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STORMY NIGHT

          村   人   1



 鍬やシャベルを使い数人がかりで穴に土を掻き落とすこと3分ほど。あっという間に穴は無くなり、そこにあるのはもはや雨に濡れる地面がだけだ。やっぱり皆で力を合わせれば重労働も一気に片が付くな。

 「よぉ~し!!!終わった終わったぁ!!」

 「いんやぁ~五郎がやられてしまった時はどうなるかと思ったがなぁ!!!」

 化け物が連れてきた、あの上玉の双子達は物悲しい表情でかぶせられた土を見ているが…安心しな。後でそんな悲しみも消えちまうくらいに悦ばせてやるからよぉ。へっへっへ。

 「しかし、高城様はやはり聡明でいらっしゃいますなぁ。あんの化け物がここまでやると最初から見抜いてらしたので?」

 「…今までの者達は五郎の姿を見るや否や腰を抜かして食われるか、私に命乞いをして食われるか虚勢を張って戦って食われるかのどれかでしたが、あの男は始めから違いました。」

 「はぁ…どう違ったんで?」

 「五郎と向き合った際、彼は不気味なほど落ち着いた表情で観察をしていました。あれは虚勢などで切り捨てられるものではない。恐らく、彼にはもっと簡単に勝てる算段があったのでしょうが、あえて五郎を殺さない方法を取ったのでしょう。」

 「はぁ~。それでわし等に捕らえ網を用意して穴埋めの準備をしておけとおっしゃったわけですかいな。」

 「そうです。もう少し彼のことも詳しく調べたかったのですが…そうすると今度はこちらの命が危ない…。いや、あのような怪物であれば、死よりも恐ろしい目に合わせるかもしれないか」

 「そんのような危険からわしたちを高城様は守ってくださったわけですね。いやぁ感謝してもしきれませんわ。ありがたやありがたや。」

 「埋め穴を常に用意している意味もようやく分かりましたわ。こういう怪物が来てから掘っていたのでは遅いですからのぉ」

 「えぇ。その通りです。我々には常に危険が伴っています。ゆえに警戒しておいて損はないかと」

 「高城様、本当に何から何までありがとうございます。わしらは本当に、高城様には頭が上がりませんわ。」

 「いいえ。これも全て、ナガサメ様とこの村を守るために必要なことですしね。さて…」

 言い終わると、高城様は捕らえられている双子の元へと歩み寄った。

 双子共はぎろりと今にも飛び掛かりそうな獣のような目で高城様を睨んでいる。だが高城様はそれを落ち着いた表情で返している。

 しばしの間沈黙が走り、やがて高城様が口を開いた。

 「分かっているとは思いますが、あなた方がこの村を出られることはもうありません。この先一生、この村の男たちを満足させるためだけに生きるのです。」

 いつもならこの言葉を聞いた女どもは発狂して訳の分からない言葉を喚き散らすが、この双子共は表情を変えず高城様を睨みつけている。あの男の仲間というだけあって中々肝が据わっているな。

 「…あなた方も大概強いようですね。いつもなら、皆泣き崩れ、私を罵倒するか命乞いをするというのに」

 「ばっかじゃないの?何で鉄兄ぃが死んだってことで話を進めてるわけ?」

 双子の内、茶髪の女が先に口を開いた。この期に及んでまだあの男が生きていると思ってるとは…。愚かだな。

 「現実逃避ですか。まぁ、あなた方がこの先この地で生きていくためには必要なことでしょうがね。」

 「ぺっ」

 今度は頭にバンダナを付け、金髪に先端を赤く染めている方が口を開いたかと思えば高城様の顔に唾を吐きかけた。

 「こいつ…!!!」

 高城様は怒る村人たちに掌を向け牽制をした。

 「てめぇみてぇなアホには分からねぇだろうけどな、ウチらのお頭はあの程度じゃくたばらねぇんだよ。ま、こんな狭い世界で生きてんならそれが分からねぇのは仕方ねぇことだとは思うけどな。」

 「この地で奇跡を起こせるのはナガサメ様だけですよ。あの男には…まぁ多少は何か特別なものが備わっているかもしれませんが、奇跡と呼ぶには程遠いものでしょう。」

 「そのナガサメってのが何か知らないしぃ、どういう奇跡を起こすのかも知ったこっちゃないけどぉ、それこそアタシらだって飽きるくらい鉄兄ぃの奇跡を見たことあるもんね。むしろ鉄兄ぃの存在そのものが奇跡的なわけだし。」

