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序章2

怪物と闘う者はその過程で自らが怪物と化さないよう心せよ。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている。

                                -ニーチェ-



 「くっそぉ…。まさかこんなにも急に降るなんてぇ!!もー最悪。絶対メイク落ちてる。」

 「うーっ、寒っ。予報では晴れだったんすけどねぇ」

 「ま、すぐ止むだろ。このくらいの雨。少しここでのんびりと待ってようぜ」

 「そうだといいんですけどねぇ…。風邪を引いてしまわないか少し心配ですねえ…」

 「馬鹿は風邪なんか引かねぇから大丈夫だよ!!」

 「ちょっと!!それ言ったら燈和ちゃんも体調崩したのなんて鉄兄ぃが別の高校に進学決まった時くらいじゃん!!」

 「まぁ姐さんも大概人間じゃないし風邪はひかないっすよね」

 「失礼な!!人並みに体調不良になりますよ!!」

 普通の人間ならば体調が悪くならないことでマウントを取りそうな気がするが…。まぁそもそもこいつらは年中フル稼働だからそのことで言い合いなどできないか。

 まわりころび、そして私が燈和とうわを単車の後ろに乗せ休日のツーリングを楽しんでいたところ、突如豪雨に襲われた。視界が悪く、地面も滑りやすくなったため、運よく見つけたこの廃屋に避難する形で私たちは雨宿りをしていた。

 夏に入りかけているとはいえ、山の気温はまだまだ高いとは言い難い。それにこの濡れようでは、先ほどの言い合いとは逆に本当に風邪をひいてしまうかもしれないな。もちろん私を除いてではあるが。

 「ていうかさぁ、鉄兄ぃの魔法の力とかで雨止められないわけ?」

 「今となっちゃあ、そんな力残ってねぇよ。今の俺はあくまでもこの世界の人間だ。」

 「えぇ…以前はできたってことっすか…。それはちょっと引く…」

 「おい」

 相変わらずこの双子姉妹は意図せず連携して私のことを苛めてくる。

 「はいはい、これ以上追及すると喧嘩になるもしくは鉄志君のありがた~い魔法と科学のお話の時間になりそうなのでやめてくださいね。」

 そして燈和。お前はストレートに嫌味な言葉を私に突き刺してくるな。流石の私も少し響くぞ。

それにしても、私は普段からそんなにも長く話をしてしまっているのか?大体の人間は歳を経ると話が長くなる傾向になるというが、私の場合も精神年齢が精神年齢だからその流れに乗っているのだろうか。いやはや、気を付けなくてはならんな。

 「それよりも鉄志君。私、雨に濡れて体が冷えてきています。なので鉄志君の体温で温めてください。」

 そう言うと燈和は満面の笑みで私に向かって両腕を広げてきた。よく見ると服が透けている。全く。はしたない。少しは羞恥心を持て羞恥心を。

 「あーっ!!鉄兄ぃが燈和ちゃんのこといやらしい目で見てる!!変態!!」

 廻は私に啖呵を切ると自分が燈和を抱きしめるようにその体を隠して私からは見えないようにした。ていうか始めからお前ら同士でそうしていればよかっただろう。

 「はぁ、アホなこと言ってんじゃねぇよ…。」

 「いや!!今のはお頭が悪い!!明らかに姐さんを見る目がスケベだったっすよ!!」

 「知るか!!大体てめーらのスケベの基準低すぎるんだよ!!俺がテレビで若い女タレント見てるだけでスケベ呼ばわりしてんじゃねぇか!!」

 「しょーがないじゃん!!鉄兄ぃの性欲は常に血沸き肉踊ってるんだから」

 意味が分からん。ていうか日本語の使い方おかしいだろ。中途半端に覚えた日本語を意味もなく使いたがるところは本当に子供っぽい。

 大体、濡れた体を何のためらいもなく抱きしめてくれと言いだす方がよっぽど変態に近いと思うのだが?少なくともその変態の領域には一歩足を踏み出して片足を突っ込んではいるだろうな。

