新しい仲間②
「お前、
落ちこぼれのエジルか!?」
それは俺の見知った顔だった。
「なんだ、お前か。」
「おいおい、
こんな場所でお前に出会うなんて夢でも見てるのか?
いつアカデミーを卒業したんだ?と言うか、卒業できたのかよ?」
「だぁれ?このイケメンだけど筋肉ムキムキの暑苦しいの。」
「は!?おいエジル!
その女、旅人の酒場の主人じゃないのか!?
なんだってそんなの連れてるんだよ?
まさか、仲間になる奴が誰ひとり残ってなくてそいつを連れてきたのか!?
こりゃあ傑作だな!!」
そいつは本当に楽しそうに笑い声を上げた。
「誰?って、お前。酒場でマッチングしたんじゃねぇのかよ。
俺より1年前に旅立ったガタイのいい奴って言ってたろ?」
「あぁー。あの子かぁー。全然顔を覚えてなかったよぉ。
えっと、何て言ったっけ?名前。
うーんと、そうだ。
マッスルブレイン。」
「クリスティアーノだ!
一文字しかかすってないだろ!!」
マッスルブレイン。
脳筋ってことか。
珍しくルイーダのボケがツボに入り、俺は爆笑した。
「笑うな!」
ひとしきり笑い満足した俺は、クリスティアーノの側へと歩み寄った。
「んで、お前はここで何してるんだ?」
「見ての通り、
道が途切れてるからどうやってあっちに渡るか考えてたところだ。」
「ふーん。そう言えばさっき、下に降りていく連中に会ったぞ。仲間か?」
「元、だ。
あいつら、これを見た途端に渡るのを諦めやがって。ムカついたからここでパーティーを解散してやったのさ。」
対岸を見やると、どうやらこの吹き抜けには架け橋が存在しているようだった。
あちら側に木製の厚い板が立っていた。
「反対側から橋を上げ下げする仕組みなのか。」
「どうやらそうらしい。
だがどうやってあれを下ろすのかがさっぱり分からん。」
クリスティアーノは腕組みしたまま仁王立ちしていた。
脳筋ってのは案外、皮肉だけってわけでもないのかもしれん。
とは言うものの、俺にもさっぱり分からないんだけどな。
「なぁ、どう見る?」
俺はルイーダに問いかけた。
「んー、状況から察するに、あの橋はあっこのあの左側に見えてるハンドルみたいなのを回して上げ下げするみたいだねぇ。
あれをここから動かせばいいってことね。」
「なるほど、そうか。」
「そうか。って。
お前らバカか!?ここからあのハンドルまでどのくらいの距離があるか分かってるのか!?」
まぁ、人の跳躍力で越えられる距離じゃないのは確かだよな。
「こうやるのさ。」
俺は両の掌を重ねると、真っ直ぐに腕を突き出した。
吹き抜けを通り抜ける突風が俺の掌に集約し始めるのを感じた。
「ヴェルウィント!!」
風は瞬く間に塊となり、俺の掛け声と共に弾丸のように掌から解き放たれた。
風の弾丸は突風をものともせずに宙を切り裂いて対岸のハンドルに到達。
風車を回すかのように絡み付いた風がハンドルを回転させると、どこからか鎖が擦れる音が聞こえ、ゆっくりと架け橋が倒れてきた。
「そうか!
風の精霊術か!やるな、エジル!」
クリスティアーノが歓喜の声を上げた。
そのクリスティアーノの脇を通り過ぎ、ルイーダはすたすたと橋を渡り始めた。
「おい!
俺より先に渡るなよ!」
今度は怒ったらしい。
忙しい男だ。
無事に吹き抜けを通過し更に階段を登ると、ようやく塔は壁を取り戻したようだった。
「ふぅ。
髪型が崩れちまったぜ。」
クリスティアーノは手櫛で髪の毛をかき上げながら、安堵の声を漏らしていた。
「風切り音も無くなったし、ようやく話しやすくなったな。
おい、クリスティアーノ。お前、一体ここで何をしてたんだ?」
「ん?ああ。
そうだな、教えてやってもいいが。
うーん、どうするかな?」
「何を勿体ぶってる?」
「いや。
風の精霊術を使えるのは役に立つと思ってな。よし、決めた。
エジル、お前、俺の仲間になれ。
そうしたら教えてやるぜ。」
「は?嫌だよ。」
「おいおい。
遠慮すんなって。アカデミーで最も優秀で、たったの1ヶ月で卒業試験に合格したこのクリスティアーノ様が仲間にしてやるって言ってるんだぜ?光栄に思えよ。」
「は?嫌だよ。」
「せめて違う台詞で断れ!」
そこでルイーダが俺の袖を引っ張ってきた。
何やら耳を貸せって意思表示らしい。
「え?なに?多分こいつは私達と同じで、黄金の錫杖を盗んだ賊を追いかけているんだろうから?盗賊をやっつけて錫杖を取り返すまでは利用して、最後に錫杖を持ち逃げした方がいいって?」
俺はクリスティアーノの方へと向き直った。
「よし。仲間になってやるから話せ。」
「聞こえてるんですけどぉー!!
