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巻き込まれ転移者が最強になるまで  作者: 南 京中
第2章 国境の村
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9話 英雄

味噌汁ってたいていの食物なら受け入れますね。

アレクサンドリア王国。玉座の間。


「陛下!パブロ大将!大変です!」

「どうした?そんなに急いで、はっ、もしかして、吉報か?」

「いえ、そ、それが…」


 定例会議中の玉座の間にいるのは、護衛軍大将パブロとサルバドール、そして現国王アレクサンドリア・キャスター、トスカーナ商会会長トスカーナ・ド・ジョバンニ、そしてカテドラル教会教皇バトリヨ54世。

 王国の最高権力者たちが集まる玉座の間に勢いよく飛び込んできたのは英雄の世話係を務める名もなき兵士だった。

 とはいえ、王城勤務の兵士の時点で名もないわけではないのだが。

 これだけの面々を前にするとどうしても何者でもなくなってしまう。

 それはさておき。


「英雄の1人、ヤマガ様が今朝から……姿が見えません」

「なんだと!」


 会議に参加したお偉方が顔を見合わせる。

その視線はヤマガの教育担当であるパブロに注がれていた。


「あ~~……ヤマガ君は最近アヴィニヨンと仲良くしてたみたいだから、ひょっとして偵察について行っちゃったのかもしれないね」


 とても王国護衛軍大将とは思えない、とても南西地区を「消毒」したとは思えない優しい口調でパブロが答えた。




 アレクサンドリア王国辺境の村、タラス。


「シャスタ、今の魔法……」

「ち、ちがうよロミ。私じゃない!ほんとだってば!」

「シャスタのいう通りだ、ロミ。こんな魔法シャスタじゃない」


 突如体が爆発し下半身を吹き飛ばされ、地面に転がっているクロも賛同する。今クロを吹き飛ばした爆発魔法は確かにシャスタのにそっくりだった。

 だがどこか微妙に違う。

 それはギレルモが言っていた魔力の流れというやつなのかもしれない。

 もっと平たく言うなら。

 鏡に映った自分の顔のような。


「いよっと。でも変だな。今の俺は闇なのに、どうして爆発魔法食らってノーダメージなんだ?」

「おそらく、アヴィニヨンの鏡魔法でコピーした魔法はすべて鏡属性になる」

「鏡属性?なんだそりゃ」

「光と水の2つの属性よ。つまり……」

「闇と」

「土!」


 その一言を合図に。

上半身を闇に変え、棒立ちのままだった下半身に乗っかったクロがそのまま闇を展開する。

それに合わせてロミが土魔法を展開する。

 2色の閃光が絡み合って周囲に広がる。それぞれの魔力に属性を付与させただけなので、色のついた風と変わらない。

 直撃してもダメージはないが。


「あぶり出せたぜ、変態!」

「くそっ、黒髪の分際で!」


 変態ことアヴィニヨンは道に面した建物の屋根にいた。金髪に緑の目。ハッキリ言ってイケメンだった。


「おー、ナイスコンビネーション。てか、ちょっと体力回復」

「オノア!」

「はいよ」


 クロロミの阿吽の呼吸に感心しながら、ロミの声に応じてファイティングポーズをとる。

 中距離ならオノアの衝撃波が使えると踏んだのだ。


「ジャブ!」


 魔力を込めた右パンチ。素早く出されたその拳から魔力の衝撃波が発生し、アヴィニヨンへと襲い掛かる。


「残念、でもいいパンチだよ。オノアさん」


 オノアの衝撃波は屋根に風穴を開けたが、アヴィニヨンは見切っていた。


「あいつ、俺の時と口の利き方がちげえぞ」

「黙れ猿!」

 

