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亢龍、悔いあり(バイオ・サイボーグより改題)  作者: 詩歴せちる
Heart Of A Dragon
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Kings Will Be Kings

              鉄       志



 作戦の準備を終え、後は奴がこちらに出向いてくるのを待つだけという状態だ。

 ホルボロスは私のように作戦を練り、下準備なんかするような頭は持っていない。近いうちに必ず、下手すれば今夜にでも現れるため燈和にはしばらく私の家に泊まるように言い聞かせると、彼女は二返事で了承をした。

 その笑顔ときたら、欲しいものを親から与えられた子供のようであった。目的を見失い始めてないか、この女は。それとも始めから目的なんか頭の中に入っていなかったか。

 「やっぱ燈和ちゃんだけ泊まるの納得いかない!!ずるいー!!!」

 「そうっすよ、お頭!!ウチらも泊まります!!!」

 お前らの家と私の家は隣接しているんだから泊まる必要はないと思うのだが…。それに私の家はそんな何人も泊まれるほどの広さはないし…。ま、いいか。この二人もできる限り傍にいたが方が作戦も進行させやすいだろう。

 「ダメです!!いけません!!!年頃の女の子が男性の家に泊まるなど!!!」

 燈和がそれを言うか。お前も年頃の女子だろう。それに、私とこいつらは一応親戚だぞ?もっと言うなら殆ど兄妹みたいなものだ。つい2年ほど前までは一緒の家で暮らしていたのだからな。

 「鉄兄ぃを独り占めなんて絶対許さないしー!!」

 「せめて愛人枠でいいからいさせてくださいよ!!!」

 転。それは十代の女子がしていい発言ではない。それに私は未婚だというのに愛人も何もないだろう。

 「はぁ…、燈和。状況が状況だ。さっき説明した作戦を実行するにはなるべく近くにいてもらったほうがいい。二人にも泊まってもらおう。」

 「うぅ…で、でもぉ…」

 変に拗れさせるよりここで燈和に折れてもらった方がいいだろう。

 「さっすが鉄兄ぃ!!話が分かるぅ~。」

 「うぇ~い、へっへっへ~…。今夜は寝かさないっすよ?」

 やっぱり摘まみ出すかこいつら。さっきまでの作戦会議の時の少し心配そうな顔はどこに行ったのやら。あと転。その笑い方止めろ。なんか殴りたくなってくる。

 「うぅ…せっかく鉄志君の家にお泊りだというのに…」

 「燈和ちゃ~ん、そんなにケチケチしてたら鉄兄ぃに呆れられまっせ~?」

 「安心しろ。お前ら二人には既に呆れているから。」

 「なにをーっ!!??」

 「お頭ー!!!」

 「はいはい、文句は全てが終わってから聞きますからね~」

 二人が弱めの拳をこちらに振るってくるのをぱしぱしと両手で受け流しながらもう一度作戦を3人に説明して確認し、3人に廻・転の家へ風呂に入りに行かせ、その日は早々に床へと入った。


