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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第二章【海賊大運動会】
45/84

リオ

「あ!」


「バカポドルスキバカ、声がデカいぞ★」


あまりの光景にポルディが声を上げるのも無理はなかった。


部屋から出てきたのは、


「あの女、魔界軍師!?♪」


「嘘だだだだど。

まさか、パフパフ屋にあの女がいるとか、どーかしてるど。」


「それもどーかしてるけど、リオがあの女を指名するのもどーかしてるぜ!」


「だから声がデカいと言ってるだろーが♥️」


「だって船長。リオの奴、なんだったら俺達を殺そうとしてる奴とパフパフするんですよ。」


「でも、おかしいねぇ。」


「どうした?ルイーダ♣️」


「あのゲルダってさぁ。」


「ゲルダがどうしたんだど?」


「パフパフ出来るほどオッパイ大きくないよねぇ?」


「そこかよ♦️」


ルイーダ達は民家の陰に隠れながら、頭だけ出すとふたりの様子を観察し始めた。

最も長身のメルテザッカー。

その次にポドルスキ。

ロシツキーは中腰になり、ルイーダは腰を落として。

頭が4つ、縦に連なる様は、まるでどこかの民話に登場する、ロバ、犬、猫、鶏みたいだった。

集合住宅から少しだけ離れると、リオはゲルダに向かって何かを伝えるかのように、必死に身振り手振りを繰り返した。




「・・・・・・!






「・・・・・・・。




「なんだ?何か話してるぞ。」


「こっからじゃ、おでの耳でもあまり聞こえないんだど。雑音が多すぎるど。」


住宅街とは言え完全なる無音とはいかない。

ほんの少しの生活の音の集まりが、動物並みのメルテザッカーの聴覚を惑わせるのだ。

痺れを切らしたポドルスキが声を上げた。


「どーする?ちこっと近づきますか?」


そんなポドルスキの肩を叩き、ルイーダが言った。


「大丈夫だよぉ。私が読唇術しちゃるから♪」


「マジかよルイーダ♠️そんなこと出来るのか?★」


それなりに付き合いは長いが、そんな特技はロシツキーも初耳だ。

ルイーダは満面の笑みを浮かべるとゆっくりと話し始めた。


「酒場の主人なめんなぁ。えっとねぇ、なになにぃ?


