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巻き込まれ転移者が最強になるまで  作者: 南 京中
第1章 アレクサンドリア王国
7/29

7話 パレード

ポイントありがとうございます。

 グラサンの少年と、帽子の少女が屋上にいる。冒険者ギルドは広場周辺では一番高い建物で、その屋上からは広場の様子がよく見えた。

 あの後、ギレルモが立ち去ってから、クロとロミは帰った。やはりアジトは流されていた。ロミが拾い集めてきた食器やベッドはキレイさっぱり街の外へと運ばれてしまっていた。

 それはロミがこの国に愛想をつかすのに充分な出来事だった。2人は家財道具を拾い集めることもせず、冒険者ギルドの屋上で一夜を明かした。


 今日のパレードは国を挙げてのイベントだ。


「盛り上がってるわね」

「見たくないなら離れてていいぞ」

「ここまでくりゃ見届けるわよ」

「殊勝だな」


 とはいえ沈んだ顔して広場を見下ろすロミ。寝不足気味のようだ。

 もうすぐ英雄が来る。簡易設営の客席には人があふれかえり喧騒が此処まで聞こえてくる。ステージまで設営され今は大道芸人が場を盛り上げている。いろんな髪の色がいるが黒髪だけはいない。

 そんなことにも気付きながらクロは、


「ところで、タイムスケジュールをゲットしたんだが」


 さきほど通りを歩いている間にセクシーな衣装の姉ちゃんからクロはぺら紙をもらった。本日のお祭りは、メインが勇者御一行様のパレードである。ゴールがここの広場なわけだが、ぐるっと回ってさようならというわけではない。しばし滞在し、下々の民による歓待をうけるのだそうだ。それがぺら紙に記された演目一覧というわけだ。


「結構おもしろそうなんが揃ってるぞ。喜劇から演奏から、勇者が来てからは市長挨拶だの退屈そうなのが続くが」

「きれいだったね~あのお姉さん」

「なんで怒ってんだ?」

「昨日からよ」


 だからこそクロは努めて明るく振る舞っていたのだが、ロミの機嫌は昨日から損なわれている。獣人として抑圧されながら育ち、冒険者として実力を付けてもその冷遇は変わらず、あげく奴隷にまで身を落としてしまった。それに加えて、昨晩の出来事が起きた。ロミはますます反骨心を強くしている。

 もともと王国に愛国心なんてものはなく、主が事故死した段階でどっか旅にでも出ようかとしていたのだが、とはいえ行く当てもない。そんなときにクロと出遭って、今に至る。

 ので、クロに怒るのは筋が違うのだが、

 

「確かにギレルモのおっさんがあんな冷酷な奴だとはな。

「ギレルモって、叩き上げなのよね。名門出身じゃないってことで民の心がわかる大将だって就任当初は人気あったんだけど……」

「あ、大道芸人がシルクハットからファイアバードを出したぞ」

「悠長ねえ、ほんと。自分が何者か知りたいんでしょ」

「今は焦ってもしょうがねえからな」

「……まあ、そりゃそうだけど」

「だが、だとしたらギレルモに何かあったと考えるのが妥当だな。組織に現実を目の当たりにして腐ったとか」


 今度は上着からアイスバードが出てきた。火を吐きながら飛ぶ鳥と氷を吐きながら飛ぶ鳥が大道芸人の周りをまわって非常に美しい。観客席からも歓声が上がる。

 ロミはクロの気持がわかりかねていた。一緒に怒ってくれるのは流石に期待し過ぎか。会ってまだ一週間くらいしかたってないし、王国民かどうか不明だし。


「……、パレードたのしみ?」

「ああ、英雄ってのにも興味あるしな」

「そう」

「なんだよ…って、あれ」




 広場の一角で呼び込みをしているお姉さん、リズは困っていた。来た人に今日のスケジュールを配る仕事をしていたのだが、その途中酒に酔った冒険者2人組に絡まれてしまったのだ。


