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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第四章【創世記】
79/84

船出

「そいじゃあ行ってくるねぇー。」


ルイーダが能天気な声を上げた。



ゲルトとの決戦から二日。

乗組員に必要な物だけ残し、船から物資を根こそぎ運び出した後、ゲルトの一団は再び海へと去っていった。

ヨハン達との次の取り引きを行う為、一度ギルドの街へと戻り新しい物資を調達してくるとのことだ。

ゲルト達が今後も利益を上げるにはヨハンの代行を続けて砂糖を得る道しかなかった。

実質的にヨハンの傘下に置かれたのだ。

フランツはそのまま島に残り、ヨハンの村の一員として受け入れられた。

ここからが本当の門出だった。




「ルイーダ。本当に俺も行かなくて平気?」


ヨハンがルイーダの服の裾を握りながら、彼女の顔を見上げた。


「え?大丈夫だって。フランツいるし。」


「本当に?寂しくなったりしない?お腹痛くならない?しりとりしたくなったらどうする?」


「しりとりなら一人でも出来るよぉ。」


「おい!僕がいるだろ!なんで一人でやろうとするかな!」


フランツが盛大につっこみを入れた。

三人を囲んでいた村の住民から笑い声が起こった。


この日は、ヨハンの村の代表として初めてギルドとの取り引きへ旅立つ日だった。


村から砂糖を搾取しようとするゲルトの企みを知ったその時から、この計画は動き始めていた。

正確にはゲルトの企みを予測した上で、計画は既に秘密裏に進められていたのだが。

フランツがルイーダに頼んだ二つ目の依頼が、この船の存在だった。

フランツは故郷へ旅立つ前に、ルイーダに船を用意出来ないかを尋ねていた。

ルイーダならば、船を建造することも可能なのではないかと思ったからだ。

そしてルイーダはその期待に応えた。

初めは自らの隠し文献と言うか日記の中から船の建造について調べていたのだが、その過程で建造方法ではなく自分が過去に乗ってきた船があったことを思い出した。

ダニーに伝書鳩が手紙を携えてきたあの朝、ヨハン達はこの計画を本格的に始動させる時だと知り、洞窟へと向かったのだった。

そしてフランツの登録書とルイーダの船を持ってして計画は完成となり、ゲルトを打ち破るに至った。

この旅立ちは大いなる一歩だ。


話し合いの結果、ギルドの街へと向かうのはフランツとルイーダに決まった。

道中での操船技術や、街に着いた後の交渉術、など、全てを兼ね備えているのは村に二人しかいないのだから妥当な決定だった。

そんな二人の出航を見送るため、村の人々が入り江へと集まっていた。


「お腹減ったらちゃんとご飯食べるんだよ?あとちゃんとお水も飲むんだよ?でも落ちてる物は拾って食べたらダメだよ?」


「私は動物か?」


ルイーダの旅立ちが決まってからと言うもの、ヨハンはずっとこの調子だった。

暇を見付けてはルイーダの側に来て、こうやって色々な心配事を口にしていた。

気持ちは分からなくない。

初めて家族に等しい人と長い時間遠く離れるのだ。

ヨハンほどの年頃の子供なら当然の感情だろう。

だからルイーダも多少は煩わしく思う部分があるものの、邪険にせずにこれに付き合っていた。


「大丈夫よ。ヨハン。

私は必ず帰ってくるからね。」


「本当に?本当だよね?」


「本当に。はい、じゃ、お出掛けのチューして!」


ルイーダが頬を付き出した。

「しないもん!」

そんな言葉を期待していたのだが、

ヨハンはルイーダの身体に顔を埋めて力一杯にに抱き付いた。


「チューより全然恥ずかしいじゃん。」


「・・・・・。」


「あーぁ、ヨハンは赤ちゃんだなぁ。」


「・・・・いいもん。赤ちゃんでいいもん。」


ルイーダもヨハンの小さな身体をギュッと抱き締めた。


「絶対に帰って来てね。

帰って来なかったら、俺、怒るよ。」


「約束するよぉ。

もし帰って来なかったら、その時はヨハンが迎えに来てね。」


ルイーダはにっこりと微笑むと、ヨハンの頭を優しく撫でた。