リオ『すいません。1時間コースでお願いしたいんですけど、ところでおねーさん。

全然オッパイ無いんですけど、本当におねーさんがパフパフしてくれるんですか?』


ゲルダ『大丈夫ですわ。寄せて上げれば谷間くらいは出来る程度にありますわ。』


リオ『いやいやいや。僕はもうスライムとスライムに挟まれてるんじゃないかってーくらいのスライムパフパフがしたかったんですけど。』


ゲルダ『あらお兄さん。ここはまな板に顔を擦り付けたい趣味の方専用のお店なのよ。

スライムをご希望ならお店を間違えたようね。』


リオ『嘘だ!この僕がお店の情報を間違えるはずがないんだぁ!』


っだってさぁ。」


「おいおい、嘘だろ♥️」


ロシツキーの驚きの声を受け、ルイーダはその顔を見ながら思い切りニヤついた表情で言った。


「嘘でぇーす。」


「嘘かよ!♣️」


「二人とも何を遊んでるんだど!」


当然メルテザッカーに怒られた。


「一緒にすんな!♦️」


ルイーダと同類扱いは流石の船長でもカチンとくるらしい。

正直どっちもどっちだとは思うが。

気を取り直すと、ルイーダがメルテザッカーを見上げた。


「でへへ。メルテちゃん、ちょっとも聞こえないのぉ?」


「そうだ、少しくらいは聞こえないのか?♠️」


「そうだどぉ、ちょっとで良ければ聞こえたんだど。」


「ををー、さっすが地獄耳ぃー。」


始めからこうすべきだというツッコミはこの際言いっこなした。

それくらいに、ルイーダはこの状況を楽しんでいた。


「やっと会えた。とか、僕のこと覚えてないのか。とかリオが言って、

ゲルダが人違いだ。みたいなこと言ってたど。」


「あの二人、知り合いなのか?★」


「どーだろぉねぇ。少なくともリオは知ってるみたいだけどぉ。」




踵を返して戸を閉めようとしたゲルダの肩に、リオが手をかけようとした時、

振り向きもせず繰り出されたゲルダの精心術が、強烈なラッシュをリオに叩き込んだ。



「あっ!野郎、手ぇ出しやがった!」


短いラッシュではあったが、ルイーダの精心術とまともに打ち合えるほど強力なゲルダの分身には、人間ひとりを吹っ飛ばすには十分な時間だった。


リオの体は路地を横切るように飛ばされ、向かいの民家の隙間に積まれた木箱の群れに突っ込んでいった。

その音に反応して、集合住宅の中から数名の男が飛び出してくた。


「どう致しました!?ゲルダ様!!」


「痴漢かしらね?

もう私が追い払ったから気にすることはないわ。」


その男達の服装を見て、ロシツキーが声を上げた。


「ありゃ、帝国の軍服じゃねぇか♥️」


「あの部屋、奴らの隠れ家なんだど?」


「どうやらアルシャビンの言っていたことは本当のようだな♣️

あの女、まだ軍部と繋がってやがるんだ♦️」


ゲルダが移動を始めた。

それを受けて、ルイーダ達は急いで屋根の上へと登った。

こちらに向かって路地を歩き始めたからだ。


「さぁ、私はまたあのつまらない船に戻りますわ。

あなた方、くれぐれも見つからないよう気を付けるのですよ。」


言い残し、ゲルダは港の方へ向かって去っていった。

完全に視界からゲルダが消え、軍人達も部屋に引き込んだのを確認してから、ロシツキー達はリオの元へと駆け寄った。


「ダメだ、完全に気を失ってやがる。」


「一旦、船に運ぶんだど。」






 


