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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第一部【始まりの冒険】
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防衛戦②

庭に瓦礫が積まれた地点は2箇所。

今、ビービー兄弟がいるところと、クリスティアーノがいるところだ。

金持ちの庭だけあってまぁ広い。

庶民の民家なんざ、軽く2、3軒は並ぶんじゃねぇかな。

そんだけ広いくせに、植え込みとかそんなんは一切ないし、目隠しになるような場所はその2箇所しかねぇ。


つまり今、庭を走ってる俺は格好の的ってことだ。


魔族が紫色の光線を放つために、左腕を上げるのが見えた。

俺は進行方向へ顔を向けたまま、真横に向けて体を倒した。

読み通り、光線はつい今しがたまで俺が走っていた場所を、地面の下草ごと根こそぎ焼き尽くしながら通り過ぎていった。

倒れた勢いを使って前転し、立ち上がると再び走る。


「エジル!こっちだ!」


瓦礫に隠れるクリスティアーノが俺に手を振っているのが見えた。

まずはそこを目指す。

前方では、再び魔族の左腕に光が集まっていくのが見えた。


「ヴェルウィント!」


俺は簡略化した術式を結ぶと、右手から弱い突風を放つ。

俺の放った突風が到達しようとする瞬間、魔族は左腕の光を解除すると突風を打ち消した。

その少しの時間を使い、俺はクリスティアーノが身を潜める瓦礫の陰への到着に成功した。


「思ったより追い詰めてはいるんだな。」


俺はできる限り呼吸を落ち着かせるよう、ゆっくりとしたペースでクリスティアーノに声をかけた。


「ああ。

初手のサントシャーマが直撃したからな。右半身は使い物にならないだろう。が、そのせいで怒らせちまったみたいだがな。」


「最期の悪あがきってわけか。」


「かもな。

だが、この距離は俺の射程外だ。最期にはまだまだ遠そうだ。」


「どこまで詰めればいけるんだ?」


「確実ならば、

せめて屋内までは。」


「遠いな。」


俺は苦笑いを浮かべながら、ビービー兄弟の動きに注意を払った。

ルイーダの言っていたこと、まずは試さねぇとな。

暗がりの中、カリムが術式を結ぶのが見える。


「グレイス!」


その手から氷のつぶてが放たれた。

続き、ギャレスが術式を結んでいる。


「フレイム!」


瓦礫に隠れるようにして火の玉を放つ。

しかし、やはりこちらの攻撃は魔族に当たることもなく、生み出される障壁みたいなものに阻まれる。


「どうする?

このまま膠着じゃ、先に魔力が切れるのはこっちだぞ。」


「分かってるよ。このまま、ならな。」


カリムが術式を結び始めた。

俺はその動きのうち、大体半ばくらいのタイミングでヴェルウィントの術式を組み上げた。


「ヴェルウィント!」

「グレイス!」


カリムが術を放つ直前、俺は大きめに練り上げた突風を放った。


風の塊が兄弟のいる瓦礫の脇を掠める。

と同時に、カリムが放った氷を飲み込んだ。

氷は風に飲まれると、切り刻まれるように細かく砕ける。

次の瞬間には、俺の突風とカリムの氷は混ざりあい、まるで猛吹雪の塊みたいんなって魔族に襲いかかった。


同じく障壁を張る魔族。

障壁にぶつかる吹雪。

激しくぶつかり合う力と力が凄まじい音を響かせる。

障壁が歪んだように見えた。

次の瞬間、吹雪の塊が魔族の盾を破壊し、その本体を飲み込んだ。


「嘘だろ。」


俺は思わず呟いた。


「エジルの風なら、火も氷も、威力を高めることができるはずだよぉ。ヴェルウィントをふたりの術に被せてみぃー。きっとすんげぇことになるからさぁ。」


ルイーダの言葉が頭の中で再び繰り返される。

そして事実となった。


「すごいぞ!