 「あ、ていうかむしろ全部脱いだ方が良かったですか?」

 片足突っ込んでいるというレベルではなくどっぷりつかってるな。羞恥心のかけらもない。そしてこの状態でたとえハグであろうと許してしまえばさらに大きな欲求を燈和は私にしてくるに違いない。そしてそれは私の時間を食われることにつながりかねない。ならば。

 「そんなに寒いのならもっと簡単な方法で温めてやるよ。」

 そう言うと私は人差し指を突き出し、その先端にエネルギーを集中させ火を着けた。

 「ちょっと!!やめてくださいよ!!それは冗談抜きで火事になりかねないんすから!!」

 「小屋燃えてしまったらどうするんですか!!下手すると山火事になりかねないっすよ!?」

 「ていうかそこまでしてハグを拒む理由は!?」

 自身は自分で自由に体温の調節ができるのだから温め合う必要性が無い。それだけだ。そしてお前らの様子を見ている限るだと全然寒そうに見えないというのも理由の一つだ。

 と、私たちが言い合いをしていると廃屋の扉が開き、一人の男が入ってきた。

 年齢は恐らく30代前半。端正な顔立ちをしており、髪は長く後ろで一つに結っている。また着物を纏っているがそれが上質なものであろうことは私の目から見ても分かった。この現代においては少し時代遅れで異質ともとれる風貌である。

 「きゃあ!!一体どなたですか!?」

 驚いた燈和が慌てて透けていた自身の服を両腕を隠しながら大声を上げた。

 こいつにも羞恥心が残っていたのかと安心をする反面、私に対しても少しはそういった態度を出したらどうなんだと少し呆れた。

 「これは失礼いたしました。私はこの小屋の持ち主で、高城と申します。」

 「こんなボロに持ち主とかいたんだ」

 「廻!!やめろ!!失礼だろ!!」

 「何さ!!転だって入る時に『こんな小屋になんか誰も来ねぇだろ』とか言ってたじゃん!!」

 「おいやめろ!」

 「喧嘩すんな。失礼と言えば無断でこの小屋に入った時点で失礼極まり無いんだから別に今更遠慮する必要はねぇだろ。」

 「あの、そういう問題では無くないですか?」

 もちろん燈和の言うことが正しい。私がこのようなことを口にしたのは、この男に何か異質なものを感じたからだ。普通だったら自分の所有する小屋に誰かが入り込んでいてかつ失礼な言葉を投げかければ怒って当然だし、怒らずとも少しは不愉快そうな表情を惜しみなく出すだろう。

 だがこの男は表情を一切崩すことはない。私が追い打ちでずれたことを口にしても全く変化が無い。これは明らかに、心が広いを取り越して、何か一般の常識からずれていると判断をするのが妥当なところだろう。