「さぁ、話せ♠️」


木箱がクッションの役割を果たしたようで幸いにもリオの怪我は軽く済み、すぐに目を醒ました。

ベッドに横たわったままのリオの部屋にロシツキー達が集まっていた。


「え?話すって、何をですか?」


「しらばっくれるな、全部見た♥️

お前、ゲルダとどういう関係なんだ?♣️」


「・・・・・。

そうですか。見られてしまったんですね。

分かりました。全部話します。

彼女は、僕の姉なんです。」



ロシツキー達は驚きを隠せなかった。

ベッドの上で上半身を起こすと、枕元の燭台から水を手に取りひとくち口に含んだリオが、ゆっくりと語り始めた。



「僕達の生まれた北方の帝国は、皆さんがご存知のように軍事国家です。

国民には高い税金が課されて、その税収のほとんどが軍備拡張に使用され、国民の大半の生活は非常に貧しい。

僕と姉が生まれたのも、そんな普通の貧しい家庭でした。

両親と姉弟ふたりの四人家族。

姉は僕のふたつ上で、とても優しい姉さんでした。

姉さんが8歳になったある日、生活費と引き替えに人買いに買われて行きました。

もう二度と姉さんには会えない。

僕は両親にそう聞かされ、その後は三人家族として暮らすことになりました。

それから10年が経ち、

両親は過労が原因で他界し、僕だけが残されました。

僕がひとり、自分の生活の為だけに無気力に働くのみの生活を送り始めた頃です。

軍が隣国の侵略に成功し、その凱旋パレードを見に行った時のことでした。

戦役の功労者の表彰式で、最大功労者が特進で総参謀に抜擢されるという発表がありました。

その時、壇上に上がったのがゲルダだったんです。

10年振りでしたが、僕にはすぐに分かりました。

それが僕の姉さんだと。


しかし軍の幹部と言えば、僕達一般市民からしてみれば雲の上存在。

姉さんはとてもじゃないが、面と向かって会えるような相手じゃなくなってしまっていたんです。

でも、どうしても会いたい。

僕は居ても立ってもいられなくなり、軍に入隊する決意をしました。

軍で昇進すれば、いつかは姉さんに会えるはず。

けど、現実は無慈悲でした。

僕が入隊して間もなく、あの有名な、草原の国での首都大虐殺が起こったのです。

姉さんは戦争犯罪者として起訴され、国外追放に。

僕は絶望しました。

一緒に軍にいれば、いつかは出会えると信じいていたのに。

それでも僕は諦めませんでした。

姉さんに会うために入隊を決めた時から、何が何でも必ず成し遂げると自分自身と約束していたんです。

それからすぐに除隊し、彼女の足取りを追いましたが、手がかりは皆無です。

僕は地道に風の噂や目撃情報を頼りに探して回りました。

幾つもの町を渡り歩き、やっとのことで手に入れたのが、白き海賊団に入団したという情報だったんです。

僕はその海賊団について調べ、そしてこの赤き海賊団と因縁が深いという事を知ったのです。

あとは行動あるのみです。

赤き海賊団のことも調べあげ、勇者エジルとのこと、海賊オリンピックのことを知り、

勇者エジルの弟子を騙れば、きっと入団できると思い付いたんです。」




「なるほどな♦️」


枕元の椅子に腰掛けたロシツキーが腕組みをしたまま、難しい顔をしていた。

他のクルー達も、軒並み神妙な面持ちだった。


「やっぱりエジルの弟子ってのは嘘だったんだど!」


「じゃあ、寺院で奴らの挑発に乗ったのも、わざとか♠️」


「すいません。

どうしても姉さんと接触出来る機会が欲しくて。

海賊オリンピックの開催期間中はずっとこの町にいられると思って、そしたらどこかのタイミングで会える可能性があるはずだと・・・。」


「で、会えてどうだったんだ?★」


「姉さんは、僕のことを全く覚えてませんでした。

いや、僕のことをだけじゃない。

昔のことを、軍に入る前のことを、何ひとつ覚えてなかった。

家、両親、何もかも。」


リオの言葉はとても重く、クルー達にのし掛かった。

思ってもみない過去。

つい先刻まで、下世話な話しで盛り上がっていたのが嘘みたいだった。

誰もが言葉を失っていた。

長い沈黙。

それを破ったのはやはり、ロシツキーの隣に座っていたルイーダだった。


「ふぅーん。んで、話しを打ち切られたから無理くり続けようとして、ぶっ飛ばされたんだぁ。」


いつもながらの能天気な声。

が、正面に座るリオだけは、そのルイーダの瞳に見たこともない光が宿るのに気が付いていた。

エジルですら見たことがないだろう、黒く輝く深い光が。


「・・・・そうです。」


「お前が一生懸命なのは分かったが、本当に人違いって可能性はないのか?♥️」


「そ、それは・・・・。」


「自信は無しか♣️」


「だけどさぁ、覚えてないってーことは、本当に覚えてないだけかもしんないんだよねぇ。」


「確かにルイーダの言う通りだな♦️

おいお前、何か、ふたりにしか分からねー話しとか目印とか、そんなんはないのか?♠️」


「ふたりにしか分からない・・・。

そんなの、いっぱいありますよ!

僕と姉さん、ふたりで川に行って魚釣りをしたこと。

隣の家の壁に落書きして怒られたこと。

小さなパンをふたりで分けあって食べたこと。

何もかも、僕と姉さんの思い出です!」


「よっしゃ分かった★

それじゃあ、もう一度ゲルダのところに行って、今の話しを思う存分してくるんだ♥️」


「でも、またさっきみたくぶっ飛ばされちゃうじゃないですか?

いくらリオが頑丈でも、あんなの何回も食らったら流石にまずいですよ。」


「おう、ポドルスキよぉ♣️

そうならねぇように、俺達も一緒に行くんじゃねぇか♦️」


「え!?せ、船長。

だって僕、船長たちを騙していたのに・・・。」


「騙していた?♠️

あーそうか、俺達、騙されてたのか★

おい!リオよぉ♥️」


突如として、普段の浮わついた態度からは想像もつかない、ドスの効いた声を出すロシツキー。

その声に、リオの体に一瞬にして緊張が走るのが分かった。


「は、はい!」


「例え騙されてたとしてもだ、

うちに入ったからには、お前が俺の子分だってことに変わりはねーんだぜ♣️

お前がやりてーことがあるってんならよぉ、とことん付き合ってやらぁ♦️」





「お、お、お、お、お、


おぉかしらぁー!!!

