11話 まくろ
たらこのふりかけを買ってみました。
128円でここまでクオリティオブライフが捗るなんて。
ヤマガはクロの眉間に銃を押しつけたまま。
クロは銃を押しつけられたまま。
銃だけが七色に変化していた。
「僕たちはあのまま冴えない人生を送るはずだったんだ。それが突然光に巻き込まれて、気付いたらこの世界に来ていた」
答えないクロに代わってヤマガ語り出す。
「まぶしい光に目を閉じて、開けたら宮殿の中。英雄だ英雄だって持て囃されて。金も女も使い放題。わかるでしょ」
ヤマガの目は陶酔していた。まるで自分が天国にいるかのような。
「きみなら絶対気に入ると思うんだ。だってきみはきみだ。いくら記憶喪失だと言っても本質までは変わらない」
対してクロは冷静だった。
「急にどうした?」
「僕を見てよ。好きな時に王国中を走り回る自由がある。誰も僕を止められない。先生も親もいないんだ」
クロはヤマガの言うことに魅力を感じなかった。
というより、他に気になることがある。
「お前、俺のこと知ってんのか?」
銃口が重くのしかかる。ヤマガに力が入ってるのだ。
空いていた左手に大きなライフルが出現する。それを明後日の方向に向けぶっ放した。
空を切り裂く長い弾丸が家を突き刺さり、その衝撃で家が吹き飛んだ。
破片が2人に降り注ぐ。
「…ほんとに覚えていないのか?ならどうしてその服を着替えない?」
ライフルの先でクロの服をつつく。クロが着ている上下黒一色の服にヤマガは執着していた。
「服?この服がどうした?」
「記憶もないなら脱げばいいのに」
「いやだ、それだけはしちゃいけない。それだけは知ってるんだ」
「相変わらず強情だな、まくろ」
「な…」
ヤマガが銃をぶっ放す。七色に変わる銃は黄色だった。
「ちっ、闇だったか」
「やっぱこれが落ち着くんでね!」
クロの額に空いた穴から倒れたままのオノアが見える。そんなヤマガの視界はすぐさまブラックアウトした。
クロが頭突きを食らわせたのだ。
ヤマガが後ずさる。
鼻を押さえた手の隙間から血が流れていた。
「お、効いた」
「血を流すのは、ここに来てから初めてだよ」
あのときクロのストレートで吹き飛ばされても傷1つ付かなかった。だが今の頭突きはダメージがあった。
「きみはぼくたちと同じなんだ。だから攻撃が効く」
ポケットからハンカチを取り出し鼻の血をふき取るヤマガ。効いたとはいってもすでに傷は塞がっている。
「さっきからいったい何の話をしてるんだ…!」
「きみの話だよ。偶然にしちゃ出来過ぎてる。何か大きなことが動き始めてるよ!」
クロが右手から水流を放つ。背後にロミたちがいるからうかつに火を放ったりできない。
ヤマガは特に防御することなく受け止めた。
「こんな水芸はダメだよ。僕たちは現地人に比べて防御力がチートなんだ」
ヤマガが水流の中で銃を撃つ。魔法銃は水中だろうと関係ない。
クロの放った水流は一発の弾丸により四散した。
「なんだと!?」
「君は教育を受けてない。僕たちは転移して以降王国最先端の教育を受けたから」
転移?こいつらはどこか別の世界から来たっていうのか?
それが俺と同じ?
思考を中断せねばならない。ヤマガの手に3色の弾丸があった。
「火、土、闇。三色用意したよ。さしずめ、ロシアンルーレットだね。まくろ」
「ロシアンってなんだ?」
クロの視界からヤマガが消えた。
気づいたら懐に入りこまれていた。
そして両手に二丁拳銃。
「速い!」
「君もすぐこれくらいできるようになるよ」
ヤマガは片方をクロの顎、片方を腹に向けて、2丁拳銃のトリガーを引いた。
2発の銃声。
クロはそばの建物の屋根まで跳躍していた。
「……その方法は想定外だったよ」
火、土、闇の弾丸。火水土光闇、それはクロがどの魔法に変化しても対応できるチョイスだった。
3丁用意しなかったのはヤマガが自分で言った通りロシアンルーレットってことだった。
トリガーから放たれたのは火と闇だった。
クロの体は光に変化していた。
そのまま被弾すれば闇のダメージが倍加して通る。顎から鼻にかけて粉々に吹き飛んでいただろう。
クロは光なれば光の速度で移動できることを利用した。
「僕の銃弾より速く動くなんて」
ヤマガが銃を回転させかっこよくホルダーにしまう。
魔法銃なんだからホルダー要らないだろとクロは言いかけたが、やめた。
あれは早撃ちの体勢だ。
「ぐあああ!!」
クロが地面に倒れる。背後には動けない4人がいた。
ヤマガが早撃ちの体勢で狙ったのはクロではなかった。
地面に倒れ伏した4人だった。
「うぅぅ…クロ…」
ロミが動けない首を動かしてクロを視界に入れる。
4人に向かって弾丸が発射された瞬間、クロは光の速度でその弾道上に立ちふさがった。
