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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第二部【海賊と俺】
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孤島の国②

まずは島から小舟に乗って大陸に移った。

どうやらここは山岳の国の北端に位置する地域らしい。

孤島の国と山岳の国は昔からいざこざは絶えないが、隣接する国家同士としてそれなりの信頼を持って関係を保っていた。

孤島の国に渡るにはいくつかパターンがあるが、この山岳の国とを結ぶ定期船がそのひとつで、最もポピュラーな手段と言える。

俺達にはその王道ルートが割り当てられていた。

余談にはなるが、

斥候部隊は帝国領内にある中立都市から商工会の所有する商船に乗り込む手筈。

陽動部隊は、以前から懇意にしておいた劇団と落ち合い、そこに紛れ込んで入国する手筈になっているらしい。

ま、正規のルートではあるけどどれも専門的な知識なんかが必要になるな。


船着き場は割りと大きめな町にある。

裕福な国に出入りする港だけあって、人がごった返していた。

船の上は既に孤島の国の領土内といった位置付けだ。

この港が関所の役割を果たしているようだ。

俺達は船の切符を購入した時点で、入国審査を受けることになる。

勇者の証を提示すると、割りとすんなり乗船を許可されたものの、他の乗船希望者を見る限り、過半数がここで入国拒否されていたみたいだった。

守りが固い国ってのは噂通りのようだな。


孤島の国の本土へは船で丸2日。

大分北に位置するこの海は、大陸と孤島の国の本土の間を流れる海峡のようなもんで、かなり潮が速く、海自体も荒い。

時折、流氷なんかも流れていたりする。

快適な船旅とはほど遠く、あれだけ長い間海賊船に揺られたいた俺ですら、船酔いになるんじゃねぇかってくらいに過酷なものだった。


「自分らで駆る船と違って落ち着かねぇもんだな。」


「違ぇねぇや♥️」


口ではそう言うものの、ロシツキーもアルシャビンも平然とした顔でカードゲームに勤しんでいた。

やっぱ流石は海賊ってことかねぇ。


「エジルもやんないのぉー?」


海賊でもねぇこいつのバイタリティには閉口するがな。


最悪な船旅を終えると、遂に本土に到着だ。

不思議なもんで、海峡ひとつを越えただけなのに、他の土地同様にここ独自の景観が広がっている。

島はゴツゴツした岩で覆われ、寒冷な気候も相まって心なしか寂しげな印象を受けた。

家々も、堅牢だが冷たげで憂鬱そうな表情を浮かべるものばかり。

それに拍車をかけるのが、常に曇ってほとんど日差しが射すことの無い空だ。

気を抜けばすぐに涙をこぼす空の下を歩きながら、俺達は孤島の国の首都を目指した。


驚いたことは、この島には魔物はほとんど現れないことだった。

さして広くもない島だからか、人の警備がかなり行き届いており、魔物の侵入も容易には許さないらしい。

特に港から首都に繋がる街道は小さな村が点在しており、村毎に軍隊の支部が配備されている。

なるほど。

魔物すら入り込めないこんな環境じゃ、そりゃ海賊風情が乗り込むなんて論外だよな。

俺は妙に納得しながら歩を進めて行った。



首都が近付くにつれ、街道には石畳が引かれ始め、その頃にはかなりの人が行き交うようになった。

道を囲むように商店や宿が立ち並び、街に入る前のこの段階で既に水の都よりも賑わっているように思えた。

更に進むにつれその規模はどんどんと大きくなり、気が付いた時には街の中を歩いている。

他の土地みたいに壁や柵で街が区切られておらず、そんな感じに次第に街が発展しているような感覚だった。


「面白い街だな。よっぽど治安が良いと見える。」


俺はすれ違う兵士を視線で追いながら言った。


「こんだけ兵隊がうろうろしてたら、住人も安心だろうな。」


他の街と違う感覚を持った一番大きな理由がこれだ。

先程から、等間隔に歩く武装した男達。

一様に長槍を携え、揃いの朱塗りの軽鎧で身を固めているのを見る限り、この国の兵士の標準装備なんだろう。


「あれを見ろ♣️」


ロシツキーが街道の遥か先を指差した。

そこには、巨大な門がそびえ立ち、その門からはとても高い石の壁が街を区切るようにして建てられていた。

軽く人間の背の10倍はあるだろうその壁は、街の中心部をぐるりと取り囲んでいるように見えた。


「この国の首都ってのは、あの壁の内部のことを指すのさ♦️」


「どういうことだ?ここだってもう街中だろう。」


「この国は厳しい身分制度が敷かれていてな♠️王族、貴族、それに関わる富裕層だけがあの壁の中に住むことを許されている★平民は皆、壁の外にこうやって、船底にへばりつくフナムシみてぇに寄生して暮らしてるのさ♪

