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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第二部【海賊と俺】
19/84

開拓者の村①

今、俺達が目指すのは密林の国。

地図で言うところの右下の大陸にあり、地図通りにそこの城下町に行く為には世界の端まで回り込まないとならない。

今俺達がいるのは地図の左上の辺りだから、西回りで海を渡り、大陸に辿り着いたら南下すれば済む。

草原の国から孤島の国みたいに世界を半周するわけでもないから割りと近い位置関係だ。


ただ、西回りの大海には島が少なく、あまり補給ができないんだよな。

しかも、北側の大陸は未だに未開の土地が多く、南側の大陸までは集落もほとんどないから、たまに上陸して野生の森だとか何だとかから補給を行わないとならないんだ。

山岳の国でしこたま補給したあと、ノンストップで海を渡りきらないといけないって言う、それはそれで過酷な船旅だ。


山岳の国を出発して2ヶ月。

なんとか西の大海は渡りきった。

しかし、その時点で積んでいた食糧なんかはほとんど底をついていた。

北の大陸で一度停泊して、俺達は食糧の確保をすることになった。


「よし、また4人1組で散開して食糧を集めるぞ★基本的に日持ちしそうなもんか、干したらいけるもんを集めてこいよ♪」


ロシツキーの号令で、俺達は船を離れた。

俺はいつも通り、ルイーダ、ロシツキー、アルシャビンと組むもんかと思っていたが、今回は違っていた。


「俺は長旅で傷んだ船の補修をみなきゃならねぇんでさぁ。」


つうわけで、今回はメルテザッカーが帯同することになった。


「おーし、皆の足手まといにならないように頑張るどー。」


忘れてる人もいるかもしれないから説明しておくと、メルテザッカーってのは操舵手の大男だ。

軽く俺より頭1つ分は大きいが、横幅は全然ない、ヒョロッとした印象だ。


海岸は砂丘に遮られて先が見えなかったが、それを乗り越えると大きな森が広がっていた。

俺の故郷の島と違って針葉樹が多い。

しかもとびきり背の高い針葉樹だらけだ。

樹の種類が違うだけで、雰囲気ってだいぶ変わるもんなんだな。

別に気候が寒冷なわけじゃないのに、妙に寒々しいイメージがする森だった。


「参ったな。針葉樹じゃ大した食い物は生らないな。」


「日持ちはするけどねぇー。」


「狩りをした方がいいど。」


「その前にまずは川を探そうぜ♥️」


そんな感じにピクニック気分でしばらく進んでいくと、奥の方の森が拓けた場所に小さな集落を発見したんだ。

何か食い物の情報を聞けたり、場合によっては売ってもらったりできるかもしれねぇ。

俺達はその集落に立ち寄ることにした。



それは、木造の掘っ建て小屋みたいなのがほんの数棟だけ固まった、本当に小さな、集落、って感じのところだった。


「畑があるな。」


俺は建物の裏手にある、開墾されたスペースに目を向けた。

その隣には2頭の牛が柵に繋がれており、牛達はそれぞれからすきって呼ばれる開墾用具を取り付けられていた。


「あでー?なんか、こんな森の中なのに、思ってる感じとちょっと違うんだと?」


「そうだな♣️こんな森の中で暮らすなんて、狩猟が生活の中心になりそうなもんだが♦️」


「おい、ルイーダ。あの農耕具とか建物の様式とか、なんか俺達の故郷に似てないか?」


「そーだねぇ。私もそー思ってたところ。」


俺達が数戸の家の中央に位置する広場みたいなところまで進んだ時だった。

正面に見える家の扉が開き、中からひとりの老夫が出てきた。


「おお、もしかして移住希望者かの?」


第一声がこれだった。

もちろん俺達には意味が分からないし、言葉通りに移住者ではない。

ただ、俺達を歓迎してるような雰囲気であることは間違いがない。

大体こんな時は「なんだ?お前ら?」みたいな対応が多いから、正直少し身構えてたのが本音だった。


「いや、俺達はたまたま通りかかっただけだ♠️」