 その日の真夜中のこと。

 じゃららら…。

 敷地内で地面から発せられる金属音で目が覚めた。あれは敷地への入口に掛けられている鎖を外す音だ。もう来たのか。行動が早い。やはり頭は単純なようだな。

 キャンピングカーの窓から様子を見ようと立ち上がろうとしたところ、何かによってそれが阻まれた。

 見てみると、燈和が私の上に乗っかり、廻と転はそれぞれ右腕と左腕にしがみついた状態で寝入っていた。

 キャンピングカー内のベッドは3人に譲り私は床で寝ていたのだが、なぜわざわざこっちに来たのだ。3人では狭いとはいえ、ベッドの方が寝やすいだろうに。

 というか私も私だ。魔力で五感を強化し、わずかな金属音で目が覚めたというのにこいつらにしがみつかれても目が覚めないとはな。

 「おい、離れろ。暑苦しいし動けん」

 「んん…鉄兄ぃ…あと五分…」

 その言葉、創作物以外で聞くのは初めてだな。

 「お兄ぃ…もう朝ぁ…?」

 寝ぼけている時もその口調になるのか。もうお前は普段からその呼び方で過ごせばいいだろう。

 「すぅ…すぅ…」

 そして燈和は目覚める気配すらない。私とは違うベクトルで恐怖心が死んでいる。やはり只者ではないな。もちろん悪い意味で。

 「くそぉ…!!!!起きろお前ら!!!」

 無理やり状態を起こし、私にしがみついていた者どもを振り払った。

 「もう…///鉄志君、もっと優しくしてください。私、初めてなんですから///」

 「それ言ったらウチもっすよ///」

 「アタシもだしぃ///」

 何の話をしているんだお前らは。恐怖心は無くても良いから危機感を持て危機感を。

 「寝ぼけてねぇで準備しろ。作戦決行だ。」

 「えっ…じゃあ…」

 「もう来たの!?はやないっ??!!」

 「奴は一人っすか?」

 「ちょっと待ってろ。」

 キャンピングカーの窓から外を見てみると、黒い人影がぞろぞろとこちらに向かってきているのが目に入った。ざっと見たところ、15、6人といったところか。一昨日蹴散らした奴らは警察に捕まっているはずだから、使える眷属どもはこれが最後だろうな。恐らく、残ってたやつら全員連れてきたな。

 「眷属を連れて来てやがるな。思ったより数が多い。」

 「えぇー、どうすんのさ!?」

 「どうもしねぇよ。そのまま続行だよ。」

 スマートフォンを取り出し、LINEのグループラインを開くと、グループ通話をかけた。

 「…元々取り決めていたとは言え、そんな簡単に来ますかね?」

 「ま、俺一人で時間を稼ぐのが前提だからな。来たらラッキー程度に思っていればいいさ。とにかくお前らは…」

 「だぁ~いじょうぶだって。作戦はきちんとこの中に詰め込んであるしぃ」

 そう言うと廻は右手の人差し指を自身の側頭部に当てた。お前のそういう言葉づかいや仕草が私の不安感を余計に煽るんだよ。

 ばんっ…。ばんばんばんっ…。ガチャ…ガチャ…

 と、話をしていると、キャンピングカーの外壁を叩く音があらゆる方向から聞こえ始めると同時に、ドアノブを乱暴に回す音も聞こえ始めた。

 「とか言ってる間にやってきたぞ。廻、鞄持っとけ」

 「あいよーって重ぉっ!!!??」

 道具の入っているボストンバッグを顔に皺を寄せ必死に持っている廻を見て私の不安感は一層煽られた。作戦がうまくいくかどうかより、こいつが死んでしまわないのかという意味でだ。

 「お頭はまだ外には出ないんですか?」

 「一昨日のことを考えると今回も武装していると思って間違いないだろうよ。できればもう少し様子を見たい。」

 「鉄志君の考えた作戦では、私が手助けするのも難しそうですしね。」

 「前回はそれで燈和が拉致られる結果になっちまったからな。今度はそう言うわけにもいかない。」

 「取り敢えず、お頭も何か武器になるものを持っておいた方がいいんじゃないすか?」

 「それなら…」

 ばんっ…。

 キャンピングカーの前方から少し大きめの音が鳴った。奴らの内の一人がボンネットに乗ったな。

 窓の外を見てみると、男が一人、中腰となり、何かをこちらに向けている。あれは…。

 「伏せろ!!!拳銃を持ってやがる!!!」

 「えぇーっ!!!」

 「まじかよぉっ!!!」

 バァン!!!

 発砲音と同時に窓ガラスが割れ、弾丸が屋内に入り込み奥の壁に穴を空けた。

 「くそっ!!俺ん家になんてことしやがんだ!!!」

 割れた窓ガラスから手を出し、ボンネットに立つその男の手を持っていた包丁で突いた。料理用の包丁だが、傷を負わせる程度であれば問題ないはずだ。

 ざくっ…

 手に持った包丁から肉が切れる感触が伝わってくると同時にその男の手から拳銃が落ちた。そしてそれがボンネットへと達する前に空いていた左手でキャッチし、そのまま懐にしまい込んだ。