 「ま、せいぜい祈っていればいいんじゃないですか?仮に彼が生き返ったとしても、そのころにはあなた方が壊れてるでしょうがね。」

 「はんっ、その前に壊されるのはてめぇかもな。」

 「…どういうことです?」

 「姐さん手籠めにしようとしてるんだろ?そんなことしてみろ。姐さんは鬼になってアンタだけじゃなくここの村人全員をぶっ壊しちまうかもな。」

 「はははっ。つまりあなた方の傍には常に二つの奇跡があるということですか。これはいい。是非、拝見してみたいものですね。」

 「この後嫌でも見ることになるよ。」

 「楽しみにしています。では、この辺にしましょうか。田辺さん、井島さん」

 「「はい。」」

 「この者達を地下に連れて行きなさい。その後はあなた方の好きなようにしてくださって結構です。私は五月雨の間で彼女と契りをかわすとしましょう。それと、西田さんと甲斐田さん。」

 「はい。」

 「は、はい!!」

 俺の名前を呼ばれた。まだ何か仕事でも残っているのか?

 「この雨の中大変申し訳ないですが、念のためここを少しの間見張っててもらえませんか?この双子の言ったことも気になりますし、あのような者ならば短時間の間にここを掘って出てきてもさほど不思議ではありませんからね。一応、鉈を持たせておきましょう」

 双子達を掴んでいる者達から鉈を渡された。この雨の中、姿の見えない死んだ者の見張りをするのか。まぁ、高城様の命令なら仕方ないか…。

 「ではよろしくお願いします。もし、この者達の言う奇跡というものを見られましたら是非その内容を教えてくださいね。」

 「おらっ!!!歩け!!」

 「痛ッてぇなぁ!!!押すんじゃねぇよ!!!」

 「鉄兄ぃ~!!!早くそこから出てきてねぇ~!!!」

 がやがやと叫びつつ他の者達は姿を消していった。はぁ、これから俺たちは雨の中立たされ続けるのか。ついてねぇな。

 「一体どれくらい見てればいいんだろうなぁ…。」

 「今まで何回も穴贄はやってきたけんども、出てきた奴は一人もおらんかったしなぁ。」

 「そりゃあそうだ。ここを出れるのはモグラか…あとはナガサメ様くらいなものだろうよ。」

 「ナガサメ様なんか埋めたら罰が当たるぞぉ?この村に恩恵を与えてくれ続けているんだからのぉ」

 「例えばの話だぁ。大体、ナガサメ様はあのお体だ。村人総出でだって連れ出せやしないだろう。」

 「そりゃあそうだ。それにしても、久々に若い女子おなごがやってきたなぁ…」

 「高城様はあの清楚な女子を独り占めかぁ。羨ましい限りだ。」

 「でも俺らにもおこぼれがあるから良かったじゃねぇか。それにあれら、きっと生娘だぜ?」

 「そうかぁ?結構派手な外見だけんどよぉ…」

 「いやいや、意外とああいうのに限ってのぉ…ん?」

 話していると突如、甲斐田が怪訝そうな顔つきをしだした。

 「どうした?」

 「何か…聞こえんか?」

 「何かって…何が?」

 「しっ…!!!」

 甲斐田に従い、耳を澄ましてみた。辺りはもう完全に夜であり、静まり返って本来なら降り注ぐ雨の音しか聞こえないはずだ。だが、それに混じって…。

 …どぉん…。

 何だろう。何か、こう、何かが破裂でもするような音が微かではあるが聞こえた。

 「聞こえただろ?」

 「あ、あぁ。でも何の音だ?」

 「それが分かったらこんな聞き方…あぁっ!!??」

 「ど、どうした?」

 「あ…あれ・・・!!!!」

 目を見開き、見たこともないような驚きの顔をしている甲斐田の指さす方を見た瞬間の俺の顔は、恐らく甲斐田と同じものだったに違いない。

 さっきまで平らだった…奴を埋めた所の土が…盛り上がっている!!

 どぉん!!

 先ほどよりもさらに大きい音が響くと、表面の泥が広範囲に跳ね、土はさらに盛り上がった。

 「な、何だ!?何が起こってるんだ!?」

 「そんなことこっちが聞きてぇわ!!取り敢えず、高城様に…」


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオンンンン!!!!!!!


