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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第三章【絶望の世界】
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ルイーダの昔話

「そうだよ・・・・。やっと思い出せた。」



ルイーダが呟いた。



「ここが、私の故郷だよ。ずっと、ずっと探していたんだよぉ。」



その頬を涙が伝った。



「私はここで生まれた。そう、ここで。」



一番端の円筒。

他の物とは違い、主の居なくなった空の円筒に手を沿えた。

そっと、優しく。

撫でるように。


「これが私が生まれた場所。もうどれだけ経ったのかな。そうか、もう千年も前なんだね。」



「・・・ルイーダ。お前、一体何を言っているんだ。」


「エジル。

聞いて欲しいの。

私の冒険の物語。」




千年前、私が気が付いたとき、そこにはベスト博士がいた。

ベスト博士は、私をルイーダと名付けた。

私はこの世界のこと、戦争のこと、ウイルスのこと。

色々なことをベスト博士から教わった。


数年程して、竜族は死に絶え、ベスト博士にも死期が訪れた。

悲しそうな顔で、ベスト博士は私を眠りにつかせた。


「願わくば、地上の汚染が収まり、再び生物が住めるようになる時代に、お前はお前の仲間と幸せに暮らして欲しい。」




それから三百年の月日が流れ、ベスト博士の定めたタイマーにより、私は眠りから醒めた。



ここには誰一人いなかった。

私は寂しかった。

だから、友達を増やすことにした。


最初にリーベを目覚めさせた。

すぐに私はリーベと仲良くなったが、彼はもっと自分に近い友達を求め、ブーゼを目覚めさせた。


また一人になった私は、幾人かの友達を目覚めさせた。


しばらくすると、私達はこの渓谷に集落を作り、皆で暮らすようになった。



そんな時だった。



リーベとブーゼに何人目かの子供が生まれた。


その子供は、とても狂暴性が高かった。

私はベスト博士に教わって知っていた。

それが、竜族を滅亡させたウイルスのもたらす症状だと。


リーベと私は、ここへ来て、べスト博士の記録を見た。


「もしルイーダが抗体を持っているならば、ワクチンはルイーダの血液から精製できるであろう。

しかし、今の技術では一人分のワクチンを作るには、ルイーダの血液の大半が必要になる。

まだ実用段階ではない。」



リーベは言ったの。

俺の子供の為に死んで欲しい。



私は怖くなった。


その為に生まれてきたことは分かっていたけれど、どうしようもなく怖くなって、逃げた。


誰も追いかけてこないようにずっとずっと遠くへ。

何度も海を渡り、何年も何年も逃げた。


逃げて逃げて、逃げ疲れて、私はある島に辿り着いた。

疲れていた私は、その島で独り、暮らし始めた。





それから月日は過ぎて、その島に人がやってきた。


私は怖かった。

私を追ってきたと思った。

でも、そうじゃなかった。

私と一緒に暮らしていた友達は、遥か昔に死んでしまっていた。

やってきた人々は、リーベとブーゼ達の子供の、子供の、そのまた子供。


私はあれから二百年間、ずっと逃げ続けていた。

その間、友達は世界中に棲みかを増やし、驚くほどの早さで子孫を増やし、人間という種族になっていた。



私は人間に、文字や暦、最低限の役に立つ文明を授けた。


それが今から五百年前。


人間の歴史が始まった時だった。



それから私は人間達と共に生きてきた。

遥かな時の流れの中、ウイルスを宿した私の身体は朽ちることはない。

だけど、記憶だけは薄れていく。

毎日毎日少しずつ。

いつの間にか私は、自分が誰で、どこから来たのかすら忘れてしまっていた。




「この部屋の更に奥には、ワクチンを精製する施設があるの。私の血を使えば、すぐにワクチンが作れるよ。」


「バカ言うなよ。」


俺は無性に悲しい気持ちになった。


「バカ言うな。さっきのベスト博士の記録では、お前の血のほとんどを使って、やっと一人分のワクチンが作れるって言っていたじゃないか!

それじゃあ、お前・・・・」


「ねぇ、魔王。あなた達魔族の技術なら、ワクチンの培養はすぐにでもできるでしょ?」


「・・・・・ああ。可能だ。」


「なら問題ないよ。すぐにワクチンを増産できればまだ間に合うから。」



ルイーダは微笑んだ。



「そういうことじゃないんだよ!!」



俺は思わず声を張り上げていた。



「血のほとんどを使うって、お前・・・・。

それは・・・・だって、お前が言ったんじゃないか・・・・。

俺は、

俺はお前に生きていて欲しいんだよ!!!」



「エジル。分かって。

道はもうそれしかないんだよ。」



「・・・・・。」



「行こう。魔王。」



ルイーダが板の隣の壁に手を沿える。

研究所の入り口と同じく、竜の紋章が光輝くと、新しい扉が現れた。



「待て。待ってくれよ。」



「私はね、死ぬ為に生まれてきたの。もう逃げない。」



「ふざけんなよ。

なんだよ、死ぬ為に生まれてきたって。

そんなのって、そんなのって・・・。」



ルイーダが振り返った。

目にいっぱいの涙を湛えて。



「エジル。


今度は、


生きていて欲しい

って言ってくれて、


ありがとう。」





魔王とその文官を伴って、ルイーダは奥の部屋へと消えていった。




俺は、ただ見送ることしかできなかった。



つづく。

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