10話 銃
マイケルJフォックスって背小さいですね。
「オノア!」
ロミが駆け出す。獣人の脚力で駆け寄り、抱きかかえる。手には既に回復魔法を展開していた。
オノアは血を流さない。だから傷口がよく見える。指ぐらいの穴が頭の中心まで達していた。
「オノア!ねえ!オノア!しっかりして!!」
オノアの目はうつろだ。指先さえピクリとも動かない。
少し遅れてシャスタがスライディングする。自分も回復して間もないがロミの手助けをする。
「傷は?」
「…深いわ。それと」
「あれ?」
「ええ」
冒険者時代の経験からロミとシャスタはこういう時の処置が迅速だ。阿吽の呼吸で回復魔法をかけながら、何かに気づいたらしい。
「【逆風】!」
ピンチョンが風魔法でバリアを作る。銃弾の軌道を逸らすためにオノアの周囲の風向きを滅茶苦茶にする。
「どこのどいつだ!」
クロが絶叫する。その眼には怒りが浮かんでいた。
2発目の銃声。
クロの目が吹き飛ぶ。
「ぐあああ!」
悲鳴を上げながら目を押さえた。撃たれた右目が燃えている。
「火?」
無属性の攻撃と違って弱点の属性が付加された時は回復に時間がかかる。もう白目は回復しているが、まだ視力は回復していない。
「魔力銃か!くそ俺の風バリアを突破してきやがった!」
「そうだよピンチョン!オノアちゃんの体に弾が残ってない!!」
オノアに膝枕をしながらシャスタが叫ぶ。
魔力銃とは自身の魔力で構成された銃だ。銃弾まで魔力なので敵に当たった瞬間消滅する。故に証拠が残らないというメリットがある。
「どこだ…どこに潜んでいる……」
ピンチョンが辺りを見回す。あたりは半壊した建物が並んでいる。隠れられそうな場所は多い。
だが、俺たち以外に人間なんていたか?
3発目の発砲音。
今度はクロの右脚が吹き飛んだ。
「ちっ、水にしておいてよかった…!」
さっきよりもダメージが大きい。2発目は目の周りが吹き飛んだだけだったが、今度は右脚の太ももが大きく抉られた。
「口径が変わってやがる……使い慣れてる…」
「ていうか、何で俺ばっかりなんだ…!」
クロが右腕を闇魔法に変化させ、矢のように飛ばす。漆黒の腕が一直線に村の外れまで飛んで行く。
「掴んだ!」
やがてクロの手に確かな実感があった。
人か魔物かわからないが、右腕を戻す。
遠くの方から胸ぐらをつかまれた少年が飛んできた。
ダークブルーの髪と目。前髪が目のところまで垂れていて、肌は日に焼けていない。
まるで歴戦の戦士とは言えない少年だった。
「ひえええええええええ」
クロの腕がクロの体にくっつく。
当然、少年も黒の目の前で静止する。
「捕まえたぞ!スナイパー!」
「や、やめ・・・・」
非力な悲鳴を上げた少年のボディにクロがストレートをぶちこむ。
斥力魔法を込めた一撃は少年を向かいの建物にまで吹き飛ばした。
「やったか!?」
「い、いきなり殴ったけど、クロ、あの子で合ってんの!?違ったらどうすんのお!」
握りこぶしを高々と掲げるクロをシャスタが諫める。
捕まえてきたスナイパー(仮)はとても強そうには見えない。まるで一日中ゲームに勤しんでそうな細身の少年だ。
もし人違いならば、ただの殺人だ。
「いてて…まだ痛みにはなれないな」
頭に振ってきた瓦礫をわきに投げながら、少年が立ち上がる。
身体には特に傷がない。
クロは正解していた。
そして。
「あいつ!パレードにいた英雄じゃねえか!」
「なんて防御力だ…」
あの時。王都の英雄パレードで祭り上げられていた3人の少年少女。そのうちの1人が目の前の少年だった。
ピンチョンが驚きの声を上げる。あの速度で建物に突っ込んだら並みの冒険者ならば全身骨折は免れないだろう。
「魔力じゃないよあれ。身体がめちゃ固いんだ」
シャスタが冷静に分析する。キャーキャーうるさいがAランク冒険者だ。
少年がこちらに近づいてくる。
細身の身体にダボついた普段着で足元の瓦礫をよけながら歩いてくる。
ぬかるみがあったようで、嫌そうな顔して飛び越えた。
「前は100メートル走ったらばててたけど、今じゃ一日中走り続けても疲れないんだ。異世界は最高だ」
少年が何か独り言を呟いている。だがクロたちは意味が良くわかない。
ある程度まで近づいてきた後、少年は髪の間からこちらをうかがって、何かに気づいた。
「あれ、アヴィニヨン中将じゃないですか!」
突如少年の手のひらが揺らめき始める。その揺らめきは徐々に銃の形へと変化していく。
やがて確かな銃になると、少年はトリガーを指に引っかけ、くるくると回転させる。
