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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第二部【海賊と俺】
21/84

密林の国①

「まさかお前がルイーダを置いてくるとは思いもしなかったな★」




俺達が密林の国に乗り込む前、最後に立ち寄ったのは、【海賊の楽園】と呼ばれる最果ての町だった。

正規国家の政府が作る世界地図に記載されることのない、無法者達だけの町。

存在は知っていても、絶対に認められることのない場所だ。


俺達はそこで密林の国に潜入するための最後の準備を行っていた。


「ママとはぐれて寂しくないか?♪」


「おい船長。マジできちんと白黒つけとくか?」


「だっはっはっ♥️ジョークだろ?♣️そう怒んなよ♦️」


怒るのも無理はねぇ。

この野郎、俺が開拓者の森にルイーダを残してきてからと言うもの、俺の顔を見れば第一声にこれを言いやがる。

しかも、見る度にだ。

誇張じゃねぇ。

見る度にだ!

日に何度言やぁ気が済むんだ!

朝起きてまず一言。

飯の席で一言。

便所から戻って一言。

一仕事して一言。


いい加減にぶっ飛ばしてやりたくなる気持ちも分かるだろ?

始めは和ましてやろう的な気遣いかとも思ってたけど、どう考えても楽しんだるだけだと分かってからは真剣に頭に来るようになった。


「お頭、エジル!遊んでねぇでさっさと片付けちまってくだせぇや!そんなもたついてたら日が暮れちまいやすぁ!」


俺がマストの張り替えを手伝っていると、アルシャビンの怒声が聞こえてきた。


「うっせ!文句言うならまずこのバカ船長をどっか連れてけ!」


そう、俺達は密林の国に入国するための準備として、ここで船の換装を行っていたのだ。

海賊船から商船へのな。


「おっし。物資の調達も衣装も準備できたどー。」


船員総出で船の改造に取り組んでいると、台車を引いたメルテとポドルスキが町の方から歩いてくるのが見えた。

その台車には山盛りの荷物がはみ出んばかりに積み込まれていた。




「よーし♠️野郎共、よーく聞けよー★

俺たちゃ今から孤島の国の都市貴族だ♪礼儀正しく振る舞えー♥️」


「あいあいさー!」


「コクラン!♣️」


「あいさ!」


「お前は誰だ?♦️」


「孤島の国の豪商、ネドベド家のパベル2世でございます!」


「ベジェリン!♠️」


「あいさ!」


「俺達の扱う品物はなんだ?★」


「孤島の国の王室御用達、上質な毛織物でございます!」


荷物を全て積み込み、船の準備を終えると、俺達はメルテの用意してきた小綺麗な衣装を身に纏い、全員が揃って甲板に整列した。

俺達の前を行ったり来たりしながら、ロシツキーはこうやってひとりひとりに質問をしていく。

この海賊団の統制はバカにしたもんじゃない。

孤島の国への潜入時にも、誰ひとりとして欠けること無くそれぞれが任務を遂行して帰還してきた。

脈絡だけの作戦も意図を汲み取り、場面によって最善策を選択できる。

こいつらは全員が高い思考力と判断力を備えているんだ。末端の船員まで全てだ。

そしてそんな奴らが船長の意思に従える。

そんな海賊団、他を探しても滅多にねぇだろうな。

頭がいい野郎は大概は野心家だからな。

しかし、ここには船長を出し抜こうなんて奴はひとりもいない。

少なくとも俺にはそう見える。

それはひとえに、このバカ船長の統率力が成せる業なのかもしれねぇ。

あんまり認めたくはねぇけどな!