 そしてそのまま姿勢を低くし、腹部に目掛けて前蹴りを食らわせるとその男はボンネットから転げ落ちて姿が見えなくなった。

 「よしっ。拳銃いただき。」

 「鉄志君、拳銃使えるんですか?」

 「使ったことはないが、使えないことはないさ。それに拳銃一個奪えばそれだけで奴らの戦力をそぎ落とせるしな。」

 「暴発させないでくださいよ?」

 それは保証できんな。見てみる限りだと、これはトカレフTT‐33だ。生産性に重点を置き安全装置を省略した構造となっているため携帯して歩くだけで暴発の危険性がある。暴力団に満たない半グレが持っていたものだ。恐らくは中国あたりで違法に生産された粗悪品であるからその危険性はさらに高くなっているだろうな。ま、ここだけで使う分には問題ないだろうし、魔力をできる限り温存したいところではあるが万が一暴発したとしても私一人が受傷する分には何も問題はない。

 トカレフTT‐33の装弾数は8発。となると残りは7発か。使うとなれば場面を見極めないとな。

 がんっ…!!がんがんっ…!!!

 車体を叩く音がより過激になってきた。音質から恐らく、鉄パイプか何かを使っているな。

 「ちぃっ!俺ん家ぶっ壊す気か!!おいっ!俺が外に出て足止めをしてるから、隙を見て燈和を連れ出せ!!」

 「いや、それは良いんだけどさ!!」

 「あの人数で隙なんてできるんすかっ!?」

 「できるかどうかじゃねぇ!!作ってやる!!それと、これ持っとけ!!」

 血の付いた包丁を転に渡すとドアのカギを開け、そのまま勢い良く開けるとすぐ目の前にいた者に直撃し叩き飛んだ。

 そしてすぐにドアを閉め、敵の様子を伺った。

 目の前に見える人影は15人ほど。見たところ、親玉はまだ現れてはいないようだな。どこかに待機しているのか?まぁいい。眷属を使ってでも燈和を攫うことができないと分かれば自ら動き出すだろう。

 10人ほどは鉄パイプや木刀なんかの大きく目立つ武器を携帯しているのが目に見えるが、警戒すべきはそれ以外の連中だ。ナイフや拳銃のような比較的小さく殺傷力の高い武器を携帯している可能性が高い。まず倒すべきはそういった奴らからだ。眷属にされている間、頭はそこまで働かない。武器をいくつも携帯するという発想も湧かないはずだ。そもそも、元々拳銃を大量に仕入れることができるような規模の組織でもなかっただろうしな。

 ま、それでも可能性がゼロではないから警戒は必要ではあるのだがな。

 「カギ閉めとけよ!!いいな!?」

 ガチャ…。

 後ろから鍵を閉める音が聞こえた。これで良し。後は何とかやってくれることを祈るしかない。

 ダァンッ!!!!

 まずは一番近い、目立つ武器を携帯していない者の大腿部に向かって引き金を引くと、発射された弾丸は貫通し、そいつは片方の膝を地に付けた。…取り敢えず、暴発はしないようだな。

 そのまま一気に近づき顔面につま先で蹴りを叩き込むとそいつは後ろ向きに倒れ、持っていたナイフが手から離れ地面を滑っていった。

 ごっ!!がっ!!がきっ!!!がんっ!!

 左右後ろから一気に奴らの攻撃が叩き込まれた。が、生憎だな。痛感覚は既に遮断させているのでね。その程度の攻撃では私を倒すことおろか怯ませることもできんぞ?

 すぐ右側の者の鼻に頭突きを叩き込み、怯んだ隙に持っていた鉄パイプを奪い取るとそいつの側頭部を思い切り叩きつけた。

 ゴガっ…!!!

 鈍い音が鳴ると同時に白目を向き、そいつは地面へと倒れた。

 わざわざ武器を持ってきてくれていたおかげで思ったよりも簡単に足止めができそうだな。さて、残りはどのくらいかな?

 ダァンッ!!!

 頬に一瞬、熱い感触が走ると同時に血液が頬を伝っていくのが分かった。

 弾丸が飛んできた方を見てみると、拳銃を構えた男が5メートル程手前にいるのが目に入った。

 やはり頭は働いていないようだな。その距離から素人が頭部を狙えるわけがないのに。それはお前らのアジトの屋上でも証明しただろう。俺を殺すことではなく足止めするのが狙いなのだから的の大きい腹部を狙って何発も撃てばいいものを。ま、それをされたところで私は怯みもしないけれどもな。いいか。よく見ておけ。拳銃というのはこうやって撃つんだよ。

 左手に持った銃をその男に向けた、その時だった。

 「頭ぁーっ!!!!!!!」

 バイクのヘッドライトが私と眷属どもを照らし、エンジン音と同時に甲高い声が響いた。

 「おぉっ!!!その声はリクシー!!!」

 「リクシー!!!」

 「り、りくしー?」

 私が反応するより早く、家の中の廻と転が声を上げた。

 チームの一員のリクシーが助太刀に現れた。あまり期待はしていなかったが、いざ来てくれるとなるとやはり嬉しいな。

 リクシーはそのまま私たちに近づくと、左手に持った金属バットで拳銃を持つその男の腹部にきつい一撃をお見舞いした。

 ドゴォッ!!!

