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亢龍、悔いあり(バイオ・サイボーグより改題)  作者: 詩歴せちる
Heart Of A Dragon
16/64

食べたいなめたい危険地帯

                 廻


 「ふぃ~…脱出成功!!」

 「油断すんなよ!?今度はこっちが時間稼ぎなんだからな!!!」

 「そもそもあの人数で…大丈夫なのでしょうか?」

 「チームのメンバー、全員喧嘩慣れしてますし、それに定期的にお頭がしごいてやってるんで戦闘力は問題ないっすよ!」

 「あ、いえ、そうではなく、あの人数であんな乱闘騒ぎを起こせばすぐ警察がやってくるのではと。拳銃まで使ってたわけですし。もう既に鉄志君も拘束されてしまってる可能性も…」

 「「…。」」

そ、そこは鉄兄ぃ何とかするんじゃないのかなぁ…。実際、うまく警察を潜り抜ける術を持っていても不思議ではないしぃ…。

 「…なんか不安になってきましたねぇ。この作戦、うまくいくのでしょうか…」

 「でもでもぉ、実際他にいい方法がないわけだしぃ?」

 「ここまで来たらもうお頭信じるしかないっすよ、姐さん。」

 「そう、ですよねぇ…。」

 うぅ、鉄兄ぃ。この件の埋め合わせはご飯連れてってくれるとかそういうレベルじゃないんだからね?



        *********************



「んじゃ、ま、作戦の概要を説明しますかねぇ。」

 家に入ると鉄兄ぃはさっそく作戦を話し始めた。この男、この状況でワクワクしてる。いやアタシが言えた口じゃないけどもさ。

 「現時点でこの世界で奴を倒すのは不可能。なので、燈和のご先祖様の遺産を使って元の世界に送り返すのが目的というわけだが…」

 「うまくどこかへ誘い出して、そこであの転移装置を起動させる…ということですね?」

 「その通り。作戦そのものは非常に単純だが、これ以上にいい方法はない。」

 「それは分かったけど、実際どうやっておびき出すのさ?」

 「何言ってんだ。餌を使って誘導するだけだろ。」

 「餌って何すか?」

 「ん。」

 そう言って鉄兄ぃは親指を燈和ちゃんの方へと向けた。

 「えっ!?私ですか?」

 「俺やこいつらが餌になったって食いついてこねぇよ。奴がここに来た目的は燈和なわけだしな。」

 「まぁこれに関しては異論ないっすね。」

 「どーせ鉄兄ぃがバイク跨って燈和ちゃん守りつつーって感じっしょ?」

 「今回はそうはいかねぇ。」

 「どうしてっすか?」

 「この鴈舵羅がんだらを動かすには動源力が必要なんだよ。」

 「?電気とかそういうのですか?」

 「いや、そういう科学的なものじゃない。この書物には無發むはつと書かれているが、これは燈和の祖先が持っていた未知の力だろうな。奴が欲しがっているのもこれだろう。」

 「え、でもさっき動いてたじゃん。転を巻き込みかけて。」

 「それは俺の中にも似た力があったからだろうな」

 「あの魔力とかいうわけわかんない能力のことっすか!!」

 「そう言うこと。部品をスペアで補った他に俺の魔力はその無發とやらには劣るから発動まで約12分というタイムラグがあったんだろうと考えている。」

 「つまり、現時点ではあの装置を動かすことができるのはこの世界で鉄志君だけというわけですね。」

 「世界中探せばもしかしたら他にもできる奴がいるかもしれねぇけど…ま、そうだな」

 鉄兄ぃ一人でも無茶苦茶だというのに…。あんな変な力他にも持ってる人がいたらそれはそれで会ってみたい気もするけど。

 「それは分かりましたけど、姐さん守りながら起動すればいいんじゃないすか?」

 「そうするのが本来ベストだが、実際はかなり難しいな。」

 「どして?」

 「奴が来てから鴈舵羅を設置するってのがな…。恐らく眷属も引き連れてくるだろうし、戦いながら起動までに持ち込めるかが怪しいところだ。」

 100%不可能って言わないあたり鉄兄ぃらしいな。なんか腹立つけど。

 「チームのメンバーも呼んで戦わせればよくないすか?」

 「眷属だけを相手にするならできるだろうが、ちょっと強い程度の一般人が未知の生物、それもデカくて狂暴なものに前知識無しで立ち向かえば死人が出てもおかしくはない。下手すりゃ全滅だ。」

