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亢龍、悔いあり(バイオ・サイボーグより改題)  作者: 詩歴せちる
Heart Of A Dragon
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CRAZY NIGHT

              鉄      志



 転から連絡が入った。追ってきたホルボロスを退けることに成功し、もうすぐこの第二集会場にたどり着くと。

 二人には本当に感謝しかない。私と燈和のために文字通り命懸けで戦ってくれたのだ。これは大きい借りを作ってしまったな。

 と、バイクのエンジン音が聞こえ、3人がやってきた。見てみる限り、取り付けたはずのサイドカーは無くなっている。どうやら普通では考えられないような激闘があったようだ。

 「鉄兄ぃ~!!!!!」

 屋上にいる私に気付いた廻が手をブンブンと振り声を掛けてきた。良かった。致死的な怪我は避けられているようだ。

 片手をあげ、そのまま人差し指で右方向を示した。あらかじめ決めていた合図で、燈和を降ろし、退散しろというものだ。

 今私がいるのは屋上で建物の5階に相当する。燈和にはこのビルの4階に隠れてもらい、その間に私が奴の行動を制限するように取り計らう。人間の姿であれば室内戦に持ち込み、異世界の怪物として現れればこの屋上で戦うことになるが、転からの報告ではどうやら後者になりそうだな。

 燈和がビル内に入っていくのを確認すると、二人はその場を後にした。さて、ここからは私の戦いだ。あいつらのやってきたことを無駄にするわけには絶対にいかない。

 ガインガインガインガインガインガインガインガインガインガイン…

 金属音に似た音が微かに聞こえ始め、その姿が段々と露わになってきた。

 あの爬虫類と昆虫を組み合わせたような姿…ヨーウィーか。どうやら奴は、とにかくデカいものが好きらしい。ふんっ。デカければ強いと思っているあたりいかにもお前らしい。その変身能力とやらを完全に使いこなすにはその生物の生態や戦闘における長所と短所を調べ尽くさなければならないというのに。ま、馬鹿なお前には分からないだろうがな。

 とはいえ、あの大きさであれば少し苦労しそうではあるが…ま、何とかなるだろう。

 奴はビルの手前まで来ると、全体をしげしげと眺め始めた。恐らく、燈和のいる具体的な位置を探っているのだろう。

 よく見ると、奴の右目に矢が刺さっている。これなら奴の死角をつきやすい。廻、転。本当によくやってくれた。

 持ってきておいた懐中電灯を取り出し、奴を照らしてみると即座にこちらに顔を向けた。

 「カアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!」

 奴は雄叫びを上げると、その鎌状の脚をビルの外壁へと突き刺しあっという間によじ登ると屋上の柵を破壊して私の目の前にまでやってきた。

 「ケルルルル…ル…ルルル…ルル…」

 すぐには攻撃に移らない。どうやら警戒しているようだ。私がかつて同じ世界にいたということを考えればヨーウィーの生態を知っていると考えているのだろう。ま、その通りではあるが。

 「ケエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェエエエエエエエッ!!!!!!!!!!」

 やがて考えていても仕方がないと結論付けたのか、雄叫びを上げると鎌状の脚を私に向かって振り下ろしてきた。

 ガキンッ!!!!!

 サイドステップでそれをかわすと、前脚は突き刺さり、コンクリートに穴を空けた。

 やれやれ。もう少しだけでも警戒したらどうなんだ。今考えていた時間など1分もなかったぞ?ま、こちらとしては早く済ませられるに越したことはないのだがな。

 ヨーウィーの動きは俊敏ではある。が、その攻撃パターンは噛みつく、突進する、舌で弾く、尾を振るう、そして鎌状の脚で切り付けるくらいしかないため、魔力で認識力を高めている今の私にとってそれらを避けるのはさほど難しくはない。

 時折、奴が攻撃を仕掛けるたびに口内が露わになるが、そこから見える舌の先は切られている。あいつら、そんなことまでやってのけたのか。なかなかやりおるな。

「カアアアアアアァァァァァァァァァァァァアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!」

 攻撃を避け続ける私に苛立ちを覚えたのか、奴は雄叫びを上げ、より一層攻撃を激化させた。私の体を目掛け尾を水平に振り回し、前脚を振り下ろし、先の無くなった舌で叩きつけようと息を切らしながら私に迫り続ける。

 と、私の胸を奴の前足が掠め、着ている服が裂けるとそこから血が滲みだしてきた。手数の多さに攻撃を避け切れなかったか。ま、見たところ傷は深くない。表面を切っただけのようだ。だが少しずれていれば首を掻き切られていたかもな。油断はできない。

 奴の方に視線を戻すと、大きな口を開け、剣山のような歯を見せながら迫ってきていた。噛み殺すつもりか。

 ガチンッ!!!