緑の注射器のような銃から細長い針のような弾丸が放たれた。
「いって!って、ヤマガ!?どうしてこんなところにいるんだ」
アヴィニヨンの尻に刺さった細長い弾丸は、刺さった瞬間に消失。途端にアヴィニヨンが顎をさすりながら目を覚ました。
回復銃だったらしい。
「どうしてってタラスに向かわしたってパブロさんが話してんの盗み聞きしたんですよ。だからここまで走ってきました」
「走ってきたって…」
「ずっと城の中なんてさすがに窮屈で、つい」
「全く自由でいいな。さすが英雄って感じだね」
「ところで、これどういう状況ですか。僕はあの黒髪がちょっと気に入らないんすけど」
「その理解でいいよ」
アヴィニヨンとヤマガが消える。
鏡魔法だ。
「あああ、逃げられた!」
「くそ、会話に気を取られた」
「この状況…かなり不味いわ…」
ロミがオノアを優しく寝かす。
相変わらずオノアの目はうつろとしている。青白い肌と相まってその姿はまるで。
「どうしよう、ロミ。オノアちゃん…もしかして……」
「言わないで、それ以上は…」
シャスタの悲しそうな顔より、さらにロミは悲痛な面持ちだった。
ロミとシャスタ。
2人が魔力を発揮したので傷はすぐに塞がった。だがオノアは人間じゃない。例外的な存在のメタアンデッドだ。
腕や足が千切れても平気な顔をしていたが、頭だけは常にガードしていた。
頭のダメージが回復するのか、それを調べることはできなかったのだ。
仮に回復したとして、自我を失いただのメタアンデッドになってしまったらどうしよう。
なにより、普通の人間と同じように普通に死んでしまったら…。
「どこだ…どこにいる……」
ピンチョンの風魔法がクロたちの周囲を駆け巡る。
とにかく気を付けなければならないのはヤマガとかいう少年の銃弾だ。
だがそれは無駄に終わった。
「ぐあっ!」
ピンチョンが撃たれた。背中に一発。
ピンチョンが膝から崩れ落ちる。
「ピンチョ…」
「うかつに動いちゃダメよシャスタ」
ピンチョンに駆け寄ろうとしたシャスタを弾丸が貫通する。
崩れ落ちるシャスタに手を伸ばしたロミの首筋に固いものが当たる。
「痺れ弾だ。死にはしないよ。あんまり殺すと王様がうるさいんだ。今どれほどの威力かは、あとで教えてくれると嬉しいな」
弾丸が発射され、ロミは指筋をピンと張りつめさせた後、全身をけいれんさせて動かなくなった。
「て、てめえ……!!」
一瞬で3人が倒された。ロミもシャスタもピンチョンも動かない。
怒りに駆られたクロが重力魔法でヤマガを引き寄せようとする。
だが攻撃が当たる直前にアヴィニヨンの鏡魔法によって姿が消える。
「ちくしょう!卑怯だぞ!出てきやがれ!」
「おい」
「!」
怒りに叫び、周囲に闇魔法をまき散らしていたクロの肩にヤマガが触れた。
「なんだ、この!」
「落ち着いてよ」
振り向いたクロの眉間に銃が突き付けられる。
ヤマガが上半身だけを出現させていた。
「君が身体を変化させるより早く僕は銃弾を変化させて打ち込む自信があるけど」
「くっ…」
眉間に突き付けられた銃がカラフルに変わる。おそらくクロが何かの属性に身体を変化させたらそれに勝つ相性にすぐさま変化するのだろう。
「さて、これで静かに会話できるな」
「撃ちたきゃうてよ」
「まあそうイライラしないでよ。なぜだか、きみには親しみが湧くんだ」
歯をむき出しにして怒りをあらわにするクロと対照的に、ヤマガは余裕そうな顔を崩さない。
クロは分かった。こいつは自分の力を信じ切っている。
悪く言えば、強大な力に飲み込まれ始めている。
「さて、クロ…か。きみはどこから来た?」
「知らねえよ。こっちが聞きたいくらいだ」
「何も覚えていないっていうのか…」
ヤマガが髪を掻く。この答えはどうやら想定外だったらしい。
「ああ、覚えてない。自分が何者かもな」
「……うーん。じゃあ、質問を変えよう。きみは今のままでいいの?」
「あん?」
クロがぽかんとする。
「君ぐらいの力があればこの国で好き放題できるっていうことだよ。興味ない?」
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第一章のリライトみたいな感じで、短編を書いてみました。
よろしければ読んでください。
追放されたケモ耳美少女と『全身魔法』の巻き込まれ異世界転移者、最強になる
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