「めっちゃ可愛くね、なあ?」

「あはは…」


 いかにも軽率そうだったから、愛想笑いでやり過ごそうとした。紙も受け取ってくれないし。オレンジ髪の男とピンク髪の男。積極的に来るのはオレンジの方だ。


「俺らさあホントは英雄とか興味なくて、どっかにかわいい子がいないかと思ってきたんだよね」


 今度はピンク髪のほうが口を開く。2人はナンパ目的できたらしい。冒険者というだけありガタイもよく、かなり威圧感がある。男の人は遠くにいるし、頼りになるかどうかは正直ちょっと不安になる。

 

「というわけでさあ、ちょっと来てくんね。仕事とかさぼっちゃって平気っしょ」


 オレンジの方がリズの腕をつかんだ。やはり力強い。「ひっ......」っと小さく悲鳴を上げたとき、


「すいませーん、一枚下さい」


 素っ頓狂なタイミングで素っ頓狂な声が聞こえてきた。




「(Bランク2人じゃない...!何考えてんのよクロ!)」


 屋上から身を乗り出たロミは脳内から電波を送る。出せてないし、そもそもクロの脳内に受信機もないのだが。

 ふと広場を見下ろすと先ほどスケジュールを渡してくれたお姉さんがチンピラに絡まれているのが目に入った。ロミは関わらないのが吉だと言ったのだが、クロはすぐさま助けにいった。確実にクロは、2人が付けているバッジがBランクを示していると知らない。


「(そいつら酔って調子乗ってるかもだけど、確かに強いのよ!私が教えなきゃなんもわかんないんだから!!)」


 屋上から身を乗り出して、腕をぶんぶん振り回すことで電波強度を上げてみたものの、クロは一向に気付かない。しばらく口論してるようだった3人だったが、やがてオレンジ髪がクロに掴みかかろうとして。



 さっき紙を渡したのにな、と思った。それがこの酔った冒険者2人に水を差すために言った方便だということにすぐ気づかないくらい、優しそうな男の子だった。

 リズは改めて男の子を見る。ヒールを履いてる私と同じか少し低いくらいなんだから、背は普通くらい。隣にBランク冒険者がいると過剰に華奢にみえてしまう。第二印象は変わった子なのかもということ。まず、全身が黒ずくめ。しかもここら辺じゃ見慣れないかたちの服を着ている。で、ピンク色の派手なサングラスを着けている。

 パレードを楽しんでいるのかとも思う一方、珍しい黒髪とのコラボはなんだか珍妙で、だから今までの緊張や恐怖がなくなった。


「あ、はい!!どうぞどうぞ、ありがとうございます」


 くださいと言われたのだから渡さなければならない。渡しながらリズは冷静に考えた。この男の子はBランク冒険者2人相手に1人で挑むのだろうか。


「ちょっとどいててくれるかな。今お話ししてるのわかんなかったのかな」


 オレンジの方が遮った。男の子の方を向き笑顔で威圧する。ナンパの邪魔をされたのだからムカついているのだろう。幼児に話すような口調だった。


「え?お姉さん、ナンパされてたんですか?」

「あ?」

「ついていきます?」

「い……、いかない!追い払って!」


 わかりきったことを聞いてきたなぜか男の子がとても頼りがいがあるように見えて、とっさに本心を叫んでしまった。ピンク髪がイラつきを露わにして、さりげなくBランクのバッジを見せる。この2人、強いのはピンクの方だ。だからこいつが口を開いたということは、逃がす気がないってことだろう。

 その言葉を合図に黄色の方が男の子の肩をつかもうとして、


「あ?」


掴めなかった。私にはなぜか、男の子の肩がぼやけたような気がした。

 一歩下がった私は、男の子が一歩も動いてないことに気付く。いや、正確にはほとんどその場を移動していないのだ。ただ2人と私を交互に見てる。それはぼんやり見ているような気もして、だけど冷静に状況を分析してるような気もした。


「あっ、後ろ!」


 リズが呟いたのと、男の子がピンクの方に背後を取られたのに気付いたのは同時。振り向いた男の子はあまりにも無防備で、だからまともにキックを喰らった。


「ひっ」


 思わず目を逸らした私だった。Bランク冒険者の全力を顔面で受けたのだ。よくて骨折、下手すれば死んでしまう。目を開けようか迷っていた私の目と耳に飛び込んできたのは、


「はやっ」


 思ったより早く到着した時に口からぽろっと出るくらいの軽い感想と、男の子が足をつかんでいる光景だった。ピンク髪が放った矢のような右脚は男の子の右肩に載せられていた。

 右肩?

