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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第三章【絶望の世界】
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遺産

飛空挺内、ミーティングルーム。



「座りなさい。」


ミュラーは椅子を示しながら、苛立った声で言った。


「僕は運航状況でも確認してこよーかなぁー。」


「ロイス。あんたも居るのよ。」


「はぁーい。」


苦虫を噛み潰したような顔とはこういうことだろうな。

ロイスも渋々席についた。


「あんたは申し訳ないけど外して貰えるかしら?」


「あぁ、良かったぜ。」


軽快な足取りで魔王は部屋を後にした。







「貴様らの飛空挺は、東の大陸までどの程度で行けるのだ?」


「一日もあれば。」


「なるほどな。すまんが俺達も船に乗せて貰うぞ。」


「マジかよ。魔王を船に乗せるなんて話し、聞いたことないぞ。」


「俺はまどろっこしいのは嫌いでな。

まず、我々にはその速さで移動できる手段がヴァンデルン以外にはない。

そして、お互いに別行動しない方が無駄な軋轢は生まれんだろう?」


「お互いがお互いの人質ってわけか。」


魔王は文官数名、護衛数名を伴い船に乗り込んだ。


「随分と身軽なんだな。」


「この状況で城から戦力を剥がせるわけがあるまい。外ではまだ部下達が命を削っているんだぞ。無駄口はいい。さっさと行くぞ。」



魔王にしておくには勿体ないな。

俺は本気でそう思った。



飛空挺の中で、クルーの生活区画で最も広いのが食堂だった。

貨物室の方が広いのだが、雲の上を飛ぶ場合、生物が活動出来るような環境にはない。

いくら魔物と言えど、客人を貨物と同じ扱いは出来ないしな。

魔王達には食堂で過ごして貰うことになった。


ミーティングルームで今後の行動予定を確認した後、各個人の部屋へ引き上げようと席をたった時だった。


「座りなさいって。」


「分かった。」


「あんたにしろ、ルイーダにしろ、一体何を考えてるの?」


「すまない。」


「すまないじゃないのよ!」


「確かにこの状態のルイーダを皆と共に行動させるべきじゃなかった。

結果的にそうはならなかったが、もし万一ゾンビ化していたら俺達は全滅だったわけだし。」


「そういうことを言いたいんじゃないのよ!」


「んー、兄ちゃん。そうじゃなくってさぁ。ミュラーが言いたいのはね。」


「なんで黙ってたのよ!?私達、仲間でしょう!ルイーダが噛まれたって聞いたら、私達が見捨てるとでも思ったの!?」


「・・・・ミュラー。

お前。

いや。

殺すって言うと思った。」


「・・・・。んなわけねぇでしょうが!!」



俺達は笑った。



「ねぇ、ルイーダ。あんた、どこか変わったところはないの?」


「んー。別に特に無いかなぁ。確かに力は強くなったけど。あ、最初の方は頭もボーッとしてたかも。」


「喋り方!ずっと途切れ途切れに喋ってたじゃないの!」


「あー、始めの頃の頭ボーッとしてた時だよぉ。そのあとは、やっぱりちょっと気まずくてさぁ。」


「マジかよ!?俺はてっきり、半分ゾンビ化してるからかと思ってたぞ! 」


「ははは!気まずさが口調に現れるって。

ねぇちゃんって意外と嘘つけないタイプなんだね。」


「そう言われてみれば、ルイーダが真面目な時に嘘ついたことなんて今まで一度も無かったわよね。」


「私、どんだけイメージ悪いのさぁ。」






魔王城を出てから丸一日が経った。

東の大陸には、ルイーダが創設した開拓者の街がある。

しかし、そこ以外はほぼ未開の地であり、先住民の村が幾つか点在するだけだった。


魔王に案内されたのは、大陸のほぼ中央。

果てしなく広がる岩の渓谷があり、どこを見ても同じように見える。

高く切り立った岩山と、その間を縫うように流れる大河。

きっとこの場所はこの河によって、気が遠くなるほどの年月を掛けて削り出されてきたんだろうな。


そのうちのひとつ。

角が取られ、まるで整備されたかのように平坦な山頂を持つ岩山に、船を停泊した。


「この山から降り、少し河を下った辺りに目的の洞窟がある。」


魔王配下の文官に先導され、俺達は道とも言えぬ道を歩いた。

砂漠とまではいかないが、非常に乾燥した土地で、歩くだけで体力を奪われる。

かなり長い時間をかけ、ようやく渓谷の底まで辿り着いた。

そこから更に河に沿って歩く。


「どうやらここは昔、本当に誰かが住んでいたんだね。」


「どうしたんだ?ロイス。いきなり。」


「だってさ、河に沿って明らかに整地されてるよね。この道。」


「そう言われればそうね。」


「ところで姉ちゃん。姉ちゃんは一体いつ、どうやってここに来たのさ?」


「え?初めて来たのはエジルと出会うよりずっと前だよ。その時は船で河を上ってきたから、もっとずっと楽チンだったのにぃ。なんで歩きなのさ!」


「仕方ねぇだろ。俺達は飛空挺しか持ってないんだから。船長がいたら船を出して貰えたがな。」


「船長達、無事かなぁ。」


「無事に決まってるさ。なんなら、ゾンビにバカをうつしてるくらいだ。」


「早く皆のところに帰ろうねぇ。」


「ああ。」




河沿いの道が途切れた。

そこに洞窟があった。



「ここだ。」


人間の平均的な身長より少し大きいくらいで、幅も二人くらいが並んで歩ける程度。

特に変わったところもない、普通の洞窟に見えた。


中は外気とはうって変わり、ひんやりとした空気に覆われていた。

松明を持った魔族を先頭に、俺達は一列になって歩く。


しばらく進むと突き当たった。


そこに、扉がある。

これは扉なのだろうか。

特に目立った装飾もない、平坦な金属の板だ。

装飾もないが、取っ手やくぼみなど、開けるために必要な作りすらない。


「これが扉なのかい?金属の壁にしか見えないけど。」


ロイスも同じ事を思ったようで、金属板に手を当てがい、探るようにさすっている。


「あっ。でも、触ると分かるね。本当に薄いけど、少し溝がある。」


「頼む。」


魔王がルイーダに向かって言った。

その声に応え、ルイーダが前に出た。


板の中心に手を添える。


するとどうだ。


金属の板に光が走る。

恐らくロイスが言っていた溝に沿って、模様を描いていく。


それは、竜に見える絵になった。


竜の心臓の辺りから上下に光が伸びる。

重い音を立て、金属板は左右に動き始めた。




ゴゴゴゴゴ・・・・。




つづく。

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