「エジル!♪」


「なんだよ?」


「ママとはぐれて寂しくねぇか?♥️」


「いい加減ぶっ飛ばすからな。」


「おい、俺達は都市貴族だと言ったろ?♣️貴族の従者がそんな口の利き方をすんじゃねぇよ♦️どんなに腹が立つことがあっても、礼儀正しく振る舞え♠️金持ち喧嘩せず、だ★」


これか。

これのために今までで散々っぱら挑発を続けてたってのか。

くそ腹立つな。


「分かったら返事はなんだ?♪」


「かしこまりました。申し訳ございません。」


「そうだ♥️」


ロシツキーは俺の肩に手を置くと、真っ直ぐな瞳で俺の目を見詰めた。


「お前の顔を見てりゃ分かる♣️相棒が心配で仕方ないだろうな♦️俺だってもはや浅い仲じゃないし、作戦にあいつがいないのも痛い♠️しかし、それでもやらなきゃならねぇんだ★

お前も腹を括ってくれ♪必ず生きて、ルイーダを迎えに行けよ♥️」


あー、マジで腹立つわ。

こんなんここで言うなよ。

こういうのマジで苦手だわ。


「・・・・・はい。」


俺は無理やり言葉を捻り出した。





密林の国の出入り口は完全にひとつだ。

大陸の南側にある大きな湾に位置する港町。

そこにある関所を通らずしてこの国に入ることは何人たりとも許されていない。

密入国をしようとすれば、海岸線に張られた結界が侵入者の存在を軍隊に知らせ、途端に囲まれて殺されてしまう。


俺達の変装は完璧だった。


入国審査官は、そりゃあ気味の悪い男達だった。

全員が全員、真っ黒いフード付きのローブを頭から被り、ねっとりするような視線で渡航許可証に目を落としていた。

しばらく許可証を眺め、積み荷を確認すると、籠ったような低い声でこう言った。


「入国を許可する。」


俺は直感で気付いていた。

こいつら全員が魔族だと。

しかし、その魔族達も俺達は欺ききった。

ロシツキーとアルシャビンが長い年月かけて積み上げてきた成果だ。


それから俺達は港町で荷馬車を借り受け、毛織物を積み込むと一路、密林の国の城下町を目指した。


港周辺は気候も温暖で安定しており、豊かな草原が地平線の果てまで広がっている。


俺は荷馬車の座席に腰掛けながら、隣で馬を操るアルシャビンに問い掛けた。


「城下町まではどのくらいまでの距離があるんだ?」


「この馬車で5日間ってとこでさぁ。」


「なぁ、密林の国、とは言うけど、そんなんどこにも無いのな。」


「はっはっ。まぁ見ててくだせぇや。」


その言葉通りだった。

丸1日が過ぎた頃だった。


「マジかよ。」


俺はその迫力に圧倒された。


草原がぱったりと途絶えたかと思うと、目の前にそびえ立ったのは、見たこともないほどの巨木の群れ。

一本一本がとんでもない太さの幹を持っており、俺が10人いて腕を伸ばしたとしても幹周を測ることはできないだろう。

そいつらがこぞって天を目指して伸びている。

遥か頭上には太い枝が張り巡らされ、日が差し込まない程に密集している。

日が届かないからか、下草はあまり生えていないが、代わりに地面は降り積もる木の葉で埋め尽くされており、腐った葉が泥のような状態になり堆積している。

暗闇の密林はどこまでも続いており、中からは様々な動物の鳴き声が漏れ聞こえてきた。

加えてたった1日移動しただけにも関わらず、温暖だった気候は座っているだけでも汗をかくほど暑くなり、更には湿度も高い。

まとわりつく空気は不快そのものだった。


「これが密林の国の名前の由来ってわけでさぁ。この国は国土の8割がこのジャングルで占められてるんでさぁ。」


「8割って、とんでもねぇ国だな。よくこんな環境の国が世界三大大国になれたもんだ。」


「この森のお陰で土地だけは豊かだからな。」


日の差し込まないジャングルの土壌は薄い。

詳しいことは俺も知らないが、気温が高いと分解速度が早くなるし、雨が多いと養分が流れ出るのも早くなって土壌が豊かになりにくいってのを聞いたことがある。


「こっちだ♣️」


俺達の前を行っていた荷馬車の座席からロシツキーが顔を覗かせた。

草原から続いていた街道は密林にぶつかった時点で途絶えており、先に進むための道などは無いように思えた。

俺達は密林と草原の境目に沿って、西側に向かって進み始めた。

しばらく進むと、不思議な光景に出くわした。

巨木達の群れが、あまりにも近くに密集しすぎており、木と木が融合しているように見えた。

何本もの樹木が重なりあい、それは自然に作られた壁となっていた。

そしてその壁を削るようにして、道が作られていたのだ。

上へと登るための坂道が。


「この木々は、モストボイの樹って言って、見ての通りに果てしなく大きく成長する種類なんでさぁ。しかも生命力がバカ強くて、滅多なことがなけりゃ枯れたりしねぇし、火にも強い。」


