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亢龍、悔いあり(バイオ・サイボーグより改題)  作者: 詩歴せちる
Heart Of A Dragon
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イレイザーヘッド


               鉄     志



 単車を走らせ、燈和の家にたどり着くとすぐに昨夜燈和を自宅へ帰らせることができなかったことを彼女の両親に詫びた。彼らは快く許してくれたものの、その顔はどこかにやけていた。全く。子が子なら親も親だな。

 また、ご馳走になった朝食には何故か赤飯があったため、念のため「やましいことは何一つありませんでしたよ」と伝えてはおいたが、果たしてどこまで信じてもらえたのだろうか。いずれにせよ、誤解されていることは確かなのでその辺りは今後ゆっくり解いていかねばならんな。

 朝食を済ませ、シャワーを浴び、少し落ち着いたところで燈和の部屋に行き、私のことをすべて話した。

 私の前世は龍であり、この世界で言うところの魔法のようなものを使うことができたこと。また、その影響か今現在も制限はかかっているもののある程度は使うことができること。ありのままを包み隠さず、かつ燈和も納得のいくよう言葉を選んで伝えた。

 その結果…。

 「鉄志君、真面目に話してください。」

 真面目に話した結果がこれである。いや、いきなり信じろというのが難しい話ではあるのだが。それに、普段の私の性格と行いも災いしているのだろう。燈和は私自身のことを信頼はしているものの、言動や行動に関してはあまり信用はしていないらしい。

 「ま、別に無理に信じろとは言わねぇけどさ。でも昨夜起こった出来事を考えてみれば俺は別におかしなことは言ってないと思うぜ?」

 「それはそうですけれども…」

 「ま、今のところ取り敢えずは俺には普通の人間とは違うことができるくらいの認識でいいさ。俺の過去がどうだったかなんて今は必要のないことだ。ここで問題なのはあいつをどうするかだな。」

 「あれは、また私のところに来るのでしょうか」

 「来るね。間違いなく。」

 これに関しては確信を持って言える。奴は単車で逃走を図った私と燈和の位置を正確に把握して追跡してきた。だが一体どういう細工をしたのかは分からないし、残念ながら今現在の私の能力ではその仕組みを解明することはできない、。

 「そう言えば鉄志君は、あれの正体を知っていると言っていましたが…」

 「ん?あぁ。まぁ全てってわけではねぇけどな。」

 「あれは一体、何なんですか?できる限り詳しく教えていただけると…」

 「教えてもいいけど、一つ約束してくれ」

 「何です?」

 「俺が今から話すのは『真面目な話』だから『真面目に話してください』って返すのは無しな?」

 「…分かりました。」

 「ん~、そうだな…。あれの正体をこの世界の言葉で表現するとなると…一番しっくりくるのは『吸血鬼』かな…」

 「きゅ、吸血鬼…」

 「そう。人間の血を吸って、眷属にしてしまう、あの吸血鬼…の劣化コピーと言ったところだな」

 「劣化コピー?」

 「まぁいきなりそう言われても分からんよな…。」



          ********************



 俺が元居た世界にも吸血鬼というものは存在していた。その生態に関してはこの世界の伝承とほぼ同じ通りだと思ってくれて構わない。日光を嫌い、生き血を吸い、様々なものに化け、おまけに心臓を貫いても首を切り落としても生き続けることができる、まさに最強の存在だ。

 こういう風に言うと、俺の元居た世界を支配していた存在に聞こえるが、性格はいたって温和。平和主義で争いごとは好まず、生き血だって基本的には仲のいい人間に定期的に分けてもらっていたというのが実際のところ。

 そして吸血鬼というのは由緒ある家柄ってのが多くてね。要は財力を持っているんだよ。貴族みたいなものだな。一個体の寿命は通常の人間の4倍程もある上、知能レベルも高い者が多いから先祖代々地位を確立していったというわけだ。

 この世界でも言えることだが、基本的に生まれつき金と地位を持ってる奴ってのは自由に使える時間がかなりあるのな。んで、向こうの世界はこっちのように娯楽に溢れているとは言い難くて、退屈に感じる奴らが多いんだよ。そんなわけで、暇つぶしに何かの研究を始める奴が結構いたんだが、そのうちのいくつかの阿呆があれを作り出しちまったんだ。

 あれは向こうの世界ではホルボロスと呼ばれていた。暇を持て余した吸血鬼が、自身で新しい吸血鬼を作り出そうとして自分の体の情報をベースに様々な術を使って実験をし、試行錯誤した結果、こっちで言うクローンみたいな存在として誕生したというわけだ。

 だがその出来というのはなんともお粗末なものでね。とてもオリジナルの吸血鬼と同等と呼べるレベルのものではなかったんだよ。

 まず第一に形を成していないということ。燈和も見たと思うが、変身が解除されると血の塊みたいな赤黒いゼリー状の姿になっただろ?あれがあいつの本来の姿だ。どういう経緯でああなったのかは分からんが、通常の状態があれなので一旦人間にでも変身しない限りは普通の日常生活も送れんし、言葉を話すことさえもできないからコミュニケーションすらも取れない。

