表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き込まれ転移者が最強になるまで  作者: 南 京中
第2章 国境の村
29/29

13話 シャーラタン

それぞれの最新アルバムを聞く限り、ギャラガー兄弟は再結成しないだろうと思う。

 そう言ってヤマガは走り去って行った。

 すさまじい速さだった。

 クロも追いかけたがいっこうに距離が縮まらない。


「くそっ……追いつけない…」

「そんな魔力の使い方してちゃだめだよ。せっかく途方もない魔力してるのに」


 後ろに食らいつくクロの方を見るヤマガは涼しい顔をしている。

 クロは光魔法で走っていた。全身を光に変えて走った。

 だが、ヤマガとの距離はどんどん開いていく。

 ヤマガは全身を発光させることなく、だが光魔法を身にまといながら走った。

 どうやらこれも魔力の使い方の問題らしい。


「はぁ……はぁ……」


 村の外れのところでついにクロは膝をついた。

 ヤマガがこちらに戻ってくる。


「魔力切れ?そんなはずないよ」


 まるでへばった生徒を励ます体育教師のように、まだまだ君は出来るよとクロを励ます。

 それがクロには屈辱だった。

 だが、走れないのは事実だ。

 そんなクロに影が重なる。

 ヤマガが見下ろしているのだ。


「王国の教育をうければあっという間に強くなれるよ?どうする?」

「……ちっ」

「強情だなあ。そういうとこまくろなんだよなあ。まあいいよ、じゃあね」


 ヤマガは再び走り出そうとして、


「あ、忘れてた」


 村の方へと振り返り、目にもとまらぬ速さ銃を取り出しで弾丸を撃った。

 それは黒い弾丸で、銃口から黒い尾を引いていた。


「弾丸っていうか銛?」

「何を…」


 しばらく銃弾の言った先を見ていたヤマガは、「おっけ」とつぶやいて銃を上に向けた。

 すると黒い線がシュルシュルと銃に吸い込まれていく。

 その先に誰かがいた。


「アヴィニヨン!!」

「そ」


 気絶したままのアヴィニヨンの脚に銃は命中したらしい。風にはためく布切れのように、手足をバタバタさせながらアヴィニヨンがこっちに飛んでくる。



「ここへおいときゃいいでしょ。そんじゃ、ほんとにさよなら」


 そんな冷たい言葉を残して、ヤマガは地平線の向こうに走り抜けて見えなくなった。



「はあ、はあ、はあ……」

「……クロ」


 クロの姿を見た瞬間、ロミが立ち上がって通りに出てくる。

 心配そうな顔だったからクロは左手を見せて応える。

 ヤマガのいう通り、4人の麻痺は解けた。後遺症もない。


「ああ、クロだ。俺は……」


 まくろじゃない。


「悪い、追いつけなかった」

「ううん、守ってくれてありがとう」


 肩で息をし膝に手をつくクロの背中をロミが叩く。

 しっぽが左右に揺れていた。


「みんな、目も耳も動いてたんだってさ」


 オノアがクロに告げる。

 もうすでに黒のメッシュもなくなり、胸も平らになっている。

 そしてその後に、シャスタとピンチョン。

 シャスタの頭には新しい派手なサングラスが乗っている。

 ピンチョンが探してきたらしい。無いと機嫌が悪くなるからだそうだ。


「だから、ヤマガが何をしたのか、そしてクロに何を言い残したのかも知ってる」

 

 ヤマガに撃たれて身体がマヒしていた間、4人はクロたちの闘いを見ていた。

 その間にクロとヤマガの会話も。

 ヤマガがしきりにクロをまくろと呼んだこと。

 ヤマガもまたワンダーウォールを読める存在であること。

 すなわちヤマガはクロと同じ何かを共有している。

 

「あれがあたしたちの国が必死こいて召喚した英雄だなんて、なんかムカつく~!」

「落ち着けシャスタ。今はそういう話じゃない」


 腕を振り全身で怒りを表現したシャスタをピンチョンがなだめる。

 爆発と風、まさに2人の関係性そのものだった。


「ねえ、クロ。……ヤマガは、異世界から召喚された別世界の人間。ってことはクロも」

「……」


 ロミが核心を突く。

 みんなが言いたいのはそれだ。

 ヤマガはクロのことを知っていた。


「……あいつが言ってたのは、まくろだ。俺はまくろじゃない」

「でも、その服も過去のあなたも知ってた……じゃない」


 クロは自分に問う。

 俺は異世界人なのか?

 だとしたらなぜ、俺だけ森の中にいた?

 そしてこの身体は何だ?

