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Feilds Of Despair

                       廻



 「なぁ~、本当にこんなところに村があんのかよ~。ぜってぇもう10分は越してるぜぇ~?」

 かれこれ歩き続けてもう絶対20分以上。流石にしびれを切らして先頭を歩く男に転が言い放った。が、まるで転の言葉なんか聞こえてないという風に無言で歩き続けている。さっきの親切そうな感じはどこ行ったん?カンジ悪~い。

今アタシらが歩いているのは道とは呼べるものではなく、舗装も何もされてはいない、ただの草むら。おまけにこの雨でぬかるんでいて、泥が跳ね、見えないところに水たまりもあり、既に足はぐっちゃぐちゃ。それにさっきから脛のあたりに雑草の先端が何度も掠めて痒みがもうすっごい。はっきり言って不愉快の一言以外出てこない。

さっきはもてなしてくれるってゆーからつい喜んでついて行っちゃったけど、これならやっぱりこんな奴にはついていかず、あそこで雨が止むのを待ってた方が良かったんじゃね?とか思い始めてきちゃうよね。まったく~。

 鉄兄ぃはさほど気にはしてないのか、さっきから周りの景色や途中で見つけた珍しそうな草木を観察している様子だ。あるいは鉄兄ぃの持っている不思議な力とやらで不愉快に感じる感覚が無くなっているか。だけれど、うら若き乙女のアタシと転、燈和ちゃんに関しては絶対不愉快極まりないのは間違いない。

 「そうですねぇ。もう随分歩いてますけれども一向に景色が変わらないですねぇ…」

燈和ちゃんの顔にも不満の色が出始めている。最初に男は10分ほどで着くとは言っていけど、それ以上の時間をこんな足場の悪いところを歩かされ続ければ流石に普段は優しさの塊の燈和ちゃんもそうなるか。

 「すみません。普段時計を持ち歩かないもので、私の体感時間では10分ほどだと認識していたのですよ」

 転の言葉は聞き流しておいて、燈和ちゃんの言葉には即座に反応しやがった。ったく。クールを装っておいてとんだすけこましぃ。ていうかこの男、始めから燈和ちゃん狙いだった?他にもこんな美少女が二人もいるってのに。

 「おっ!?村ってあれじゃね?」

 転が指さした方を見てみると、ちらほらと明かりのついた家屋のようなもの見え始めた。

 「電気通ってるんだな…。」

 鉄兄ぃがさほど関心無さそうにボソッと言った。いや流石に電気くらいは通ってるでしょうに。現代人で電気使わないで生きていける奴なんかいないっしょ?アタシだったら3時間で死ぬ自信ある。

 「皆さん、お疲れ様でした。あれが私たちの住む『九十九つくも村』です。今日は久々にお客様がお見えになったということなので、皆でご飯を頂くとしましょう」

 「『皆』って…村の人達全員ってことですか?」

 「えぇ。ここに住んでいるのは、合計で50人程なんですよ。皆家族のようなものです。村の中心に集会場があって、何かある時はそこに集まるのです。」

 「いきなり入ってきて、不愉快に思われたりしない?アタシだったら知らない奴と一緒にご飯食べるの嫌だし。」

 「大丈夫ですよ。先ほども申しました通り、ここにいらっしゃるのはあなた方が初めてではないんです。以前いらっしゃった方も同様にいたしましたよ。それでは後少しです。ついてきてください。」