それからダニーの前に移動すると、彼女の肩に両手を置いて話し掛けた。


「ヨハンのこと。宜しくね。」


ダニーは無言で頷いて、ルイーダに抱き付いた。


「二人とも赤ちゃんだなぁ。」





「さぁ、そろそろ行こう。」


フランツが声を掛けた。

ルイーダの小さな船には、乗せられるだけの砂糖の壺が積み込まれていた。

ルイーダは颯爽とその隙間に腰を降ろすと、フランツに言った。


「早く出してよね。」


「手伝えよ!」


こうして二人は大海原に繰り出していった。

村の希望を乗せて。





ルイーダの船は小さいながらも想像のかなり上を行く乗り心地の良さだった。

大海の波にも動じない安定感で、グングンと前に進んでいく。

フランツを驚かせたのは船だけではない。

ルイーダそのものの航海術の高さだった。

操船技術もさることながら、星を読む力や天候を読む力など、森で生活しているとは思えないほどに卓越していた。

基本的な生活を船上で行ってきたフランツをして、その技術には舌を巻くものがあった。

無論、ルイーダは森の生活に不要なその航海術を文献に残して記憶から消しており、航海が決まってからようやく読み返して思い出したことなどフランツは知る由もない。

フランツにとっては、出来ない事など本当に何も無いこの女に畏敬の念を抱かせるには十分な出来事だった。

そんなことは気に掛けるでもなく、当の本人は凪ぎの間中、船漕ぎをフランツに押し付けて鼻をほじっているだけなのだが。



船の上に座るだけの生活を続けるのも早いもので七日が過ぎた。

二人がいい加減それに飽きてきた頃、遂に北の大陸へと到着した。

道中、嵐に巻き込まれたりや謎の海獣に襲われることもなく、二人の旅は平凡に終わりを告げた。

大型船の隙間を縫うように港を進むと、フランツはギルド管理の船着き場に船を着けた。


「だぁー!やっと着いた!おケツめっちゃ痛いんですけどぉー!」


ルイーダは久々の揺れない地面を満喫しながら大きく伸びをした。


「それにしてもたったの七日で辿り着くなんて、一体どんな魔法を使ったんだい?」


「よし!まずはお宿だよ!お風呂に入るんだよ!」


「よーし。そうか。僕の話は無視か。あーそうか。」


「別にぃ、一番速い潮の流れに乗っただけからねぇ。まだ誰も知らないようなねぇ。

それと、臭いから近寄らないでよねぇ。」


「君も大概な臭いだよ!

まずは砂糖を倉庫に運んでからだ。宿はその後に探そう。」


「っえー!?まだ何かすんの?めんどくさいなぁ。」


「こんなところに砂糖を放置して行けるか!盗まれるぞ!」


「しょーがないなぁ。手伝うのはちょっとだけだからねぇ。」


「くそ。なんかヨハンに対してとはえらく違う扱いだな。」


「ヨハンみたいな可愛い男子と一緒だと思うなよぉ。このゴリラ!」


「言っとくが、その可愛いヨハンもいつかはゴリラになるんだからな。覚悟しとけよ。」








フランツが人手を借りる為に港のギルド出張所へと赴いている間、ルイーダは一人で船番を務めていた。

桟橋の端にしゃがみ込み、白い街を眺めながら。

元を辿ればここもただの入り江だ。

小高い丘に囲まれた静かな入り江に港が作られ、丘の斜面には白い石で造られた家々が並ぶ。

青と白のコントラストは、まるで砂浜が丘の上まで延々と続いているかの錯覚さえ引き起こした。

(ここもこんなんになったのかぁ。)

彼女がこの入り江に最後に立ち寄ったのは、島へと向かう直前、たった今彼女の目の前にいるこの海の相棒を作った時の事だった。

気の遠くなるような遥か昔の出来事だが、戻って来てみればまるで昨日の事のように鮮明に思い出すものだ。

しかし、ここで回想シーンに入ると長くなるのでルイーダは考えるのをやめた。


フランツが戻り倉庫に砂糖を運び終えた後、二人は宿をとった。

宿に泊まるには、物を介して取り引きをするわけではない。

物の代替となる木札を使うのだ。

この街では他の地域に先駆けて、通貨の概念が誕生していた。

トレード場で使用する木札とは別に街でのみ使える木札が用意されており、フランツは港の出張所で若干の砂糖で木札と交換してきていた。

(戻ったらこのシステムはパクっちゃおうかなぁ。)

