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巻き込まれ転移者が最強になるまで  作者: 南 京中
第2章 国境の村
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4話 シャーラタン

―王城内、廊下―

 メガネをかけた利発そうな女性が急ぎ足で角を曲がる。彼女が目指すのは大将専用の個室。3つあるうちの青い扉をノックする。


「失礼します。ギレルモさん、準備出来ました」

「悪いな、巻き添えにしちまって」


 あの後、王国に仇なすテロリストを取り逃がした責任を問われたギレルモは国境警備を命じられた。通常は中将がする仕事である。

 なのに、ギレルモに白羽の矢が立った。

 それはつまり、クロとロミを捕まえるまで王城の敷居を踏ませないというメッセージだった。

 ギレルモは1人で行くつもりだったのだが、コルネットはついていくと言って聞かなかった。


「手がかりは東っていうことだけ……長い仕事になりそうですね」

「東、か。王都から東に直進すると雪山シャーラタンにぶち当たる。簡単には越えられない山だ。さしずめ手前で立ち往生することになる」


 荷物を引きずりながら廊下を歩く。

 しばらく自室に臥せていたためギレルモは久しぶりに中庭の光景を見た。

 あっという間に修復されていた。ギレルモは宮廷魔導師の迅速な仕事っぷりに感心する。


「そうだ、ギレルモさん。ギレルモさんが担当してらした進軍計画ですが、すべてパブロ大将が引き継ぐことになりました」

「パブロがか。てっきりサルバドールが立候補すると思ったが」

「立候補しました。ですが計画があまりにも急進的で、王の承認を得られなかったのです」

「ま、俺を慎重すぎるって何回も忠告してきたしな。ということは俺が指導する予定だった英雄も」

「それがまだ、未定なんですよね。大将が1人ずつ英雄を指導してく予定だったのですが、ミヤコさんの今後についてはまだ会議中です」


 コルネットが前日決定された護衛軍の方針をギレルモに報告する。ここ数日、ギレルモが普段出席している会議にはコルネットが代理で出席していた。

こうしてギレルモの部屋に報告しに行くのがここ数日のコルネットの日課になっていた。報告だけ。サインはコルネットがギレルモっぽい筆跡で書いていた。


「そうか。とりあえず王国は進軍計画を進めたいってわけか。じゃあ仮に俺が進めてた計画をそのままパブロが引き継いだとして」

「先の戦争でつぶれた村、タラスを軍事拠点にする計画ですか」

「ああ。この数日中に中将の誰かを偵察に派遣するつもりだったんだが、パブロ派だと適任なのは……アヴィニヨン。あいつが任命されるだろうな」

「うぇぇ、あいつ。名前も聞きたくないぃ」

「相変わらずの女性人気だな。だが、あいつのは偵察にうってつけの魔法だろ」

「悪用してるとこしか見たことないんですけど」




――アレクサンドリア王国国境の村、タラス――

「オノア、こんなアルバムはどうだ」

「ん~、ん~……何も思い浮かばない。私のじゃない」


 あの後。

オノアはすぐ見つかった。

ロミが嗅覚を発揮して、だいたいの方角を絞り込む。

その後、クロがその方向に向かって水魔法を張り巡らせたのだ。

あの時のギレルモを参考にした。海水じゃなく真水を道路のうえに走らせる。もちろんその傍の建物の中にもだ。

つまるところ、クロの膨大な魔力にものをいわせた総当たり作戦だ。

 オノアがいたのはなんてことない民家だった。その中で一人、引き出しを開けて何かを探している。

 はたから見たら泥棒だった。


「うわあ!!!ってクロっぴとロミちゃんか。え、私を探しに来たの?」

「そりゃいなくなってたからな」

「何してるの?」

「あ~、見られちゃったんなら仕方ないな。私の問題だから2人が寝た後にこそこそやってたんだけど」


 引き出しを背に立ち上がってこっちに向かってくるオノア。ちゃんと立つとやはり背が高く手足が長い。窓から差し込む夜の光に青白い肌が照らされている。

 そしてその手には、斧が握られていた。

 ロミが構える。

 だが、


「こいつの使い手だった冒険者の夢を見てさ。村が戦争に巻き込まれた時、王国軍と帝国軍を相手に家族を守ろうとしたみたい。結果はダメだったみたいだけど」


 オノアは呑気に事情を説明する。

 メタアンデッドとして生まれてからずっと、源となった人間の記憶が突如浮かんでくるのだという。

 その人が生前大切にしていたもの。それが頭から離れなくなる。

 だから浮かんできた記憶を頼りに村を探し、それを見つけては今住んでいるレストランの裏に集めているんだという。


