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The Crusher

                  鉄        志



 集会場を出ると雨は止んでいた。空を見てみると、昨日の雨が嘘のように雲が一つなく、辺りは薄明るくなり始めていた。

もう夜明けか。日帰りのツーリングのはずがとんだ小旅行になってしまったな。まぁいい。後はこの村を出て行く。それだけだ。

 私が一歩踏み出すと同時に、待ち構えていたと言わんばかりに残りの村人共が竹槍やら鍬やらありとあらゆる武器になりそうな道具を持って現れ取り囲まれた。

 「馬鹿な…あいつ、生き埋めにしたはずなのに…」

 「お、おい。高城様の銃を持ってるぞ!!」

 「貴様ぁ!!!高城様になぁにしたぁ!!!」

 「この村を滅茶苦茶にしようなんて…そうはいかんぞ!!」

 「なぁに寝ぼけたこと言ってんだ!!!!」

 「「「…」」」

 少し怒鳴っただけで村人は萎縮し、後ずさりをした。情けない。

 「何人もの人生滅茶苦茶にしておいて自分達は許されるとでも思ってんのか!?あぁ!?」

 「そ、それはこの村の古くからの仕来りだぁ。お前に指図を言われる筋合いはねぇ。」

 「仕来りねぇ。それはお前らが勝手に作ったルールだよな。だったら俺も今から勝手に自分のルールを作らせてもらうぜ。『一般人に害をなす村は叩き潰す』ってルールだ。そして今からこれを実行する。こっちのルールだってお前らに指図される謂れはねぇからな。覚悟しろ!!」

 「そんな無茶苦茶通るか!!!」

 竹槍の一つがこちらに向かってきた。が、遅い。やはり戦闘に関しては素人だな。

 がしぃっ!!!

 「ん!?く、クソ!!!離せぇ!!!」

 片手で竹槍を掴み攻撃を牽制すると男の動きは止まった。実に非力だ。そして頭も弱い。全力で竹槍を私に突き立てようとしているが竹槍は全く動かない。ここまで力の差が歴然なら竹槍を離して逃げるというのが吉だというのに。こっちは片手と両足が空いているのだから今のお前にはどんな攻撃でも仕掛けられるのだぞ?

 「無茶苦茶やってんのはてめぇらだろうが!!!」

 バギィ!!!

 「あ…あぁ…」

 空いている拳で竹槍を叩き折ると男は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。

 「小心者のくせに勝てねぇ喧嘩を売るんじゃねぇ。てめぇらが今まで好き放題やってこれたのは卑怯だったからだろう。卑怯者は卑怯者なりの手段を使ったらどうなんだ?」

 「「「…」」」

 「俺はどっちでもいいぜ?昨日は油断しちまって絡めとられちまったが、それで俺が死なないということを分からせてやれたんだからまぁ良しとしよう。」

 本当は不死身というわけではないが、今のこいつらにはこのくらい言っておいた方が抑止力にはなりそうだからな。今の私は、誤って殺してしまいそうなくらいには憤慨している。

 「おいどうした。いいぜ?どっからでもかかって来いよ。正々堂々でも卑怯な手段でも喜んで迎え撃ってやる。」

 村人たちは何も言わず少しずつ後ずさりをし私達から距離を取りはじめた。逃げようとしているのか?そうはさせん。お前たちがこの地で犯してきた罪を必ず清算させてやる!!

 「来ねぇんならこっちから行くぜ?どっちにしろお前らは叩き潰す。覚悟しろ。」

 私が一歩踏み出した、その時だった。


 『え゛ぇ゛ぇ゛え゛ん!!!え゛ぇ゛ぇ゛え゛ん!!!え゛ぇ゛ぇ゛え゛ん!!!』


 後ろの集会場からあいつの鳴き声が聞こえた。かなり大きい。近いな。もうそこまで来ている?高城め。自棄になって奴を解放したのだな。それにしても、あの体でどうやってあの狭い廊下を潜り抜けてきたのだ。

 「…何なんですか?あの声は…」

 「な、何でこんなに近くに…」

 「おい!!お前ら!!!建物から離れろ!!!」

 「え?えぇ!?ちょ、どうなってんのぉ!?」

 バギィ!!!!

 集会場の入口を突き破り両生類を連想させる巨大な手が目の前に現れた。

 ドガァっ!!!!

