〜佐藤光雄 編〜
彼女へ全てを打ち明ける決断をした佐藤さんは病室で彼女と再開する。
長かった様な、短かった様な、そんな時間を彼女と病室で…。
「おかえりなさい光雄さん。」
彼女は彼が病室に入ると、手に持っていた本を机に置いた。
「ただいま…これ病室でやるの恥ずかしいんだが。」
彼は恥ずかしながらも返事を返した。
「そうなの?私は家に帰れないから、この一連の流れはとても…好きだな。」
彼女は少し寂しそうにしながらも悟られない様に必死にこらえていた。
そして、その姿を見た彼も涙を見せまいと必死に歯を噛み締めていた。
「そうだ!いいお知らせがあるぞ。もうすぐ退院できるらしい!」
彼女の寂しそうな顔に耐えきれず彼はおどけた態度で報告した。
「本当に?嬉しい…。」
それでも彼女はどこか寂しそうに返事をした。
いつも明るい彼女の顔が…とても寂しそうだった。
きっと彼女は、彼が自分を励まそうと無理に明るく振舞っているのに気付いたからだ。
彼が伝えなければならない事があると彼女は察しているのだ。
そのうえで、彼女は彼が口を開くのを待っている。
(クソッ…何で言えない…。彼女は待っているのに。俺はさっき決めたばかりじゃないか…)
そっと…彼女は囁くような、か細い声で喋り出した。
「光雄さん…私は嬉しいの。ここまで私の事を想ってくれる人がいる事が。私の為にきっと泣いてくれる人がいる事が…。光雄さん安心して。自分の体の事はよく分かるの…。もうあまり一緒に居られないんでしょ?」
彼女は泣いていなかった。
笑顔でいた。
情けない彼を包み込むような。
許すような笑顔を彼に向けていた。
「く…うぅ…うっ…」
彼からは出尽くしたと思っていた涙が溢れた。
明るく振る舞うつもりが上手く伝えられなかった。
彼女の腕の中で彼は声を殺して。泣いた。
そして彼は全てを彼女にうちあけた。
今回もお読みいただきありがとうございます。
今回は彼女への想いと、彼からの想いを受け止める彼女を描きました。人は決意しても、その時の場で簡単に揺らぐもので相手の事を想えば尚更言い出しにくくなってしまうのではないかと。これは相手の気持ちを全ては理解出来ない故に正しい行いか自信が持てないからなのかなと思います。
拙い文章ですが読んで下さった皆様に感謝の思いで一杯です。