ロシツキーの乗る荷馬車から、ロシツキーやメルテザッカーらが降りるのが見えた。

それに合わせてアルシャビンも馬車を降り、俺にも降りるように仕草で示した。


「この強い木々は、そりゃあ長い年月、ここに生きてるらしいんでさぁ。姐さんの残った森と同じかもしれやせんね。」


俺達の後ろをついてきていた馬車からも、ポドルスキやウィルシャー達が降りるのが見えた。

ロシツキー達は馬の手綱を引くと、歩いて木の壁の坂を登り始めた。

坂の幅はとても広く、馬車ですらすれ違えるほどだ。

傾斜はそこまで急ではない代わりに、しばらく進むと折り返し、また進むと折り返す。

スイッチバック式に壁を登っていくように削られていた。


「あそこに山が見えやすでしょう?」


登り始めてからしばらく経つと、アルシャビンが遠くの方を指差した。

それは大陸の背骨のように横たわる、巨大な山脈の中に一際大きく鎮座する山のシルエットだった。

その頃にはかなりの高さまで登ってきており、その壮大な山々がとてもよく見えた。


「あの山は、よく噴火するんでさぁ。」


かなりの時間を登ってきた。

日が天を差していた頃に登り始め、今はかなり低くなり始めている。


「そろそろ頂上でさぁ。」


その言葉通りに、長い坂道が終わりを告げた。


「こ、これは・・・・。」


信じられない光景だった。

俺達は木の壁に作られた道を登ってきた。すなわち、木登りをしたってことになる。

当然、辿り着いたのは木の上のはずなんだ。

それがどうだ?

目の前に広がっていたのは、広大な草原。

そして、そこには転々と小さな林や池、人の住む集落や農地なんかがあるじゃないか。

それどころじゃない。

小さな丘や、そこから流れ落ちる川なんかも目に入ってきた。

そこは俺達のよく知ってる下界の風景となんら変わりなかったのだ。


「詳しい歴史なんかはよく分からねぇんですがね、モストボイの樹の枝は複雑に絡み合って、さっき登ってきた壁のように融合して、ジャングルに分厚い天井を作ってるんでさぁ。そしてそこに、火山の噴火で噴き上げられた土やらなんやらが堆積して、この樹上の平原は作られたってことらしんでさぁ。」


「すげぇ。木の上にまた違う世界が広がってるなんて、思いもよらなかった。」


「日当たりもいいし、地上よりも土壌が豊か♦️これがこの国が発展した理由だ♠️ちなみに、道からは外れるなよ★道のない場所は底が抜ける可能性がある場所だ♪落ちたら500mまっ逆さまだぞ♥️」


ロシツキーが笑った。




城下町はここから更に馬車で3日間。

その間、俺達はいくつかの村や町を通り過ぎた。

見る限り、どこも農地はよく耕されており、立派な作物がたくさん育っているように思えた。

しかしそれに反して、住民達は誰も彼もが貧しい暮らしをしてるようにも思えた。

しかもただの貧しさじゃない。

皆が痩せ細り、ほとんど食い物にもありつけといないような有り様。

にも関わらず、人々は農地を耕しているんだ。


「これがこの国の現実なんでさぁ。国民が作る作物のほとんど全てが税として徴収され、若干の食い扶持だけが残される。皆、その少しの食い扶持で命を繋ぎ、来る日も来る日も徴収されるだけの作物を作り続けてる。魔族のために。」