 5人の中に沈黙が流れる。


「うーん、考えてもわかんないっしょ、そんなこと」


 その静寂を破ったのはオノアだった。


「じゃあ、私からクロっぴに質問ね」


 オノアはクロを指さす。


「クロっぴは英雄になりたい?」


 それはつまり、クロはあいつらと同じようになりたいか、という問いだった。

 ヤマガの言うことが本当なら。

 英雄は王国の富と権力を使い放題。圧倒的な力を武器に好き勝手に振る舞うことができる。金も女も思いのまま。

 しかし、そこには数えきれない人間の思惑が渦巻いている。

 そんな暮らしがしたいか。

 クロの答えは。


「いやだ」


 村を風が通り抜ける。それは東に吹いていた。


「金も名誉も俺はいらない。英雄になんかならなくていい。ただ1つ、ワンダーウォールを作ったやつに会いに行くだけだ」


 自分が何者かなんて問い続けても無意味だ。

 問題は自分が何をしたいかだ。

 それはオノアがこの闘いで得たアイデンティティでもあった。

 自分がどう生まれたかなんて関係ない。

 自分がこれからどうしたいかだ。


「おっけ、じゃあ決まりね♪」

「一応テロリストなんですけどね、私たち」

「頑張ってね!ロミちゃんをよろしく頼んだんだから!」

「応援してるぞ」


 クロとロミの進む道は変わらななかった。

 このまま東を目指してワンダーウォールを見つけ出す。

 あるかどうかも作ったやつが生きてるかもわからないが、とにかく東へ進む。


「じゃ、とりあえず後片付けしましょうか」


 ロミがポンと手を叩く。

 後片付けと言われて4人が辺りを見回す。

 穴の開いた家々、めくれ上がった地面、爆発した劇場……。


 

 この辺境の村が消えることは変わらない。

 もう住む人がいないのだから。

 とある家族が暮らした家も。青年がプロポーズした広場も。

 じきに王国軍が来て軍事拠点へと変えられる。

 それでも。


「私の勝手に付き合ってくれて、ありがと」

「いいってことよ」


 最後の記憶の引き金は、村の外れにある高台からの風景だった。

 この村で生まれてこの村を愛した名もなき誰かが最後に崩れ落ちる村をここから眺めたらしい。

 同じところに立ったオノアの目から涙が一筋流れた。


「なるほどね。シャーラタンがきれいだ」


 静かな村のその向こうに、白銀の雪山がそびえたっていた。

 あれの向こうは王国の外だ。



「じゃあねー!ロミ、クロ、オノアちゃん!!!!!」

「うるさいぞシャスタ。こんな近い距離で」


 シャスタとピンチョンとはここで別れる。

 なにせ王国にクエストの結果を報告しなければならない。

 タラスに生存者はなし、王国の軍事拠点として適当。

 なお道中でテロリスト2名とは遭遇せず。


「タラス…?この村ってタラスって名前だったの!!?」

「今更かよ」


 シャスタは今の今までこの村の名前を知らなかったらしい。

 何せ依頼書の類はすべてピンチョンが処理していたのだから。


「まったく…あなた書類に適当にサインして痛い目見たの忘れたの…」

「むぅ~、またロミに怒られてしまった」


 シャスタがふくれっ面になる。ついでに派手なサングラスをかけた。


「だが、2人とも。ほんとに大丈夫なのか?王国はこれからどんどん追っ手をお前たちに送って来るぞ。なによりギレルモ大将が追っている」

「2人じゃない」

「3人よ」

「ほえ?」


 クロとロミの視線の先にいるオノアが素っ頓狂な声を上げる。


「おっと、確かに、直接答えを聞いたわけではなかったわね」

「あ、確かに」


 あのとき。クロがオノアを旅に誘った時。

 オノアが答える前にシャスタが劇場を爆破したのだった。

 だから、オノアの答えをまだ聞いていなかった。


「では、あらためてクロさん」

「オノア。俺たちと一緒に旅しよう」

「よろこんで♪」



―――アレクサンドリア王都―――

「ああ、ヤマガ様!今までどちらに」

「ちょっとランニングだよ。そんなオーバーな」

「困ります。まずはパブロ大将に挨拶を」


 突然の帰宅に慌てふためく兵士をよそに、ヤマガは王城を急ぐ。

 とてつもなく高い天井だ。

 その天井からは豪華なシャンデリアが吊るされている。

 まるで典型的な貴族の王城だなと、ヤマガは歩くたびに思う。

 

「ヴェルサイユ宮殿なんだよなあ、どうみても」

「ヤマガ様、今何と?」

「聞いてもわかんないよ」


 ヤマガが辿り着いたのはとある部屋の前だった。


「ただいま」

「どこ行ってた?」


 ヤマガが開けた部屋にいたのは金髪に茶色の瞳をした少年だった。

 それはあのときの英雄パレードでヤマガの隣にいた少年だった。


「散歩。そっちは?」

「強盗300件、モンスター討伐2000匹」

「真面目に英雄やってんねえ、カイ」


 カイと呼ばれた少年が立ち上がる。背はヤマガより大きい。


「楽して英雄を手に入れたんだ。最大限楽しまないとな」

「ははっ、なら楽しい話をしてあげよう。まくろにあったよ」

「何?」


 カイと呼ばれた少年から殺気が立つ。

 

「あいつがどうしてこの世界に……」

「でも本人は記憶喪失なんだよね。僕たちのことも覚えてないよ」

「なら思い出させるしかない」

「まほうってふしぎだよねえ」


 呑気に笑うヤマガと対照的にカイはドラゴンのように厳しい顔をしていた。

 だがすぐに笑みに変わる。


「だが、ちょうど退屈し始めていたころだ。いい刺激になる」

「剣と魔法のファンタジーにとんだノイズが混じったね」


 2人にしかわからない会話をしてカイとヤマガは笑うのだった。

以上で第2章完結になります。

読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想・評価等していただけると嬉しいです。


このまま続けて第3章を書きたいところなのですが、ストックが尽きていたりそもそもプロットからやり直したほうがいいのかと悩んだり……。

とにかくしばらくは期間が空くかと思います。

すみませんがご了承ください。

それでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