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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第三章【絶望の世界】
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魔王

魔王の城は、遥か西の大陸。

切り立った断崖絶壁に囲まれ、人の侵入を許さぬ、暗黒大陸と呼ばれる土地にある。


到達するには不死鳥を甦らさなくてはならない。

俺達が前回の冒険で、神器を集めて甦らせた不死鳥こそが、この飛空挺のことだった。



音の速さで飛ぶ飛空挺で約半日。

遂に西の大陸へと辿り着いた。



切り立った山々を抜ける。

俺は下界の様子を伺うため、甲板に出て双眼鏡を覗き込んだ。



怪しげな瘴気に覆われた土地。


普段であればそうであった。


しかし、この時の様子は少し違っていた。



「こちらエジル。城の様子がおかしい。瘴気が晴れてる。」


伝令管を使い、俺はコクピットのミュラーに話し掛けた。


「あれは、煙だ。煙が上がってるぞ。」


黒々とした蟻の群れのような蠢きが見える。

そして、そのところどころから黒煙が立ち昇っていた。



「どうなってるの?」


「この双眼鏡の望遠率じゃよく分からない。少し高度を下げてくれ。」



徐々に地上が近付くにつれ、少しずつピントが合っていく。



「あれは・・・ゾンビだ!ゾンビと魔物が戦ってるぞ!」


俺は思わぬ光景に声を上げた。


魔王城の周囲。

黒い蠢きは、無数のゾンビと魔物達の集合体だった。

実に数千は下らないゾンビの大群が魔王城に押し寄せている。

その群れに魔物達が応戦しているのだ。


上空から見渡せば一目瞭然。


戦況は圧倒的に魔物達の不利だった。


個の力では魔物達に敵うはずはない。


しかし決定的に違うのは、

ゾンビ達が死を恐れぬこと。


そして、命を奪うことに容赦がないこと。


数で圧倒するゾンビに囲まれ、魔物達は引き裂かれ、臓物を抉り出され、まるで子供に解体される玩具のように虐殺されていく。



逃げることのない魔物達は、ただただ蹂躙されていくしかなかった。




「エジル。

後方から魔物の影が接近中。

確認して。」



伝令管からの声を聞き、俺は後方へと回り込んだ。

見ると、少しばかりの烏の魔物を率いた魔族がこちらへと飛来してくる。



「攻撃する?」


「いや待て。青い旗を掲げている。どうやら会談の申し入れらしい。」




ミュラー、ロイスがデッキに集まり、俺達は魔族を迎え入れた。

あまり高位ではないのか、黒いローブから覗かせた顔には目も鼻も口もない。

細かな文字みたいなものがびっしりと書かれており、およそ顔には見えない。




「人間よ、何をしに来た。見ての通り、今は貴様らの相手をしている暇はない。早々に立ち去れ。」


「おいおいおい。」


意外な発言に俺は心底驚いていた。


「自分達で生み出したんだろう。制御が効かない上に、俺達の相手も儘ならないくらい追い詰められてるだって?随分とお粗末だな。」


「馬鹿を言え。我らが生み出したのなら、意思の疎通くらいは取れるように調整する。あの様に破壊しか出来ぬ兵など戦力にもならぬだろう。」



魔族から注意は逸らさずに、俺はロイスらと視線を交わした。


「本当に僕らと戦闘をする気はないのか?」


「そう言っている。今は余計な戦力を浪費する余裕はない。どうしても立ち去らぬと言うなら別だがな。」



随分と正直だ。

どうやら本当に俺達に撤退を促すことが目的でここに来たらしい。

なるほど、護衛が少数なのも納得だ。

もしここで俺達に殺されても大局に影響が出ぬようにわざと戦力を落として来た、と考えるのが妥当だろう。



「すると、あのゾンビ化現象とお前達魔物は全くの無関係なんだな?」


「何度も言わせるな、むしろ我らは・・・

むっ。

少し待て。」



こちらに掌を突き出してから、魔族は自らの即頭部に手を当てた。


しばらく無言で頷いた後、


「魔王様が貴様らの拝謁を許可なさった。これから城へ案内する。」


「拝謁って何だ。言葉に気を付けろよ。」


「図に乗るなよ、人間。」


「話がややこしくなるからやめなさいよ、エジル。分かったわ。行きましょう。」


「それと、魔王様がルイーダという娘の帯同もご所望だ。」


「なんでだよ。」


ミュラーが俺を片手で制止する。


「魔王から私達に会いたいなんて余程のことよ。ここは従いましょう。」


「分かったよ。その代わり、少しでもおかしな事があったらその場で叩き潰すからな。」


「どちらが魔物か分からぬ物言いだ。利口な仲間に感謝すべきだな。」




烏の魔物に先導され、船は魔王城の中庭に停泊した。

まさか再びこの城に船ごと迎え入れられる日が来るとは思いもよらなかった。


船から降りると、遠くから魔物達の悲鳴とも怒号とも取れる雄叫びが聞こえてくる。


悲惨な戦闘が今も続いているのだ。


文字顔の魔族に引き連れられ、俺達は中庭を抜けると本殿に入り階段を登る。

禍々しい装飾の施された城内を進む。

異常なまでに空気が冷たかった。

大きな渡り廊下を進み、玉座の間がある棟へと進んで行った。

突き当たりには一際巨大な扉が鎮座していた。


扉がひとりでに開いていく。

中から身の毛もよだつ程の冷気が漏れ出る。



ここが魔王の間。



「待ってたぞ。」



玉座に座っていたのは、赤い髪と紫色の肌を持った端正な顔の魔族。

黒い鎧と共に圧倒的な威圧感を纏った、あの時の魔族だった。




つづく。

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