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終章2

その後、最寄りの交番に行き女性を保護してもらうと同時に私達4人は村での惨事を、まぁ化け物のくだりに関しては省いて可能な限り詳細に伝えた。交番の警官は最初こそ訝し気に私たちの話を聞いていたものの、あの女性のただならぬ様子を見て信じたようで、署に連絡をし、おかげで私たちは休日の残りを全て事情聴取で終えることとなった。

ちなみにあの女は相当精神が錯乱していたようで、詳しい話を警察にすることはできなかったらしい。当然私達よりもあの村での惨劇を詳細に話すことができる唯一の人物ではあるが、それができるようになるのはもう少しかかりそうである。

 それにしても、好奇心は猫をも殺すというが、まさにその通りだ。今回の一連の出来事は私の好奇心から3人を巻き込んでしまうこととなった。もちろん、それで救われた者もいるのは事実ではあるが、下手をすれば全員死んでいたというオチもあり得たかもしれない。

 私一人ならまだしも…。これからはもう少し控えるよう努めねばな。

 そしてあれから二週間が経った。あの事件は新聞の一面に載り世間を賑わせた…なんてことはなく、恐ろしいほどにその後の報道はなかった。一体どうなっているのだ?あれだけの惨事が起こっていたというのにマスコミがだんまりというのはどういうことなのだろうか。

 ドンドン!

 私が家で一人くつろいでいると誰かがドアをノックした。

燈和や双子共であれば有無を言わさず入ってくるし、仲間の一員であればノックと同時に私を呼ぶ。そのどちらでもないことから、普段はここに来ない人間か。誰だ?

 「どうぞー」

 「よぉ村井。」

 ドアを開けると同時に、警察の制服姿の吉村が入ってきた。よく私が仲間と行動を起こす際に取り締まっている若い警察であるが…そういえばここに入ってくるのは初めてだな。

 「あんたかよ。職務中だろ?こんなとこでさぼっていいのかよ?また税金泥棒とか言われるぜ?」

 「お前みたいなガキが悪さしてないか見まわるのも立派な警察の職務だよ」

 「言うねぇ。茶でも飲むか?」

 「あぁ、せっかくだからもらおうかな。座っていいか?」

 「あぁ。適当にくつろいでくれよ。」

 冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに入れ差し出すと吉村は素直にありがとうと言った。

 「段々蒸し暑くなってきて、麦茶のうまい季節になりつつあるな。」

 「俺の家には年中あるよ。安いし健康的だからな。」

 「金困ってんのか?」

 「そう言うわけじゃねぇけど、金は節約しとくに越したことはねぇだろ。特に俺みたいのはな。」

 「あまり無理すんじゃねぇぞ?17歳なんて本来ならまだまだ親の保護下にいるべき年齢なんだからな?」

 なんだかんだでこの人も両親のいない私を気遣ってくれているのだ。嬉しいと思う反面、放っておいてくれとも思う。

 「んで?俺の生活状況を確認しに来たわけじゃあねぇんだろ?用は何だ?」

 「可愛げの無ぇガキだな。んじゃあ本題に入るな。この前の村のことだよ。」

 もう既に吉村のところにも情報が行っていたのか。警察の間では情報は行き来しているのに、何故報道は何も動きが無い?

 「職質ならもう嫌と言う程受けたよ。」

 「あぁ、それは知ってる。その後のことだ。お前が立ち寄ったというあの村、調べてみたら妙なことが分かったんだよ。」

 「もったいぶらず早く言え」

 「あの村、もう40年も前に廃村になってる。それ以降は人が立ち入った記録もない。当然インフラも整備などされてはいないんだ。」

 「は?ありえねぇだろ。俺らだって事細かに証言したし、んなもんあそこ入りゃあ人がいた形跡なんて山ほど出てくんだろ?」

 『事細か』とは言ったが、もちろん化け物のことは伏せている。あれのことまで話してしまえば途端に信用されなくなってしまうからな。

「いやもちろんその通りだ。だが記録を見てみる限りだと疑いようがない上、管轄の市町村の話でももう随分とほったらかしになっていたとのことだ。」

 となれば、高城だけでなく他の住民もやはり皆外部からやってきた人間だったということか。奴らが使っていた訛りもどこか違和感があったし、限界集落にしてはやけに年齢層が若かった。高齢者と思わしき者は一人もいなかったな。