そしてさっきも言ったが、この国の首都はあの壁の中のみのことを言う♥️

つまりここらの連中は街の正式な住民として認められてない、いわばスクワットの民扱いってわけだ♣️」


「そのわりにはちゃんと警備が巡回して守られてるみたいだが?」


「一体何から何を守ってるんだかな?♦️」


その一言で俺はピンときた。

そういうことか。

ここの兵士達は皆、スコッター扱いのこの住民達から壁の中の住民を守ってるってことか。

ロシツキーも俺の表情を見て、俺がそれに気付いたことを分かったようだった。


「そういうこった♠️もし万一、この街が魔物に襲われたとして、どうなると思う?★」


「外の住民は置き去りで、あの門は閉じられる。ってことか。」


「身震いするよな♪人間の残酷さってやつにはよ♥️」


言いながら笑っていた。


正門に到着した時、俺はこの街の大きさに圧倒されていた。

ロシツキーが門を指し示してから、実に30分は歩いて初めて門へと辿り着いたのだ。

一体ここまででどれだけの人とすれ違ったのだろう。

祭の縁日かと思わんばかりの人の群れ。

何の記念日でもない日常でこの賑わいだ。

そして中を覗き込むと、更に人で溢れ返っている。

恐ろしいほどの規模の街だった。


俺達は正門の中に設けられた関所で再び身分を確認された。

ここから中に入れるのは、各国の政府に認められた身分を証明できる者のみ。

ここでも勇者の証が役にたった。

水の都に存在を認められたという、これの価値を改めて思い知らされた。


「他の皆は中に入れるのか?」


人の群れの中、俺は小声でロシツキーに訪ねた。

ちょうどその時だった。


「貴様!この証書はなんだ!?偽物ではないか!」


関所で身分を改めていた役人が声を荒げ、同時に奥から朱塗りの軽鎧が数名駆け出てきた。


「こっちに来い!」


証書を偽造したと言われたのは商人の格好をした数名のグループで、兵士達に取り囲まれるとそのまま門外へと引き摺られるように連行されて行った。

それを見送った後、ロシツキーは無言で歩き始めた。

俺達もその後に従い、街の中に入った。


壁の中は外とはうって変わって、豪華絢爛な装飾の施された石の屋敷がひしめき合っていた。

どこを見ても、複数の改装を持った格式の高そうな建物ばかり。

ロシツキーが貴族や富裕層のみが暮らしていると言ったのもあながち大げさではないようだ。

正門から城へと続く大通りをしばらく進むと交差点を曲がり、それからまたしばらく進む。

大通りに比べると、人影はけっこう少なくなったそれでも普通の町では考えられない数が行き交っている。


「ここが【ウィリアン】だ♣️」


俺達は、予定していた合流地である宿に到着をした。

壁内の外側寄りに位置する、中流階級の商人や各国の地方豪族、著名な芸術家なんかが泊まる、割りと品の良い宿だった。

ロシツキーが小慣れた様子でチェックインを済ませると、俺達は部屋に入った。

ロシツキーとアルシャビンは5階のツインの部屋。

俺とルイーダはそれぞれ3階のシングルの部屋が割り当てられた。


「荷物を置いたら一度俺の部屋に集まれ★」





ロシツキー達の部屋に入ると、早速パイプを吹かしながらアルシャビンとテーブルにカードを広げていた。

ルイーダはまだだったが、程なくして現れた。


「来たな、鍵を閉めろ♪」


パイプを口から離すと、俺達にベッドに座るよう促した。


「さて、さっきの話の続きだが♥️

心配するな♣️その為の私掠船稼業だ♦️偽造がバレるなら、偽造しなけりゃいいのさ♠️」


一瞬なにを言っているのかピンとこなかったが、すぐに先程の正門での質問に対しての解答だと気が付いた。


「え、今更かよ?」


俺はあまりのタイミングに思わず突っ込まずにはいられなかった。