 アヴィニヨンがまた消えた。


「くそ、また消えやがった」

「あーもう、自分の魔法パクられるなんてムカつくぅ!」


 シャスタが両手に【ピッチングマシーン】を展開する。自分が苦心して編み出した魔法を簡単にパクられて怒り心頭の様子だ。


「ちょっとまてシャスタ!俺たちまで巻き添えになる」

「何とか隠れてピンチョン!ロミ!オノア!それとクロ。半径20メートル爆破ああ!!!」


 両腕を中心に回転していたたくさんの光の球が四方八方へと飛び散る。その1つ1つが爆弾だ。

 自分の周囲を無差別攻撃。シャスタがパーティだと手に余る理由の1つだ。

 シャスタを中心に周囲の空気が震え熱波が巻き上がる。

 爆風が過ぎてみれば、家や建物、道路が木っ端みじんになっていた。

 きっかり半径20メートル。


「けほっ、けほっ、全くシャスタのやつ、精神がちっとも成長してないんだから」

「いや、すまん。俺が監督する役目なんだ」


 とっさに2人で魔法壁を展開し相乗効果を狙って無事防ぎきることができたロミとピンチョン。

 冒険者時代にコンビを組んだことはなかったがとっさの連携は流石だ。


「すごい魔力だなあ。またちょっと回復」

「俺ついで扱いされたよな?なあ」


 あたりに充満した魔力を深呼吸して吸い込み、体中のやけどを治癒させるロミ。

爆風で散り散りになった砂の体を再凝集させるクロ。

 各自声を掛け合い無事を確認し合う。


「つくづく人外だなあの二人。シャスタ、無事か!」


 ピンチョンが呆れたような声を出しながらシャスタの無事を確認する。シャスタは爆心地にいるはずだ。

 一歩踏み出したピンチョンのつま先が何かを蹴った。

 それは軽くて少し硬い。踏んだらぱきっと割れる音がした。

 派手な色のサングラスだった。


「シャスタアアアア!」


 爆心地はなかった。中心にいるシャスタにも爆風は襲っていた。

 シャスタは倒れている。髪の毛は焦げ、身体のところどころにやけどがある。オシャレに気合を入れた服装はボロボロになっていた。

 うめき声を上げるシャスタの近くの景色が歪む。


「傷ついたキミを見るのは心が痛む。だが僕が手を下したわけじゃない。これは君の魔法なんだ」


 顔の半分だけ鏡魔法を解除したアヴィニヨンがそう呟く。

 その表情は悲痛な面持ちだった。


「鏡魔法でリフレクションしておいてよく言うわ」


 獣人の脚力で背後を取ったロミ。アヴィニヨンの首筋があるであろうところに獣爪の突きを放つ。

 だが、アヴィニヨンは表情を崩さない。


「これはこれはオオカミのお嬢さん。素晴らしい身体能力だ。それに獣人の情熱さは好きだけど、少し周りが見えてない」

 

 刺さるはずの肉がないことでバランスを崩すロミ。たたらを踏む足が何かを踏みぬいた。

 直後、爆発。

 地面に突き上げられてロミが宙を舞う。

 無抵抗に地面にたたきつけられた。


「あ……ああ…」


 立とうとするも足を負傷したので立てない。


「そんな……私の【ストールンベース】…」


 これもシャスタの技だった。


「君たち2人をタラスに派遣したのはこの僕だ」

「手の内くらい把握してるさ」


 顔だけのアヴィニヨンが消えて、代わりに現れたのは2人。

 全く同じアヴィニヨン。

 端正な顔から奇麗な瑠璃色の瞳、そして高い身長までそっくりだ。


「分身…」

「「そうだ。僕は自分をいくらでも増やすことができる。どうだい、美しい僕がたくさんいるのは壮観だろう」」

「くそ、どっちがどっちかわかんねえ。ロミを助けないと!」


 クロがロミの方へと走り出す。

 それをアヴィニヨンが制止する。


「「おいむやみに走るな黒猿。その辺りには僕の【ストールンベース】が埋まってるんだぞ」

「なんだと」


 アヴィニヨンが埋めた地雷は1つではなかった。シャスタとアヴィニヨンがいる位置を中心にそこら中に埋められているらしい。


「くそ、うかつに近づけねえじゃねえか、シャスタ…」

「こいつ厄介だよ。きっと2人には倒せない」


 オノアが歩き出す。

 何の捻りもない直進だ。

 