木札を宿の女将に手渡すフランツを見ながら、ルイーダはそんな事を考えていた。

その日はとりあえず休むことに専念し、二人は翌日からトレード場に入ることにした。



そして一夜が明けた。



「昨日はお楽しみでしたね。」


女将がそう言った。


「二部屋とってんだろ。」


フランツが返した。



二人は倉庫からありったけの砂糖を持ち出すと、トレード場に向かった。

二人の持ち込んだ砂糖の量に、場内は騒然としていた。

それはコショウでも他の物資でも、未だかつて無い程の途方もない量の高級品が持ち込まれてきたのだ。

持ちきれない程の木札との交換に、急遽、ギルドのスタッフが幾人か駆り出されて荷物持ちならぬ木札持ちをしなければならない程だ。

ひとしきり手続きを終え一息つくと、まずやることはひとつだった。

フランツは造船業者の元へと向かった。


「どぅえっへっへぇ!見てよフランツ!これ!

このネックレス、キンキラキンだよぉ!キンキラキン!」


業者を目指す道中でルイーダは、幾度となく無くトレード場のトラップに引っ掛かってはこんな声を上げていた。


「うっわぁー!すっごいフサフサの毛皮のコート!絶対に私に似合うねぇ!いやぁマジおねーさん似合うよねぇ!まるで体の一部かってくらい似合うよねぇ!私を引き立てる為に存在してるかってくらい似合うよねぇ!おねーさん究極に可愛くなっちゃうねぇ!」


