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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第一部【始まりの冒険】
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いい日旅立ち②

港町に到着すると、俺達は宿をとった。

たった2~3日ほどの夜営だったが、女性であるルイーダはそれなりに不快だったらしく、風呂に入りたいと駄々をこねたからだ。

宿に荷物を置いてから、それぞれ身支度を済ませると、俺達は食堂で飯を食った。

大して豪華なもんでもないが、道すがら魔物を倒しながら貯めた金があったから、それなりのものを食えた。

その後、船旅に必要な食料や薬草なんかを買い揃えた時点で俺の財布は宿代を残してほぼ空になった。


「20Gもあったのにもうすっからかんだぜ。」


「ほらね、旅にはお金掛かるんだから。」


「まぁでも、贅沢をしたいわけじゃねぇし、最低限あればいいよ。」


「頑固だねぇ。」


「俺は金儲けしたいわけじゃねぇ。」


そんな会話を交わしながら、俺達は港に立ち寄った。

小さな漁船が何艘か停泊している中に、一際大きなガレオン船。

それが噂の商船だとすぐに分かるくらいに異彩を放っていた。

黒い布で覆われた積み荷を下ろしている船員らしき若者に声を掛けると、すぐに飲み込めたらしく船の中に通され、船長室に案内された。


船の中ってのは初めて入ったが、思っていたよりも揺れないもんなんだな。

それだけ大きな船だってことなのかもれないけど。

船長室には壮年のがっしりとした男が机で書き物をしていた。

軽く自己紹介がてら挨拶をした後、机の前に置かれたソファに座るよう促された。


「用件は察しがついてる。大陸に渡りたいんだな?」


「話が早いな。お願いしたい。」


「俺達があんたら勇者さん達を大陸に送り届けるってのは、だいぶ昔からの慣例だからな。

それは構わない。」


「助かるよ。ありがとう。」


「だがな、無料ってわけにはいかねぇ。」


「どういうことだ?」


「別に俺達もこの国の王様に金を貰ってるとかそういうわけでもねぇんだ。言ってみりゃただの慈善事業なんだよな。

こっちも命懸けで航海をしてるってことをまずは理解して貰いたい。

その上で全く関係ない勇者様を乗せてやってるんだ。

ここまで言えば分かるよな?」


「いくらだ?」


「素直だな。ひとり、3000Gだ。」


俺は思わず立ち上がった。


「バカ言うな!そんな大金払えるわけねぇだろ!」


「なら大陸に渡るのは諦めろ。」


「おい、あんた。調子に乗るなよ?」


俺は船長に詰め寄った。


「なんだ?殴るのか?それともその腰の剣で叩き切るか?

好きにしろよ。どちらにしろあんたが大陸に渡れなくなるのには変わらない。」


「てめぇ。」


俺が激しく歯ぎしりをして拳を握りしめた時だった。


「まぁまぁ、エジルちゃん。そーカッカしないの。」


ルイーダが俺の尻をひっぱたいた。


「いてぇな!なにすんだ!」


「6000Gでいいんでしょ?乗船前に渡せばいいのかな?」


「おい!払うのかよ!?」


「ちょっと黙ってて。」


言いながら、ルイーダは俺に向かって指でソファに座るよう示して見せた。


「あんたは物分かりがいいらしいな。それで構わないぜ。」


「おっけぇー。出航はいつ?」


「明朝、日の出と共にだ。」


「んじゃ明日持ってくるね。」


「ああ、待ってるぜ。」


「ちょっと待て。だからなんでもかんでもお前が勝手に決めるんじゃねぇよ。パーティーのリーダーは俺だぞ。」


「エジルさぁ、さっき外で見た黒い布の荷物、何だか分かる?」


「なんだよ、急に。荷物が何だってんだよ。」


「あれ、棺桶だよ。」


「え?」


「この3000Gってのはね、もし私達が死んだらこの故郷まで連れて帰って来てくれる、棺桶の運賃も含まれてんの。

そーでしょ?船長さん。」


「察しがいいな。辛いことだがな。」


「・・・・マジかよ。」


「ああやって棺桶に入れて連れ帰れる奴なんかもほんの一握りだよ。

ほとんどの連中は遺体すらも残らない、無惨な死を遂げるもんさ。あんたの国の政策は、そりゃあ聞こえがいい。世界中の民の為に魔物退治だ。

だがな、俺に言わせればただの無責任だぜ。

意気揚々と旅立つ前途ある若者達をむざむざ犠牲にするだけなんだ。」


「覚悟はできてるさ。」


「本当か?

あんた、遺された者のことを考えたことがあるか?

あんたに覚悟があったとしても、家で待つあんたの家族はどうだ?

あんたの遺体を家族の元へと届ける俺達の気持ちは考えたことがあるか?

皆、覚悟は口にしている。そういうご時世だからな。

だが、本音は違うだろ。大切な子供を失った親の顔を見るのは、そりゃあ辛いもんだぜ。

白状しちまえば、3000Gって大金も、あんたみたいな無鉄砲を思い止まらせる為につけてる値段って意味もあるのを分かってほしい。」


「俺には、俺には家族なんていない。」


「そうか。」


「あんたにも迷惑かけるかもしれねぇ。だけど、それ以上に俺にはやりたい気持ちがある。」


俺の言葉に、船長は頭を振って両手を上げて見せた。

これ以上の問答は無意味と悟ったようだった。


「んじゃ、決まりでいいね?