 「な、なるほど…。」

 「そりゃいかんわな…。」

 「それにだ。奴も鴈舵羅を使って向こうからこっちにやってきた可能性が高いだろ?だとすれば鴈舵羅を見つけられ、破壊されちまえばもうこっちはお手上げ状態だわな。」

「それは絶対避けなければならない事態ですね。それで、鉄志君の考えたベストな方法とは…」

 「…廻と転にも少し無茶をさせる結果になるかもしれないが…」

 「大丈夫っすよ、お頭ぁ!!」

 「その代わり貸し1だかんね~」

 「死人が出てもおかしくないって話してるのに何でそんな強気に答えられるんですか…」

そりゃあこういう時にしか鉄兄ぃに貸し作れないかんね~。それに、これで鉄兄ぃと燈和ちゃん、二人とも死んじゃったらアタシ達だって死んでも死に切れんよ。

 「さすがは俺と同じ血が4分の1流れているだけのことはあるな」

 「当然っすよ。」

 「んでんで?作戦って?」

 「鴈舵羅を第二集会場に設置しようと思う」

 「第二集会場?」

 「うちらのチームが集まりに使ってる場所っすよ。街の外れの廃ホテルっす。」

 「ちなみに第一集会場はここ~」

 「…鉄志君、ここは一応叔父さんの仕事場の一部ですよね?」

 「親父には許可取ってるから大丈夫っすよ」

 「で、なんか仕事でここが使えない~って時に第2集会場だよ」

 「そ。そこに鴈舵羅を設置しておびき寄せる。奴は眷属を率いてくる可能性が高いからまずここで俺が迎え撃ち、時間稼ぎをしている間に廻と転は燈和を第二集会場に連れていってくれ。」

 「一人で良くない?」

 「万が一、奴が俺を差し置いて燈和を追いかけ始めたらもう一人、迎撃を行う人間が必要になる。」

 「鉄兄ぃじゃないんだからバイク乗りながら攻撃なんて…」

 「サイドカーを転のハヤブサに取り付ける。燈和が転の後ろに乗り、廻、お前がサイドカーに乗って迎撃してくれ」

 「えぇーっ!!!アタシィー!!???」

 「しょうがねぇだろ。お前より転のが運転上手いんだから。それにお前のドラスタは250。馬力も弱い。」

 「頑張れよ~、廻~」

 「あんたもね、転。あんたがミスったら最悪アタシら全員死ぬよ?」

 「はんっ。そこらの奴に運転で負ける自信はねぇっての」

 「ていうか廻ちゃんと転ちゃん、もう免許持ってるんですか?」

 「仮面ライダーもびっくりのスピードで取りやがった。」

 「ウチら誕生日も4月頭だし、何も法は犯してないっすよ。」

 「ていうか中一の頃からここで練習してたしねー」

 「えぇ…、それは良いんですか?」

 「法的には問題ねぇな。私有地内だし。」

 「んで、鉄兄ぃはその間どうしてるのさ?」

 「だからさっきから言ってんだろ。鴈舵羅の設置だよ。」

 「でも待ってください?私たちが先についてしまったら意味がないんじゃないですか?」

 「その通りだ。だから俺が眷属どもを振り切って第二集会場に行き、準備が終わったら転の携帯に電話を掛ける。それまでは街中を走り回って時間を稼いでくれ。」

 「予め設置しとけばいいじゃん。」

 「それも考えたが、いつ奴らが来るか分からない以上、ギリギリになってからの設置がいい。予め設置しといたところで何かの拍子にどこかに無くなってしまうってのも考えられるしな」

 「他のチームのメンバーに姐さんの送迎をやらせるってのは?言いたかないけど、ウチらやっぱり女だから力とか限度があると思うんすよね。んで、ウチらはそれとは別に行動してお頭の指示通りに設置するというのは…」

 「嫌ですよ。鉄志君以外の男の後ろに跨って体を密着させるなんて。」

 アタシ達の命がかかっているというこんな時に燈和ちゃんは…。ブレないな。本当に。いや、命がかかってるのは燈和ちゃんも一緒か。なら一層、手段は選んでられないと思うんだけど…。

 「ま、そう言うと思ったよ。それに実物を見たことが無くても話を聞いていてかつ信じてくれているお前らの方がどう考えても適している。大体、呼んだところですぐに来てくれるとも限らないしな。」

 「…あー!!もうっ!!分かった!!分かったよ!!その代わり!!埋め合わせ!!覚悟しといてよね!!」

 「あぁ。俺で良けりゃあ何でも言うこと聞いてやるよ」

 今のセリフ、絶対忘れんなよ!!って言ってやりたいところだけど、鉄兄ぃは約束だけはしっかり守るからなぁ。どうせ言ったところで「俺が約束破ったことあるかぁ~?」って挑発的な顔されるだけだしぃ。ま、元はといえば興味本位で頭突っ込んだ私も私だけどさ。