エジル!」


俺の隣でクリスティアーノが歓声を上げた。


「よくもまぁ、こんなこと考えつくもんだ。」


俺は思わず違う意味での苦笑いを浮かべていた。


俺とカリムの放った吹雪はかなり堪えたらしい。

魔族の体の表面は凍りつき、背後へとのけ反った姿勢で固まっていた。

俺はその隙をついて瓦礫の陰を飛び出した。

クリスティアーノもそれに続く。

どうやら魔族は本気で動けないらしい。

俺とクリスティアーノの動きに全く反応する気配はない。

俺達が兄弟の元へと辿り着いたその辺でようやく動きを取り戻したくらいだった。


「なんだい?今の術は?」


ふたりの脇に身を屈めた俺に向かってカリムが問いかけてきた。


「理屈は俺も分からねぇが見ての通りだ。お前らの術と俺の風とは相性がいいらしいな。」


「確かに理屈と言うならば、火は風を受けてより荒ぶりますね。」


「ああ。本命はそっちだろうな。」


「分かりました。やりましょう。」


言うや否や、ギャレスが術式を練り始めた。

その掌に大きな火の玉が生み出される。

俺はその火の玉に向けて精神を集中した。

周囲の風をそいつに注ぎ込むように。


「ブリーゼ。」


力ある声と共に、風を吸い込んだ火の玉が大きく燃え盛る。


「すごい。なんて熱でしょう。」


「まるで上級術みてぇだぞ!」


「いいか?クリスティアーノ。この術を放った瞬間、出るぞ。術に隠れて接近して、直撃した直後をお前の術で仕留めるからな。」


「ああ、

分かった!」


ギャレスが掌の中で巨大に膨れ上がった炎を練り上げると、そいつは更に大きく、まるで太陽みてぇな輝きを放った。


「いきますよ!フレイム!!」


ギャレスの力ある言葉と同時に炎が吐き出された。

とてつもない光を放ちながら。

が、威力を意識するあまりに巨大に育てすぎたようだ。

遅い。

魔族が完全に動きを取り戻すと、その炎に気が付いたようで宙へと舞い上がった。


「しまった!」


カリムが吠えた。


「いくぞ、クリスティアーノ。」


俺は瓦礫から飛び出した。


「おい!

エジル!今じゃないだろう!」


俺はその言葉を無視して炎に向かって駆けた。

近付くにつれ、炎の発する灼熱が俺にも襲いかかる。

肌が焼けるのを感じるほどに近付くと、両手を胸の前で合わせた。

魔族の位置は、およそ応接間の天井ほど。

その辺を狙っときゃ問題ないだろ。

俺は力ある言葉を放った。


「ヴェルウィント!!」


俺の放った突風が炎の玉に突き刺さった。

と同時に凄まじい爆発が起こり、炎は唸りをあげながら魔族に向かって襲いかかった。

まるで炎の竜みたいにな。

至近距離での爆発に、俺の体も激しく吹き飛ばされる。

しかし、それと同じ勢いで炎の竜が魔族を飲み込んだんだ。

吹っ飛ばされながら、その竜について走るクリスティアーノの姿を捉えた。

上出来だ。

火竜に食らいつかれ、燃え盛る魔族の正面にクリスティアーノが翔んだ。


「とどめだ!

サントシャーマぁー!!」


聖なる光がクリスティアーノの拳に集まると、その突きと共に音もなく放たれた。

まばゆいばかりの閃光が炎の渦を貫いた。


俺は目を疑った。


炎の渦の中心にぽっかりと風穴が空いた。


と同時に、宙を漂うクリスティアーノの背後に炎が回り込んだ。

それが何だかは、見えなくても理解できた。

魔族だ。

炎に包まれ、もはや生死すら定かではない状態で、クリスティアーノの背後を取ったのだ。


俺は吹っ飛ばされながら体勢を立て直す。

瓦礫に叩き付けられる寸でのところで、なんとか足を瓦礫に付くことに成功した。

強烈な圧力が足に掛かる。

クリスティアーノは背後を取られた事に気が付いてねぇ。

俺が見る限り、刺したと思い込んでる。

こりゃまずいわ。

全力で踏ん張りながら、俺は術式を結んだ。


その時、俺の体中に何かが降り注いだ。

冷てぇ!

極限まで神経を研ぎ澄ませていたから、それが水だってこと、俺は一瞬で理解した。

瓦礫の上に視線を送ると、そこには木のバケツを両手でひっくり返したルイーダの姿。


俺は力ある言葉を叫んだ。


「フルーゲン!」


風が俺を包み込んだ刹那、俺は火の粉が弾けるようにして瓦礫の山から飛び出した。

初めて体感する速度だった。

まるで大砲から打ち出された砲弾みてぇに、俺の体は応接間の上空に向けて宙を翔けた。


魔族がクリスティアーノの背に向けて光線を放とうと腕を上げた瞬間、俺はそいつに向けて全力で体を突っ込ませた。

魔族を覆う炎が俺の体まで蝕もうと触手を伸ばす。

もし水をかぶってなけりゃ、今頃俺は炭クズだろうな。

そんだけの凄まじい炎だった。

俺の渾身の体当たりに弾き飛ばされ、魔族の体が高々と宙を舞った。 


「エジル!?」


振り返ったクリスティアーノと目が合った。


「やっぱり、

お前を仲間にして正解だったぜ!」


その両手に再び聖なる光が収束していく。

咆哮と共に、特大の光の帯が天を突いた。

閃光が、まるで昼間みてぇに辺りを照らす。

魔族は光の帯に飲み込まれると、夜空に溶けて消えた。




光が途絶え、俺の体は力無く夜空からこぼれ落ち始めた。

もう術を使う気力も体力も、欠片も、微塵も残っちゃいねぇからな。

そんな俺の体を空中で絡め取ったのはクリスティアーノだった。

俺の胴体を脇に抱えながら、長い跳躍を終えると、クリスティアーノは華麗に地面に足を着けた。


「エジル。

倒そうぜ、俺と一緒に。

魔王をよ。」


顔を上げると、クリスティアーノが歯を光り輝かせていた。




つづく。


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