 男は話し終えると再び歩き始めた。それに転、燈和ちゃんと続いていくが…。

 「鉄兄ぃ?」

 鉄兄ぃはアタシたちが歩いてきた方を向いていて、歩き出そうとしない。そしてさしている傘を傾けると、今度は空の様子を見始めた。

 あ、これ時間かかるやつだ。この状態の鉄兄ぃは物思いにふけって、頭ん中は哲学状態だからな。

 「鉄兄ぃ!!!行くよ!!!」

 「ん?あぁ悪ぃ悪ぃ。」

 アタシの声に反応した鉄兄ぃが大して申し訳ないと思ってそうな顔で歩き始めた。

 「で、鉄にぃ何見てたの?ツチノコでもいた?空になんかいないと思うけどぉ?」

 「ん~、いたらいいなとは思ったけど、まぁいねぇわな。」

少し嫌味を込めて言ったつもりだったけど、いつものごとく軽く流されてしまった。なんか腹立つ。

 「ていうかよぉ…」

 「何さ」

 「ツチノコってお前、この令和の時代にまだ信じてるかよ…。」

 「目の前に魔法を使う龍の生まれ変わりっていう中二病を具現化したような存在がいるって時点でいてもおかしくはないと思うけどぉ?」

 「ん、そうか。そうだな…」

 ん~、なんか今日の鉄兄ぃ、ちょっとドライじゃね?いつもだったらアタシや転の挑発にこれでもかってくらい乗っかってくるのに。ま、鉄兄ぃも一応は人間なわけだし、疲れてるのかもね。

 「鉄兄ぃ」

 「今度は何だよ」

 「疲れたら、いつでもアタシに甘えていいからね!!」

 両腕を広げ、鉄兄ぃを受け入れる体制を取った。さぁ鉄兄ぃ!!存分に甘えよ!!

 「アホ抜かせ。ちゃんと傘ささねぇとメイク落ちるぞ」

 びしっとおでこに軽めのチョップを食らわせてきた。

 うぅ~、それなりに勇気を出していったのに。もう!!鉄兄ぃの馬鹿!!

 「鉄志く~ん!!廻ちゃ~ん!!何してるんですか~!!早くしてくださ~い!!」

 「ほら、燈和が呼んでるじゃねぇか。早くいくぞ」

 「元々は鉄兄ぃがもたもたしてたのが原因じゃん!!」

 まぁ、少しはいつもの調子に戻ったかな?取り敢えず、アタシと鉄兄ぃは少し足早に先に行った3人の後を追った。


 たどり着いた村は想像していたよりも数倍はちっこかった。全体の広さは、アタシが通う高校の敷地より少し広いくらい?なんていうか、森の中に、大きめの陸上競技用のトラックを作って、その中に家とか建てたって感じ。周りは全て木々に囲まれていて、パッと見たところ外に通じる道は無い。そしてここからでも村の端から端が見えることからその狭さがうかがえる。

中心に一個、多分さっき言ってた集会場だと思われる大きな建物があって、その周りに点々と1階建ての小さな家が点々と見える。他には田んぼと畑、その間を縫うように道があるけれど、舗装はされていないみたい。ついでに言えば街灯も無くて、頼りになる明かりは家についているものだけ。

 実際の村っていうよりも、映画のセットみたい。本当にこんなところに人が住んでんの?

 「あの中心にあるのが集会場です。私は少し村の者と話をすることがあるので先に入っておいてください。今の時間は誰もいないはずなので遠慮はいらないですよ」

 そう言うと男はさっさとどこかへ行ってしまった。

 「どうします?鉄志君」

 「どうするったって…入るしかねーだろ。」

 「ていうかこの村、想像してたよりも相当小さいんすけど…」

 「それなー。アタシも思った。ていうか外に通じる道ないのにどうやって買い物とか行くんだろ。」

 「この村の人しか知らない道とかでもあるんですかねぇ…」

 「ていうかこれって地図上だとどのへんなんだろ」

 スマホを取り出して画面を確認してみると、アンテナが1本も立ってない。

 「うわっ。思いっきし圏外…。明日のみっつんとの約束どーすんの…。鉄兄ぃ、電波とか出せない?」

 「俺をルーターかなんかと勘違いしてんのか?魔力はそこまで万能じゃねぇよ。それよりも早く入ろうぜ。風邪ひいちまうよ。」

 「ゆーてお頭は風邪ひかないでしょ」

 「お前らもな。さっきも言ったろ。馬鹿は風邪ひかねぇって。俺が言ってんのは燈和のことだよ。」

 「ちょっと鉄兄ぃ!!デリカシー!!」

 「ていうか姐さんも風邪引かないって結論だったでしょう!?」

 「誰も結論なんか出してねぇだろ。ま、そんくらいの元気があれば大丈夫そうだな。さっさと行くぞ」

 そう言って鉄兄ぃはスタスタと集会場の方へ行ってしまった。全くこの男は…。いざというときに頼りになる分、普段が相当適当すぎやしないか…。特にアタシと転の扱い。もう少し妹的な扱いからアップデートしてよね。全くもう。


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