その度にフランツはルイーダに歩みを止められ、その美貌を褒めちぎるようしつこく強要されたり、


「これ欲しいなぁ。私、今日が誕生日だったの思い出したなぁ。あー、誰か優しい美男子が買ってくれないかなぁ。」


貢ぐよう強要されたりした。


「買い物に来たんじゃないからな!」


「ををっ!見てよこの鎧!これなんかフランツにピッタリじゃないかなぁ?」


フランツの突っ込みは完全に聞こえないようで、ルイーダはマイペースにそう言って防具屋の店頭を指差した。

そこには、極上の革を張り合わせた上にきらびやかな装飾が施された、非常に豪奢でかつ高価な鎧が陳列されていた。


「えっ!?うわ、すごい格好いい鎧だな。」


「これ着たらフランツ、今の百倍は強くて格好よくなっちゃうんじゃないの?」


「え?本当?そうかな?」


「そうそう。これ買いなよ。その代わりおねーさんにもキンキラキンとフサフサ買ってよ。」


「どっちにしろ僕が払うのかよ!」






もちろんその様な贅沢品に村の大切な財産を使うほどこの二人は間抜けではないが、


「ちっとあれ本当に欲しいから、お金増やしてこようかな。」


「今なんて言った?」


後にルイーダの代名詞となる悪癖が初めて露見する機会にはなったのだった。





「へいらっしゃい!」


造船業者のブースはトレード場のかなり奥の方に位置していた。

今、人間は続々と海へと乗り出し、新たな大地、新たな資源、新たな出会いを求めている。

船造りという職は時代が求める最も旬な職業だ。

その恩恵に与るべく、少しでも建築などに自信のある者はこぞって造船職人を名乗り、競って客を取り合っていた。

造船業のブースは、このトレード場の中でも今や花形と言っていい程の賑わいぶりだった。



「お客さん!船を造りたいのかい!?うちが一番速い船を作るぜ!」


「いやいやうちの船は一番大きいんだ!荷物をたんまり積めるぜ!」


「いいや!うちの船が一番安全だ!海では安全なのが一番大切なことだろ!?」



ルイーダ達が造船ブースが集まるエリアに足を踏み入れた途端に、自前のパンフレットを手にした業者達がわらわらと群がってきた。

それもそのはずで、先にも述べたがルイーダ一行は大量の木札をこれ見よがしに運んで歩いているのだ。

一目で一番の鴨だと分かってしまうのは仕方がない。

トレード場に出店している造船業者は十。

そのほとんどが二人を取り囲み、自分のところで船を作るように口々に騒ぎ立てた。


「どうだい!?うちで作りなよ!」


「うちだうちだ!安くしとくよ!」


「そっちの連中はてんで腕がねえぞ!うちにしとけ!」


熱くなった業者達はいつの間にか次第にお互いを罵り合い始め、それどころかその場で取っ組み合いにまで発展し始めた。

仕舞いにはルイーダ達二人まで巻き込まれ、業者に揉みくちゃにされるに至った。



「うるっせぇー!!!」



堪り兼ねたルイーダが、業者を押し退けて怒鳴り声を上げた。


「ごちゃごちゃとうるっさい!そんなに自分とこでやらせたいなら、全員並んでプレゼンしなさぁーい!」


まさかこの女がキレるとは思ってなかったのか、その場にいた全員が凍りついた。

どちらかと言えば男がキレると思っていたからだ。


「ぷ、プレゼント?」


「いや流石に船をタダであげるわけにはいかんよ。」


「違うわ!プレゼントじゃなくて、プレゼン!あんた達のイチオシの船の案とその予算と製造期間を提示しなさいって言ってんの!!」


ルイーダの言葉に、今度は全員がキョトンとした顔をして彼女を見つめていた。


「いい?まずはあんた達の側から一軒につき一つまで見積もりを企画書としてまとめて私に渡すこと。それを見比べた上でどこに依頼するか決めます。先に言っておくけど、一切の談合は禁止!もし万一、三軒以上ほとんど同じ見積もりを提出したところがあればそこは全部落選だからね!期限は今日の日没まで。もう一回戻ってくるから、その時に回収します!」