 「ていうかお頭、スマホぶっ壊れたんじゃなかったでしたっけ?」

 「そうだったな。燈和。悪いが携帯、貸してくれるか?」

 「えぇ。それは構いませんけれども…。ていうか、奴らが来るまで、私と鉄志君が離れ離れでいたら意味がないんじゃないですかねぇ?」

 そう言うと何かを訴えかけるようにちらちらと鉄兄ぃに目線を送り始めた。燈和ちゃん、ナチュラルに鉄兄ぃを自分家に誘おうとしてるな。

 「あぁ、その通りだ。だから燈和にはしばらくここにいてもらう。いいか?」

 「え、えぇ~///もうっ!!鉄志君たら!!仕方がないですねぇ!!」

 顔真っ赤にしてニヤニヤ笑いしてやがる…。本当にこの女は…。

 「ていうか、姐さんが泊ったとして、お頭が時間稼ぎしている間にいざその場から脱出するといったらどうするんすか?下手したら10人単位とかでしょう?」

 転が少し苛立たし気に質問した。妹よ。やっぱりあんたもアタシと同じ気持ちなのね。

 「ある程度片が付いたら合図をするから、そうしたらここら出ろ。」

 そう言うと鉄兄ぃはキャンピングカーの床の一部分を取り外した。そこには穴がぽっかりと空いていて地面が見える。いつの間にこんなものを…。

 「…なんでこんなもの作ったのですか?」

 「俺レベルになるとな、色々な方面から襲撃を受けるんだよ。そういう時にここから出て、そういった奴らにこっそり近づき叩きのめすのさ。」

 ここで逃げ出さずに迎撃するってのが鉄兄ぃらしい。そこがまた良いんだけども。

 「でも人数が多かったらそれも厳しいんじゃないすか?」

 「一応、チームの奴らにも召集はかけてみるつもりだ。俺がいれば死人を出すという最悪な結果には少なくともならねぇだろう。」

 「そんな簡単に来るものなんですか?」

 「チーム内で取り決めがあるんすよ。真夜中にお頭がラインのグループ通話をかけたらそれは緊急事態で、至急ここに集合っていうね。さっき言ってた襲撃とかがあったから。ま、それで実際に来てくれるかは分かりませんがね。」

 「俺は必要ねぇっつたんだけどねぇ…。ま、こういう時に存分に役立たせていただくよ。」

 チームのメンバーを大切に思ってんのかそうでないのか分からんな、その言い方だと。

「んじゃ、そういことで。まぁ必ずしも奴に追いかけまわされるってこともないだろうからもう少し気楽に構えとけよ。」



        *********************



 いや~、十代の青春真っただ中の乙女がいきなり未知の怪物とバトルとは。ま、鉄兄ぃの言ってた通り必ずしも怪物と遭遇するとは限らないし、今はそうならないことを祈るのに徹しますかね。見てみたい気もするけど。

 「お?お頭からコールだ。」

 転がバイクのハンドルに取り付けてあるスマホを操作すると、耳に付けていたワイヤレスイヤホンを使って鉄兄ぃと通話を始めた。鉄兄ぃから電話があったってことは、もう第二集会場に着いたってことかな?流石は鉄兄ぃ。行動が早いぜ。

 「もしもしお頭?今ですか?大通りの2丁目付近ですが…。え、白のクラウン?」

 転の口調から、何やら不穏な雰囲気が漂ってくる…。

 「10分?なるべく引き離すようにはしますが…。分かりました。」

 「…鉄兄ぃ、なんて?」

 「親玉がこっちに向かっているらしい…」

 「10分というのは?」

 「お頭、今から第二集会場に向かって準備を進めるから10分だけ時間を稼いでほしい出すってよ」

 「短いのか長いのか…。よくわからない時間ですよねぇ、10分て。」

 「ていうかさ、白のクラウンてあれじゃね?」

 後ろを見てみると、少し離れたところを車が近づいてくるのが見えた。街灯に照らされて時折見えるその色は白。

 鉄兄ぃは気楽に構えろと言ってたけど、こーなったら腹くくるしかない!!大体、鉄兄ぃと燈和ちゃんが戦ってるというのにアタシと転だけ戦わないってのもね!!

 「!!!廻!!近づいてきてる!!!準備しろ!!」

 「わーってるっつーの!!!」

 鉄兄ぃから受け取ったバッグを開け、中からボウガンを取り出した。漫画やゲームなんかでは簡単そうに扱ってるイメージ強いけど、結構重いなこれ。ていうか鉄兄ぃはどうやってこれを手に入れたんだろ。

 準備をしている間にも車は近づき続け、もうあと少しで並ぶところまで来た。運転席から見えるその姿は、なんかヤバそうなことしてるおっさんって感じはするけど…あれが本当に化け物?

 ボウガンを構え、鉄兄ぃに教わった戦い方をもう一度頭の中で復習した。


 『いいか?奴が追いかけてくるパターンは2つ考えられる。人間の姿のまま車を運転してくるか、化け物に姿を変えて追いかけてくるかだ。』

 『そいつ、車の運転できるの?』

 『変身元の人間が運転できていれば恐らくな。ま、今の時代、車の運転が出来ない人間の方が少数となりつつあるからできると思っていていいだろう。』

 『んで?その方法は~?』

 『まず車で来た場合だが、要は足止めをできればいい。だから車そのものを使えなくさせれば良いってこと。これを使ってな。』

 『…これ、ボウガン?』

 『そ。俺が改造した強力なボウガンだ。タイヤに打ち込めば簡単にパンクさせることができる。』

 『当てることできるかなぁ…。』

 『引き寄せてから撃てばそんなに難しくはないさ。で、次のパターン。化け物の状態でやってきた場合だが、さっきも言った通り奴の変身能力は完璧すぎるから弱点まで丸々コピーしてしまう。そこを狙えばいい。』

 『化け物の弱点なんて分からんよ~』

 『化け物というよりかは基本的にはでかい生き物と対決すると考えていい。要はこの世界にいる動物とほぼ弱点は同じってことだ』

 『例えば?』

 『生物…というよりかは脊椎動物の弱点になるが、根本的なところは痛覚だ。眼に撃ってやればそれだけで激痛に悶え苦しむことになるぜ』

 『うぇぇ…想像しただけで痛い…』

 

 今は車でやってきてるから、とにかくタイヤを狙えば。でも…もし鉄兄ぃの言ってた吸血鬼じゃなくてただの一般人だったらどうしよう…。深夜2時過ぎとはいえ、車を運転する人はいないとは限らないし…。

 「廻!!何やってんだ!!!どんどん近づかれてんぞ!!!」

 あーもう!!!自分は運転してるだけのくせに!!!こうなったら仕方ない!!!やけくそ!!!

