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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第三部【魔なる者】
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極北の島①

新訳・エジルと愉快な仲間

第三部




「さぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶい。」


いや、そうだろうな。

俺はガチガチと歯を鳴らしながら連呼するルイーダを眺めながら、必死でオールを漕いでいた。


「だからよ、最低限でも船を漕ぐのを手伝えばちっとは暖かくなるって、何度も言ってるだろ?」


「やだ!」


「なら静かにしろ。」


「さぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶいさぶい。」


魔力が尽きてからと言うもの、俺達は自力でオールを漕ぎながら、極寒の海を進んでいた。

ロシツキーは目と鼻の先と言った極北の島は、行けども行けども見えてこない。

夜通し船を漕いでいるんだけどな。

その間中、ルイーダはずっとこの調子だし、時折吹きすさぶ猛烈な寒風はルイーダをもっとやかましくするし、もういい加減に陸地に着いて欲しくてたまらなくなっていた。


「あー。エジルが白銀熊のコート買ってくれてたらこんな寒くなかったのになぁ。」


「今ここでその話を持ち出すな。」


「あー。寒いなぁ。ちょっと焚き火してみよっかぁ?」


「よぉーし、この船が何でできてるか言ってみろ。」


「木。」


「即答してんじゃねぇよ。そして手伝えよ。」


「やだ!」


あー楽し。

こうやって無駄口叩いてりゃちっとは寒さも忘れるってもんだろ。

それにしても、北国ってのはこんな寒いもんなのかよ。

俺の生まれた水の都は割りと温暖で、暑くもなく寒くもなく、そりゃあ過ごしやすいところだったからなぁ。

こういうところに来ると、本当に自分達がいかに恵まれてたのか思い知らされるよ。

前に砂漠を越えた時だって何度か死ぬかと思ったけど、今度は本当に死ぬかもしれねぇな。

俺はそんなことを考えながら船を漕ぎ続けた。


「おい、あとどのくらいで夜明けだ?」


「あと、あと、あと、いや、今だよぉ。」


ルイーダの背後が輝いた。

遥か遠くの水平線に沿って、一筋の光が走る。

空は紫色に染まり、夜は溶けるようにして朝の反対側に吸い込まれていく。

俺は詩人じゃねぇから、綺麗な夜明けの表現とかは上手く言えないけど、これだけははっきりと言える。

世界は今、目を覚ましたんだ。


「あ!見て!」


「眩しいな。」


ルイーダが前方を指差した。

その示す先、太陽に照らし出されたのは黒くて大きな影だった。


「あれが極北の島か。」


「エジル!早く!早く!」


「いいか?ルイーダ。もう一度言うぞ。お前も漕げ。」


「エジルがんばれぇー。」


「ちゃんと3回目も同じこと言えよな!」





小さな流氷の浮かぶ海を急いで切り抜け、やっとの思いで海岸へと辿り着いた頃には、空から大粒の雪がこぼれ落ちていた。

岩だらけの浜に救命艇を接岸させると、俺達は急いで船から飛び下りた。


「死ぬ!死ぬ!ルイーダ!まずは火を起こせ!」


「うっひょぉー。手がガッチガチで鞄開けらんないんですけどぉー。」


「がんばれ!そこを何とか!」


俺達の体は既に体の芯まで冷えきっていた。

すぐに暖まらないとマジで危ない。

あまつさえ、凍傷の危険すらあり得る。

分厚い手袋越しになんとか指を操りながら、俺達は必死に荷物をまさぐった。


「あったぁー!」


ルイーダが取り出したのは火打ち石。

それを見た瞬間、俺は剣を抜くと救命艇をぶっ叩いた。

今燃やせるものはこれしかねぇからな。

できるだけ乾いた切れ端をかき集めると、そいつを重ね合わせてから、その隙間に手拭いを切り裂いて突っ込んだ。


「ついてよぉー?」


手拭いに向けてルイーダが石を擦りあわせると、弾けた火花は上手いことその端っこに燃え移る。


「よっしゃあー!!!」


「ふーっ!ふーっ!」


燃え移った火にふたりして息を吹き掛けると、手拭いを伝って船の残骸に燃え広がっていった。

この旅始まって以来の必死さだったかもしれねぇ。

俺達は焚き火に抱きつくようにして体を暖めた。


「寒さってやばいな。」


「いやぁー、この間死にかけたばっかりなのに、また死ぬかと思ったぜぇー。」


改めて、火の偉大さを感じた瞬間だった。


「とりあえず生き延びたことだし、一旦飯にするか。」


「おっけぇー。」


ルイーダは再び鞄を漁ると、中から大きな干し芋をふたつ取り出した。

まずは焚き火で炙ってから、俺達は無心でそれを頬張った。


「芋って、旨いな。命の尊さを感じるわ。」


「を、なんか哲学的?」


「この芋に生かされてるのを、俺は今、心の底から実感してる。」


「ちなみに食料はこれで終わりだかんね。」


「もう少し冗談に付き合えよな。」


しばらく体を暖めることに集中していたが、気が付いた時には辺り一面、銀世界になっていた。


「マジかよ。こんな雪が積もってるぞ。」


「早く移動しないとまずいねぇ。」


「この島は人が住んでるか?」


「んー、とねぇ。」


次に鞄から取り出したのは、ルイーダがたまに読んでいる本だった。


「んー、そうだね。村がひとつだけあるみたい。島の南東側かな。えーと、さっき太陽が昇ったのがあの辺の方向で、今の季節から考えるとー、んー、あー、ここの緯度があーなってこーなると少しズレるし、ってことは東はあっちだから、んー。大体この辺かな?

よし。

今は多分この辺だから、あっちの方に少し行けば村があるよぉ。」


ひとりであーだこーだ呟いたあと、ルイーダは本に書いてあるこの島の見取り図みたいなのを手袋でなぞりながら、俺に指し示した。


「よし。じゃ、そろそろ行くか。」


念のため、救命艇から太めの端材をひっぺがすして、手拭いをぐるぐるに巻き付けた。

簡易的な松明の完成だ。

そいつに火を移してから、手近に積もった雪で焚き火を消してから、俺達は海岸を後にした。



雪の上を歩くのは初めてだ。

俺の革のブーツはすぐにびしょびしょに濡れ、足の先が痺れるくらいに冷たくなった。

それはルイーダも同じらしく、顔をしかめながら後についてくる。

更にはよく滑る上に、足をとられて歩きにくいったらない。

歩くだけで体力を使うから体が暖まる分、まだなんとかなってるが、この状態で野営にでもなろうものなら明日は迎えられないだろう。

俺達は慎重に急ぎながら海岸沿いを歩いていった。

厚い雲に覆われた空から時刻を知ることはできない。

もうどのくらい歩いたのか分からなくなっていたが、そろそろ体力の限界が訪れる頃だ。

俺じゃなくてルイーダのな。

だんだんと歩く速度が遅くなってきた。


と、ここで言っておく。

ここでは死にそうな感じにはもうならない。

そんな毎回毎回死んじゃいられねぇ。

こーゆーのはメリハリが大事なんだよ。


ルイーダが、もう歩けないおんぶしろ、と言い出したその辺で、俺達は遂に人里に辿り着いたんだ。

人の生活を感じる煙突からの煙を見付けた途端、駄々をこねていたルイーダは全力で走っていった。

疾風のごとく。

そして滑って転んだ。








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