老夫は高床式のバルコニーから降りてくると、俺達の方へと近付いてきた。


「そうかそうか。お前さん達、ここに住む気はないかな?」


ふむ。

どうやらこの男は住民を探してるらしいな。


「すまねぇが、今のところはそういう予定はないな。」


俺の答えに老夫は少し肩を落としたように見えた。


「残念じゃの。」


「ここは何だい?じぃさん。」


俺はこの男の態度に興味が出てきていた。


「ここはの、これから大きな街になる予定の場所じゃよ。儂らが開拓してるんじゃ。」


「へぇ、そりゃすごいな。」


俺は改めて集落を見回した。

木を切り開き、開墾し、少し離れたところには今まさに新しい建物が建築されてる最中だ。


「まだまだ人手が足りなくての。看板なんかを立てて移住者を募ってはいるんじゃが、中々思うようにはいかんよ。」


男が手を広げた。

その手はタコで埋め尽くされていた。

きっと、毎日毎日、来る日も来る日も鍬を握り、ノコギリを握り、一生懸命に森を拓いているんだろうな。


「一体なんだってこんな辺境の地を拓こうとしてるんだ?」


「儂ら、元々は密林の国の住民じゃったんじゃがの、お前さん達も知ってると思うが、あの国は人が住むには過酷すぎる。

もう10年近くになるが、儂らはここに新たに儂らの国を作るために移ってきたんじゃよ。」


「そうなのか★」


ロシツキーの声が沈んでいるのが分かった。

そうか。

ロシツキー達だけじゃなく、こうやって何かしらの行動を起こしてる人がいるんだ。

早く密林の国に向かわないとな。


「じぃさん。すまねぇが俺達はここに住むわけにはいかねぇんだ♪目的があって、その途中でな♥️

だけど、あんた達のためになる様な目的なのかもしれねぇ♣️」


「ほっほ。何かは知らんがそれは頼もしいのぉ。お前さんらの目的が無事に達成されること、儂も祈ろうではないか。」


「すまねぇ♦️」


「何をさっきから謝っておるんじゃ?面白い御仁達じゃの。」


「じいさん、俺達で何か力になれることはあるか?一緒に開拓はできねぇけど、他に何かできることがあれば協力するよ。」


「それはありがたいのぉ。見るにお前さん達は海賊かなんかかのぉ?」


ロシツキーとメルテザッカーを示してそう言った。


「じぃさん、すごいどー。なんで分かったんだど?」


「ほっほっ。儂も昔は船乗りじゃったでな、纏ってる雰囲気で分かるわい。

お前さん達、海賊なら顔が広いじゃろ?誰かこここに住んで手伝ってくれる人を知らんかのぉ?できれば商人とかがいいんじゃがの。」


俺達は顔を見合わせた。

生憎、俺にはそういったツテはない。

ロシツキー達にはあるだろう。

実際、孤島の国に渡るときには劇団を利用したりしてたしな。

しかし、今はそれを伝えに行くような余裕はない。


「そうだな、それなりには心当たりがある♠️近々会うようだったら伝えておくよ★」


「よろしく頼むぞ。どうじゃ?お前さん達、今日はここに泊まっていかんか?」


「いや、ありがたい申し出だが、俺達は食糧を集めに来ただけなんだ。用が済んだらすぐに出航するよ。」


「そうか、残念じゃな。また来いよ。」


「ああ。じぃさん、名前は?誰かにここのことを教えるときはあんたの名前を伝えるよ。」


「儂の名は、ヨハンじゃ。お前さんは?」


「ヨハンか。俺はエジル。」


「ほっほっほ。珍しい名じゃの。」


挨拶だけを交わすと、俺達はその集落を後にした。


森の獣道を来た方へと戻っていると、少し離れたところを何人かの人が連なって集落に向かって歩いているのが見えた。

他の住人かとも思ったが、感じからして旅の商人みたいだ。

商人が出入りしてるならそう孤立してるってわけでもなさそうだし、じぃさんの希望もそんな遠くない未来に叶うんじゃないかな。

俺はなんとなく安心した気持ちで森を進んでいった。



それから、森の中で食糧を集めて回ったんだが、どうにも思うようには集まらない。

特に俺達が食糧集めが下手くそだとは思わない。

人のせいにする訳じゃねぇけど、ルイーダがなんか知らんがずっと浮かない顔して働く気配もねぇからってのもある。