 後ろの車のタイヤに向かって狙いを定め、引き金を引いた。

 ガシャンッ…。

 放った矢は狙いが外れ、ヘッドライトに刺さった…。くっ、難しい。走ってる状態だと距離感が掴みずらい。

 で、矢がヘッドライトに刺さったにも関わらず、その車はこちらに向かい続けてる。アタシの心配は杞憂だったか。普通の車だったら運転手さん、何かしら反応するよね。

 したらもう、後は何も考えず攻撃に専念するっきゃないか。

 ボウガンは一発撃ったら装填しなくちゃいけないんだけど…硬い…結構力いるしぃ…揺れるしぃ…思うようにいかない…。

 ガッ…チャン!!

 よし、ようやく装填が終わった。今度こそ!!

 「廻ぃ!!!!」

 「へっ!?」

 ドガァッ!!!!!!!!!

 その強い衝撃に体が思い切り揺らされ、危うくサイドカーから転げ落ちそうになった。

 車はいつの間にか、サイドカーのすぐ隣まで来ていた。ぶつけてきたのか。くっそぉ~。女の子相手にちょっと手荒すぎじゃない!?

 ドゴォオッ!!!!!!!!!

 もう一発、奴が体当たりを仕掛けてきた。けど、今回は体当たりしてくるのが見えて捕まったからさっきの様な衝撃は無かった。

 ウィィィィィン…

 隣を走る車の窓が開き、奴の顔が直接見えるのと同時に何かをこちらに構えているのが目に入った。

 あれは…け、拳銃!?ちょっと嘘でしょぉ!!??銃口しっかりこちらに向いてるしぃ!!

 「そらよっ!!!!」

 ドゴォオッ!!!!!!!!!

 今度は転から体当たりを仕掛けた。いきなりの衝撃にまたもやサイドカーから転げ落ちそうになった。いつもだったら転に文句の一つでも付けてやるところだけど…。

 ダァンっ!!!

 今の衝撃で奴の狙いは外れ、弾丸は地面へと放たれた。た、助かった~。そして、サイドカー車との間に間隔ができた。今がチャンス!!!

 「クソじじい!!!やってくれたな!!!」

 バスンッ!!

 今度は外さなかった。矢はタイヤに刺さって空気は抜けていき、車はバランスを崩してぐらぐらと揺れ始めた。

 ダァンッ!!!!

 苦し紛れに発砲しているけれど、弾丸は見当違いの方向へと飛んでいった。アホめ。

 「転!!!ブレーキ!!!巻き込まれる!!!」

 「くっそぉ…!!!!!!」

 ギキィィィィィィィィィィッッッ!!!!!!!!!!

 バイクが高音を立てて勢いよく停まった。そして。

 どがしゃぁぁぁぁぁぁああああああああんんんんんんっっっ!!!!!!!!!!

 轟音を立てて車は目の前の街灯へとぶつかった。あの事故り方だと、もう車の方は使い物にならないだろうねぇ~。

 「よぉしっ。出発!!!」

 「おうっ!!!」

 「取り敢えず一安心…だといいんですけれどもねぇ…」

 燈和ちゃん、その不穏な言い方やめて?漫画とかだとこういう時って大体そういうのフラグになるから。

 バイクが発進し、事故車を横切ろうとしたところで車の中から血だらけの男が出てきた。

うげっ、手にまだ拳銃を持ってる。ま、まぁ…あいつフラフラだし?その場からバイクに乗ってる人間を撃つなんて至難の業…だよね?

 うわっ、拳銃こっちに向けてきた。念のため、鉄兄ぃから受け取ったバッグを盾代わりにしたけど、当たらないと判断したのか拳銃を下げた。ふぃ~、焦ったぜ…。

 奴の横を通った後、後ろを振り向いて確認すると、一瞬だけれど、でも確かに、奴は銃口を顎の下の喉元に上に向けて突きつけているのが見えた。そして。

 タァン…。

 かすかではあるけれど、銃声が鳴った。何?自殺した?

 いや、待てよ?確か鉄兄ぃが言うには、あいつは変身を解除するには一回死ななきゃいけないんだったっけ?となると…。

 「転…」

 「あぁ…、分かってる。こっからが本番だ。お頭が言ってた時間は5分。いけるか?」

 「出来る出来ないじゃなくて、やるっきゃないっしょ。鉄兄ぃがいつも言ってんじゃん。」

 「そうだな。姐さん。こっから運転、さらに荒くなると思うんでしっかり捕まっててください?」

 「えぇ…、お願いします。」

 転がアクセルをふかし、法定速度の2倍近いスピードで夜の市街地を走り出した。


 ガッ…チャン!!

