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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第三章【絶望の世界】
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部屋



ゴゴゴゴゴ・・・・



扉の奥には、開けた空間が広がっていた。

洞窟の中に作られた部屋であるはずなのに、何故か内部は淡い光に照らされていた。

何かの研究室。

それだけは一目で分かる様相だった。


しかしそれが何のためにあり、どう使うものなのか、俺には全く理解の及ばない光景だ。


「やはりな。竜族の遺物で間違いない。」


魔王が透明なギヤマンでできた、円筒状の小さな瓶に触れながら呟いた。

それから文官を呼び、周囲を調べさせ始めた。


俺もよく分からないながらも、部屋の中を眺めて回った。

沢山のボタンが並べられた板が机の上に寝そべっている。

その前佇むのは黒くのっぺりとした板。

テーブルの上には大小様々な透明の小瓶やら器やらが無造作に置かれている。

中には何かの粉末や、液体が乾燥したカスが残ったままだった。

床には、血と思われる大きな痕が目についた。


俺が分かるのは、ここで何かをしている最中に突如として中断されたのだろうということだけだ。



「この状態では何も調べようがないな。」


「きっとどこかに動力源があると思うんだけど・・・。」


魔王とロイスがそんな会話を交わしていた。


「動力源・・・あっ、きっとあれだねぇ。」


ルイーダは手をポンと叩くと、勝手知ったる場所のように、壁際へと歩み寄った。


「これを下に引くとねぇ。」


どこからか、重たい何かが動く音がする。


しばらくすると、水の流れる音。


そして最後に、


ブウゥゥーン


小さな虫が飛ぶような音と共に、部屋の天井に吊るされていた球体が光輝いた。


「これは?飛空挺についてる光の球と同じだな。小さな太陽だ。」


「これもオーパーツなのかしらね?」


「そう言えるだろうな。」


部屋に光が灯ると同時に、施設内の道具も一斉に動き始めた。


先程までは真っ黒いただの板だった物にも光が灯り、何かの文字が浮かび上がる。

部屋の隅に立てられた円筒の内部に水が流れ込み、内部が満たされていく。


「ほぅ。興味深いな。」


魔王が光る板の前に腰を降ろした。

ロイスもその隣の板の前に陣取る。

また少し離れた台の上にも同じような板が置かれており、ルイーダと文官達がそれぞれ覗き込んでいた。


「なぁミュラー。」


「なによ。」


「同じこと考えてるか?」


「きっとそうね。」


「俺達、役立たずだな。」


「そうね。」



ミュラーと俺は、壁際に立って部屋を眺めるだけだった。





それから丸一日が経った。

俺達以外の頭の良い連中は着々と調査を進めているようだ。

正直、俺は暇を持て余していた。


時折、飛空挺に戻り食料を運んでくるか、さもなくば部屋の中をうろうろする程度しかやることがない。

ミュラーはミュラーで、魔王の護衛の魔物といつの間にやら意気投合したらしく、談笑し合っていた。


「なぁロイス。何か分かったのか?」


痺れを切らした俺は、ロイスの見ている板を横から覗き込んでみた。

特に見ても理解できるとは思えんが、何もしていないよりはマシだろう。


「うん、そうだね。この施設については大体分かってきたよ。」


「すごいな。それで、この施設はどういう物なんだ?」


「ここではやっぱり、例の薬が研究されていたようだね。精製方法から、使用実験までのデータが記録されてたよ。特に使用実験。

ここに映像が残されてる。」



そう言ったロイスがボタンが並べられた板の端の方のひとつを押すと、今度は光る板の中に、小さい人物像が現れた。



竜族。

なるほど、トカゲのような顔をしているが、背格好は俺達人間とそうは変わらない。


白衣を身に付けた竜族が数名。

それぞれ手には光る板を持っている。

彼らはひとりの竜族を取り囲むようにしていた。

椅子に座らされた竜族。

身体を鎖で椅子に固定されている。

白衣のうちのひとりが、椅子の竜族の首元に何かを近付ける。

どうやら注射器のようだ。

しばらくすると、椅子に固定された竜族の様子に異変が起きる。

勢いよく身体を仰け反らせる。

激しく痙攣している。

徐々に頭部の血管が隆起していき、顔全体の形が歪み始める。

筋肉が膨れ上がり、身体を拘束していた鎖が引きちぎられる。

そこで白衣の竜族が椅子の竜族の頭を、見たことのない金属の道具で撃ち抜いた。


そこで板はまた黒く戻った。



「こういうのが延々と続いていくよ。」


「これで今起きているゾンビ化の原因がこの薬であることが確定したわけだ。」


同じく板の映像を見ていた魔王が口を開く。


「身体に適合しないとこうなる。

実験を繰り返し、徐々に適合率を上げていき最終的には狂戦士が出来上がるところまでを確認できた。

問題はその次だ。」


「解毒方法か?」


「ああ。

先程から俺の方では細胞結合と筋力強化の仕組みについて調べているんだがな。どうにもその方法が見つからない。

いや、正確に言えば・・・。」


「無い。んだよ。」


「おい、ロイス。無いって、どういうことだよ?」


「ほら、例えばね。

野菜を煮込んだスープのなかに、カレーのスパイスを入れるとするでしょ。

出来上がったカレーから、スパイスだけを取り除くことができるかい?」


「・・・・。」


俺は沈黙した。

その例はまさに的を射ている。


「お手上げだ。

調べれば調べるほど、手の施しようがない。」


「嘘だろ。」


「残念ながら。」





絶滅。



そんな言葉が脳裏によぎった。




つづく。

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