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巻き込まれ転移者が最強になるまで  作者: 南 京中
第2章 国境の村
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第3話 オノアはどこにいった?

 一夜明けて。

 

「やっぱりベッドは最高。幸せだった~」

「そりゃよかった。うちは寝具もこだわってるからね、って、私の店じゃないんだけど」

「お前は昨日どこで寝てたんだ?」


 昨日夕食を囲んだテーブルに再び集まり、朝食をとる3人。

 メニューは昨日と同じ熊のスープ。とはいえオノアがまた店の裏から出してきた食材を加えたので十分豪華である。


「私は1階のソファだよ。ああ、ずっとね、きみらが来る前からそうしてる」

「ふうん」


 クロとロミのせいで自分がソファに追いやられたわけではないということを強調するロミ。なにげなく返事したクロだったがその気遣いはしっかり読み取っていた。どうやら普段から2階を使わず、1階だけで生活しているというのは本当なのだろう。


「ていうかさ、2人はどうしてこんな村まで来たの?旅の途中?」


 オノアが当然の疑問を口にする。オノアが暮らす国境の村はたとえ無事であったとしてもなんもない村だ。だからクロとロミはどっかに旅立つ途中なのだろうとオノアは考えていた。


「そうだな。俺たちが目指してるのはイーストエンドだ」

「イーストエンド!?そんな夢の地に行こうってのか!?」


 メタアンデッドとして生まれたオノアもイーストエンドを知っていた。おそらく素材となった人間の記憶だろう。その人はイーストエンドを現実に存在しないおとぎ話だと思っていたらしい。


「って、なんで否定しているんだ私」


 だからオノアも自分で自分の語気が強いことにびっくりしていた。


「1人でどうしたのオノア」

「いや、たぶん私の源となった人間の誰かはイーストエンドが大嫌いだったみたい」

「じゃあお前もイーストエンドを信じてないのか」

「私は自分が見たことを信じる。人の記憶がいろいろ浮かぶけど、私は自分で見て決める」


 オノアは姿勢を正して自分を確かめる。


「ストイックだな。人のいうこと聞いてりゃ楽なのに」

「私の場合、自分の意志以外信頼できないからね。って、話をもどそっか。イーストエンドは私の記憶によるとどうやら、所在不明、実在するかどうかも怪しい場所らしいんだど、どうやって行くの?」

「クロはワンダーウォールが読めるの」

「ワンダーウォール?えーと、えーと。おっ、誰かが知ってた。世界中に存在する意味不明の文章が書かれた石」

「せいかい。それをクロはなぜか解読できるの。それによるとこの世の東の果てでワンダーウォールを作った誰かが待ってる」

「その人なんで待ってんの」



 オノアが疑問を発した時、突如玄関が蹴破られた。かつてドアがあったところに佇んでいたのは、人相の悪い男だった。


「はっ!こんな腐った村で誰がくっちゃべってるのかと思えば、結構な上玉じゃねえか。ま、片っぽは獣人だが」

「奴隷商!」

「奴隷商?」

「戦争があった時や災害があった時に、行き場を失った人を奴隷として売りさばく商人よ。本来なら平和的に奴隷を集めるけど、この人は違いそうね」

「わかってんなら話が早え。てめえら大人しくしてもらおうか。特に女は顔に傷でもついたら価値が下がるんでな」


 奴隷商の手にはナイフが握られていた。ロミが見積もったところによると、だいたい実力はCランク程度らしい。

 つい数日前に王国最高戦力と闘ったクロとロミにとっては恐怖ではなかった。なので2人は余裕を持って構えていたのだが、


「おい。お前、その指輪返せ」


 奴隷商のナイフを持つ手にはめられていた指輪に気づいたオノアが途端に表情を変えた。深紅の目の奥に怒りが宿っている。


「あん?この指輪がどうかしたか?大したブランドでもねえが、それなりの値段で売れるだろうと思ってな。悪いがもらっていくことにした。お前のだったのか?」

「ちがう!」

「ちがう?てめえのもんでもねえくせに何そんなムキになってんだよ?」

「その指輪は、プロポーズのためにとある男が必死にためた金で買った指輪だ。渡す前にこの村が戦争に巻き込まれてその男は死んだ。死ぬ間際、指輪を渡せなかったのを後悔しながら死んだんだ。私の一部だ。返せ!」