 ボウガンの装填が完了し、後ろに向かって構えた。まだ奴の姿は確認できないけれど、必ず来るに決まってる。

 左側の燈和ちゃんの顔を見ると、表情が暗い。じっと下を向いて、神妙な面持ちをしている。暢気だなぁなんて思ってたけど、やっぱり不安なのかな?ま、普通に考えればそうだよね。鉄兄ぃみたいな変な力もない、2歳も年下の女子が化け物と戦えるなんてアタシだったら思わないし。

 「燈和ちゃん!!!そんな顔しないで!!!絶対、アタシと転が燈和ちゃんを鉄兄ぃのところまで送るから!!!安心して!!!」

 こんな言葉で不安は取り除けないかもしれないけど、言わないよりはマシか。

 「えっ!?あ、ありがとうございます…。なんか、その、すみません…私、何もせず、廻ちゃんと転ちゃんだけ危険な目に合わせてしまって…。」

 「姐さんが謝ることはないっすよ。巻き込まれただけでしょう?それにうちらは好きでやってんだから良いんすよ。」

 「それにぃ、この件が終わったら鉄兄ぃなんでもしてやるって言ってたじゃん?なんか美味しいもん、たんまり奢らせてやろうよ!!!」

 「!!!そうですね!!!ありがとう、廻ちゃん、転ちゃん。」

うん!!燈和ちゃんに笑顔が戻った!!よかったよかった。後はこのまま、何事もなくたどり着ければいいけれど。

 「!!!お頭からだ!!!!」

 転が再び、スマホで鉄兄ぃと通話を始めた。

 「お頭!!取り敢えず撃退はできました。えっ!?はいっ!!分かりました!!」

 「鉄志君、なんて言ってました?」

 「思ったより早く準備が終わったからすぐに来てくれと!!!」

 「ここからだと第二集会場というのはどのくらいかかるんですか?」

 「ん~、5分もあれば着くんじゃない?」

 「近いルートを選んで走ってましたからね。」

 と、その時だった。

 ガインガインガインガインガインガインガインガインガインガイン…

 微かにだけれども、何かこう、金属で地面を引っ掻いてるとでもいうような聞き慣れない音が後方から聞こえ始めた。

 「転。あれ、聞こえる?」

 「あぁ。来やがったな。」

 ボウガンを構え直し、後方に集中した。お喋りはここまで。ここからは本当に命懸け。

 「廻!被っとけ!!」

 そう言うと転は自分が付けていたヘルメットを外して投げてきた。そういやアタシ、ヘルメットは燈和ちゃんに貸してたから被ってなかったんだった…。

 さて、一体どんな化け物が来るんだろう。不安半分のワクワク半分でじっと後ろのそれの様子を探る。ワクワクが出てしまうあたり、やっぱりアタシは鉄兄ぃの従妹なんだなぁ。

 暗闇から、巨大な影が迫ってきてる。路上の街灯にそれが照らされるたび、その姿が一瞬だけ映るのが何度も繰り返され、段々とそれがどういったものかが分かっていった。

 ぱっと見は大きな…蛇?蜥蜴?とにかく、爬虫類っぽい何かで、全体の色は、多分焦げ茶。眼だけは黄色にらんらんと光っている。一番変なのはその脚で、昆虫のようないくつもの節がある細長いものが6本、腹の下から生えていて、それらがアスファルトと擦れるたびに金属音が聞こえてくる。よく見てみると、その脚の先は昆虫のような二又に分かれた鉤爪は付いてなくて、鎌のようになっている。

 何かやばそうなのが来た…。爬虫類+昆虫っていう組み合わせだけでもうなんか鳥肌が立つってのに…。

 ガインガインガインガインガインガインガインガインガインガインッ!!!!!!!!

 奴の足音がどんどん大きくなってくると同時に近づいてきて、私から見て右斜め前にやってきてその姿もはっきりとしたものになってきたけど、想像していたよりデカい。横幅だけで2メートル近くもあるんじゃない?

 「カアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!」

 そいつはアタシたちを見るなり大きな口を開け、雄叫びを上げた。その口の中は真っ赤っかで、剣山のような歯が無数にある。あんなのに噛まれれば、腕の一本や二本、簡単に持っていかれちゃう…。

 そいつは首を上げると、改めて私たちを睨んできた。高さは3メートルはありそう。そして、首を上げたことで分かったけど、内側の首から腹にかけては鱗は無く、ただの皮膚だ。その色は白に赤の斑点。

うえぇ…。気持ち悪い…。そんな気持ちの悪い腹、アタシに見せんな!!!

 鉄兄ぃの言ってたことが正しいのなら、今のこいつは一応はただの生物なんでしょ?だったら、やっぱり首を狙うのがいいか。外側は何か硬そうな鱗に覆われてるけど、今見せている柔らかそうな内側なら矢も刺さりそうだしね。

 私が首に狙いを定めると、そいつは察したのかさっと横に移動し、サイドカーのすぐ後ろにぴたりと着いた。

 うぅ、思ったよりスピードが速い。下手したら、ボウガンの矢なんて避けられるんじゃない?

