頭痛の範囲はどんどん広がっていった。

 「う、うぅ~ん…」

 前方から唸り声が聞こえ顔を上げると、額を抑えている燈和の姿が目に入った。その様子から、私と同様の頭痛を訴えているらしい。

 「と、燈和?」

 「あぁ…ごめんなさい…。何か私も急に頭痛が…。でももしかしたらこれは、私と鉄志君の体がリンクしているということなのかも…」

 どこのコルシカの兄弟だ。全く。体調が良好でない時でさえもそのようなことが言えるメンタルは敬意に値する。今後の人生の参考にしようなどとは全く思わないが。

 …いやしかし、案外、燈和の言っていることも馬鹿にはできないかもしれない。燈和の抑えている部位から考えると、恐らくは私と同じ種類の頭痛が襲っているのだということが推測される。

 体がリンクしているというのは言い過ぎであるが、二人同時に同じ頭痛が現れているということは、何かしらの同じ外的要因が私たちを襲っていることはほぼ間違いないだろう。そして燈和の後方に見える家族連れに目を向けると、特に変わった様子も無く談笑しているのが見える。左側に目を向けても、そこから見える中年の夫婦も同じように談笑をしている。厨房にいる老夫婦も、特に変わった様子は見られない。

 今この場で頭痛に襲われているのは私と燈和だけ。この外的要因は恐らく、私と燈和にしか感じ取れないものなのだ。

 そして普段決して頭痛を起こしえない私にこれが現れているということは、この世界では考えられない特殊な要因であるのか?

 推測を重ねている間にも頭痛の範囲は広がっていき、やがて私の頭部全体に達した。

 そして次の瞬間。フッと、まるでテレビの電源が落ちるかのように視界が暗黒に包まれた。




 「う、うぅ…」

どのくらいの間、気を失っていたのかは分からない。気が付くと、私はすぐに違和感に気が付いた。

 目の前には同じくテーブルに突っ伏している燈和の姿がある。だが、その向こう、先ほどまでいた家族や中年夫婦の姿は見えない。厨房の方に目を向けても誰の姿も見えず、気配すらも感じられない。

 そして窓から見える外の景色。つい先ほどまで雲一つない快晴が広がり、濃緑色を付けている木々の様子が明らかに変わっている。空は水色と紫の中間の、形容しがたい色の雲に覆われており、木々についている葉は紺色だ。普段私が見ている世界からは考えられない色をしている。

 なんだ、ここは?明らかに、私の知っている世界とは似て非なるもの。一体、私たちに何が起こったのだ。私たちは一体、どこに飛ばされたというのだ。

 「燈和!!おい!!大丈夫か!燈和ぁ!!」

 「う…うぅ…」

 声を掛け、体を揺さぶると少し苦しそうな顔をして燈和が頭を上げた。

 「おい!!大丈夫か!?」

 「え…えぇ…。何とか…。でも、こんなの初めてです…」

 「あぁ、俺もだ。しかしこれは…」

 「…あれ?寝てる間に他のお客さん、帰っちゃったんですかねぇ?」

 この違和感には燈和もすぐに気が付いたらしく、焦った様子で周りをきょろきょろと見だした。

 「おばさ~ん!!どこですかぁ~!!!ねぇ~!!!」

 「…誰もいねぇみてぇだ。どうなっちまってんだ。」

 「う~ん、世界に鉄志君と二人だけというのはよく考えるシチュエーションですけれども、この状況は不気味過ぎて嫌ですねぇ。」

 「普段からそんなこと考えてんかよ。お前は。」

 「女の子でしたら結構みんな考えることだと思いますよ。」

 そ、そういうものなのか?(まわり)(ころび)も普段からそんなことを考えているとは思いにくいが…。まだ人間の男として生まれ17年しか生きていない私には女心というものを未だ理解できていない。

 「ま、まぁそれだけの口が利ければ体調は取り敢えずは大丈夫そうだな。とにかく、今の状況が全く飲み込めない。外はどうなってんだ?」

 「あ、鉄志君。ちょっと待ってください。」

 私が扉から外に出ようとすると、燈和が後ろから呼び止めた。

 「なんだ。何か分かったか?」

 「いえ、そういうことではなく、誰もいないからと言ってお金払わずに店から出てくのは犯罪ですよ。」

 「店主いねぇだろ。ツケにしてもらおうぜ。顔見知りなんだろ?」

 「ツケにするにはお金がないかつ店主に予め断らないといけませんよ。同意を取らないと。」

 変なところで頭が固いな。いや、この状況でも普段通りである方がパニックになっているよりかは良いか。

 「あー分かった分かった。ったく。いくらだよ。」

 とその時。もう一つ違和感に気付いた。

 「…ん?伝票どこいった。」

 「あれ?本当、どこにもないですね。」

 先ほど、確かに燈和は店員から伝票を受け取っていた。だがテーブルの上には何もない。いや、それどころかコーヒーを飲んだ後のグラスやケーキの乗っていた皿もない。他のテーブルを見てみても、同じように、誰かがいたような痕跡は全く見られなかった。

 「あぁっ!?メットもねぇじゃねぇか!!」

「どうしましょう…。これじゃあ値段が分からないですねぇ…」

 「まぁ、食ったもの飲んだものが跡形もなくなってんだから金は払わなくてもいいんじゃねぇか?」

 「鉄志君!!!」

 「あぁもう!分かった分かった!三千円ありゃあ足りんだろ。ほら、行くぞ。」

 財布から千円札を三枚取り出しテーブルの上に置くと、燈和の手首を掴みドアノブを回した。

 扉は音もなく開き、外に出てみると初夏には程遠いひんやりとした、しかし湿度のあるぬめっとした空気が漂っていた。辺りを見てみると、どこもかしこも薄い霧に覆われており、遠くの様子までは伺うことはできないが、人の気配が無いのだけはしっかりと感じ取ることができる。