 第二に、持っている能力の融通が利かないこと。オリジナルの吸血鬼は一度血液を取り入れた生物に変身できる能力を持っているんだが、この場合は血を一定量吸うだけで元の生物を殺す必要はない。だがホロボロスは変身のレパートリーを増やすにはその元となる生物そのもの体内に取り入れなければならない。つまり、殺して食って初めてその生物に変身することが可能となる。

 また、変身能力そのものに関してもオリジナルに比べればかなり質が悪い。一度変身すると、自分の意思で解除をすることができないんだ。変身を解除する方法は一つ、変身元の生物にとって致死的なダメージを受けること。つまりはその生物として死を迎えなければ解除されないんだ。さらに、オリジナルの吸血鬼は全身を変化させることもできれば、手だけや足だけといったように部分部分を変身させることもできるが、ホルボロスの場合はそこも融通か利かず、全身を変化させることしかできない上、100%元の生物をコピーしてしまう。すなわち、弱点までもな。

 第三に、眷属も融通が利かないこと。吸血鬼は選んだ生物に自身の血液を注入することによってそいつを眷属として従えることができる。この場合の眷属は自我を持っていて自身の考えで行動できる、いわば召使いのような感じだな。ホルボロスも似たような能力を持っていて眷属を従えることは可能で、燈和を拉致した奴らがそれだ。だが、あいつら、ちょっと異様だったとは思わないか?言葉は発さず、能面のように表情を変えず、ただひたすらに燈和を連れ去ろうとすることしかしなかった。邪魔をしようとする俺を殺そうとしてまでな。あいつの従える眷属は自我を持たない故、細かいことを考えて行動することができず単純な命令しか聞くことがでない。いわば操り人形だな。ま、昨日戦ったところを見ると、道具を使うくらいの知能は残っていたようだが。おまけに、通常の吸血鬼が誰かを眷属にした場合、効果はその吸血鬼が死ぬまで継続されるが、ホルボロスが眷属に出来るのは大体2~3日程度が限度。効果が切れるとまた元の人間に戻ってしまい、眷属にされていた時の記憶も無くなってしまう。

 ま、このくらいだったらいくらか用途はあったかもしれないが、厄介なことにこいつら、自我を持っていて創造主である吸血鬼共に反発して逃げ出したんだよ。んで、あいつらどんな隙間でも入り込めるもんだから、そこら中で民家に侵入して人間を殺して食っちまうって事件が多発して駆除の対象になっちまったんだ。

 そして、駆除を逃れたうちの一匹がどうやってかこの世界にやってきて、なぜか燈和にご執着。そして先ほど化けて見せたイガワさんを殺して、恐らくはその部下だった人間たちを眷属にし、付け狙っているというわけさ。



         **********************



 私が話し終えると、燈和は神妙な面持ちで黙ってしまった。しばらく何か考え込んでいたようだが、やがて静かに口を開いた。

 「鉄志君…」

 「なんだ?」

 「先ほどはすみませんでした。『真面目に話してください』などと言って、鉄志君の言うことを信用しなくて。鉄志君は私のために色々としてくださったのに。」

 ま、それに関しては私の日ごろの行いのせいもあるので燈和を責める気はない。とにかく今は、燈和が私の言うことを信じ、自分の置かれている状況をちゃんと受け入れてさえくれればそれでいい。

「それにしても…ふふっ…」

 「どうしたんだよ急に」

 「いえ、何だか、昨日今日で私の知らない鉄志君を知ることができたのが嬉しくて…」

 普通の人間だったらあのように体を変質させて異形のものと戦っている姿を見れば畏怖の対象となりそうなものであるが。ま、燈和の場合、私が絡むと普通ではなくなるからな。

 「それに、私しか知らない鉄志君の秘密があるっていうのも、何だかいいですねぇ。」

 「?いや別に燈和にしか話していないというわけではないが…」

 「何ですってぇ!!!!!?????」

 「ぐぇっ!!」

 燈和の形相が先ほどと180°変わり、凄まじい力で私の胸倉を掴み上げてきた。この力と形相…正に鬼だ。

 「と、燈和…苦しい…!!!くる…しいぃ…!!!死ぬ…!!!死んでしまう!!!」

 「一体!!!どこの!!!誰に!!!私より先に!!!!鉄志君の!!!秘密を!!!!教えたんですかぁっ!!!!」

 怒鳴るのに合わせ、今度は私の体をぐわんぐわんと揺らし始めた。目が回る…。一見華奢に見えるこの体のどこにこんな馬鹿力を秘めていたというのだ。

 「ま…まわりと…!!!こ…ころびに…!!!」

 「何で廻ちゃんと転ちゃんには教えてくれたのに私には教えてくれなかったんですかぁ!!!うわぁーんっ!!!」

 仮に教えたとしても「真面目に話してください」と返すのに何を言うか…。

ある意味では異世界の怪物より厄介であるなと思いつつ、燈和の泣き声と揺れる視界に頭の中をかき乱されながら私の意識は段々と遠のいていった。


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