 続いて、奴の頭部も現れた。改めて見てみても、眼窩のようなものはあるが肝心の眼球らしきものは見当たらない。やはり視覚のない生物なのか?だとすればやはり先ほどの殺意は危険すぎる。私の想像以上に無差別に生物を殺しかねない。となれば、高城はもう…。

 「ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛…」

 首の触手をうねうねと動かしながら辺りを探っている。…マズいな。今奴に一番近いのは燈和だ…。

 「な…何これ…」

 「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!」

 !!!燈和の呟いた声に反応した!?あの程度の音量で?聴覚が異常に発達しているのか。

 「えっ?えっ?」

 混乱している燈和に容赦なく奴は腕を伸ばし、そのまま掴み上げてしまった。

 「くぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ゛あ゛あ゛あ゛…!!!!!」

 「きゃあぁぁぁぁぁぁあああああっっっ!!!!!」

 「燈和ちゃん!!!」

 「姐さん!!!」

 今の燈和は生身の人間だ。簡単に捻り潰されてしまう。さらに奴は燈和の腕ごと掴んでいる。あの状態では銃を構えることができない。くそっ。銃は私が持つべきだったか。

 「燈和ぁ!!!何とか持ちこたえてくれぇ!!!」

 腕を射出機に変えている時間はない。ならばっ!!!!

 がしぃ!!!!

 勢いをつけて跳び、燈和を掴んでいる腕にしがみついた。だがこれだけではぶら下がっているだけ。何の解決にもならない。

「て…鉄志君…」

燈和は苦しそうな声を上げている。長くは持たない。勝負は短く済ませなければならないな。

 両腕先の細胞を総動員し、ATPを大量に生産させ、そのエネルギーを使い両腕を発火させた。

 ぼぉああああああああああっ!!!!!!!!

 「ぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!!!!」

 奴は熱さに反応したのか、簡単に燈和を手放した。そして幸いなことに、私の付けた炎は奴の腕を容赦なく蝕んでいる。

 「て、鉄志君。手、大丈夫ですか?」

 「あぁ。何とかな…。だが次はもう使えねぇ…」

 今のでかなりのATPを消費してしまったからな。頭痛がひどい。原材料が無ければ新たに作ることはできないが…、最悪その辺の葉でも大量に取り込めば何とかなるか?

 「え゛ぇ゛ぇ゛え゛ん!!!!え゛ぇ゛ぇ゛え゛ん!!!え゛ぇ゛ぇ゛え゛ん!!!」

 奴は空に向かって泣き声に似た叫びをあげ始めた。ふん。精々、苦しみもがけばいいさ。

 !?いや違う!!!なんだこれは!?

 奴が空に向かって叫び始めるや否や私たちの上空に小さな黒い雲が現れたかと思うと一気に雨が降り出した。その雨の勢いは瞬く間に奴に付けた火を消してしまった。

 「ぐぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛…」

 バキ…バキバキバキバキィ!!!!!!!!

 集会場は半壊し、代わりに奴の巨大な体が完全に露わとなった。

 「くっ…、燈和、下がれ。なるべく音を立てるな。」

 「え…えぇ…」

 囁き声で指示し、忍び足で後退を続ける。奴の触手は左手の火傷を撫でており、今の時点ではこちらに興味は失ってしまっているようだ。

 それにしても、見れば見るほど異様な姿をしている。私の前世でもこんな醜悪な形をした生物など見たことが無い。見ていれば絶対に忘れることなどないからな。やはりこいつは、こことも私の前世とも違う世界から来たのだろう。

 いやそれよりも、なんだ今のは?間違いなく意図的に雨を降らせていたが…。こいつも私と同じく魔力を持っているというのか?

 …そうか。ここの村人共は何らかの方法でこいつのこの能力を利用して雨を降らし、わざとあの小屋に通行人を避難させて捉えていたのか。そのために小屋の手前の道にも監視カメラを設置していたのだな。

 どうやってそれをしていたのかは非常に興味深いところではあるが…、最早私が知ることはなさそうだな。

 「ナガサメ様ぁ!!!!」

 「ナガサメ様の現れだぁ!!!!」

 「やったぁ!!!ナガサメ様!!!その不届き物を成敗してやってください!!!」

 村人共は我に返ったかのように歓声を上げ始めた。馬鹿どもが。こいつは神様なんかじゃない。ましてやお前らの味方などでもない。

 「ナガサメ様~!!!!」

 先ほどまで私に萎縮し、へたり込んでいた男が歓喜の声を奴の傍で上げた。おいやめろ。

 「がぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!!!!!」

 ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんっっっっ!!!!!!!!

