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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第一部【始まりの冒険】
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神器①

黄金の錫杖。

それは美しいものだった。

形はまぁ、普通の錫杖だよな。

俺の顎くらいまでの長細い柄は全てが黄金で作られているらしく、とても重い。

先端の輪形には繊細な彫刻が施され、普通の錫杖と同じで遊環が12個通されている。

そしてその輪形の中心には赤い輝きを放つ大きな宝石が、輪形から伸びた6本の細い爪に支えられるように嵌め込まれていた。


「さて、そしたらまずは王様にこいつを届けるかな。」


俺は錫杖の尻で床を突いてみた。

遊環から、美しい音色が放たれた。


「待てよ、エジル。

さっきの話は聞いてただろう?その錫杖は魔物の根城に行くために必要なんだ。」


クリスティアーノが俺の前に立ちはだかった。


「なぁクリスティアーノ。これは山岳の国の国宝だって話だ。俺は盗まれた国宝を取り戻すためにここに来たんだぞ。それを持ち逃げするのはさっきの賊となんら変わりねぇだろ。

これは返すんだ。」


「いや、

俺も持ち逃げするつもりはない。

だけど必要なものでもあるんだよ。分かるだろ?どうにかならないか。」


「どうだろうな?まぁ事情を説明したら貸してくれたりとか・・・しねぇだろうけどなぁ。」


「んじゃあさ、先に借りて、使い終わってから返せばいいんじゃないのぉ?」


「お!いいアイディアだな!

と言いたいが、やっぱり微妙だよな。一応は俺達も勇者だもんな。」


「安心したぜ。お前があんな邪悪な意見に賛同したら、ヴァンデルンでここにお前を置いてきぼりにしないとならねぇところだったわ。」


「ヴァンデルン?

瞬間移動か?風の上級精霊術だろ?!覚えたのか?!」


「ああ、さっきお前が魔族倒した時にレベルアップしたらしく、その時覚えた。」


「マジかよ!

そりゃあいいや。また山脈を歩いて帰るかと思うとウンザリだったところだ。

やはりお前を仲間にして正解だったな!」


クリスティアーノがその分厚い胸板を更に張りながら俺の肩を叩いた。


「おい、帰るぞ。」


ルイーダに振り返ると、頬を膨らませて俺の方を睨み付けていた。


「え?まさかお前、本気で言ってたのか?」


「そぉんなことねぇからぁー。」


「だよな。んじゃいくぞ。」


二人に俺のそばに寄らせると、俺は両手を胸の前で合わせ意識を集中させた。

周囲の空気が俺の体を包み込むのを感じると、


「ヴァンデルン!」


力ある声を発した。

途端に体が軽くなり、俺達は空中へと舞い上がった。

そして俺は塔の天井に頭を打ち付けた。


「いってぇ!」


一瞬、気が遠くなったがなんとか踏みとどまり、俺は全力で意識をコントロールしながらなんとか床に着地することに成功した。

頭をさすりながら顔をあげると、冷ややかな視線を俺に向けるルイーダと目が合った。


「ヴァンデルンは外で使わないと頭をぶつけるよぉ。」


「まさかお前、分かってて離れてたのか?」


「もちろん♪」


「先に教えろよ!」


気を取り直し、俺達は吹き抜けの階層へと移動してから術を行使した。

今度は上手いこと空中に飛び出すことができ、俺達は風に乗って山岳の城まで移動することができたのだった。




国宝を取り戻してきた俺達は盛大に迎えられた。

国王様もその報を聞き、すぐに快復したらしい。やはり心からくる病だったみたいだな。

その日は俺達も旅で疲れていたから休むことにして、明くる日に王様に謁見することになった。



「よくぞ黄金の錫杖を取り戻してくれた!礼を言うぞ!」


王様は、俺達の国の王様と違ってえらい逞しい体を持った人だった。なんでも、この人は貴族あがりの王様ではなく山岳警備兵からの叩き上げだって話だ。

若い頃からこの険しい山脈を歩き回ってきたら、そりゃあ逞しくもなるかもな。


「褒美を取らそうぞ!なんなりと申すがよい!」


その言葉に、俺達は互いに顔を見合わせた。

こりゃ千載一遇のチャンスなんじゃねぇか?