「はんっ。死んだ男のことが忘れられないってか。清潔な女だこって、いい値打ちするよお前」


 クロとロミを差し置いて、オノアと奴隷商の距離が縮まっていく。

 捻りなし。オノアはそのまま奴隷商のナイフを持った手をめがけて突進していった。


「馬鹿だなお前」


 隙だらけの頭に膝蹴りを当てようとする奴隷商。さすがにナイフで切り傷を付けるのはためらわれたのだろう。

 クロとロミにとっては遅くみえた。どうやらそれはオノアも同じだったらしい。

 だがオノアはそのまま攻撃を受けた。

 顔面で。

 それがオノアの戦略だった。


「噛みつき…?い、意識が……」

「悪人は不味いから嫌いなんだよな」


 奴隷商が理解したときには手遅れだった。膝蹴りを顔面で受けたオノアはそのまま奴隷商の脚に噛みついたのだ。

奴隷商はオノアに魔力を吸収され、気絶してしまった。倒れ伏した奴隷商から指輪を外しながらそんな感想を漏らすオノアであった。


「その指輪の、結婚がどうこうって話ほんとなのか?」

「ほんとだよ。あの指輪見たときにそんな記憶が頭に浮かんで、まあこいつは私自身の話だって勘違いしたみたいだけど」

「つまり、あなたの源になった人間の記憶ってこと。オノア、あなたまだ生まれてから日が浅いんだね」

「ねえ、こいつの膝で歯が折れちゃったんだけど」


 オノアが口をいーっとして2人に見せる。一本の前歯が根元だけになってしまっていた。膝蹴りを口で受け止めたときに折れてしまったのだろう。


「えっ、どうしよ。欠損は並の光魔法じゃ治せないし…」

「や、へーきへいき。私にはさっき吸収した魔力があるから」


 オノアの体は人間の体とは違う。魔力さえあれば大抵の傷は修復できる。奴隷商の魔力を使って、折れた前歯が修復されていく。


「すっげえな、メタアンデッド。じゃあ霞食って生きていけるってことか」

「はっはー。流石に霞は無理だなー。生き物をかじんないと魔力が吸収できない」


 そんなことを言いながら、3人で奴隷商を村の外まで運んで行った。あまり近いところに置いておくとリベンジしに来るかもしれないし、かといって森の奥に放置して魔物に食われたりしたら後味が悪い。

 そんなことを相談しているうちに時間が経ってしまい、よさげなところに寝かせて帰路につくころには夕方になってしまっていた。


「そうかー。きみたちテロリストなのか」

「そうなんだよー。捕まったら死刑だぜ」

「なんでそんな気楽なのよ」


 夕方、長い帰り道に話す話題がなくなってきたので、クロが簡単に自分たちが村に来た経緯を話した。

 特に包み隠すこともなく。

クロが記憶喪失であること。ロミが元奴隷であること。王都に存在する階級。王城に不法侵入したこと。そのせいでテロリストとして指名手配されているだろうこと。

 ロミも止めなかったのはオノアを疑ってないからだろう。


「ま、でも、たぶん2人とも悪いやつじゃなさそうだし、話だけ聞くとこの国って変だし。しばらくこの村に泊まってってよ。私生まれてからずっと一人だったし」

「いいのか」

「そう言ってもらえると助かるわ。私たち無一文だもの」

「村のものも私が見て記憶が蘇らないやつは使っていいし、って私の村じゃないんだけど」


 クロとロミはオノアの言葉に甘えることにした。

ロミのいう通り、2人は貧乏だった。クロはもちろんのこと、冒険者時代にためておいたロミの貯金もギレルモの洗浄により流されてしまっていた。

別に好き好んで熊のスープを食べ続けているだけではなかったのだ。


「はい、というわけで。今晩もまた熊のスープです」


 背の高い深紅の髪の女性がトレーをもっていう。昨日と今朝はロミが作っており、何となくロミが作る流れになっていたが、それを断ち切るようにオノアが立候補したのだった。

 といっても材料は熊と野菜しかない。

 そして3人とも料理の経験はない。


「正直言って味わかんないんだよね。私味覚ないし」

「いや、美味い」

「ほんと。店に出しても申し分ないわ」

「ほんとか。うれしいねー。実は作ってる時、記憶が浮かんでね。多分料理人だった村人の記憶だと」



「いいわよ、クロ」

「はあ、部屋に穴があるの忘れてたな」


 ロミが着替え終わったのでようやくクロはベッドから起きて水を取りに行く。部屋に入ってすぐベッドに座ったクロは、同じく部屋に入って着替えを始めたロミのために身動きが取れなくなってしまった。

 少しでも動くと部屋の壁に空いた穴越しにロミの御着替えが見えてしまうからだ。


「そうだクロ。オノアちゃんだけど、十中八九生まれてまだ数日ってところね」

「そうなのか。どうして」

「まだ人間の記憶が入り混ざってるでしょ。指輪もそう、突然キッチンに立ちたくなったのもそう。自分の源となった人間の記憶に自分の感情が左右されてる」

「たしかに、そうすると何か問題があるのか」

「まだ存在が不安定ってこと。ひょっとしたら体のバランスが崩れて消えちゃうかも」

「そんな。せっかく仲良くなれたのに」

「レアモンスターって、ある意味では脆い存在なのよ」

「オノアの存在を安定させる方法は」

「それが、私にも分かんない。メタアンデッドはずっと倒すべき存在だったから。死んでほしくないなんて初めて……」


 オノアがそのことをどれだけ自覚しているかは分からない。

 人は生まれたくて生まれるわけじゃない。気付いたら生まれて何となく目的を見つけてそれを生きがいに生きていく。

 クロはイーストエンドに、ロミはとにかく王国じゃないどこかに行きたかった。

 ならオノアは?

 

 そんなことを考えるとクロは眠れなかった。隣のロミはすやすやと眠っている。かわいらしい寝顔が壁の穴から見えた。

 クロはトイレに行くことにした。トイレは1階にしかない。階段を下りて、一度レストランを通らなければならない。

 半分寝ぼけたまま行きは通り、トイレを済ませた帰りにようやく異変に気付いた。

 それは1階中を探し回って確信に変わる。テラスまで出てそのまま2階までジャンプする。


「んん~どうしたの、クロ……」

「ロミ!オノアが、オノアがいない」


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