 奴が平手を食らわしたその瞬間にはその男の体は細かく散り、地面に肉片が散らばった。

 「あぁ、あぁぁぁぁあぁあああああああ!!!!!」

 「な、ナガサメ様がご乱心だぁ!!!!」

 「この村はもうお終いだぁ!!!!」

 村人共は蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出した。他の者の命はあんなにも軽んじているというのに、自分の命はそんなに大事か。

 っと、私も悠長なことを言っている場合じゃないか。ここは一旦退いて体勢を立て直さなければ。

 がしっ。

 燈和の腕を掴みそのまま無言で手を引いて走り出した。燈和も流石に察したのか、何も言わずに無言で付いてくる。

 「て、鉄…むぐぅ!!」

 私のことを心配して声を掛けてきたのは十分承知だが、今のこの状況では奴を刺激するだけだ。それに、こいつはただでさえ声がでかいからな。気を付けさせないと。

 「おい、一旦森の中に逃げるぞ。なるべく音は立てるな。」

 囁くような声で言うと転は無言でうなずき、続いて廻も察したのか何度も首を縦に振った。

 「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛…」

 奴は唸り声を上げながら首をキョロキョロと動かしている。さらに首についている触手も、まるで生き物のようにうねうねと動いている。視覚はないと思われるが…クソっ。奴の行動が読めん。

 まぁいずれにせよ、あの様子だとこちらにはまだ意識は向いていないようだ。今のうちに。

 そのまま私が殿となり、奴の様子を伺いつつ森の中へと身を隠した。

 

 「はぁはぁ…くそ…エネルギーが足りねぇ…」

 「…鉄兄ぃ、葉っぱなんか食べておいしいの?」

 「腹減ってるから食ってんじゃねぇんだよ。今はとにかく奴との戦闘のためにATPを可能な限り作っとかねぇと…」

 「お頭ぁ。もうあいつ放っておきましょうよ。さっきまで殺さないとか言ってたじゃないすか。」

 「それにぃ、燈和ちゃんと鉄兄ぃも特別な力を持ってんけど、自由に使うことができないじゃん!!負け確だよ!!」

 正論ではあるな。経験上、普段の自分ではどうしようも無くなった時にしか力は引き出せない。要は考えて戦っている内は私も燈和も真の力を行使することはできないのだ。だが…。

 「だめだ。あいつをこの村から出しちまったらそれこそ終わりだ。ここから人間がいなくなりゃあ街に降りてそこでまた人間という人間をいなくなるまでひたすら殺し続けるだろう。」