 「ここからは俺の推測だが、『そういう奴ら』が集まって勝手に暮らしていたのかもしれない」

 「…犯罪者があそこに逃げてきて暮らしていたってことか。」

 「恐らくな。だからお前らが話していたような無慈悲なことも平気でやってのけていたんだろう。そうすればいくらか合点がいくとこもある。」

 そうだな。高城が持っていた拳銃からもそれは容易に推測がなされる。

 「あんたにしてはなかなか鋭い推理じゃねぇか」

 「一言余計だよお前は。何を隠そう、俺、実は探偵になりたかったんだよ。」

 「だったら今からでもなればいい。公務員の安定した給料と昇給を手放してもいいのならな」

 「言うねぇ…」

 それにしてもだ…。

 「だけどよぉ、だとしたら警察は無能すぎるだろ。何犯罪者を野放しにしてんだよ。」

 「街で起こった犯罪なら街の中を捜索しちまうのが警察ってもんさ。逃走のルートの推測も立てはするが、道もないような山奥にわざわざ探しに行きやしない。」

 「そういうもんか…。ところで…」

 「鉄兄ぃ~!!!」

 吉村と話していると廻が勢いよく扉を開けて入ってきた。そんなに勢いよく開けなくてもいいだろうに。扉がダメになってしまうぞ。ここはあくまで私の家なのだからもう少し遠慮というものをもってほしい。

 「げぇっ!!吉村!!」

 「何だその曹操が関羽を見つけた時のような言い方は」

 「廻にそのネタ話しても無駄だよ。こいつの頭ではお堅い話は理解できんからな」

 「何をぉ~!!!!ていうか吉村、仕事さぼんなよ。アタシたちの平和をしっかり守ってくんなきゃ税金納めてる意味無いよ~」

 「お前まだ税金払ってねぇだろ。」

 「消費税払ってるしぃ!!」

 「兄妹そろって同じことしか言えんのか。それに俺がいる前で兄妹ゲンカはやめろ。見てて何か腹立つわ」

 「鉄兄ぃは兄妹じゃねぇし!!そこんとこ吐き違うなよぉ!!」

 私はお前のことを大切な妹だと思っているのだが、泣いてもいいか?