 その衝撃で男は吹っ飛び、手に持っていた拳銃は宙を舞ってどこかへ消えていった。出来れば拾われる前に回収しておきたいところだ。

 「頭ぁ!!無事ですか!?」

 「あぁ。まだまだ始まったばかりだしな。ていうかよく来てくれたな。正直期待していなかったってのが本音だが。」

 「何言ってんすか!!自分はお頭に何度も助けられてるってのに!!お頭が呼んでんのに来ないわけないでしょうよ!!!ていうかお頭、拳銃使ってんすか!!流石だなぁ!!!似合ってますぜ!!!」

 「ふんっ、ありがとよ。見ての通り拳銃持ってるやつがいくつかいる。無理はしないでくれよ」

 「ははっ!!いつもは『少し無理するくらいが一番楽しい』って言ってんのはお頭でしょうが!!」

 そうか。そうだったな。まあいい。取り敢えずは、これで何とかなるだろう。

 ガンガン…ガン…。

キャンピングカーの表面を2回と1回に分けて叩いた。予め決めていた合図だ。廻、転。うまく連れ出してくれよ?

 「頭ぁ!!!」

 「頭ぁ~!!大丈夫ですかー!!!」

 「着きましたよー!!かーしーらー!!」

 リクシーを筆頭に、続々とメンバーが到着し始め、バイクで敷地内に入るとホルボロスの眷属どもを取り囲み始めた。全く。本当に頼もしい連中だよ。

 「ぃよぉし!!!一丁派手に始めるかぁ!!!」

 「「「おぉー!!!!!!!!」」」

 ちらりと敷地の奥に目をやると、廻と転が燈和を連れ隅に止めてあるサイドカーを取り付けた転の単車に乗り込んでいるところだった。よしっ。うまくいきそうだな。

 視線を戻すと眷属どもも一斉にそちらに目を向けているのが目に入った。

 「何よそ見してんだぁ!?てめぇらの相手は目の前にいんだろぉがよぉっ!!」

 一番近い敵の鳩尾に重たい前蹴りを食らわせ、前屈みになったところに頭上に思い切り鉄パイプを食らわせた。

 「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!頭に続けぇー!!!!」」」

 仲間たちは単車から降りると一斉に眷属どもにかかった。乱闘パーティーの始まりだ。

 さて、優先すべきはさっきの通り目立つ武器を持っていないものだ。私自身は構わないが、メンバーたちは普通の人間。撃たれたり刺されたりすればひとたまりもない。せっかく助太刀に来てくれたのだ。そういった事態だけは何としてでも防がなければならない。

 拳銃を持っていた奴を一人、そしてナイフを持っていた奴を一人倒した。先ほど見た様子から考えれば残りの倒すべき人数は恐らくは3~4人だろう。ま、隠し持っている者もいる可能性は小さくはあるが無いとは一概には言えない。ま、取り出す前に倒してしまえば問題ないだろう。

 まず目に入ったのは、メンバーの一人、テルミの右側から銃を向けている奴だった。

 おいおい、さっそくか。そしてテルミの奴、気付いてないな。まぁあいつは脂肪が厚いから腹に1発くらい撃たれても平気な気はするが…。

 ボギッ…

 伸ばしている腕に向かって鉄パイプを思い切り振り下ろすと鈍い音が鳴った。人間の骨とは案外簡単に折れるものだな。

 ダァン…!!!!

 痛みで力がこもったのか、引き金を引いてしまったらしい。が、銃口は地面に向いていたため弾丸がテルミに当たることは無かった。

 続いて手首に向かって蹴り上げると拳銃は手から離れていき、そのまま鉄パイプを顔面に叩きつけると鼻が潰れ、地面へと倒れた。

 「お、お頭ぁ…」

 「よそ見すんな。敵はうじゃうじゃいるぜ?」

 ダァンッ!!!