 「カアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!」

 もう一度雄叫びを上げると、また真っ赤な口を開け、サイドカーの後部に齧りついた。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 齧りつかれたことで、バイクのスピードは一気に減退した。さらにそいつは頭を執拗に振るい、車体を大きく揺らすから、バランスが取れない!!!

 サイドカーを付けているから転倒はしない…けど…。

 ミシッ・・・ミシミシミシッ…ミシッ・・・ビシィッ。

 このままじゃサイドカーがバイクから引き千切られるのは時間の問題だ。

 「くそぉっ!!!!離せ!!!離せよぉ!!!」

 そいつの鼻の頭に向かって蹴りを連発するけれど、全くその力が弱まらない。マズい…。早く何とかしないと…。

 バシィッ!!!!

 側頭部に…何かが…当たった…。うぅ…目が…回る…。

 「廻ぃっ!!!!」

 「廻ちゃんっ!!!!」

 燈和ちゃんと…転の…声が…。アタシ…何…?何が起こったの…?

  車体の揺れに合わせて力の入らない首が右側を向いた時、何かかがすごい勢いで迫ってきているのが目に入った。

 「うわぁっ!!!」

 今度は咄嗟に腕でガードしたけど、当たったところがジンジンとかなり痛む。下手すりゃ骨にヒビくらい入ったかも…。

 前からしか見てなかったけど、こいつ、尻尾がかなり長い。あれで頭、はたかれたのか。ヘルメット被ってて良かったけど、何発も受けたら…いや、下手したらもう一発受けたら、冗談抜きで…死ぬ。死んでしまう。

 「やりやがったなぁっ!!!キモトカゲ!!!!!」

 怒りに身を任せて叫ぶと、頭に割れてしまうレベルの痛みが走った。が、痛がってる暇はない。後でたっぷり、鉄兄ぃに癒してもらえばいい。

 サイドカーの後部に齧りついてる頭部の先端に足を置き、ボウガンを構え直した。

 「たっぷり味わえよぉっ????!!!!」

 ドシュ・・・。

 矢が眼球に突き刺さると同時に、そこから毒々しいピンク色の液体が吹き出した。あれが、こいつの血?

 「クエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエッ!!!!!!!!」

 激痛が走っているのか、そいつはサイドカーから口を離し金切り声を上げた。へっ。ざまぁみろっ!!!!

 怯んだそいつはその場でもだえ苦しみだし、アタシの乗るサイドカーとの間に再び距離が開いた。

 「廻ちゃん!!大丈夫!?」

 「へへっ、なんとか…。ちょっと頭がくらくらするけど。」

 今のうちにもう一度矢を装填しないと…。ダメ…。さっきのダメージ、結構大きかったみたい。手元が震えて、うまくできない。くそっ。生きるか死ぬかって時なのに…。くそぉ!!!!

 「廻!!また来やがったぞ!!!気を付けろ!!!」

 「ふぇっ!?」

 顔を上げ後方を確認すると、また距離を縮めている。心なしか、その顔つきはちょっと怒っているようにも見えた。

 …駄目だ。間に合わない。装填する前に追い付かれちゃう。それなら。

 鉄兄ぃに渡されたバッグから火炎瓶を取り出した。まだ火は付いていない。もう少し、引き付けてからじゃないとそれこそ当たらない。

 鉄兄ぃから渡された火炎瓶は2つ。無駄にはできない。もう少し、もう少しだけ。

 奴との距離が約2メートルくらいになったところでターボライターを取り出して火を着けた。

 「カアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!」

 またもや真っ赤な口を開け、雄叫びを上げた。今がチャンス!!!

 「鉄兄ぃのお手製だよ!!!味わって食べな!!!」

 その真っ赤な口の中に向かって火炎瓶を放り込んだ。これで良し!!!後は…。

 …て、あれ?なんか様子が…。 放り込まれた火炎瓶はそのまま音もなく飲み込まれていった…けど、目の前のそいつは特に何の反応もしない。ケロッとしている。見た目蜥蜴だけど。

 えっ!?うそぉっ!?まさかの不発っ!?

 やばいやばいやばいやばいやばいってぇ~!!!!!!!!!

 慌ててもう一個の火炎瓶を取り出した。早く火を着けないとぉ~!!!!!

 どずんっ…!!!!!!!

 「いったぁっ!!!!!」

 大きな音と同時に車体が揺れ、足に鋭い痛みが走った。

 見てみると、サイドカーの側面に奴の鎌状の脚の一本が食い込み、それが貫通してアタシの脹脛に突き刺さっている。

 けど、痛がっている暇はない。奴の脚が車体に食い込んだおかげでどんどんスピードが落ちてってる。それだけじゃない…!

 ミシミシミシッ…パキッ…!!バキッ…!!!ビシッ…ビシッ!!!

 いよいよサイドカーがヤバい。取れるのは時間の問題じゃん、こんなの!!!くそぉっ!!!

 刺さっている奴の前脚から足を引き抜き、火炎瓶に火を着け、今度は奴の足元に狙いを定めた。今度こそ焼いてやる!!!黒焼きにして鉄兄ぃの飯にでもしてやるんだから!!!