私達がもし死んだら、この船長に後始末をお願いするよ?」


「ああ。俺はそれでいい。」


俺は膝の上に肘を乗せた姿勢のまま、ルイーダの方へ首を向けた。


「お前は別だ。ここで帰れ。」


その言葉に、ルイーダは声を上げて笑った。


「でへへ。3000Gはどうやって払うのさ?私のお金でしょーよ。」


「自分で稼ぐよ。」


「魔物を倒して1Gずつ?何年かけるつもり?」


「お前が教えてくれたんだろ?魔物の死骸を売って稼ぐよ。」


「どぅっへっへぇ♪それこそ何年かけるつもりよぉー。私の取引先は、私が長年かけて開拓した流通ルートだっつーの。

一見さんの君がまともに取引して貰えるまでにどんくらいの時間がかかんのかねぇー?

勇者辞めて商人にでも転職するぅ?」


「な?そんなんそこらへんの道具屋に売るんじゃねぇのかよ。」


「随分と軽く見てるねぇー。そんなんじゃ、私がいなくなった瞬間に棺桶行きだねぇ♪」


ここまでのやりとりを見ていた船長も、大きな笑い声を上げた。


「さっきから言おうと思ってたが、そこの姐さん、旅人の酒場のルイーダだろ?その姐さんに口で勝てる奴なんて世界中を探してもそうはいねぇよ!兄ちゃん、諦めな!」


「ふざけんな!ダメだ!一般人をそんな危険な旅になんて連れていけねぇ!」


「エジルさぁー、君、世界を救う勇者になるんでしょーよ。」


「俺は別に勇者になりてぇわけじゃない。俺は、俺は・・・・・。」


「言えない?言いたくない?

まぁ言わなくても分かるけど。

君がなんと言おうと私は譲らないよ。

見捨てようと何しようと、私は私を通すかんね。

そこんとこに関しては君とおんなじだよ。」


俺は言葉を失った。

その時俺は、あの日、あの時のことを思い出していた。






今から10年くらい前。

俺が10歳かそこらだったあの日。

孤児院で暮らし始めていた俺は、周囲の連中に馴染めず、いつもできるだけ院の外で過ごすようにしていた。

院に戻るのは夜、食事の時間と寝るときだけ。

それ以外は常に外をフラフラとしていた。

だから、自然と院の外に悪い仲間が増えていった。

盗みやカツアゲに喧嘩、子供がやるような悪いことは全部やった。

その仲間達と一緒にいる時だけが、自分が生きていると感じられた。

そこが俺の居場所だった。


ある時、俺達は町の外に出て遊んでた。

大人からやってはいけないと言われていることをやるのが楽しくて仕方がなかった。

まぁ、そんなことばっかりしてれば、手痛いしっぺ返しがくるのも頷けるよな。

俺達は島で最も凶悪な、ゴブリンって人型の魔物と出くわしてしまった。

すぐ逃げ出したが、俺は運悪く転倒して足を挫いてしまった。

仲間達に助けを求めたが、連中は俺には目もくれず、蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。

大声で喚いたが、俺を助けようとする奴は誰ひとりいなかった。

ゴブリンが俺のことをこん棒で殴ろうとした時だった。

たまたま通りかかった旅人が俺の上に覆い被さったんだ。

こん棒を背で受けた旅人はそれでもゴブリンを振り払うと、怯むことなくそいつに挑みかかった。

あの光景は今でも鮮明に覚えている。

まるで燕が空を自由に飛ぶように宙に舞い上がると、ゴブリンの首を太ももで挟み込み、体を捻りながらそいつを巻き上げたんだ。

ゴブリンはそのまま、地面から飛び出していた岩に頭から叩きつけられ、ぐったりと動かなくなった。


ゴブリンをやっつけた旅人は、背中を大きく怪我していたにも関わらず、俺を背負い上げると孤児院まで送り届け、何も言わずに去っていった。

頭からすっぽりとフードを被っていたその旅人の顔を俺は一目も見ることが出来なかった。

その出来事はそれまでの俺の価値観の全てを覆した。

名前も顔も知らない、見ず知らずの旅人の行いが、その後の俺の人生の指針となった。

俺もあの人みたいになりたい。


それから俺は、町の悪い仲間との付き合いの一切を断ち切り、自分を高めることだけを考えて生きてきた。

いつか、あの旅人と同じことをできるようになる為に。





「分かった。来たければ来いよ。」


「でへへ♪そーこなくっちゃね。」


「その代わり、俺はお前を全力で守るぞ。」


「なに?まーだ信用してないの?」


「信用できるかよ!お前は一般人で、しかも女だぞ!」


「そーゆーの性差別なんですけどねぇ。

まぁいっか。守ってくれるってんならしっかり守って貰おうっかなぁー♪

お姫様みたいだもんねぇー♪」


「好きにしろよ。」


俺は自分の掌に目を落とした。

この手で、ひとりでも多くの人を助けたい。

勇者になんかなりたいわけじゃない。

俺の目的に、勇者って職業が一番の近道だっただけだ。

手段は選ばねぇ。

どんな手を使ってでも魔物を根絶やしにして、困ってる人を助けてやる。


「まとまったみたいだな?

じゃあ、明日の日の出だ。遅刻したら次の渡航は一月後だから、早いところ寝とけよ。

頑張るんなら少しにしとくんだな。」


船長のにやけ顔を見て、俺は少しの間考えたあと、ルイーダに視線を移した。


「どすけべ!」


瞬間、ルイーダの拳が俺の顎を打ち抜いた。



「そんなんじゃ・・・ねぇから・・・。」



これで早寝ができたってもんだ。




つづく。

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