 空を見上げてみると、先ほど店内から確認した、異様な色の雲に覆われている空がそこにはあった。いや、あれが雲なのかどうかさえ、今の私には見当もつかない。そしてその雲に覆われているせいで、先ほどに比べると若干薄暗い印象を受ける。

 燈和の方を見てみると、やはりうすら寒いのか腕を組んで二の腕辺りを摩りながら辺りの様子を伺っている。

 「鉄志君のバイク、無くなってますね…」

 「あぁ、盗まれたっていうより、始めからここに無かったって感じだな…」

 ここの駐車場は砂利であるが、そこにタイヤの跡は無い。もっと言えば、人が立ち入ったような足跡すらも無かった。

 「何なんでしょう、これ。気味が悪い…」

 「さっぱり分からんな。何かの拍子に似て非なる世界に来ちまったとか、そんな感じじゃねぇの?」

 「何で鉄志君そんなに余裕あるんですか。普通の人間だったら発狂ものですよ?というわけで怖いので手を繋いでいてください。」

 「燈和さんもさっきから随分と余裕そうじゃないですか。店主いないのにお金払わなきゃいけないとか、普通の人間だったらそれどころじゃあないですよ。」

 「それはそれ、これはこれです。そして男の人だったら、こういう状況だったら黙って手を繋いで勇気づける場面ですよ?」

 「ここで手をつなぐと燈和は逆の意味で発狂しそうだから遠慮しとくよ。それに今はそんな下らん言い争いしてる場合じゃあないだろ。」

 「下らないって…もう…」

 「…んっ!?」

 「どうしたんですか?」

 今何か、私の体の中で、何かが起こった。無意識のうちに、微量ではあるが中の『力』が消費されている。何か外的な『力』が働いたということだ。それも、私が持っているような、前世にあったような『力』に似た何かが。

 「いや、なんか、なんだろうな。虫の知らせというか…」

 「鉄志君にしてはなんだか曖昧ですねぇ…」

 「実際のところ、原因がよくわからない。今、無意識のうちに俺の中の『力』が使われた。」

 「鉄志君の『力』って自分の意志で使うものなんじゃないんですか?」

 「いや、緊急時には無意識で出ることもあるんだよ。前に燈和の家で変な文字で書かれた古文書を自動的に新名が翻訳して読み上げたことあっただろ?それと似たような感じだ。だが、どう使われたのか自覚できるものとできないものがあるんだよ。」

 「自覚できない時ってなんかすごくもやもやしそう。ていうかそれは今も使われているんですか?」

 「あぁ。現在進行形で使われているな。」

 「それじゃあ、いつかなくなってしまうじゃないですか!!止められないんですか!?」

 「止められないこともないが、原因が分からない以上止めると逆に危険かもしれないからな。さてと。」

 スマートフォンを取り出して確認すると、案の定圏外となっていた。時刻を確認すると、15:15と表示されている。

 「しかしどうするかな…。バイクが無いんじゃあこのまま戻るってのも厳しい。」

 「う~ん、でしたらいっそのこと巽谷さんのところに行ってみます?歩きでもここからなら10分もあれば着きますよ。この状況じゃいるかどうかは分かりませんけれども。」

 『いるかどうか』ではなく確実にいないだろうな。何しろ先ほどまで店内にいた人間は片っ端から消えてしまったのだから。

 しかしながら、この状況では他に出来ることもない。となれば燈和の言う通りその巽谷さんの家に行ってみるのがいいのかもしれないな。いやそもそもこの状況ではその家すらも存在しない可能性もあるのかもしれないが。

 「よし、そうしよう。燈和、案内を頼む。」

 喫茶店の駐車場から歩き続けても、一向に車は通らない。それどころか空を見てみても鳥の一匹も飛んでいるのを見かけなかった。生物全てがいないのかとも思ったが、周りに生えている木々や雑草を触れて確認したところ、オブジェクトではなく生きているもので間違いなさそうだった。

 そしてそれからさらにしばらく歩き続けると。

 「あ、見えました!!あの門は巽谷さん家のものですね!!あって良かった!!」

 目の前にうっすら、瓦屋根の付いた大きな木製の門が見え始めると、燈和の安心したような声が隣から聞こえた。私と話をしている時はうまく隠しているようだが、やはり心は不安に支配されているようだ。そうなると、手くらい繋いでやればよかったか?時々、自分の心の狭さが嫌になる。

 「いるといいけどなぁ」

 「えぇ、問題はそこですよね…。」

 さらに少し歩いて、門の目の前に辿り着くと、私と燈和はほぼ同時に息を飲んだ。

 「…えっ、何ですか…これは。」

 その門の右側には表札が付けられていた。恐らく、私体が元居た空間では苗字の書かれたものだったのだろうが、そこに書かれているのは日本語では無かった。

 私は、この文字は見たことがある。以前、燈和の家の地下にあった書物に書かれていた、あの天狗文字だ。何故これがここに?となるとここは、この空間は燈和の祖先が作り上げた、人工的なものだというのか?

 その表札に書かれている文字を、私の脳は以前燈和の家で発見した書物を読んだ時と同じように、『力』を使い自動的に翻訳した。そこに書かれている文字の意味は、こうだった。






                  『 龍 宮 屋 敷 』


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