 ギリギリのところでバックステップで噛みつきをかわすと鋭い音が鳴った。よそ見は禁物だな。あんな攻撃を食らってしまえば再生させる前に体は千切れ、絶命してしまう可能性が高い。

できればもう少し奴を疲弊させておきたいところではあるが…ま、もういいだろう。

 ポケットからライターと爆竹を取り出し、火を着けた。迷いはしたものの持ってきておいてやはり正解だった。

 ヨーウィーの生物学的な特徴として、音や光に過剰に反応することがあげられる。これはヨーウィーが夜行性であり、日中は暗い洞窟の中で寝ていることからこれらに対して警戒心を抱くからである。

 中身はホルボロスであるが、この特徴が失われていないことは先ほど奴を懐中電灯で照らした時の反応で証明済みだ。

 「カァアッ!!!」

 奴が前脚を横振りしたのをしゃがんで回避すると同時に奴の腹のすぐ下に火を着けた爆竹を投げた。

 パッ!!!パンッ!!!パパンッ!!!パパパパパァンッ!!!!

 腹の下で爆竹がけたましく鳴り響くと、奴は攻撃を止め、頭部をぐるぐると動かし始めた。よし。混乱している。

 死角となっている右側に回り込み、そのまま背中に飛び乗ると、来ていたシャツを脱ぎ捨て予め腹に巻き付けておいた鎖を解いた。そして鎖を二重にし、奴の首へ巻き付け、体を反転させ背中を合わせると両腕に力を込め一気に締め上げた。

 ヨーウィーの脚は前方向に大きく動かすことができる反面、胸と腹の境目付近から生えているという構造である上、関節部の可動域は大体180度が限界であり、その先端を自分の背中はおろか首に触れさせることもできない。そしてこいつの外皮は固い鱗で覆われているもののそれはあくまで外側だけであり、首や腹部を覆っているのは柔らかい皮膚だけ。すなわち、この背中に回り込み首を絞めるという攻撃方法こそがヨーウィーに対して最も有効な手段なのである。

 「カッ…!!!カハッ…!!!ケッ…!!!クッフゥ…!!!」

 背後からは呼吸をしようともがき苦しむ声が聞こえてくる。さて、私の持つ鎖が千切れるか、お前の息の音が止まるか。どちらが先になるか勝負だ。仮にこの勝負に負けたところで、私はまだお前を倒すための策は残しているのだがな。

 ブォンッ!!!ブォンッ!!!

 目の前で奴の尾が苦しそうに左右に動くのが目に入った。恐らく、奴が起こそうとしている行動は…。

 予感は的中し、目の前の尾が私に向かって振り下ろされてきた。が、足をクロスさせてそれを受け止めると、素早く足を組み換え三角締めで尾を捕らえた。これでもう奴には私を攻撃する術は残されていない。

 ミシミシミシッ…ミシッ・・・ミシィ…

 鎖が軋む音を立て始めた。これは千切れてしまうのも時間の問題か?だとすれば、さっさと次の手に移動した方がいいか…。

 私がそう思い始めた、その時だった。

 「クッ…クフゥ…」

 抵抗する力が弱くなり、声がかすれ段々と聞こえなくなるとやがて奴は地面に体を横たえ、ついには動かなくなった。

 もう呼吸音も聞こえない。また、足で掴んでいた尾からも脈は感じられなくなり、体も冷たくなり始めた。ヨーウィーとしては完全に死んだか。

 さて、さっさと離れないとな。今の状態で奴の変身が解除されれば私まで取り込まれてしまう。

 横たえた奴の首から鎖を解き、それを手に持ったまま素早く奴から離れた。

 ヨーウィーの体はどろどろに溶けていき、赤黒い泥状の本体になった後、今度は私と同じくらいの大きさになりやがて人間の姿となった。何度も見てきた、あのイガワという男のものだ。