 「ま、悪かったよ。走ってたら急に降り出してきてな。ちょうどいいところに誰も来なさそうな小屋があったんでね。雨宿りさせてもらってたってわけさ。」

 「鉄志君!!話し方!!!」

 「いえ、大丈夫です。気にしないでください。それは災難でしたね」

 その高城という男は静かに言うと燈和の顔をじっと見つめだした。まるでこちらの存在を忘れてしまたのかという程に。

 と、その時、転が小声で私に話しかけてきた。

 『お頭、あいつちょっとヤバい奴じゃないっすか?なんか話し方とか表情とか異常っすよ。それに、お頭とは別のベクトルで姐さんのこといやらしい目つきで見てますし。』

 おい。私がいついやらしい目つきを燈和に向けたというのだ。でも、まぁ私としてもここは転と同じ意見だな。

 「あー…んじゃあいつまでもここにいても悪いし、ウチらはこの辺で帰らせてもらうよ。失礼するぜ」

 この男に言いようのない不安感を覚えたのか、転は自ら切り出し立ち上がろうとした。が。

 「いえ、この雨の中バイクに乗って帰るのは危険でしょう。もう日も落ちかけています。このすぐ近くに私が済む村があるので今夜は泊まってはいかがでしょうか」

 「いや、それには及ばないっすよ。失礼な態度とった上に泊まらせてもらうなんて厚かましいっすからね。では…」

 「えーっ、別にいいじゃん、泊まらせてもらえば」

 廻が不満そうな声を上げた。そうだった。こいつは私とは別のベクトルで恐怖心が麻痺しているのだ。

 「そうですねぇ、私も廻ちゃんに賛成ですね。」

 燈和まで。こいつは私に対する羞恥心の他に危機管理能力まで失くしてしまったというのか。

 『ちょっと姐さん!!廻!!こいつ明らかにヤバいやつじゃないっすか!!そんな奴の住む村に行ったらナニされるか分かったもんじゃないっすよ』

 転が燈和と廻を呼び寄せて小声で話し始めた。だが、この距離で私に聞こえているのなら、多分この男にも聞こえているぞ?

 『でも、確かにこの男の人の言う通り、この雨で明かりのない山道を降りるのはやっぱり危険だと思うんですよねぇ。かといってこの小屋で一晩過ごすのも無理があると思いますし。ていうかこの人の物ですし。』

 『それに、ナニかされそうになってもうアタシらなら大丈夫じゃない?何せ龍と鬼が付いてるんだから』

 『う~ん、確かにそうだけども…』

 転、お前は威勢がいい反面口論にはめっぽう弱すぎるな。そのくらいで言い負かされるんじゃない。

 「少し怪しまれるのも無理はありませんが、村の人々はみな温厚で、困ったものを手厚くもてなしてくれますよ。それに、あなた方の寝床は空き家を用意して他の者が入れないようにいたしますのでご安心ください。」

 会話が聞こえていたのか、それとも察したのか、その男は私たちに安心させるような言葉を投げかけてきた。

 …いや、恐らくはそのどちらでもないだろうな。この男、どうにかして私たちを村に招き入れたいように思える。やはり信用には値しない。

 と思いつつも、私自身もやはりその村に宿泊する方がいいと思ってきている。全盛期の力が出せないとは言ってもそこらの人間には負けはしない。強さに関しては自信がある。よっぽどのことが無い限り瀕死の重傷を負うということもないだろう。それこそ私と同じ世界からやってきた怪物でもない限りはな。万が一寝込みを襲われるようなことがあっても、私が寝ずに番をしていれば撃退はできる。魔力を使える私にはそれが可能だ。

 それに、この男の目的が一体何なのか興味が出てきた。それに、こんな人間が普通立ち止まらないような場所にある村が一体どのようなものであるのかに関しても。一目見ておき、見分を広めたい。

 「分かった。あんたのその村に止めてもらうよ。」

 「お頭ぁ!!!」

 「まーまーいいじゃん。鉄兄ぃがオーケーってんなら大丈夫ってことっしょ」

 「そうですね。何かあったら鉄志君は私たちを守ってくれます。」

 「むぅ…。そこまで言うなら…。」

 転だけは納得できないと言った顔をしているが、安心しろ。現時点ではこの世界で私自身の存在程危険なものは無いだろう。

 「ではご案内します。ええと、お名前は…」

 「鉄志てつし村井鉄志むらいてつしだ」

 「その従妹の村井廻むらいまわり!!よろしくね!!」

 「…村井転むらいころび

 「あっ…と、私は鬼灯燈和ほおずきとうわと申します。よろしくお願いします。」

「分かりました。ありがとうございます。部屋の奥に傘があるので使ってください。」

 「ほう。用意周到なんだな。」

 「えぇ、あなた方のようにこの小屋に雨宿りをしに来る方は結構いらっしゃるんですよ。そういった方々もよく私の村に泊まっていきますよ」

 「じゃ~大丈夫じゃん!良かったぁ~。」

 何が大丈夫なのだ。全く。そう言った奴らがどのような末路を辿ったのかは分かったものではないというのに。

 「それで、その村はここから遠いのですか?」

 「いえ、歩いて10分もあれば着きますよ。」

 「つか、バイクどうしよ。あんまり濡らしたくねぇんだけどなぁ…」

 「それでしたらこの小屋の中に入れておいて大丈夫ですよ。」

 「マジ!?助かるぅ~。あんためっちゃいい人じゃん!!」

 その通り。この男は相当優しい。そして妙に手慣れている。まるでこういったことを頻繁に行っているみたいにな…。


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