 がしぃっ!!!

 火炎瓶を持っている右腕に奴の尻尾が絡まり、締め付けられるとそのまま持ち上げられアタシの体はサイドカーから離れた。

 「カアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!」

 目の前に真っ赤な口と、剣山のような牙が現れた。

 「廻ぃ!!!!」

 ぼぎぃっ!!!!!

 「あ゛あ゛あぁ゛あ゛ぁぁぁあ゛あ゛っ!!!!」

 痛みと…熱さが…ヤバい…。骨…、骨が折れた…っぽい…。このままじゃ…こいつの餌…。

 右手の力が緩んで、持っていた火炎瓶が手から離れた…。

 もう、ダメだぁ…。転、燈和ちゃんを…鉄兄ぃを…よろしくね…。

 その時、アタシの下方から熱波が沸き上がってきた。見ると、落とした火炎瓶が地面に落ちて割れ、大きな炎が奴を包んでいた。

 「クエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエッ!!!!!!!!」

 炎は奴の腹を焼き、金切り声を上げて苦しみだした。

 掴んでいた尻尾の力が緩み、アタシの体は地面に叩きつけられた。

 「廻ぃ!!!!」

 転の声が聞こえる。近い。何やってんの?奴が怯んでる今のうちに、燈和ちゃんを…。

 「廻!!!しっかりしろ!!!」

 「廻ちゃん!!!こっち!!!」

 両側から支えられる形でアタシは立たされた。見ると、目の前にバイクが停まってる。わざわざ、バイクを降りてまでアタシのところに来たの?

 「転…。何してんの…。良いからさっさと燈和ちゃんを…」

 「馬鹿野郎!!!お前が死んでまでんなことしたってお頭が喜ぶわけねぇだろ!!!」

 「廻ちゃん!!今の私がこんなこと言える立場じゃないのは分かっていますけれども、命を大切にしてください!あなたが死んでしまっては、私が生き残ったところでこの先一生悲しくてやっていけません!!!」

 何か、久々。誰かに本気で説教されるなんて。今まで説教なんかされたところで、どこ吹く風で済ましてきたけど、こんなに重く響く説教があったなんてね…。

 「廻、泣くのは全部終わってからにしろ!!!そん時ゃあウチも姐さんも涙が枯れるまで一緒に泣いてやるからよ」

 「クエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエッ!!!!!!!!」

 奴の金切り声でぼんやりとしていた頭がはっきりした。まだあいつ、バイタイリティ溢れてんな。畜生。

 「転、燈和ちゃん。もう大丈夫!!!早くバイクに!!!」

 転と燈和ちゃんから手を離し、右足を引きずってサイドカーに乗り込んだ。

 転と燈和ちゃんもバイクに跨り、再び発進させた。

 「廻ちゃん、ひどい傷…。ごめんなさい。私のせいで。」

 燈和ちゃんの悪い癖がまた出てる。何もかもを自分のせいにして抱え込んじゃう所。アタシたちは好奇心で頭突っ込んだんだからじごーじとくってやつなのに。少しはアタシたちくらい全部鉄兄ぃのせいにしたらどうなんだろうねー。ま、その優しさも燈和ちゃんのいいところなんだけどもさ。

 燈和ちゃんの方を向き、ニコッと笑ってピースサインを作ると少し安堵したのか燈和ちゃんもこっちに微笑み返してくれた。

 う~ん、まさに大和撫子。今まで何人の男たちがその笑顔にやられ、そして涙を流したことやら。ま、元気が少しでも出たならよかったや。

 そんなことよりも、今気になるのは…。

 ミシミシミシッ…バキッ…パキパキパキパキッ…

 これじゃあ第二集会場に着くより先にサイドカーが死んじゃうくね?

 「うっ…」

 急に奴の脚が刺さったところが痛み出してきた。一つ不安な要素が出てくると、別の要素も呼応してくるって、これも一種の魔法なんじゃね?知らんけども。

 「廻ちゃん、痛むんですか?早く手当しないと」

 「だからだ~い丈夫だって!!これが終わったらすぐにでも鉄兄ぃに癒してもらうからさっ!!!」

 「???鉄志君に癒してもらうっていうのは…」

 ガインガインガインガインガインガインガインガインガインガイン…

燈和ちゃんの言葉を遮るように足音が聞こえ始めた。もうすぐに追いつかれるか…。え~と、鉄兄ぃから渡された道具で残ってるのは…。

 「…そうか!!!このルートなら!!!」

 バッグを物色していると突然、転の声が聞こえた。

 「廻!!!こっちに跳び移れ!!!」

 「は、はぁっ!?正気ぃ!?どこに乗れってのさ!?」

 「どこでもいいから早く!!!時間がねぇんだ!!!ウチらは二人の体重合わせてお頭くらいだから大丈夫!!!」

 「鉄兄ぃからもらった道具はどうしろっての!?」

 「置いてけそんなもん!!!お頭だって許してくれんだろ!!!」

 「廻ちゃん!!ここに!!!」

 そう言うと燈和ちゃんは転との間を少し空け、自分の膝を示した。

…ええい!!!もうどうにでもなれ!!!世の男性諸君がうらやむ燈和ちゃんの膝の上!!!うぇっへっへっへ…。堪能させてもらいますぜぇっ!!