てか、全部声に出てるんですけどぉー!!」
「細かい男だねぇ。器が知れるよ?」
「お前らのコンビネーションは魔物より凶悪だな。
まぁいい!仲間になるってんならそれでいい!それ以外のことは聞かなかったことにしてやる!」
「流石は優等生。器もでかいな。」
「わぁ!エジル!お世辞が上手だねぇ!」
ルイーダは拍手をして喜んでいた。
「落ち着け、クリスティアーノ。
ここまで凶悪なコンビを仲間にできるんだ。これは逆に幸せなことなんだ。そう思い込むんだ。」
「何をブツブツ言ってんだ?仲間になったんだから、早く話せよ。」
「よし!覚悟は出来たぞ!
お前らを本気で仲間にする覚悟が!
いいか、よく聞けよ!」
「勧誘したのはそっちじゃねぇか。」
「もうやめて!
説明させて!お願いだから!
いいか?俺は優秀だから、実はこの大陸はもう結構な場所を回ってきた。
そして、魔物の根城の場所がどこなのかを見つけ出したんだ!」
「マジか?すごいな。」
「そうだろ!?
でだな、魔物の根城ってのは、世界地図での南西に位置する、暗黒大陸という土地の中心にあるってことまで調べ上げたんだぞ!
驚け!讃えよ!」
「すげぇな。」
「だがな、問題がある。
それは、その暗黒大陸ってのは、大陸全ての海岸が切り立った崖になっており、しかもその崖がとんでもない高さときたもんで、とても船で侵入できる場所ではないってことなんだ。」
「なんだよ。詰みじゃねぇか。」
「しかしな、
俺は更に調べ上げた!聞いて驚け!
世界は広く、不思議に満ち溢れている!
なんとだな、世界のどこかに散らばる4つの神器を集めて神に納めることにより、不死鳥を甦らせることができるらしいんだ。
その不死鳥の背に乗れば、暗黒大陸に侵入することができるのだ!」
「で、その神器のひとつが黄金の錫杖ってわけだ。」
「その通り!
だから俺は、不死鳥復活に必要な神器を集めるために、この塔へと来ていたってわけだ。」
「なるほどな。お前、たった1年でそこまで調べ上げたのか。
本気ですごい奴なんじゃねぇか?」
「お、おい。
いきなり素で誉めるなよ。恥ずかしいじゃないか。」
「ちなみに他の神器って何があんのぉ?」
「それはだな。
それはまだ調べがついてない。だがきっと、まだ見ぬ土地へと旅をしていけば、自ずと分かってくるに違いない。
俺は錫杖を手に入れた後は、東を目指そうと考えている。この大陸の極東からであれば、更に東の大陸に渡ることもできる。
そうすればもっと多くの手がかりが見つかるはずだ。」
「なんか最後だけまともな話し方になったな。まぁいい。そこまでの計画があるんなら、俺達もそれに付き合うか。
いいな?」
ルイーダは軽く頷いてみせた。
「よし。決まりだ。
ならばさっさと錫杖を取り返しに行くとするか。」
というわけで、俺達はクリスティアーノと共に、塔の最上階を目指すことになったんだ。
最上階。
そこにはセオリーに漏れず、盗賊がでんと構えていた。
セオリーと違うことと言えば、
「なぁ、マッスル。あいつ、なんか青くねぇか?」
「マッスルって誰だよ!?
今そんなボケ必要ないだろ!!」
「なんでもいいけど、あいつなんであんなに肌が青いんだよ?って聞いてんだよ。」
「あれねぇ、魔族だねぇ。」
「マジかよ。あれが?初めて見た。」
「おいおい、
ビビってるのか?エジル。」
「なんだよ、えらい自信じゃねぇの。」
「まぁ見てろよ。」
クリスティアーノの力ある言葉と共に、その拳に光が集束していく。
「サントシャーマ。」
拳が突き出されると光の帯が放たれ、青い顔をした魔族を飲み込んだ。
「すげぇ!聖なる精霊術!?」
「魔族にはこれが一番効果的だからな。
俺は無駄なことは一切しない。魔族を殲滅する。それだけに特化して能力を選んで身につけてきた。」
光の帯が薄れて大気に同化した後に残されたのは、石の床に焼き付けられた魔族の影だけだった。
「・・・・のに。」
ルイーダが何かを呟いた。
「どうした?酒場の主人。
俺のあまりのかっこよさに震えたか?」
「魔族を・・・・・のに。」
「ん?
なんだって?」
「魔族を生け捕りにすれば色んな情報が引き出せたのに!なんでいきなり跡形もなくやっつけちゃってんのぉー!ばかぁー!!!!」
クリスティアーノがルイーダに暴行を受けている間、俺は魔族がいた場所の奥にあった小さな部屋の扉を開けてみた。
そこには黄金の錫杖が無造作に立てかけられていた。
背後ですごい音がしたが、俺は振り返らないようにしながら錫杖を手に取った。
「エジル!
助けてくれ!」
なんだろう。空耳だろうか。
とりあえず俺は山岳の城の国宝の奪還に成功したのだった。
つづく。