 ピンクの髪が放ったのは確かに右脚のハイキックだった。その証拠に男の子は自分の右肩に載った右足を右手でつかんでいる。そして、あーまた、男の子の顔の輪郭がぼやけている気がする。


「て、てめえ、よけたってのか?」

「よけてねえよ」


 私と周囲の野次馬みんなの想いを代表したピンク髪の疑問にそっけなく返答した男の子が肩に担いだ脚を握りしめたら、


「う、おぉぉ」


 ピンクの方が徐々に宙に浮き始める。闇魔法派生の重力魔法だ。初めは抵抗していたピンクだったが、空に上る自分の身体を止めることができない。

 人一人浮き上がらせるのは、かなりの魔力を必要とする。伊達にギルドで受付のアルバイトをしている私ではない。この力は少なくともBランクレベル以上だろう。


「す、すげえ」

「まじか、あのガキ、やるな…」


そしてこの先も予測がつく。騒ぎ始めた野次馬はもちろん、当然Bランクのピンク髪も。


「くそっ、はな゛……」


 言葉の最後は地面との衝突音によりかき消されることとなった。浮き上がったもう片方の脚も抱えた男の子は、そのまま地面に叩きつけたのだ。といっても下は石畳、重力に任せてはさすがのBランクでも死んでしまうので、男の子は斥力魔法で繊細に威力を調節していた。

 気が付けば黄色の方はいなくなっていた。


「おい、見たか。お前、Bランクがひと捻りだ!」

「ああ、あの黒髪の小僧やるじゃねえか!!」


 優しそうな男の子がBランク冒険者を倒したという事実を周囲は徐々に認識し始める。私が何か声をかけようとする前に辺りは喧噪となり、やがて男の子を取り囲んでの騒ぎになり始めた。男の子は戸惑って苦笑いをしている。


「胴上げだ胴上げ!チャンピオンを祝福しろ!!」

「「「「どーあげ!どーあげ!どーあげ!」」」」


 何らかのチャンピオンになった男の子をなぜか胴上げをすることになり、群衆が男の子の手足を掴みかけたところで、


「クロ!クロ!クロってば!ほら、こっち!」


巧みに隙間をすり抜け、女の子が輪の中に突入していく。クロってあの男の子の名前?きっと仲がいいんだろうな。サングラスに似た趣味の帽子被ってるし。

 この趣味は、もしかしてバカップルかしら。

 やがて女の子に手を引かれて男の子が脚と脚の隙間から這い出てきた。でもどっかで引っかかっているみたいでもがいている。私はとっさに女の子の手を掴み2人を救出してあげた。テンションだけは高いおっさんたちにもみくちゃにされたのだろう。

 テンションだけなので中心がいなくなっても盛り上がっている。

 何が見えてるのだろう。誰を胴上げしてるんだろう。

 そんなことより人ごみから抜け出してきた2人はそのせいで服装が乱れていて、


「「「あっ」」」


2人ともすぐさま直したから気付いた人はきっといない。私を除いて。帽子の隙間からケモ耳が見えたのと、サングラスの奥の黒い瞳。

 そして、女の子は私に見られたこともすぐに気付いて顔つきが変わる。その瞳の奥には今まで経験してきたであろう嫌な記憶が浮かんでいた。


「いくわよ!クロ」

「え、あっ、ちょ。お姉さーん、元気でな―」


 走り出した女の子に手を引かれ、クロという男の子は広場から離れるように走り去って行った。


「けっこうかわいかったな」


 私のつぶやきに気付いた人は誰もいない。

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