 視界の左端で敵の一人が近づいてきているのは分かっていた。顔はテルミに向けたまま、左下に向かって引き金を引くと弾丸はそいつの右足の脛を打ち抜き、そこから溢れ出た血液が地面を濡らした。

 そのまま鉄パイプでナイフを叩き落とし、片足をついているそいつの顔面に膝蹴りを叩き込むと、後方に向かって倒れ、そのまま失神してしまった。

 「な?楽しむのは良いが、油断するなよ?」

 「は、はい!!」

 地面に落ちたナイフを拾い上げ、ポケットにしまい込んだ。後は、先ほど奴らが落とした拳銃を回収しないと…。

 少し離れたところで転の運転する単車が、目の前を横切った。そして目で追っていくと、敷地外を出て走り去っていった。後は俺の準備だけだな。

 と、その時、転の運転する単車を追いかけるかのように白いクラウンが走り出したのが目に入った。その運転席に見えた顔は紛れもない、あのホルボロスがイガワと名乗った時のものだ。やはり近くで待機していたのか。しかし見たところ、あいつ一匹しか載っていなかったように見えたが…。

 しかしまぁ、親玉が直接あの3人を追いかけるとなると、武器をいくらか持たせているとはいえやはり心配だ。早く準備を済ませなければ。

 思いのほか簡単に拳銃を二丁とも見つけ、マガジンを抜き、さらに弾丸もバラバラに抜き取り地面へとまいた。今の眷属どもには弾丸一つ一つを拾い上げ拳銃に込めるようなことをするほどの頭はない。武器を使えはしても、使うための準備をするという発想がないのだ。

 また、ナイフは1つしか回収できていないが、拳銃程目立つものでもないし、30人近い人数が乱闘しているのだ。その中で見つけて拾う可能性など皆無に等しいだろう。

 そして見渡してみる限りだと、もう目立った武器を持っている奴らしかいない。後は拳銃を隠し持っていない、もしくは取り出す前に倒されることを祈るとするか。

 私が今持っている拳銃は…まぁ一応持っていくとするか。役に立つかもしれない。第二集会場に向かう途中で暴発、もしくは警察の職質が無ければいいが…。

 取り敢えず、もうここは任せてしまってもいいだろう。親玉がこちらに出てこないと分かった以上、この眷属どもに勝つのはそう難しくはないはずだ。

 さて、残すところは…。

 「リクシー!!!」

 「!!!何すか!?頭!!!」

 「一つ頼みがある。お前の単車を貸してくれ」

 「はぁ…それは構わないんですが、なぜですか?」

 「こいつらの狙いは俺の連れだ。そして今、そいつを守っているのは廻と転だけ。俺が手助けをしなきゃならねぇ」

 「なるほど。そいつは確かに不安っすね。」

 メンバーからもそう思われてんのかあいつらは。まぁ今はいい。あとでゆっくり思い知らせてやれば。

 「生憎、俺の単車はこいつらの親玉にボコボコにされちまってな。今は使い物にならねぇんだ。本当は廻の単車を借りるつもりだったが、あいつのは250。イントルーダーに乗ってる俺には小さすぎて扱いずらい。」

 「分かりました!!そういうことであれば、どうぞ!!お使いください!!鍵は差しっパです!!!」

 「悪ぃな。それと、ここは任せたぜ。拳銃を持っている奴はもういなさそうではあるが、警戒は怠るなよ?ま、後はお前らが頑張れば勝てるとは思うがな。」

 近くに止めてあるリクシーのCBRに跨ると、エンジンを入れ、アクセルをふかした。

 「頭!!」

 出発しようとする私にリクシーが声を掛けてきた。

 「何だ?」

 「いや、あの、戻ってきますよね?」

 「…何言ってんだ。お前の単車パクってそのまま消えるわけねぇだろ」

 「あ、いえ、そうですよね!!失礼しました!!あいつらノして、ここで頭の帰りを待っています。無事に戻ってきてください!!」

 「…おう」

 単車のクラッチをニュートラルから1速に入れ、アクセルをふかすと単車を発進させ、その場を後にした。

 廻、転、燈和。無事でいてくれよ。


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