やっぱ好きだぁー!!!!!」




突如として雄叫びが部屋中に響き渡った。

突然の大声に驚き、その場にいた全員が振り返った。



「うおっ!?♠️アルシャビン!?★どっから出てきた!?♥️」


「入り口でさぁー!!!うおぉぉぉぉん!!!」



部屋の入り口にはいつの間にかアルシャビンが立っていたのだ。



「あら。汚い船ですこと。」



傍らに、ゲルダを伴って。



「げ、ゲルダ!?なんで貴様が!?」


ロシツキー達は一斉に立ち上がると、即座に身構えた。


「お邪魔しますわね。

あ、お茶とかお菓子とかはお気になさらずに。

すぐにお暇しますから。」


「なんでアルシャビンとゲルダが一緒にいるんだど!?」


ぐちゃぐちゃに流れる涙と鼻水を拭いながら、アルシャビンが声を上げた。


「お、お、お、おかしらぁー!!

すまねぇー!!!

実はさっき、このゲルダから、

赤き海賊団のクルーに暴行を受けたとの訴えが上がったんでさぁー!!!」


「ぼ、暴行って、そりゃー受けたのはこっちのクルーだぜ!」


「そんでよぉ!

理事会で審議に掛けられたんだが、多数決で受理が決まっちまったんでさぁー!!!」


「な、なんだって!♣️」


「受理されたって、こっちの言い分は聞かないんだど!?」


「すまねぇー!!!

俺は勿論、棄却に投票したんだがぁー!!」


「受理されて、そりゃどーなるんだ?♦️」


「赤き海賊団は、今回の海賊オリンピック出場権を剥奪されちまうんだよぉー!!

うおぉぉぉぉん!!!

すまねぇー!!!おかしらぁー!!」


「ま、マジかよ♠️」


「僕の、僕のせいだ。

僕が勝手なことをしたせいで!」


ベッドの上のリオが枯れたような声を絞り出した。

その声にゲルダが嘲笑しながら言った。


「そうですわね。

あなたが訳の分からないことを言いにこなければ、こうはならなかったのかもしれませんわね。

で、も、

もう手遅れ!にゃはは♪」


「おかしらぁー!!本当にすまねぇー!!!

俺も力になりてぇんだが、次の会議が始まっちまうんでさぁ!!

もう帰らねぇといけねぇ!!!

本当にすまねぇー!!!」


「気にするな、アルシャビン★

お前は職務を全うしてるだけだ♥️

俺達を庇ってくれたのは分かってるから、だから気にせず仕事に戻れ♣️」


「うおぉぉぉぉん!!!

やっぱ大好きだぁー!!!」


その声から悔しさは隠せなかった。

今は離れて活動しているとは言え、ふたりは無二の戦友。

アルシャビンの心の叫びは痛いほどに伝わってくる。

そしてそれに応えたロシツキー。

そんなふたりを見詰めるルイーダは、心の隅が痛くなるのを感じていた。


アルシャビンが号泣しながらエミレーツ号を後にした。

そして部屋に残されたのは、ゲルダのみだった。



「にゃは♪

残念でしたわね、あなた達。」


「てんめぇー!」


「三下は黙ってなさい。」


「下がれ、ポドルスキ♦️俺が直々に話しをつける♠️」


ロシツキーはクルーを押し退けると、ゲルダの真正面に立ちはだかった。


「おいお前、一体どういうつもりなんだ★

俺達と海賊オリンピックで白黒つけるんじゃなかったのか♥️」


「にゃはは♪

そうですわよ。そのつもりでしたの。

でも、そこの坊やがお痛するのがいけないんですわ。」


言いながら、リオを指差した。


「何を企んでるやがる♣️」


「別に何も企んでなんていなくてよ。


でもね、


海賊オリンピックに出られないのでは、


約束通り、


あなた達みんな、


み・な・ご・ろ・し♪


にゃはぁ♪」




つづく。

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