国宝を借りるためにはここしかねぇよな。

さて、どうやって交渉したもんか。あんまり下手はできねぇしな。

俺はしばらく思案したものの、結果的には何も思い付かなかった。

ルイーダは暇そうに左右の爪の形を見比べているだけだし、クリスティアーノに至っては多分目を開けながら寝ているだろう、この顔は。

仕方なく、俺が口を開いた。


「褒美ってのになるか分かりませんけど、その錫杖をお借りすることはできませんかね?」


「なんと!いきなり難しいことを言うたな。せっかく戻ってきたのにまた手放せとは。

まぁ理由くらいは聞かんでもないが。」


意外と話の分かる王様で助かったぜ。

言ったその場で追い出されるのを覚悟していたが。


「実はですね、なんでもその錫杖は、魔物の根城に向かうために必要な物らしいんです。

えー、不死鳥を甦らせるためでしたかね。そういうわけで、出来れば貸して頂けると助かるんですが。」


そこまで言い終えると、王様の表情ががらりと変わった。

玉座の隣に控えていた大臣に耳打ちすると、その場にいたほぼ全ての臣下を部屋の外に出させ、俺達3人だけが残された。


「ここから先は王族のみにしか伝えられていない門外不出のトップシークレットでな。

お主、何故そのことを知っとる?

いつ知った?」


「俺が知ったのはつい昨日の話だけど、おい、クリスティアーノ。」


俺はクリスティアーノの尻を叩いた。


「む!

どうした!?プロテインの時間か!?」


「食事のように言うな。お前、不死鳥の話はいつどこで知ったんだよ?」


「え?ああ、

その話か。先月くらいだな。大陸の中央辺りにある寺院に立ち寄った時だ。たまたま攻めてきた魔物を倒したらとても有り難がられてな。

そこであの話を教えてもらい、錫杖がこの国にあるって聞いたんだ。」


「なるほど。それで合点がいったわ。

寺院の高僧は古より不死鳥の神殿を管理しており、真の勇者が現れた時のみ、その話を伝えると聞いておる。

クリスティアーノと言ったな?お主が真の勇者として寺院から認められたということだ。

そして我が城に賊が侵入したのは半月ほど前。賊は確かに魔族だったと聞いておるが、相違ないな?」


「ええ。」


「ならば、魔族も真の勇者が誕生したのを察知し、神器を奪いに来たと考えるのが自然。

つまりはクリスティアーノ殿が奴らから見ても正真正銘の勇者として、事実上認められたということになる。」


「すげぇな。お前、真の勇者だってよ。」


「ふふん。

そんなの最初から知ってたぜ!」


「そうなれば話は変わる。

よし、それではそなたに神器を託そうぞ!」


言いながら、国王様は錫杖を手に取った。


「そこで余に考えがある。実は、不死鳥復活に必要なのはこの錫杖そのものではない。」


「どういうことです?」


「この錫杖に取り付けられているものこそが、真に必要な神器なのだ。

これを知っているのは神器を管理している者のみ。魔族とて知らんだろう。

恐らく魔族は今後もこの錫杖をつけ狙うだろう。

だから、奴らの裏をかく。

錫杖本体は我が国でそのまま管理し、真の神器のみを授けよう。

さすれば、そなたらの旅はさほど危険なものにならず、安心して神器を集めることができようぞ。」


「それはありがたい。でも、魔族に攻められるのはこの城になるってことだけど、大丈夫なんですか?」


「なに、この城は元より防衛戦に特化したものだ。攻められるのが分かっていれば、守るのはお手のものだぞよ。」


「それは頼もしい。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。」


国王様は錫杖の先端に手をかけると、遊環をガチャガチャと引っ張り始めた。

しばらくガチャガチャと弄った後、一息ついてまたガチャガチャと弄っていた。


「あの、

何してるんです?必要なのはその珠じゃないんですか?」


「この!この!」


国王様はクリスティアーノの問い掛けを無視して更にガチャガチャとやっていた。


「ちょっと貸してみぃー。」


ルイーダは錫杖を取り上げると、ほとんど力を入れることもなく簡単に遊環のひとつを抜き取ってみせた。


「おお!サンキューだ!

よし!この黄金の環こそが、不死鳥復活に必要な神器だ!これをそなたらに託そうぞ!」


サンキューだ!って、最後だけやたら軽いな。

と言うか、本当にあの輪っかが神器だったのか。普通に考えて、クリスティアーノが言ったみたいに赤い宝石かと思ったぜ。


「さぁ!勇者達よ!

4つの神器を全て集め、世界を救ってくれ!」




というわけで、俺達は世界を救うための手がかりを見つけ、本格的に魔物退治に乗り出すことになったんだ。


とりあえずは次の目的は残りの神器探しになった。

どうやら山岳の国の国王様は他の神器のありかについては知らなかったらしいんで、まずはクリスティアーノがそうする予定だった、東の大陸に向かうことにした。

俺としては寺院の高僧って人に話を聞いてみたかったが、クリスティアーノは既に話を聞いていて、その人達も他の神器のありかを知らないって言うもんだから仕方ねぇ。

俺達は山脈を下りると東へと東へと向かった。





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