 この状況でわざわざまた人間に戻るとは。何度殺されてもよっぽど私に勝てる自信があるらしい。

 「まさかここまでやるとはな。俺が変身するもの全て撃退する。お前の存在とその知識量は非常に興味深い。」

 「そいつはどうも。んで?よかったのか?向こうの世界の怪物じゃなくて、こっちの世界の人間なんかに変身しちまってよぉ…。」

 「お前が何を考えているのかは知らんが、あの雌はこのすぐ下に隠れているのだろう?だとすれば、体の大きい化け物になったところで引きずり出すことはできん。生きたまま食う必要がある以上、誤って殺してしまえば本末転倒だ。」

 「ほ~、馬鹿は馬鹿なりに考えて行動してるんだねぇ~。おじいさんは感心してしまうのぉ~」

 「…お前の見た目はまだ10代だが、恐らくは俺のいた世界で何十年も生きてきたのだろうな。出なければあの知識量は説明できん。殺し方が的確過ぎる。」

 「いまいち答えが中途半端なんだよお前。生きてきたのは何十年てレベルじゃねぇ。何百年だ。」

 「吸血鬼…ではなさそうだな。」

 「だったらとっくに燈和を眷属にしてるに決まってんだろぉ?んで、お前の言う力とやらを調べ尽くして自分のものにしてるかもな。」

 「…となると!!まさか…龍かっ!?それも最終形態のものだな!?」

 「ほっほぉ~。一応、龍にはいくつも形態があるってのはご存じなようで。ま、俺はお前みたいに直接この世界にやってきたんじゃなく、死んで生まれ変わっただけだからその力の名残が少しあるだけだがな」

 「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!!!」

 突然、奴は手の平で顔を覆い声を上げて笑い出した。

 「最強種の龍が!!死んで生まれ変わってこんな底辺の猿になったとは!!!こりゃあ傑作だ!!!お前と会えて本当に良かったよ!!!こんな面白いものが見られるとは!!」

 いかにも、他種族を見下したような物言いだな。その驕りが今まで私にしてやられた原因だといつになったら気付くのやら。

 「その猿の雌の尻追っかけた挙句、雄猿に何度も撃退された最底辺はどこの誰だと思ってんだよ。ちったぁ頭使って考えろぃ。」

 「はっはっは。ふぅ…。魂だけは龍らしいな。その見下した言い方がな。くくっ…!!」

 「んなことお前に言われたかねーよ。こっちはこれでも生物様には尊厳を持って接しているぜ?お前なんかとは違ってな。」

 と、ここまで来て少し違和感を覚えた。こいつ…会話で時間を稼いでいる?

 何のためだ?回復?…な訳ないな。変身が解除されればその時点でそれまでのダメージは全て消失するはずだ。だとすると、一体…。

 …そうか。燈和だ。私は燈和に対しては事が済むまでは隠れているように言いつけてはあるが、あの性格だ。私が一向に来ないと分かればしびれを切らして自ずと出向いてくるに決まっている。奴はそこを狙っているのだ。いや、実際は燈和の性格までは考慮していないだろう。単におびき寄せるためだけの時間稼ぎであろうが、過程はどうあれ結果は同じになる。

 となれば、早急に奴を倒す…いや、動きを封じる必要があるな。

 まだ掌を顔に当て笑っている。私の様子が見えていない今がチャンスだろう。

 奴に気付かれぬよう、こっそりと右足に履いていた靴から踵を出した。

 「それはそうとだなぁ…」

 奴が手を顔から離し、まっすぐこちらを向いた。今だ。

 奴の顔面に向かって靴を飛ばした。ただの靴ではない。叔父の仕事を手伝う際に履いている、つま先に金具の入っている安全靴だ。当たれば痛いぞぉ?

 ゴスッ…!!!