大体だ、どうもやはりこの森はあまり豊かには思えなかった。

こんな森を開拓してくなんて、そりゃー骨が折れるだろうな。

にしても、さっきからルイーダは本当に何をさぼってやがんだ。

ずっと地面を眺めては、時折ほじくり返してはまた埋めてを繰り返してる。

結構な時間をかけて森の中をさまよったが、本気で大した収穫は得られず、気付いた時にはいつの間にか日が暮れかけていた。


「どうする?船に戻るか?」


「仕方ない♪そうするしかないな♥️」


俺とロシツキーが話し合っていると、そこへルイーダがやって来た。


「さっきの集落でさ、何か食べ物売ってもらえばいいんじゃない?きっとお金に困ってるから、結構喜ばれると思うよぉ。」


「何もしねぇと思ったら、そんなことばっか考えてたのか?」


「めんどーなの嫌いだからねぇー。」


まったくこいつときたら。

食糧集めが面倒とか、初めて聞いたわ。

たがしかし、確かに開拓者なら金はいくらあっても足りないくらいだろうからな。


「ルイーダ。今いくらくらい持ってんだ?」


「んーとねぇー、こんくらい。」


指を立てて見せた。


「んで、丸はいくつつくんだ?」


「こんくらい。」


指2本に丸が5つか。

流石だ。いつの間にそんな貯めやがった。


「よし、じゃあそうするか。」


俺達は黄昏の森を集落に向けて引き返すことにした。

そんな時だった。


「ん?お頭。人の声がするんだど。」


メルテザッカーが声を潜めた。


「声?何も聞こえないぞ?」


俺は聞き耳をたててみるも、梟の鳴き声や虫の声以外は何も聞こえやしなかった。


「メルテの耳は犬並みだ♣️こいつが言うなら間違いない♦️」


ロシツキーが口の前に指を立てた。


「あっちだど。さっきのじい様とは違う声だ。」


「さっきの商人みたいな連中だろ。気にしなくていいさ。」


ま、こんな辺境の森にいる人間なんてそんな多くないだろうからな。

俺は集落に向けて歩き出そうとした。


「待つんだど。」


それを止めたのはメルテザッカーだった。


「嫌な感じだど。言ってることがおかしいど。」


「どうした?何を言ってるって?」


「そのまま言うど。

それにしても全然捗ってねぇやんけ。

ま、あのじじぃ達だけじゃほとんど成果なんて期待できねぇやろ。

じじぃもバカやな。ツケでいいってんで喜んで物を受け取ってるが、いくら溜まってるか分かってんやろか?

バカならその方が都合がええわ。せいぜい頑張って拓いてくれや。あらかた人が住める環境が整えば、そこで借金のカタに全部とりあげちゃるわ。

って言ってるど!」


なるほどな。

じぃさん、あの商人達から借金して開拓してんのか。


「気付いてねぇのかな?」


「分からないが、あの感じだと本気でただの人が良いじぃさんっぽいからな♠️」


「マジかよ。」


「おいエジル、変な気起こすなよ?★金のことは通りすがりの俺らじゃどうにもすることはできないんだからな♪不用意なじぃさんの落ち度だ♥️」


「分かってるよ。じゃあ、ま、俺達が食糧を買ってやって、助けになるように協力してやるか。な?ルイーダ。」


俺がルイーダに視線を移したその時既に、ルイーダの姿は俺達の側にはなかった。

俺は辺りを見渡した。


「あれ?」


「ルイーダならあそこだどー。」


メルテが指差した先には、声がしたと言われる方向に猛スピードで駆けるルイーダの姿があった。


「はや!♣️しかも足音ひとつしねぇ!♦️」


「そうなんだよ、あいつクッソ速いんだ。まずいな、追い付けねぇぞ。」


俺は急いでルイーダの後を追ったが、もはや姿すら見失いかける程に距離は離されていた。

俺に続いてロシツキーとメルテも走ってきたが、俺にすら追い付けないふたりの足ではルイーダを追うのは不可能だ。


「すまねぇが船に戻っててくれ!ルイーダは俺が連れ戻すから!」


振り返りながらそう言うと、俺はできる限り速度を上げて森を走った。


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