 「でも見たでしょう?あいつ、天気まで操ってんすよ?もう無茶苦茶じゃないっすか!!」

 「逆に言えば雨を降らすことしかできないのかもしれない。いや、高城が言うには電気も体内で作っていたか…」

 「いやいやでも体格差もありすぎるじゃん!!しかもあんな腕の一振りで人間バラにしちゃうんだよ?流石の鉄兄ぃもあんなの食らったら…!!!」

 間違いなく死ぬな。即死だ。再生もできやしない。だが今ここで私が逃げ出したらそれこそ止める者はいなくなる。可能性が低くても0よりはマシだ。やるしかない。

 「…私たちが止めたところで鉄志君は聞き入れはしませんよ。ここで逃げ出すくらいなら死を選びます。そういう人です。」

 「間違っちゃいねぇな。とにかくあいつはここで止める。今の時点ではそれ以外に選択肢は無い。」

 「つってもどうすんの?葉っぱ食べ続けながら戦うつもり?」

 「これはその場しのぎだよ。葉から得られるエネルギーなんて微々たるもんだ。最低限回復したら、次にもっと別の方法でエネルギーを得て戦う。」

 「そんなエネルギーどこにあるんすか?まさかウチらを食っちまうつもりじゃないっすよね?」

 「まぁでも私は鉄志君にだったら…」

 燈和、それは一応冗談と捉えて置くぞ?その目が笑ってないように見えるのは私の目の錯覚だと信じよう。

 「んなわけねぇだろ。奴はこの村全体の電力を作ってたんだろ?だったらあいつから奪っちまうのが手っ取り早い。」

 「どうやってさ?」

 「見たところ、奴の背中にケーブルの刺入部品が刺さったままだった。そこから奴の体内のエネルギーを俺の体の中に流れ込ませることは可能だ。」

 「おぉ!!そこで何らかの攻撃を加えて奴にとどめを刺すんすね!!!」

 できれば殺しはしたくないところではあるが、この状況ではそうも言ってはいられないか。私の信条には反するが、致し方ない。

 「でも、どうやってあの生き物の背中に上るんですか?私がちょっと声を出しただけで反応するくらい耳が良い上に、腕も長いのですぐに捕まってしまいますよ?」

 「…囮がいるな。誰かが奴の注意を反らしている隙をついて俺が背中に上る。」

 「聞くまでもないけどその誰かってアタシたち3人のうちだれかだよね~」

 「村人共が協力なんかしてくれるわけないっすからね。」

 そうなるな。これ以上こいつらを危険な目に遭わせたくはないのは山々だが。

 「でしたら、私がやります。」

 私が指名するより早く、燈和が名乗り出た。

「そもそも鉄志君に助けていただいたのに何の協力もせずに引き下がるのは忍びないですしね。」

 私が記憶する限り、燈和は自力で出てきていた気がするが、せっかくのやる気をそぐわけにはいかないのでここは黙っておく。

 「うぅ~それ言ったらアタシらもそうだけれども~…」

 「仕方ねぇだろ。ウチらにはウチらでできることをするしかねぇ。で、お頭。ウチらは何すれば?」

 「その女連れて小屋まで行け。ここの奥を真っすぐにいけばデカい木がある。その幹に傷をつけてあって、同じように傷をつけてある木があるからそれを目印に歩いて行け。そうすれば小屋にまでたどり着ける。」

 「ここに来る途中そんなことしてたんすか。」

 「どこのヘンゼルとグレーテルだよ。」

 「電柱のない山ん中を歩くんだ。地図は使えない。だとすれば当然目印は必要になるだろ。」

 「鉄志君はしっかりしてますねぇ…」

 私に言わせればお前らがしっかりしていなさすぎるのだ。今は時間がもったいないから言わないが、後で燈和が説教をする前に私が説教だな。

 「まぁ分かりました。必ず生きて帰ってきてくださいよ。」

 「死んだら容赦しないかんね!!!」

 「安心してください。死なせないために私がここに残るんですから。」

 なんだか燈和の言葉が死亡フラグに聞こえるが、それを回収する事態にならないよう気を付けねばならんな。

 「よし、燈和。持っている銃をこっちに渡してくれ。」

 「えぇ…、鉄兄ぃ燈和ちゃんから武器まで取り上げる気かよ…」

 「どっちにしろこの雨に濡れた状態じゃ暴発の危険性が高い。大体燈和は使い方知らねぇんだろ?なら、下手に撃って奴を刺激するくらいなら始めから持たない方がいい。それに…」

 「それに?何すか?」

 「あいつを傷つけ殺すのは俺一人で良い。燈和がその役目を引き受ける必要はないさ。」

マガジンを外し、残りの弾丸を全て取り出すと、自身の咽頭を拡大させ、口内に弾丸を放り込みそのまま飲み込んだ。

 「えぇ…鉄兄ぃ、それはちょっと引く…」

 「『ちょっと』で済ませる辺り廻ちゃんは優しいですねぇ。これが普通の女の子だったらドン引きですよ。」

 「男でもドン引きだと思いますよ、姐さん」

 「やかましい!!!ほっとけ!!!いいからさっさと行け!!!」

 お前ら言ってくれるな。もう私が普通の人間でないことは十分に理解しているのだからどういう行動を取ろうが受け入れてもらいたいものだ。

 「へいへい。んじゃあさっさとあいつ倒して戻ってきてくださいよ?」

 「ていうかこの人まだ起きない…。」

 廻と転は女を連れ、私が示した木の前にまで行くとやがて森の奥へと消えていった。

 「それじゃあ、一丁派手にやってやりますかねぇ…」

 私と燈和は奴を仕留めるため、森を抜け出し、再び村の中へと入っていった。


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