 鈍い音を立てて、靴が奴の鼻を潰した。

 「ぬおぉ…!!!」

 奴は鼻を抑えて悶え、その指の隙間からはぼたぼたと血が流れている。予想以上にダメージを与えられたようだ。

 一気に間合いを詰め、股間に膝蹴りを食らわせると痛みに耐えかね奴は両膝を着いた。

 そのまま持っていた鎖で両腕ごと体を縛ると、屋上の端まで引きずっていき、鎖の先端を鉄柵に固く縛り付けた。

 その直後。

「鉄志君!!!!大丈夫ですかっ!?」

 屋上の扉が音を立てて開き、燈和がやってきた。予想はしていたがやはり来たか。燈和の融通の利かなさに対しては憤りより先に呆れが来てしまう。

 奴に目を向けると、醜い形相で燈和を睨んでいるのが目に入った。

 「お前、燈和がここにやってくると予想してたんだろ?あと少しだったようだが、惜しかったな」

 私が奴に向かって言い放つと、今度はその形相をこちらに向けてきた。そんな醜い顔など見せるな。

 「おいおい、そんな顔してたら疲れちまうぜ?リラックスしろぉリラックス。」

 挑発すると奴の顔に一層皺が寄った。煽りに弱すぎるな。やはり頭は単純極まりない。

 「あ、あの…、鉄志君。私、その、心配で…つい…」

 燈和は燈和で少し目を伏せどもりながら喋っている。流石に少しは後ろめたさがあったようだ。ま、終わりよければ全てよしとしようか。

 「ま、言いてぇことは山ほどあるけどさ、後にしようぜ。今はここを離れよう。」

 燈和を宥めつつ、私たちは扉へと向かい始めた。

 さて、後は鴈舵羅がんだらを起動するだけだが、できれば奴にはあまり見られたくはないところではある…。鴈舵羅の存在が知られれば、万が一奴が転送前に鎖を解いてしまった場合失敗に終わってしまうからな。戻って先に目隠しでもしておくべきか?

 と、その時だった。

 ダァンッ!!!ダァンッ!!!

 後方で銃声が二発聞こえた。振り返ると、奴は鎖を解き立ち上がっていた。鎖の先端は鉄柵に繋がれたままであるが、途中で千切れてしまっている。

 拳銃を持っていたのか。ヨーウィーに化けていたことで道具は携帯していないと思っていたが…。

 ヨーウィーへと変身する段階で体内にしまい込み、変身が解かれ人間へと化ける段階で外に出して隠し持っていたのだな。私自身、少し考えが甘かったようだ。

 奴は銃口をこちらに向けたまま一気に駆け寄ってきた。

 「燈和!!後ろに隠れろ!!」

 ダァンッ!!!ダァンッ!!!ダァンッ!!!

 腕で頭部を守り弾丸を防ぐ。痛みは感じないが、傷を修復するのに魔力を消費してしまうな。

 そのまま奴は一気に私たちに近づき、私がズボンに突っ込んでおいた拳銃を奪うと自身が持っていた銃を投げ捨て、奪った拳銃の銃口をこちらへと向けた。

 「お前も甘いな。そんな分かりやすいところに拳銃を仕舞っておくとは。何百年も生きてきて、少し頭が弱くなったんじゃないか?この距離なら俺でも確実に頭に当てることはできる。」

 何を言う。甘くて頭が弱いのはお前の方だろう。目の前の敵が使いもせず取ってくださいとでも言わんばかりに見せびらかしている武器を奪って使おうとするとは。ま、そのおかげで用意しておいた保険がうまく働いたわけだが。

 トカレフTT-33が安全装置を省略した構造となっているのには訳がある。重要な機関部を集合化させることで生産性を向上すると同時に工具なしでの分解を可能にするためだ。 

つまり知識さえあればどこででもいじくることができるし、時間さえあればちょっとした細工も施すことができる。そしてお前が私から何かしらの情報を得ようとするために再びそのイガワに化けることも当然予想している。そのイガワが拳銃を使えるということもな。

 つまり、お前がここにやってくるまでに私が施した細工とは…。

 バァァァンッ!!!!!!

 引き金を引けば確実に拳銃ごと暴発する仕掛けというわけだ。使った者を巻き込むようなものをな。

 「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!!!!!!」

 手首から先が飛び散り、絞り出すような悲鳴を上げた。ふんっ。さっきまでの威勢はどこへ行ったのやら。

 そしてもう一つ、お前の動きを封じる術はなにも鎖や日光だけではない。それを行うための魔力はまだまだ私の中に十分残っている。

 蹲る奴の両肩を掴むと自身の顎を縦に、そして口の両側を耳元まで大きく裂き、残った魔力を総動員させ、それを始めた。


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