そう説明したアルシャビンの声が震えてるのが分かった。


「だけどさ、良かったじゃねぇか。こうやって、土地は豊かなままだ。」


アルシャビンが俺の方に顔を向けた。


「魔族をやっつけるだけでよ、何も変わらない元の生活が戻ってくるってことじゃねぇか。作った作物が皆のものになるんだからさ。」


「違ぇねぇ。」


少しだけど、その言葉に力が籠った。

お互いに。






城下町が見えて来たのは、それから2日後の昼のことだった。


俺達は街道に沿って馬車を進めていた。

それまでは、まばらながらも人々が往き来する姿もあった。

しかしどうだろう。

最も栄えていると思われる城下町に近付くにつれ、人の姿は逆に見えなくなっていった。

城下町を目前に控えた頃には、周囲には俺達以外の姿は完全になくなったのだ。


「嫌な感じだな。」


平原にそびえる城を取り囲むように高い塀が設けられている。

近くに丘でもあれば中の様子も見られるというものだが、平坦な地形のこの場所からでは高い階層を持つ城の頭だけが覗くだけで、街の様子は全くもって伺い知る余地はない。

それでも、城下町の上空を飛び交う烏の群れが、塀の中が正常ではないということを物語っていた。



「よし、最終確認だ♣️」


ロシツキーが俺達全員を集めた。


「俺達の目的は王に化けた魔族を倒すことだ♦️しかし、ただ倒しただけじゃ、それは俺達が王殺しの疑いを掛けられるだけ♠️必要なのは、群衆の目の前で王の正体を暴き、俺達の正当性を示すこと★」


「まずは城下町に滞在して商談をしつつ様子を探り、機会を見計らうんだろ?理想は王が国民の前に姿を現すタイミング。叶わなければ、大勢の前で謁見できるタイミング。何度も聞いてきたぜ。」