「おい、オノア!」

「いいから。2人とも魔力貯めといてよ」


 シャスタが倒れ、ロミがうずくまり、その横でアヴィニヨンが2人いる。

 そこに向かってオノアは歩く。

 背が高く、今は細身なのでまるでモデルのようだった。

 だがそこは地雷原だ。


「おやおやお姉さん、それは勇気というより無謀じゃないかな。平気そうに歩いているし、君は不思議な丈夫な体を持ってるみたいだけど……」


 アヴィニヨンが言い終わる前に、オノアが【ストールンベース】を踏みぬいた。

 爆発音とともに、オノアが吹き飛ぶ。


「オノア!」

「右足が抉れただけ。まだ歩けるよ」


 長い脚がズタズタになっているが、歩行には問題ないと意に介さない。

 またオノアの足元が爆発した。


「見ちゃいられない!そこまでしてどうしてこの2人を助けようとする?自分の命が大切じゃないのか」


 アヴィニヨンが嘆息する。自分大好きな人間からすれば自分を傷つけてまで人を助けようとするオノアの心理が理解できないのだろう。


「君には分かんないんじゃないかな。きっと」

「小生意気な女性は嫌いじゃないけど、今は遠慮しておこう」


 再びアヴィニヨンが姿を消そうとする。

 すかさずオノアがまだ無事な方の脚でハイキックを放つ。

 射程距離外だが、弓状にしなった魔力の衝撃波がアヴィニヨンを襲う。


「ちっ、小癪な」


 分身だったアヴィニヨンが消える。代わりにその場にキラキラと鏡の破片が崩れ落ちた。


「なるほど、そっちが本体か」

「だが、これ以上の攻撃は出来まい。魔力不足だろう」

「オノア!パスだ!」


 クロが自分の魔力を球状にしてオノアの方に投げる。

 刺すようなレーザービームだった。


「俺の【追い風】もついてるぜ」


 ピンチョンの風魔法も加わってオノアに力を与える。

 骨が見えていた脚にも陶器のような肉がもどり、そして胸やお尻に肉がついた。紙の赤も濃くなる。


「元気百倍」


 オノアがステップで一気に距離を詰める。相変わらず極端に腕を上げたファイティングポーズでアヴィニヨンの懐に入る。


「消えた!?」

「いや、下だね。透明になるだけが消えるじゃない」


 顔だけを不透明化させているアヴィニヨンが辺りを見回した。オノアは消えたのではなかった。アヴィニヨンの死角へと入りこんでいたのだった。


「しまっ……」


 アヴィニヨンの形のいい顎めがけて、オノアの左アッパーがクリーンヒットした。

 アヴィニヨンが仰け反って宙に吹き飛ぶ。

 ずしゃあと間抜けな体勢で地面に衝突した。

 透明になっていた全身があらわとなる。


「ノックアウトしたか。これで地雷も消えただろう」

「ロミ!」


 シャスタとロミのもとへピンチョンとクロが走り回復魔法を展開する。


「ぷはあ~~~、死ぬかと思ったよお」

「厄介な相手だったわ」


 2人の回復魔法によってすぐさま元気になるロミとシャスタ。

 4人のところへとオノアが歩き出した時。


 発砲音が聞こえた。


「オノア!」

 

 4人の目の前でオノアが崩れ落ちる。受け身も取らずに地面に倒れ、焦点の合わない目。口が土を噛んでいた。

 こめかみにぽっかりと穴が空いていた。

 オノアが撃たれた。


読んでくださった方、おもしろいと思った方、よろしければ評価・感想等よろしくお願いします。

大きなモチベーションになります。

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