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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第三章【絶望の世界】
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会談

「遅かったな。」



かつて、クリスティアーノが魔王だった。

その配下だったのがこの男だ。


クリスティアーノから魔王の力を継承し、真の魔王として君臨する。

そう言って俺達の前から消えた。

それ以来、表だった動きはしてこなかった。



魔王は、自身の身の丈の数倍はあろう玉座に腰掛け、頬杖をついてこちらを見やっていた。


「まずはそこに掛けてくれ。」


玉座の前には円卓が置かれている。

席は五つ。


魔王は玉座から立ち上がると、早々にその内のひとつに腰を降した。

同時に、警護に当たっている配下の魔物のひとりを呼んで耳打ちを行うと、魔物達は全て部屋から退出していった。


「どうやら本気らしいな。」


俺は魔王の右手側に対面する席を選んだ。

続き、ミュラーが魔王の右隣。

ロイスが左隣。

最後にルイーダが俺とロイスの間に納まった。


「さてさて、何から話すべきか。結論から言うと、貴様らの予想は外れだってことだ。」


「前置きが無くていい。だとすると、あれは何なんだ?」


「貴様ら、オーパーツってものは知っているな?」


「オーパーツ?なんだ、それは。」


「例えば、貴様らが使っているあの空飛ぶ船。

もしくはそこのルイーダという女が使っている、情報管理の道具。あれらは、人間が作り出したものか?」


「いや、違うな。

何故あるのかすら分からない、伝説の中に息ずく過去の遺産だったものだ。」


「そうだろう。だが、あれらは誰かに作り出されたからこそ、今の世に存在しているわけだ。」


「そう言われればそうだな。」


「それこそが、オーパーツ。遥か彼方の昔、ああいう物を作る技術を持つ者がこの世にいた証拠だ。貴様ら人間の寿命では、伝説にすら残らないほど昔の話だ。だが、俺達魔族からしてみれば、俺のじじぃ程の時代のことでしかない。」


「なるほど。」


「貴様ら人間が誕生する前、その種族と俺達魔族とが地上の覇権を争っていた。俺達は魔術を、その種族は科学と呼ばれた力を使い、地上が焦土と化すほどの戦いが百年以上に渡り繰り広げられた。」


「おいおい、偉く壮大な物語だな。で、その戦いはどうなったんだ?」


「地上は荒廃し、結局は生物の住めるような環境ではなくなった。魔族は地下へと退き、相対する種族は死滅した。それが今から大体千年ほど前の話だ。五百年の月日が流れ、地上の環境が元のように戻り始めた頃、それと時を同じくして人間が台頭してきたってわけだ。」


「確かに、俺達の歴史はその頃から突然始まったと教えられるが、それ以前に関しては聞いたことがなかった。」


「先の戦いで当時の文明は完全に滅んだからな。

空白の五百年。

魔族ですらその間は地上に足を踏み入れることを許されなかった時代だ。何の痕跡も残されないどころか、本当に何も起こらない時代だったってわけだ。だいぶ長くなったな。

さて、お勉強の時間はここまでだ。」



魔王は円卓に肘をつき、顔の前に手を重ねた。



「先時代の戦いで、我々が勝利を得られなかった理由が、そのオーパーツにある。

個の力は当然、魔族が勝っていた。

しかし、その力の差を埋める兵器を、その種族は作り出したのだ。

自らの体内に注入することにより、爆発的な力を得ることの出来る薬。

だが、薬は致命的な欠陥も持っていた。

使用者の理性を奪い、戦うことしか出来なくなる。

痛みも恐れもなく、ただ戦い続ける狂戦士を生み出してしまったのだ。

しかもその効力は、直接服用せずとも使用者から別の個体へと伝染する作用を持っていた。」


「おい。それは・・・。」


「恐らくそうだ。

今起きていることは、その薬が原因だろうな。

だが、当時の使用者は力こそ上がるものの、見てくれの変化は無かったと聞く。

今起きているようなゾンビ化が起こったなどとは聞いたことがない。」


「どういうことだ。

まさか、新種の薬だとでも言うのか?」


「分からんな。

だが可能性はあった。

東の大陸の洞窟に、何者をも受け付けない場所があってな。」


「何者をも受け付けない?」


「洞窟の奥に扉がある。

周囲の痕跡から見る限り、そこはかつて滅亡した種族が管理していた施設だったと判断される。

どうやら特別な方法で封印されているようで、どうあっても開かなかった。

我々は以前からその場所を監視するようにしていた。」




突然、魔王がルイーダを指さした。




「貴様、開けたな?」


俺達は一斉にルイーダに視線を移した。


「・・・・・。」


ルイーダは無言だった。


「そうなのか?」


俺の問いかけに、


「・・・・・。」


無言で頷いた。


「やはりな。

調査の結果、その扉は恐らく生態的な部分に関わる方法で封印されていた。

そして今、その女を見て納得した。

貴様、何故感染してもゾンビにならない?」


「なっ!?」


ミュラーが声を上げた。


「あんたまさか、噛まれたの!?」


ミュラーの視線がルイーダから俺へと移った。

じっと俺の目を見つめている。

俺は、頷いた。


「いつ!?どうして黙っていたの!? 」


ミュラーが勢いよく立ち上がった。


「すまない。」


「すまないって、あんたね!!」


「まぁ待て。」


ミュラーを制したのは他でもない魔王だった。


「つまりそこが鍵なのだ。

その女、俺が知る限り、薬の製作者達と同様の変化が起こっている。

つまりは薬本来の変化だ。

これも推測に過ぎんが、件の薬は、かの種族以外には適合せず、他種族には効かない、もしくは思いもよらない作用を及ぼすものだったのではないか。

人間のゾンビ化は、その思いもよらない作用の一環なのであろう。」


「一体どういうことなんだ?

ルイーダはその滅亡した種族だとでも言うのか?」


「いや、それはあり得んだろうな。」


「何故言いきれる?」


「奴等は竜族と言ってな。

トカゲのような見た目をしており、繁殖方法も貴様ら人間とは全くの別物だ。

もし万が一生き残りがいたとして、人間と交わることは出来ないだろう。

考えられることは、その女の生態的な何らかの特徴が、竜族のそれと酷似していた。

たまたまな。

その程度にしか過ぎんだろう。」


「たまたま、だと。」


「だがその偶然が希望でもある。

その女がいれば、竜族の施設に入れることが分かった。

施設の調査を行えば、あるいはこのゾンビ化を解決する糸口を発見することが出来るやもしれん。」


「意外だぜ。

まさかお前ら魔物が、この騒動を解決しようと考えていたなんてな。」


「ふん。

俺達はただこのまま、前のように再び地上が使い物にならなくなるのを防ぎたいだけだ。」


「それで、俺達はどうしたらいい?」


「女を渡せ。と言っても納得しないだろうな。」


「当たり前だ。」


「これからすぐ、俺達は竜族の施設に向かおうと考えている。

貴様ら全員にも同行して貰おう。」


考える必要も無かった。


「少しでも変なことしたらその場で叩き潰すからな。」


「はっはっは。

それはこちらとて同じことだ。」





こうして俺達は、魔王達と共に東の大陸へと向かうことになった。




つづく。

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