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亢龍、悔いあり(バイオ・サイボーグより改題)  作者: 詩歴せちる
Heart Of A Dragon
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限界LOVERS

            燈           和



 バァァァンッ!!!!!!

 奴の持っていた拳銃が音を立てて爆発しました。恐らく、鉄志君はこうなることを予想して何らかの細工を施し、わざと取られたのでしょう。出なければ、ここまで冷静にそれを見ることはできませんものね。

 「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!!!!!!」

 奴の手首から先が飛び散り、絞り出すような悲鳴を上げました。傷口からは真っ赤な血液が噴水のように飛び出しています。

 中身は人外の化け物であるとは言え、少なくとも見た目だけは人間のそれであるため、その衝撃的な光景に私は思わず目を背けてしまいました。

 「ぬぉっ!?」

 奴の声がさらに聞こえてきました。何か動揺している?

 急いで目線を戻す鉄志君が膝を着いた奴の両肩を掴んでいました。そして鉄志君の下顎から喉元までが縦に、そして口の両側から耳元に掛けて裂け目が入ると、その裂け目はどんどん大きくなり、下顎は二又に分かれ、鉄志君の口は大きく開かれました。

 その姿だけ見ると、何だか怪物が人間を襲っているように見えました。いや実際は逆なんですけれどもね。

 一瞬、鉄志君の周りの空気が、何というか、流れが変わったような気がしました。…いや、流れが変わったというか、空気が重くなった?鉄志君は一体、何をしようと…。

 その私の疑問に答えるかのように、次の瞬間。

 ドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!

 その大きく開かれた鉄志君の口から白い息が激しく吐き出されました。こちらに向かって音まで鳴り響くような凄まじい勢い。そしてもう初夏の季節だというのに、こちらにはひんやりとした空気が流れてきています。鉄志君が出しているあれは…冷気?

 そして奴の体はみるみるうちに白く染まっていき、やがて固まって動かなくなりました。

 「くぅっ…」

 息を吐き終え、攻撃が終わると、鉄志君はよろけてその場に片膝を着きました。

 「鉄志君!!大丈夫ですか!?」

 「おい!!触るな!!!」

 駆け寄ると、鉄志君は私に向かって怒鳴り散らしました。そしてすごい剣幕。わ、私…何か怒らせるようなこと、してしまいましたかねぇ…?

 「ちげぇよ…。今俺に触ると危険なんだよ…。」

 私の考えを察したのか、鉄志君が半ば呆れ気味に言いました。

 「何が危険なんです?」

 「エネルギー保存則だよ。奴を超低温の冷気で凍結させたんだ。逆に俺の体の中は高熱で溢れかえってる。それを残した魔力でかろうじて押さえつけているのが今の状態だ。少しでも油断すれば体内のエネルギーは一気に俺の体を蝕んでいっちまう。」

 「そ…そんな無茶なこと…。」

 「現時点で奴の動きを止めるにはこれしかなかった。鎖も切られちまったし、もう何も残っちゃいねぇ。要は最終手段だな。」

 「それで…鉄志君はこの後どうなってしまうんですか…?」

 「もう使える魔力の量も限界に近づいてる。放っておけばいずれ体内の魔力は尽き、その瞬間膨大な量の熱エネルギーが俺の体の中の全ての細胞を破壊し、死に至るだろうな。」

 「!?そんな!!じゃあ一体どうするんですか!?」

 「まぁ落ち着けよ。このビルの裏に貯水池があるんだ。その中に入って少しずつ体内の熱を放出させ水に移していけば最悪それは免れる。ま、体にかかる負担をゼロにはできないかもしれんがな。」

 「それじゃあ早くしないと!!!さぁ立って立って!!」

 「そう急かすなって。まだやること残ってんだろ…。」

 そう言うと鉄志君は屋上の隅に行き、柵の間に手を入れたかと思うとすぐに引っ込めてまたこちらへ戻ってきました。

 あれは、転移装置ですか。ここに着いた時は気付きませんでしたが、ビルの外壁に取り付けていたのですね。確かにこの辺りは明かりは殆どありませんから外から遠目に見ただけだと目立たないですねぇ。そして恐らく、奴も気付かなかったことでしょうし。それにしても、あの大きな蜥蜴がここまで登ってきたときによく落ちなかったですねぇ。

 「よしっ、鴈舵羅を起動させた。範囲は出入口より先の屋上全てだ。つーわけで、あと12分でこのビルの屋上は異世界へ飛ばされる。奴も含めてな。」

 「そ、そうでしたね。本来の目的は。でも!!鉄志君が死んでしまったら意味がありません!!!廻ちゃんも転ちゃんも鉄志君の帰りを待っているんですから!!無茶はしないでください!!!」

 「…分かってるよ。悪かったよ。そんなに泣かなくてもいいだろう…。」

 あ、あれ?私、泣いていましたか…。気づきませんでしたね。私としては怒っているつもりだったのですが。なんだか短時間で色々なことが起こりすぎて…感情がうまくコントロールできなくなっているような気がしますねぇ。

「とにかく、後はここを出るだけだ。だが焦って走ると危ない。俺はゆっくりとしか歩けないから、燈和、先に行って扉を開けておいてくれないか?」

 「え、えぇ。そのくらいでしたら全然余裕でやりますよ。」

  急いで屋上の出入口へ行き、扉を開け、中に入りました。

 「鉄志君!!早く…」

 バタンッ…!!!

 私が振り返るより早く屋上への扉は音を立てて勢いよく閉ざされました。そして。

 ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウ!!!!!!

 続いて何かが高音で焼かれるような音が聞こえてきて、ドアと壁の隙間からは白い煙が出てき始め、やがて溶かされたドアの一部でその隙間は無くなりました。

「鉄志君!?」

 急いで扉を開けようとドアノブを捻ろうとしたところ…。

 「あっつい!?」

 あまりの高温に反射的に手を離してしまいました。そしてその衝撃でか、離したドアノブはぽろっと取れて床へと落ちました。見てみると、取れたドアノブの先はドロドロに溶けてなくなっていました。

 ドアノブが取り付けてあった箇所には穴が空いていましたが、すぐにそこからも煙が出始め、溶かされた金属で塞がれてしまいました。

 「鉄志君!?何をしようとしているんですかっ!?鉄志君!?返事をしてください!!お願いします!!鉄志君っっ…!!!!!て つ し く ん  っ・ ・ ・ ! ! ! !」」

叫びながらドアを叩いてみても鉄志君からの返事は無く、代わりに私の皮膚が高温の扉に焼かれる音と拳で叩かれて反響する鈍い金属音が跳ね返って私しかいない階段場に虚しく響き渡るだけでした。


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