「実は今住んでるレストラン兼宿もそうだったんだよね。生まれてすぐは適当に寝てたんだけど、ある時あの店がパーンと脳裏に浮かび上がって、それから暮らしてるってわけ」

「集めてどうすんだ?」

「お墓作って全部埋めてあげる。忘れ去られた村を忘れないために、って私の村じゃないんだけど」


 真剣になりつつあった空気をかき消すように最後は笑いながら言った。


 一夜明けて、早朝。

クロとロミはオノアに協力することにした。本人は自分の問題だからと断ったが、


「まあ、一宿一飯の恩義みたいに思って」


 ロミの説得に押し切られた。クロは隣で熊のスープをすすっている。


「オノアちゃんにお礼したいのはもちろんだけど、彼女のもとになった人間の意識をいつまでもカオスに置いておくわけにはいかないの。現実問題」

「早く成仏してもらわないとオノアが引き裂かれて消えるってか」


 洗い物をしているオノアの背中を見ながらクロとロミがひそひそ話をする。ロミの考えでは、オノアはまだ自我が安定していない。オノアはオノアとしてまだ生まれていない。もし自我が不安定になってそのまま崩壊してしまったら、オノアはただの魔物になってしまう。

 そうなったらオノアを倒さなければならない。

 それは2人とも嫌だった。

 だから、


「じゃあ、これ。なんかぼろっちいぬいぐるみ」

「私の!いつも一緒に寝てた!置いてっちゃってごめんね!ありがとう、お兄ちゃん!……だ、そうです」

「この家の妹、かしら」


 その後、この家にオノアが反応するものはなかった。

お兄ちゃんが好きそうだったっぽい魔物図鑑を見つけたりもしたが、オノアは無反応だった。中身をパラパラ見ても眉間にしわが寄るだけ。

 

「ん~つぎは、ここかな

「ここ……って何の変哲もない道端だよな」

 オノアがつぎに引き寄せられたのは、とくになんてことない道端だった。


「いや、それが、なんでかな。とりあえずここに立ってみたくて」


そう言いながらオノアは自分が指さした場所に立つ。

するといきなり。

クロに向かって蹴りを放った。


「あ!ごめん!!」

「オノア!!」

「俺じゃなかったら顎が砕けてたな。で、それは誰の思い出だ?」


思わず出した獣爪をこっそりしまうロミ。

 正確にクロの顎を射抜いた左脚はそのまま首を貫いて、後頭部からつま先が飛び出ていた。


「格闘家だった男の人。どっち側かは分からないけど、相手の軍と素手で殴り合ってたみたい。あれ、もう立ちたくなくなった」

「蹴りさえ当たれば勝てたのにって思ってたんでしょうね。ものじゃなくてしたいことのパターンもある、か」


「ふぅー。いやーありがとね。特にクロっぴのアイテムボックスには助けられたよ」


 オノアが1人で夜中にしていた頃は、一晩に1つが限界だった。単純に手が少ないし、その手も1つ思い出の品を見つければ塞がってしまう。

 だが、3人で探す今回は、昼すぎには両手に抱えきれないほどの量が集まった。それらはすべてクロのアイテムボックスに入れてある。


「あれ?あんなところに山なんてあったんだ」

「山?」


 オノアが村の遠くに見える大きな山を指さす。その山は周りの山に比べてひときわ大きく、頂上は雲に隠れて見えない。中腹から上は雪が降り積もっている。


「あれ~。この村で生まれて結構経つけど、あんな大きな山あったかなあ。う~ん」


 歩きながら腕組みをして頭をひねるオノア。どうやら、村のことにばかり気を取られて、外の風景にほとんど注意が向いてなかったようだ。


「あの山の思い出はなんかないのか?」

「いや~それが、全く。どうして~、この村のことなら大体わかるのに~何であそこに見える山の名前もわかんないんだろ~」

「あんなでっけえ山なのにな。ははは、俺も知らねえ」

「シャーラタンよ。王国と帝国を分かつ世界一大きな山」


 クロとオノアの会話に答えを与えるロミ。そもそもこの戦争はシャーラタンという国境を乗り越えるために帝国が仕掛けた戦争だった。


「だから被害を受けた村ってここ1つだけじゃないのよね。まあ、オノアみたいな存在を生んだのはこの村が唯一でしょうけど」

「てことはあの山に行けばもっといろんな村があるのか。いろんな景色があって、色んな人が暮らしてる」


 オノアがの歩みが早くなる。突如テンションが上がったオノアに戸惑いながらクロとロミが様子を見守る。

 白銀の山とどこまでも続く青い空。

 その手前で赤い髪が跳ねる。

 

「私、この村の外を見てみたいな」


読んでくださった方、感想・評価等よろしくお願いします。今後の励みになります。

それと、第1章をリライトしたい欲が湧き上がってきているので、第2章の更新頻度が下がるかもしれません。ご了承くださいませ。

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