闇の弾丸がダメージとなってクロに突き刺さった。
「大丈夫?別に見捨ててもいいと思うんだけど、時には損切りも必要だ」
「俺のことを知ってくれてるのはこいつらだけだ…死んでも守る…!」
「似合わないな、きみはホントにまくろなのか?」
「…俺は、クロだ!」
クロが飛び膝蹴りを叩きこむ。
だが、そのモーションの間にヤマガは6発の銃弾を撃ち込むことができた。
「乱暴だなあ、隙だらけだよ」
「あ……」
クロが倒れる。体中に穴が空いていた。
胴体に3発、膝に2発、そして腕に1発。
燃えるような激痛にクロは耐えていた。
「流石に頭には当たらなかったか。やっぱ実際は難しいな」
ヤマガがピストルで後頭部をポリポリと掻く。想像の中ではもっと銃の扱いにたけているらしい。
「でも、その身体だけはよくわからないな。どうやってそんな能力身に付けたんだい?もしくはそれがきみのチートだっていうのか?まくろ」
「ヤマガくん。いたぶるのはきみの悪い癖だよ。仕事は早く終えないと」
ヤマガの横の空間が歪み、アヴィニヨンが顔を出す。
今までずっと2人の闘いには手を出さずにいたが、ヤマガがあまりにも時間をかけすぎたためしびれを切らしたのだ。
「仕事?」
「そう。この2人を逮捕して処刑しなきゃいけないのはわかってるよね」
「あー……そっちのロミとかいう獣人はどうでもいいけど、まくろは嫌だな」
「まあそういわずに。頼むよ」
アヴィニヨンの態度はクロの時と違っていた。
同じような年齢の男なのにここまで違うのはヤマガが英雄だからだ。
ヤマガの態度から察するに普段から王城の中でもこんな横柄な態度をとっているのだろう。
「まくろがいつまで経っても強情だから悪いんだよ。いっそこいつら全員殺せば解決するのかな」
「ロミだけはやめてくれるかな。他はまあ仕方ない。きみがそうしたいのなら」
「……お前ら…!」
クロが立ち上がる。穴はまだ塞がっていなかった。
それほどまでにヤマガが弾丸に込めた魔力が大きかったのだ。
おそらくクロに迫るくらいの魔力を持っている。
「その気持ちはきみにとってマイナスなんだよ?どうしてわかんないかな」
殴りかかったクロだが、ヤマガに足払いされる。
無様に地面を転がる。
自分の脈ではなかった。
クロの耳に地面を通して誰かの鼓動が聞こえていた。
クロは顔を起こす。
目の前にオノアがいた。
うつろな目をしているが、確かに聞こえる。
オノアの鼓動が。
心臓なんてないはずなのに。
間違いない。オノアは生きている。
「…オノア…」
「…僕の勘違いな気がしてきた。ピンチの時に他人に助けを求めるなんて僕の知ってるまくろじゃない」
クロがオノアの腕に手を伸ばす。確かに血の通うような音が聞こえる。
これは魔力だ。魔力の流れだ。
おそらくシャスタとロミの回復魔法だけではない。
クロはロミたちを見る。
「そうか…」
ロミとシャスタとピンチョンの血が地面にしみ込んでいた。
それが地面を通してロミに吸収されていた。
「オノアは回復するんじゃない……これは…再生だ…」
「何をぶつぶつ言ってるんだ?もういいよ、クロとかいう人」
オノアの口がわずかに動いたのをクロは見逃さなかった。
クロが光魔法を発動する。あたりが輝きに包まれた。
「食え!オノア!」
その光の中でクロはオノアの口に手を突っ込んだ。
手首に当たった歯はキラキラと光っていた。
「往生際が悪いよ」
ヤマガが発砲する。
光で見えないが感覚で位置は把握できる。
「当たったかな」
「僕だよ?当てたに決まってる」
アヴィニヨンが目を押さえながら聞く。ヤマガは当然とばかりに応える。
その証拠と言わんばかりにクロの光が徐々に弱まってきた。
「ほら、もうそろそろ見えるよアヴィニヨンさん。急所は外してあるから持ち運びは楽……」
「うーん、お菓子としてはいいけど、毎日食うものじゃないなー」
「ははは…ようやく起きやがった…」
深紅の髪に黒いメッシュ。隣のクロより頭一つ分背が高い。
そしてクロの頭2つ分の胸。
手のひらにヤマガの弾丸を乗せ、ポリポリとつまみながら。
「寝落ちしてごめんよ。借りは返すから」
オノアがお決まりのファイティングポーズをとった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
読んでくださった方、よろしければ感想・評価等お願いします。すでにブックマーク・評価していただいた方、ありがとうございます。私もこの小説をより面白くしたいのです。よろしくお願いします。
短編を書いてみました。この小説の第1章のリメイクです。よろしければこちらもぜひ。
「追放されたケモ耳美少女と『全身魔法』の巻き込まれ異世界転移者、最強になる」
https://ncode.syosetu.com/n4057gh/