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巻き込まれ転移者が最強になるまで  作者: 南 京中
第1章 アレクサンドリア王国
12/29

12話 海

今回と次回は少し短いです。

 中庭に兵士たちが転がっている。彼らは気絶しているだけだ。

 その中に4人が立つ。距離感から見るに2人が挟み撃ちにされている。


「クロっていうのかお前。にしても大層な魔力だな」

「ギレルモ。ようやくアンタと会話ができるな」

「とりあえず私は逃げる方法を考えるわ」

「そんなこと、させませんから!」


 クロに銃弾は効かなかった。クロは銃弾を体内に留め、そして手のひらから一斉に発射した。

 空に向かって。その標的は光球だった。クロは中庭を照らす光球に向かって自分の闇魔法を込めて撃った。

 闇魔法は光魔法に相性がいい。だから中庭にはもとの夜が訪れた。

 兵士が次の明かりをともすより早く、クロが光を放つ。兵士たちが最後に見たのは昼よりも明るい光だった。

 熟達した戦士であるギレルモとコルネットは前もって目を隠すことができた。光魔法を放つよう指示したロミは最初から地面に伏せていた。


「何を話したいのかは知らんが、とりあえず俺もお前に聞きたいことがある」

「なんだ?」

「玉座のワンダーウォールには何が書かれてあった?そしてなぜおまえはあの文字が読める?」


今にも切りかからんとするコルネットを制しながらギレルモが聴く。


「ん、ああ、読めたよ。『東へ』だってさ。何で読めるかっていわれても、最初から読めたからとしか」


 特に隠すことなくクロが答えた。ロミはもちろんコルネットも気にかかるらしい。


「東へ?ほんと!?」

「ああ、そーなんだよロミ。城のに書いてあんのはこれだけだった」

「でもつなげて考えれば、我の待つここが東って推測できるわね」

「東?誰が待ってるっていうんですか」


 中庭を沈黙が駆け抜ける。ワンダーウォールの欠片の文は今まで全く解読されていない。だからその由来も不明なのだ。

 だが、ロミとクロは2つの文章を解読した。それをつなげて考えると、1つの目的地が浮かび上がる。


「ということはクロ。私たちが目指すべきは」

「イーストエンド」

「そこで誰かが、クロのことを知ってる誰かが待ってる。神話の時代からずっと」

「ふっ」

 

 クロとロミが意志を共有した時、ギレルモが呆れたようにと息を洩らした。


「ワンダーウォールは少なくともこの国が成立するのと同時期に制作されたといわれている、有史以前のオーパーツだ。まったく由来不明のために宮廷学者たちはほとんどお手上げ状態」


 それを読めるなんてな、とギレルモが一息おいて、


「だが死刑のリスクを冒してまで手にした情報が、実在不明のイーストエンド?リターンに見合ってなさすぎる」

「意外とリアリストなんだな」

「じゃなきゃ役人になんてなってないわよ」


 クロとロミに辛辣な返答を喰らいながらもギレルモは、


「記憶喪失のお前はさておき、仮にも王国民のお前ならわかるだろ。今現在多くのS級冒険者が世界中を旅して誰一人イーストエンドを見つけていない。自分が何で読めるかもわかんねえなら、やっぱりお前らはただのテロリストだ」

「くそっ、正論だな。だが俺は信じる。ここを脱出してイーストエンドを目指す」

「そうかい。まあ、こんな会話、そうさせないための時間稼ぎなんだが」


 いやにあっさりと手の内をさらした。


「お前、卑怯だぞ!」

「テロリストに卑怯もくそもあるか」


 次の瞬間、中庭が水に沈む。稼いでいたのはギレルモが魔法を張り巡らせるための時間だった。

 水に沈んだといっても水深は浅い。クロとロミはとっさに近くの置物に飛び乗った。


「さすがの魔力ね。勝てる気がしないわ」

「さっきからネガティブだな、おい」

「しかも私たちの話を聞いてくれそうもないし。とりあえずこの海に触れるのはまずい。どうにかして屋根に逃げましょう」

「だからさせないといってるでしょう!!」


 クロとロミの間を斬撃が走る。コルネットが振るった剣は2人を分断した。ギレルモの魔法はコルネットに影響していない。だから海に浸かったところも関係なく歩くことができる。

 

「クロ!」

「わかってる!」


 バランスを崩した瞬間、互いに意志を通じ合わせる。つまり、


「「はあっ!!」


 ロミがコルネットに風魔法の刃を、クロがギレルモに石の弾丸を放つ。


「一応無詠唱できるんだな」


 いとも簡単にクロの石魔法をよけたギレルモが感心する。目の前に重力魔法で浮かんでいる少年は結構魔法を使えるらしい。伊達に城に不法侵入できたわけではないということか。


「あん?無詠唱?ああ、俺喋んねえよ。なんかだせえし」

「唐突にE級冒険者をディスるな」


 クロは砂魔法を発動し右腕を砂へと変形させる。石魔法も砂魔法も土魔法の変化形。それ自体はロミの指導により造作もなく出来た。土魔法の変化形であるために水魔法と相性がいい。


「いいパンチだ」


 重力魔法で加速し、正面切っての右ストレート。ギレルモは微動だにせず、海魔法で受けきるつもりだ。右腕に水をまとわせカウンター気味に水流をぶつけようとするのを動体視力は捉えていた。

 砂を固めた拳と水流。勝ったのは、


 「くっそおっ」


 ギレルモだった。水流はクロの拳を貫き右腕を破壊した。だが相性では勝っているため、ダメージはない。勢いで吹っ飛ばされたクロだったが、背中が水面につく直前に重力魔法を展開して体勢を整えることができた。


「な…なんでだ」

 

 相性というセオリーが通じないという事実はクロを困惑させた。


「相性なんざあくまで基本だからな。技量次第でいくらでもひっくりかえせる。だがその体質は厄介だな」


 ギレルモが水面を走り向かってくる。それと同時に黒の足元の水面が渦巻き、水流となってクロを拘束しようとする。


「効かねえよ!」


 だがクロは全身を砂に変え襲い来る水を吸収するので、それは出来なかった。

 それでもギレルモの時間稼ぎには十分だった。

 水流に気を取られたクロを掴み、そのまま水を爆発させる。

 クロは木っ端みじんとなった。

 ギレルモの周辺に雨が降り注ぐ。


「はぁ、はぁ、はぁ。ちくしょー、どういうことだ」


 近くの花壇に砂が集まり人形を形成しやがてクロになった。外見上何のダメージ設けてなさそうだがしかし顔には戸惑いが浮かんでいた。


「そんな体質初めてみる。お前もしかして魔物とのハーフか?」

「知らねえ。こっちが聞きたいくらいだ」

「教育を受けた跡もない。魔力の流れがめちゃくちゃだ」

「相性通りにいかねえのは魔力の流れのせいか?」

 

 クロの疑問に答えずギレルモが再び攻撃を加える。今度は上下から水流によるプレスだった。クロは避けられずぺしゃんこになる。


「っはは、水と砂で泥か」


 今度は花壇に泥人形が現れ、やがてクロとなった。


「魔力の流れってなんだ……魔力の流れ」

「三度目だ」


 ギレルモが水流を放つ。今度は3つ。ただしさっきよりは細かった。今回は刺すつもりなんだろう。


「どうせ相性通りにいかねえんなら」


 別々の方向から来る鋭利な水流をどうかわすか。クロの出した答えは、


「蒸発させる!」


 火炎魔法だった。

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