その通り。

ロシツキーは何度も何度も俺達にこの話を伝えてきた。

飽きるくらいに何度も何度もだ。


「そうだったな♪ならこれが最後の伝令だ♥️野郎共、誰ひとり死ぬんじゃねぇぞ♣️」


再び俺達は城下町に向けて馬車を進めた。





塀の前まで辿り着くと、正門は固く閉ざされ、その前に小さな小屋が立てられていた。

門番らしき、やはりフードを目深に被った男がその小屋に座っているだけだった。

まずはメルテザッカーが代表となり、門兵に話しかける手筈になっていた。

だが、メルテザッカーは動かなかった。


「大丈夫か?緊張してるのか?」


俺はメルテに近付くと、奴の大きな背をさすってやった。

その顔は蒼白で、血の気が引ききっていたからだ。

それでもメルテの様子は変わらなかった。

俺の手に、その巨体がわずかながら震えているのが伝わってきた。

仕方なく、予定を変更してレーマンが代わりを勤めることになった。


「私共は孤島の国より参りました、商人にございます。国王陛下に特産の毛織物を献上したく存じます。」


レーマンが男の前に歩み寄ると、渡航許可証を見せながらそんな感じのことを話し始めた。

俺達は皆、荷馬車の影からそのやり取りを見守っていた。

フードの男は許可証に一瞥をくれたのみで、レーマンにこう言った。


「分かった。国王陛下にはお渡ししておく。荷をここに置いて去るがいい。」


いくらなんでもあんまりな扱いだった。

俺達は偽物とは言え、他国から正式な書状をうけとってきた位の高い商人だ。

それを、門番程度の身分の兵士が門前払いを言い渡したのだ。

これが本物の商人であれば、相当な国際問題に発展しかねない。


「お待ち下さい。我々は孤島の国の国王に正式に渡航を許され、こちらに参っておるのですぞ。それを、町にも入れないとは無礼ではございませんか。」


レーマンも食い下がった。

しかし、


「城下町には何人たりとも立ち入りは許されていない。立ち去るがよい。」


こう吐き捨てたのみだった。

これは想定外だ。

いくら鎖国体制とは言え、誰も城下町にすら入れないとは。

だからこの周辺には人の姿がなかったってのか。

国民達ですら、町に入ることは許されてないってことだ。


相変わらずメルテは小刻みに震えたまま、その場に立ち尽くしていた。

その時、わずかながら、風が吹いた。


俺はロシツキーに視線を移した。

ロシツキーもこちらを見ていた。

その視線には、明らかな怒りが籠められていた。

アルシャビンも同じ視線を俺に送ってきた。

ふたりの意図は汲み取れる。



それは、風に乗ってこの塀の向こう側から、明らかな死臭が漂ってきたからだった。

尋常ではない濃さの死臭が。



メルテザッカーは耳が良い。

しかしそれだけではない。

基本的に五感がとても優れている。

もちろん嗅覚も。

メルテザッカーを怯えさせていたものの正体。

それがこの鼻をつく臭いだったのだ。


これはどうあっても中に入らないとならない。


俺がどうやってこの門兵を説き伏せるのかを思案していた時だった。


誰よりも早く動いたのは、アルシャビンだった。


隣からアルシャビンがいなくなったことに俺が気が付いた時には、既にその腕は大きく振られ、門兵の頭を消し飛ばしていた。


「アルシャビン!♦️」


俺と同時にロシツキーも飛び出した。

しかし、既に手遅れだった。

頭を消し飛ばされた門兵の体が力を失い、どさりと地面に横たわった瞬間には、アルシャビンの腕は再び空を切り、分厚い木製の門をざっくりと抉り取っていた。

その穴はとても大きく、アルシャビンの体と同じ程の空間が門扉の中に切り取られていた。


アルシャビンの動きが止まった。


俺はアルシャビンの背後に回り込んだが、同じく体が動かなくなった。

それは、俺の後を追ってきたロシツキーも同じだった。


アルシャビンの開けた風穴の向こう側。


見た瞬間に背筋が、いや、体全体が凍りついた。


門の向こう側には恐らく大通りがあったのだろう。城へと続く、町の幹線。

多くの人が行き交えるよう、町のどの通りよりも広く大きく通されていたであろうその道には、いくつもの、無数の、数えきれないほどの木の柱が打ち付けられていた。



人間を串刺しにした柱が。






「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



アルシャビンが吠えた。


その雄叫びを切っ掛けに、俺の体は自由を取り戻した。

ロシツキーも同様だったらしく、アルシャビンの背に掴みかかった。

俺も同じようにアルシャビンの体を押さえ込んだ。


「離せ!離してくれぇ!!」


もがき、暴れるアルシャビンを二人で押さえ込んだが、それでもとんでもない力で俺達は振りほどかれてしまった。

あまりの力に俺達は地面に強かに打ちつけられた。

そんなことに構う様子もなく、アルシャビンは凄まじい勢いで門扉の穴へと飛び込んで行った。


「お頭!」

「エジル!」


俺達の元に皆が駆け寄ってきた。

オバメヤンに引き起こされながら、俺は門扉の穴の向こう、アルシャビンを目で追った。

アルシャビンが最も近くにある柱に近付くと、乱暴にそれを押し倒したのが見えた。

柱は勢いよく倒れた。

倒れた瞬間、先端に突き刺さっていた死体が飛散した。

腐っている。

まだ子供だったように見えた。


アルシャビンの奇声が聞こえてきた。


その時だった。


「お頭!あそこ!」


ポドルスキが指差したのは、城の上層階の辺りだった。


「くそ、来やがったか♠️」


無数の、翼を持つ魔物が群れをなし、城の窓という窓から飛び出してきたところだった。


「ありゃガーゴイルだ。魔術を使う厄介な連中だぜ。」


俺は膝に手をつくと、一気に体を持ち上げた。

アルシャビンもガーゴイルの群れに気が付いたらしい。

再び吠えると、大通りを城に向かって駆け出したのが見える。

あのクソばか野郎が。

死ぬ気かよ。


ムヒタリヤンに抱えられたロシツキーが怒号を上げた。


「野郎共!♠️アルシャビンを援護しろ!★

全員絶対に離れるんじゃない、固まって動け!♪そして本当に最後の命令だ!♥️」



「ヴェルウィント!!」


ロシツキーの号令に合わせて、俺は力ある言葉を放った。

両腕から放たれた竜巻のごとき突風が、分厚い門扉をぶち破り、俺達の前に道を切り開いた。


「誰ひとり死ぬんじゃねぇぞ!!♣️」 


俺達は城下町へとなだれ込んだ。





つづく。

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