 凄まじい轟音が鳴り響くと同時に土が噴出した。そうとしか例えようが無かった。

 俺は、夢でも見ているのか?…いや、雨とともに降り注ぐ土くれが肌に当たるたびにあちこちに走る小さな痛みがそれを否定している。

 目の前には埋める前と変わらない大きさの穴がぽっかりと空いている。あの双子共が言っていた奇跡とは、これのことなのか?

 俺と同じ疑問が頭をよぎったのか、甲斐田が穴に近づき、その中を覗き込んだ。その瞬間。

 「ぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」

 耳が裂けるような悲鳴とともに甲斐田の姿は穴の中へと消えていった。そして瞬間を俺は見逃さなかった。

 甲斐田が消える直前、辺りの暗闇よりもさらに黒い何かがあいつの頭を掴み、引きずり込んだんだ。あれは一体なんだ?あの中には一体、何がいるんだ!?

 体の震えが止まらない。気温によるものとは明らかに違う汗が体中から滝のように吹き出す。

 恐る恐る近づき、ゆっくりと、警戒をしながら穴を覗き込んだ。

 明らかに、俺らが掘った時よりも穴は深くなっていて底は見えない。だが、そこに何かがいるのは一目で分かった。

 暗闇の中に二つ、横に並んだ青白い光を放つ目がそこにあった。そして俺と目が合った瞬間、睨みつけるよう細くなった。

 「うわぁ!!!うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 反射的に俺は逃げ出した。ここまで本気で命の危機を感じたことはない!!死ぬ!!捕まったら…殺される!!!俺らはとんでもない奴を相手にしちまったんだ!!!

 がしぃっ!!!

 逃げるも虚しく、俺の左足を何かが掴み、地面にうつ伏せとなった。そしてそのまま凄まじい勢いで引きずられていった。地面に指を立て抵抗するが、土が掘れるだけで体は止まらない!!!

 嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ!!!!誰かぁ!!高城様ぁ!!ナガサメ様ぁ!!!!

 と、突然。引きずられていた俺の体が止まった。た、助かったのか?いや、まだ安心はできん。一刻も早く立ち上がり、高城様に伝えないと…!!!

 どちゃっ…。

 俺の右側の、頭のすぐ横で何かが地面に着いた。横目でそれを見た瞬間、恐怖のあまり俺はすぐに視線を前に戻した。

 な…何だあれは!?何かの生き物の手に見えたが、あんなもの、これまで見たことが無い!!!

真っ黒な鱗に覆われていて、その一つ一つの隙間からは蒸気のような煙が噴き出している。指の先端からは赤黒く鋭い爪が生えているが、指のうちの一つ、恐らくは人差し指であろうが、その形状は生き物の指ではなく、刀みたいな鋭い何かだった。そして掌の大きさは俺の頭を軽く覆えるくらいはある!!

 今俺の上には未知の怪物がいるのだ。どうする?どうやってこの場から逃げればいいのか…。

 がしぃっ!!!

 今度は頭を掴まれそのまま上半身をのけぞらせられた。顔の両側の頬骨のあたりに、恐らくは爪と思われるものが食い込み、そこから俺の血が流れ出ているのを感じるが、極度の恐怖からか痛みは感じない。

 地面から浮かされた俺の顔の横に、また別の何かが現れた。だがそれが何かは具体的には分からない。俺の頭部を掴む力は凄まじく、微塵も動かすことができないのだ。…いや、仮に動かせたとしてんも、今の俺にはそれを見る勇気はない。

 横に現れたそれについて言えることは一つ、奴の頭だということだ。何故なら、綺麗に並んだ鋭い牙が俺の視界の右端に映っているのだ。

 『やれやれ…。ここまで体が汚れたのは初めてだよ。前世でもこうは汚れたことはなかったというのに』

 何者かの禍々しい声が聞こえた。だがそれは耳から入ってくるものではない。頭に直接入り込んでくるとしか思えない。何だ?何が起こってるんだ?夢なら早く醒めてくれ!!

 『私自身はこんなことでくたばりはしないのだがな。いかんせん、彼女らの貞操と命が危ない。どうやら、私自身の危機でなくとも脳のリミッターは外せるようだな』

 何を言ってる?彼女ら?やっぱりこの怪物は…あの男なのか?

 『本当ならば今ここで死より恐ろしい目に合わせてやるところだが、まだ私にはやるべきことがある。お前には協力してもらうぞ』

 …高城様、ナガサメ様。申し訳ございません。俺は、あなた方を、この村を裏切ることになります。

 今の俺には抗うことはできません。この怪物に協力するほか生き残る術がないのです。

 『廻と転のところへ案内しろ。それと、燈和のところへもな』


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