決戦、魔王城②
扉の先の階段を登ると、すぐに玉座の間だった。
広く、天井も高いその部屋の奥。
まず目についたのは、
巨大な、人のものとはまるで規模の違う、とてつもなく巨大な玉座に鎮座する、大きな魔物の姿だった。
今まで出会った魔族とはまるで違う。
大きな角をいくつも生やしたワニみたいみたいな顔を持つ、特大の魔物だった。
いかにも魔族の王様っていった異形の者がそこに存在していた。
そしてもつひとつ俺の目に留まったのは、
「あっ、エジルぅー。」
部屋中に能天気な声が響いた。
「捕まってしまいましたぁー。」
玉座のすぐ側。
縛り上げられて高い天井から吊るされているルイーダの姿だった。
「ルイーダ!無事か!?」
「無事だけどぉ、縄が痛いんですけどぉー。」
「待ってろ!すぐに下ろすからな!」
俺は駆け出した。
そして気が付いた時には右腕から血が噴き出していた。
「なにっ!?」
咄嗟に腕を押さえた。
攻撃された!?
視線を魔王に移して構えを取った。
魔王が動いた気配はない。
微動だにせず、玉座に居座ったままだ。
何をした?
俺は息を飲んだ。
「エジル!」
ルイーダが声をあげた。
「悪い、ルイーダ。もう少し待っててくれ。すぐに助けるからな。」
ちょっと舐めてたかもな。
普通に考えてもまずはあっちが先だったわ。
俺は剣を抜いた。
その左腕からも、血が噴き出した。
「っ!?」
痛みに思わず剣を取り落とした。
また攻撃されたってのか!?
言葉も出なかった。
全く見えなかったぞ!
何が起きてる!?
「エジル!何してんの!」
ルイーダの叱咤が聞こえてきた。
俺はそっちに視線を移し、そして驚愕した。
あいつ、いつの間に近付いてきた!?
そうだ。
ルイーダの位置が先程よりも明らかに近い。
いや、違う。
ルイーダだけじゃねぇ。
魔王との距離も明らかに縮まっている。
俺は視線を周囲に巡らせた。
俺がいたのは、部屋の中央辺りだった。
マジか!?
いつの間にこんなに進んだんだ!?
俺はさっき、部屋の入り口から数歩走っただけだぞ!
こんなに走った覚えはねぇ!
おかしい。
何かがおかしい。
変なことが起きてるのは確かだ。
あのワニ野郎、何をしてやがる。
俺は腰を落とすと、床に落ちた剣を拾い上げようとした。
肩口から血が噴き出した。
しかも今度は深い。
相当に抉られている。
「だぁっ!?」
思わず声が漏れた。
「エジル!」
悲鳴にも似た声が響き渡った。
あまりの出来事に、俺は頭にきて声を荒げた。
「汚ねぇぞ!この野郎!」
そんな俺の罵倒の言葉にも、魔王はピクリとも反応しない。
「てめぇ!やるならやるで、言うことあんだろうが!宜しくから始めろや!!」
自分でも面白いことを言ったと思う。
だけど、それ程までに俺の頭は混乱したいたんだ。
こりゃあ相当まずいわ。
何をされてるかも全く分からねぇのに、深手だけ負わされてる。
これを何度もやられたらすぐに終わりだっつーの。
こうなったら先に仕掛ける方が得策だ。
「ヴァクーム!!」
俺は力ある言葉を発した。
今度は太ももから血が噴き出した。
「ってぇな!この野郎!!」
全力で毒づいた。
とは言え、魔王にも俺の術が直撃してはいるらしく、その皮膚には傷がついているように見えた。
しかし、魔王はそれでも微動だにしなかった。
「エジル!違うよ!後ろ!椅子の後ろだよ!」
ルイーダが叫んだ。
「後ろ?」
「いったぁーっい!!」
ルイーダの言葉に反応した瞬間だった。
玉座の後ろから光が飛び出すと、ルイーダの腿を貫いたのだ。
「ルイーダぁー!!」
俺は喉が張り裂けんばかりにその名を叫んだ。
「隠れてる奴がいんのか!?だったらコソコソしてねぇで出てこい!!」
もう許さねぇ。
俺に攻撃するだけなら勘弁してやる。
だが、動けねぇルイーダを狙うのは許さねぇぞ。
「さっさと出てこい!このくそ野郎がぁ!!」
「相変わらず口が悪いな。」
玉座の裏から声が聞こえた。
足音も聞こえる。
誰かがいる。
歩いている。
この声。
「久しぶりの再会なんだ。」
聞き覚えのあるこの声。
これは、この声は。
「少しは優しくしてくれてもいいだろ?」
玉座の裏から姿を現したのは、
「お、お前・・・。」
長身。
逞しい肉体。
美しい顔。
見知ったその顔は・・・・
「お前は、なんで!?」
つづく。