この案には、業者達も割りと納得がいったらしい。

ルイーダ達を取り巻いていた者達は、一斉に自分のブースに戻って直ぐ様企画を練り始めたようだった。

つい先刻まであれほどに騒然としていたにも関わらず、今ではルイーダ、フランツ、そして数人の木札持ちを残して、造船エリアの通路からは人っこ一人いなくなった。


「君、よくそんなことあの一瞬で思い付いたね。」


「私ねぇ、汗臭いの嫌いなんだよねぇ。」


フランツがこの女に更に尊敬の念を抱いたのは言うまでもなかった。


かくしてこのギルド、それどころか、世界で初めての入札と言うものが行われることとなった。



造船エリアはようやく静けさを取り戻し、二人はやっと落ち着いて各業者を観察出来るようになった。

もちろん決定は入札を受けてからではあるが、前もってどんな業者なのかは知っておく必要がある。

例えどんなに企画の内容やコスト面で秀でていたとしても、腕が悪ければ元も子もない。

熱心に企画書に取り組む業者達の雰囲気と、店頭に掲示されている過去実績などを確認して回った。

その中に、先程ルイーダ達に勧誘を仕掛けてこなかった業者がある事に気が付いた。


エリアの端の端。

こぢんまりとブースを構えるその業者に目が止まった。

そこでは小柄な男が二人、一心不乱に製図を行っていた。

他のブースの様な過去の実績を書き連ねた看板などもない。

まるで作業所のように机と本棚が置かれただけの殺風景な空間は、そこが造船業者だと予め分かっていなければ、何をしているところなのかも察せない程に何もなかった。


「あのー。」


ルイーダがブースの外から男達に声を掛けた。


「・・・・・。」


返事が無い。

二人とも完全に集中しきっている様子だ。


「おーい。」


「・・・・・。」


「聞こえてませんかー?聞こえてませんねー?バーカ。」


「誰がバカだ!?★」


男の一人が勢い良く顔を上げた。


「聞こえてんじゃないの!返事しなさいよ!」


「俺はバカじゃねぇぞ!♪まずは謝れ!♥️」


「無視しといて謝れとはなにさ。」


「無視してないぞ♣️集中してたから聞こえないフリしていただけだ♦️」


「それが無視って言うんですけどねぇー。」


「とにかくうるさいぞ♠️あっちに行け★」


男が追い払うように手首を振った。

しかし、ルイーダは目敏くその机の上の図面に目を留めていた。


「ねぇねぇ、お邪魔するよぉー。ちょっとその図面見せてみなよぉ。」


「おい!♪勝手に入ってくるなよ!♥️」


嫌がる男を押し退けて、ルイーダは勝手に椅子に腰掛けて机の図面を覗き込んだ。

それでももう一人の男は無心で製図を続けていた。


「わぉー。こりゃすげぇー。」


「何がすごいんだ?」


フランツもルイーダの背後から同じくその図面を覗き込んだ。


「これ、ただのガレオン船だろう?」


「うんにゃー。よーく見てごらんよぉ。船尾楼の大部分と船首楼の突出部を取り除いて設計してあるよぉ。これならマストの桁を自由に動かせるし、余計な風も受けないから操舵も楽になるし、かなりの大型船でも割りと軽い動きが出来るようになるねぇ。」


「おい、ねーちゃん♣️」


製図をしていない方の男がルイーダの肩に手を置いた。

フランツは咄嗟にその手を掴んだ。


「おっと失礼♦️何もしやしねぇよ♠️それよりねーちゃんあんた、この船が解るのか?★」


「分かるよぉー。見た目ばっかりの派手な大型船と違って、実用性に富んだ設計だよねぇ。海の事を良く知ってる人じゃないとこの発想は出来ないよねぇ。」


ルイーダの述べた通り、この時代の帆船は主に所有者の権威の象徴としての側面が強かった。

未だ発展途上の世界において、帆船を所持している人間は圧倒的に少ない。

だからこそ、これを所持する者は己の力を誇示する為にも、船体自体をより豪華に、より派手に飾り立てるのだ。

ゲルトの所持する船もその傾向が強いものだった。

派手さを重視した結果その機能性は大幅に低下し、足の遅い、船としてはあまり好ましくない結果になってしまうのだ。

しかしルイーダが興味を持ったこの図面は、お飾りとしての船ではなく、乗り物としての機能を極限まで追求した、本当の意味での船であった。


「おい!♪聞いたか?アンドレイ♥️」


「・・・・・・。」


「アーンドレぇーイ!!!♣️」


「どわっ!なんですかい、兄貴!いきなり耳元でデカい声だすなんて!正気ですかい!?」


「アンドレイ、この女、お前の船の価値が分かってるぞ♦️こんな奴初めてだぜ♠️」


「ふーん。そうですかい。俺ぁ忙しいんで、お客の相手とかそういうのは兄貴にお任せしますわ。」


アンドレイと呼ばれた男は再び製図に没頭し始めた。


「すまねぇな★こいつは見ての通り、船を造ることに掛けては天下一品なんだが、いかんせん人と関われない性質でな♪」


「あんた達さぁ、さっきの聞いてたでしょ?」


「さっきの?♥️なんのことだ?♣️」


「な?あんな騒ぎになってたのに気が付かなかったのか?」


この男、弟分を人と関われないなどと評していたが、自分自身も似たようなもんじゃないか。

その言葉にフランツは呆れ返った。


「あんた達さぁ、ちょっと見積り出してみてよ。」


「なに!?見積りだと!?♦️もしかしてお前達、金を出すのか!?♠️」


「そのつもりだけどねぇ。」


「本当か!?★頼む!♪是非とも俺達に船を造らせてくれ!!♥️」


男の言葉に、造船エリアが一気に色めき立つのが分かった。

各ブースから業者達が身を乗り出してこちらを見やっていた。

それもそうだ。

各業者に企画書を要求したくせに、まさかそれを反故にしてこの業者に決めるなど、許されるはずもない。

辺りに立ち込める不穏な空気を察知したフランツが、早口で先程起こった騒ぎについての説明を行った。


「なるほどな!♣️分かった!♦️なら俺達もそのなんとか書を書いてお前に渡せばいいんだな!?♠️」


「そーゆーことぉ。もしあんた達の企画書が良かったら採用するけど、お眼鏡に叶わなかったらそれで終わりだからねぇ。心して取り掛かるよーに。」


「おう!★任せておけ!♪この船を造れるなら、このトマス、全身全霊を込めてその企画書とやらを仕上げてやるぜ!♥️」


「期待してるよぉー。」




こうしてヨハンの村は、トマスとアンドレイが考えた、世界で最も速い船を建造する事に決まったのだった。





つづく。

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