 「…っしょっとぉ!!!」

バイク本体に移りはしたが、バイクのバランスが崩れる様子は無い。サイドカーのおかげか…。

 「しっかり捕まってろよ!!!」

 転がアクセルをふかし、一層スピードを上げた。

 ガインガインガインガインガインガインガインガインガインガインッ!!!!!!!!

 奴の足音が近くなってくる。

 「転!!!武器もなしにどうすんの!!!」

 「こうすんだよぉっ!!!」

 そう言うと転はドリフトをかけ、勢いよく右に曲がった。恐らく、目指しているのは目の前の雑居ビルと雑居ビルの間のスペース。車一台も通れないような狭さで、当然ながらサイドカーが入り込む余地なんてない。

 「えぇっ!!??うそでしょぉっ!!??」

 「廻!!姐さん!!揺れるぜぇ!!!しっかり捕まってろぉ!!!


 ゴッシャァァァァァァァンンッ!!!!!!!


 雑居ビルの壁にぶち当たったサイドカーは轟音を立てて離れ、アタシたちを乗せたバイクだけがその隙間に入り込んだ。

 バイクは多少ふら付き、速度もかなり減退したものの、倒れもせず、そのまま走り続けている。

 「転!!!やるじゃん!!!」

 「それより後ろはどんな状況だ!!!」

 転の言葉で、慌てて振り返ってみると。

 「クエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエッ!!!!!!!!」

 奴は雄叫びを上げているものの、その体の大きさと外れたサイドカーが邪魔しているのもあってかこの隙間には入り込めないっぽい。

 「大丈夫っぽい!!!」

 「よしっ!!第二集会場はもうすぐ…!!!」

 「きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!!!!」

 燈和ちゃんの叫び声と同時に、背中のお尻の温もりが消え、アタシの体は転のバイクに着いた。。

 振り返ると、燈和ちゃんが手を傷だらけにして必死に抵抗をしながら地面に引きずられているのがすぐ目に入った。

 何が起こったか一瞬分からなかった…けど、奴は舌を伸ばしてそれが燈和ちゃんの足に絡みついるんだ!!!そんなのありかよぉ!!!

 「燈和ちゃん!!!」

 バイクから飛び降り、燈和ちゃんの元に駆け寄ろうとした。が。

 ズキィッ!!!!

 体重がかかると同時に痛みが一気にやってきてその場に倒れてしまった。

 早く!!!早くしないと燈和ちゃんがぁ!!!!!

 その時、アタシのすぐ横で足音が聞こえると、そのまま燈和ちゃんの方に向かって行った。

 「この野郎ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」

 転が叫びながら奴の方へ駆けていった。そして。

 ザシュゥッ!!!!

 手に持っていた包丁で奴の舌を切り離した。そういや転、鉄兄ぃから渡されてたな。

 「クエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエッ!!!!!!!!」

 奴が金切り声を上げると、残った舌で転の持っていた包丁を弾き飛ばした。けど、転はそれには一切構わず、燈和ちゃんの元へと駆け寄った。

 「姐さん!!!立って!!!早く!!!」

 転が燈和ちゃんを腕を掴んで立たせると同時に、アタシも立ち上がって二人に駆け寄った。

 「??!!転!!!その指!!!」

 見てみると、転の右手には奴のピンク色の体液が付着していて、薬指と小指がありえない方向にねじ曲がっていた。

 「あ?あぁ、あんたの怪我に比べりゃあ大した事ねぇよ!!それにこんな指でもアクセルくらい吹かせられる!!いいから早くこっちへ!!!」

 転がバイクに跨り、エンジンを再びかけ、続いてアタシと燈和ちゃんが跨ると何事も無かったかのようにバイクを走らせた。

 「クエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエッ!!!!!!!!」

 化け物の悔しそうな声を背に、アタシたちは第2集会場へと急いだ。


 第2集会場に着くと、すぐに屋上にいる鉄兄ぃが目に入った。

 「鉄兄ぃ~!!!!!」

 手をブンブンと振り到着したことをアピールすると、鉄兄ぃは片手を上げ、その後にアタシらから見て左に指を指した。燈和ちゃんをここに置いて、アタシらは退散しろってことか。

 「燈和ちゃん、アタシらができるのはここまで。後は鉄兄ぃが何とかしてくれるっしょ!」

 「廻ちゃん、転ちゃん…。本当にありがとうございました。あの…」

 「姐さん。ごめんなさいとか、申し訳ないとか、そう言うのは無しっすよ。姐さんが言ってたように、ウチらだってお頭や姐さんに死なれでもしたらこの先の人生、悲しすぎてやってけないんですから」

 「と~に~か~く!!!これが終わったら鉄兄ぃに美味しいもんたんまりと奢らせてやるんだから!!!ちゃんと生きて連れ帰ってきてよね!!!」

 「…!!!はいっ!!!必ず!!!」

 燈和ちゃんが第二集会場へと入っていくのを見届けてから、アタシと転はその場を後にした。

 鉄兄ぃ。必ず燈和ちゃんを守り抜いてね。


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