ルイーダの昔話
「そうだよ・・・・。やっと思い出せた。」
ルイーダが呟いた。
「ここが、私の故郷だよ。ずっと、ずっと探していたんだよぉ。」
その頬を涙が伝った。
「私はここで生まれた。そう、ここで。」
一番端の円筒。
他の物とは違い、主の居なくなった空の円筒に手を沿えた。
そっと、優しく。
撫でるように。
「これが私が生まれた場所。もうどれだけ経ったのかな。そうか、もう千年も前なんだね。」
「・・・ルイーダ。お前、一体何を言っているんだ。」
「エジル。
聞いて欲しいの。
私の冒険の物語。」
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千年前、私が気が付いたとき、そこにはベスト博士がいた。
ベスト博士は、私をルイーダと名付けた。
私はこの世界のこと、戦争のこと、ウイルスのこと。
色々なことをベスト博士から教わった。
数年程して、竜族は死に絶え、ベスト博士にも死期が訪れた。
悲しそうな顔で、ベスト博士は私を眠りにつかせた。
「願わくば、地上の汚染が収まり、再び生物が住めるようになる時代に、お前はお前の仲間と幸せに暮らして欲しい。」
それから三百年の月日が流れ、ベスト博士の定めたタイマーにより、私は眠りから醒めた。
ここには誰一人いなかった。
私は寂しかった。
だから、友達を増やすことにした。
最初にリーベを目覚めさせた。
すぐに私はリーベと仲良くなったが、彼はもっと自分に近い友達を求め、ブーゼを目覚めさせた。
また一人になった私は、幾人かの友達を目覚めさせた。
しばらくすると、私達はこの渓谷に集落を作り、皆で暮らすようになった。
そんな時だった。
リーベとブーゼに何人目かの子供が生まれた。
その子供は、とても狂暴性が高かった。
私はベスト博士に教わって知っていた。
それが、竜族を滅亡させたウイルスのもたらす症状だと。
リーベと私は、ここへ来て、べスト博士の記録を見た。
「もしルイーダが抗体を持っているならば、ワクチンはルイーダの血液から精製できるであろう。
しかし、今の技術では一人分のワクチンを作るには、ルイーダの血液の大半が必要になる。
まだ実用段階ではない。」
リーベは言ったの。
俺の子供の為に死んで欲しい。
私は怖くなった。
その為に生まれてきたことは分かっていたけれど、どうしようもなく怖くなって、逃げた。
誰も追いかけてこないようにずっとずっと遠くへ。
何度も海を渡り、何年も何年も逃げた。
逃げて逃げて、逃げ疲れて、私はある島に辿り着いた。
疲れていた私は、その島で独り、暮らし始めた。
それから月日は過ぎて、その島に人がやってきた。
私は怖かった。
私を追ってきたと思った。
でも、そうじゃなかった。
私と一緒に暮らしていた友達は、遥か昔に死んでしまっていた。
やってきた人々は、リーベとブーゼ達の子供の、子供の、そのまた子供。
私はあれから二百年間、ずっと逃げ続けていた。
その間、友達は世界中に棲みかを増やし、驚くほどの早さで子孫を増やし、人間という種族になっていた。
私は人間に、文字や暦、最低限の役に立つ文明を授けた。
それが今から五百年前。
人間の歴史が始まった時だった。
それから私は人間達と共に生きてきた。
遥かな時の流れの中、ウイルスを宿した私の身体は朽ちることはない。
だけど、記憶だけは薄れていく。
毎日毎日少しずつ。
いつの間にか私は、自分が誰で、どこから来たのかすら忘れてしまっていた。
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「この部屋の更に奥には、ワクチンを精製する施設があるの。私の血を使えば、すぐにワクチンが作れるよ。」
「バカ言うなよ。」
俺は無性に悲しい気持ちになった。
「バカ言うな。さっきのベスト博士の記録では、お前の血のほとんどを使って、やっと一人分のワクチンが作れるって言っていたじゃないか!
それじゃあ、お前・・・・」
「ねぇ、魔王。あなた達魔族の技術なら、ワクチンの培養はすぐにでもできるでしょ?」
「・・・・・ああ。可能だ。」
「なら問題ないよ。すぐにワクチンを増産できればまだ間に合うから。」
ルイーダは微笑んだ。
「そういうことじゃないんだよ!!」
俺は思わず声を張り上げていた。
「血のほとんどを使うって、お前・・・・。
それは・・・・だって、お前が言ったんじゃないか・・・・。
俺は、
俺はお前に生きていて欲しいんだよ!!!」
「エジル。分かって。
道はもうそれしかないんだよ。」
「・・・・・。」
「行こう。魔王。」
ルイーダが板の隣の壁に手を沿える。
研究所の入り口と同じく、竜の紋章が光輝くと、新しい扉が現れた。
「待て。待ってくれよ。」
「私はね、死ぬ為に生まれてきたの。もう逃げない。」
「ふざけんなよ。
なんだよ、死ぬ為に生まれてきたって。
そんなのって、そんなのって・・・。」
ルイーダが振り返った。
目にいっぱいの涙を湛えて。
「エジル。
今度は、
生きていて欲しい
って言ってくれて、
ありがとう。」
魔王とその文官を伴って、ルイーダは奥の部屋へと消えていった。
俺は、ただ見送ることしかできなかった。
つづく。