 「ま、言いてぇことはそれだけだ。じゃあな。あまり悪さするなよ?」

 「余計なお世話だしぃ~!!!」

 「お前じゃねぇ。そこの総長さんに言ってんの」

 私は暴走族ではないと何度言えば分かるのだ。と言っても聞き入れられない上、また話が泥沼化しそうであるからここは黙っておくか。

 「次に会うまでにはそこのおチビちゃんに大人に対する口の利き方を教えとけよな」

 そう言うと吉村はさっさと家から出て行ってしまった。私としてはもう少し奴と話をしておきたかったところではあるが、廻が来た以上それは無理な話か。

 「全くぅ!!ホント腹立つあいつぅ!!鉄兄ぃもあんな奴家に入れんなよぉ!!」

 「逆に入れねぇと捕まっちまうこともあるからわざと入れてんだよ。」

 「鉄兄ぃは無防備すぎるよぉ!!誰でもほぼ自由に家の中入れちゃってるし!!燈和ちゃんに至っては鍵まで渡してる始末じゃん!」

 「しょうがねぇだろ。鍵渡さないなら帰らないって言いだしたんだからよぉ」

 「そう言えば今日は燈和ちゃんは?第二の家ってレベルでここ入り浸ってんのに」

 それはお前や転にも言えることだな。

「なんか実家の用事があるんだと。吉村が来るまで電話で泣きながら1時間近くも事細かに説明されたよ。」

 「伝説のスーパー重たい女だね」

 それ、間違っても燈和に言うなよ?あいつは自分のことはただのお世話焼きの幼馴染だと思い込んでいるのだからな。

「んで?お前は何でここに入ってきたんだよ。転は?」

 「転はバイクいじってるよ~。ついでにアタシのもメンテしてもらってる~」

 「お前も一緒にメンテしろよ。」

 「アタシはただ乗るのが楽しいだけだしぃ。そーいうのは妹の仕事っしょ」

 「姉であるお前がその代わりに何をしてやってんのかが気になるところではあるな。」

 「なにをぉ~!!!」

 「んで?ここに来た用は何だよ。あんな勢いでドア開けたんだからなんかあったんだろ?」

 「そうそう!!鉄兄ぃ、これ見てよ!!!」

 そう言って廻が出してきたのは週刊情報誌だった。漫画雑誌の類ではない、文字だらけで到底廻が読みそうにないものだ。

 「お前こんなの読むのかよ。」

 「たまたまお母さんが開きっぱなしだったのが目に入っただけ!!それより、ほらここ!!」

 廻が興奮気味に指さしたところを読み、私は驚きと呆れが入り混じる、よくわからない感覚に見舞われた。その記事に書かれていた内容はこうだった。


 『この令和の世にツチノコ発見!?△△県OO市XX町の山中で目撃相次ぐ!!!』


 「これ絶対あいつだよ!!アタシらが見つければ賞金ゲットだよ!!」

 「情報早いな…。もう見つかったのかあいつ。」

 にしても目撃だけであるということは、奴は自分から危害を加えるようなことはしなかったということか。記事をよく読んでみると、その生物は目が合った瞬間にものすごいスピードで逃げ出したとある。今は怒りよりも恐れの方が大きいということか。いや、本来、元々が臆病な性格だったのかもな。それがこの世界に来て苦痛を受けるうちに歪んでいってしまったのかもしれない。

 改めて思うが、今回の一連の出来事で一番恐ろしかったのはやはり人間だ。ただ生きて子孫を残していくという他の生物と違い、自身の欲望や保身の止めだけに無為に多くの他の命を蔑ろにするあの村の住人達のように人間らしさを欠いた人間ほど恐ろしいものはこの世界では無いのだろう。

 いや、そもそもだ。『人間らしい』とは一体どういうことなのだろうか。

 この国の教育機関では『人間らしく生きること』の教えを説いているが、その内容はあくまで人間としての優しさの領域にとどまっているように思う。世のため人のために尽くしなさい、食物連鎖の頂点の動物として他の生物をないがしろにしてはいけない、などなど。所謂人道というやつだ。

 だがこの世界の人類の歴史を振り返ればそこにあるのは戦争と虐殺の繰り返しだ。もちろん、これらのことは今の基準で見れば非人道的行為に違い無い。だが、このようなことをする生物もまた人間しかいないのも事実ではある。また、その過程で必ず発生する恨みについてもこれもこの世界の常識に当てはめれば人間が持つ独特な感情である。そういった意味では、極論ではあるがあの怪物にも人間らしさがあるということにはなるな。

 そしてだ。聞きそびれてはしまったが、一連の報道をしない各種媒体。恐らく、あの村にはまだ他にも公にはしたくないようなことがあり、何かしらの圧力が加えられているのが理由ではあると思う。が、だとしてもだ。本来それを断ち切ってでも知らせるというのがマスメディアの役割であろう。それが権力を持つものに飼いならされ、許可の下りたことしかさせてもらえない。この状態は人間らしさなどは無い。まるで飼育されている動物と同じではないか。

 廃村に身を潜め殺しを行う者、傷つけられた痛みと屈辱のためにその種に対し復讐せんと根絶やしにしようとしたあの怪物、凄惨な事実については全く触れずどうでもいいことにのみ触れるマスメディア、そしてこの世には本来存在しえない力を用いて人間に害をなすであろう者達や怪物を撃退した私。

 結局、どれが一番本当の意味で『人間らしい』のかなど、この世界に人間として生まれまだ17年程しか経っていない今の私には到底結論付けることなどできないのである。


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