「仕方がねぇんでさぁ。こんな話、街中でしようもんなら命取りですぜ。」


アルシャビンもカードを切りながら口を開いた。


「どういうことだ?」


「壁の中じゃ、常に監視の目が光ってるんでさぁ。何の変哲もないあの大通りの至るところに、公安兵が紛れて全ての人間を見張ってやしてね。どこで誰が何を聞いてるかも分かりゃしねぇ中で、下手な話はするべきじゃねぇんでさ。」


「そうだったのか。俺、まずったか?」


「大丈夫だろう★運良く阿呆が捕まったから、騒ぎに気を取られたろうな♪

だが次から気をつけろ♥️

連中、人を観察する達人だ♣️ほんの鼻くそ程度の違和感すら見逃さねぇ♦️」


「分かった。」


「そういうわけで、ここから先、俺らの行動は全てシナリオに沿って行っていくんで、それを伝えておきまさぁ。」


「シナリオ?」


「ああ。よく聞いておくんなせぇ。

斥候は俺らより先に宿に到着していて、既に7階に部屋をとっているのを確認済みでさぁ。

そんで予定では明日の昼には陽動が紛れている劇団が到着して、4階に部屋をとることになっていまさ。

それからまずは俺らが仲間だと悟られないようする為、明日の夜、隣のパブで劇団と商人が落ち合い、飲みながら意気投合する様子を公安兵に見させるんでさぁ。

明後日、斥候が王族と近しい貴族の家に出向き、王家に献上する品を見せる傍ら、劇団の話を持ち掛けまさ。

十中八九、その話に乗ってくるはずなんで、そこからは公演を待つのみなんでさぁ。

それまでの間、俺らは勇者ご一行として、軍隊に島の様子を聞いて回ったりなんだり、自然に振る舞っておいて、公演が始まったら作戦実行となりやす。」


「公演を待つって、本当にそうなるのか?」


「今も言いやしたが、十中八九は。そんだけこの国の連中は演劇にお熱なんでさぁ。

更に言えば、王家に良い劇団を紹介するのは貴族にとって、心証を良くするための常套手段。異常に関心の高いことだし、やると決まればすぐにでも始めるでしょうよ。」


「なるほどね。で、作戦実行ってのは何をやるんだ?」


「この街の地下には、いつの時代のものかも分からない、大規模な地下道が存在するんだ♠️街中を通るその地下道は、もちろん城の地下にも繋がっている★

だがどういう理由かは知らねぇが封印されていて、その地下道はどこからも入ることができないし、どうやって入るのかも誰も知らない♪」


「ん?おいおい、どういうことだよ?誰も入れない地下道の話が今関係あるのか?まさかその地下道から城に侵入するってのか?」


「その通り♥️誰も知らない地下道には警備は無いからな♣️」


「いきなり雲を掴むような話だな。

どうやって入るのか誰も知らない地下道に、本当にどうやって入るんだよ?」


「入り口が無いなら♦️」


「作ればいいんでさぁ。」


俺の問いかけに、二人は不適な笑みを浮かべて答えた。


「入り口が封印されている場所は大聖堂の地下♠️それは誰でも知っている★

そこにアルシャビンの精心術で入り口をこじ開ける♪それが俺達の奥の手だ♥️」


そういうことか。


「これも私掠船稼業の賜物ってわけだな♣️横の繋がりがありゃ、そこそこの情報は手に入れられる♦️」


どういう経緯があり、何をしたいのかは未だによく分からない。

何でも開けられる鍵を手に入れて、この男は何をしたいんだろうか。

精心術で入り口を開けられるという似たようなものすら所持しているのに?

何故そこまで鍵を欲する。

望まない海賊に身を落とし、海賊とは無縁であろう街の情報を調べあげ、手段を集め、実行に移している。


この際はっきり言っておくが、俺がこいつに大人しく同行しているのは、この男が盗みを働くのならそれを止めるためだ。

どんな理由があるのかは知らねぇが、人様に迷惑をかける行為は許せねぇからな。

始めはそう思っていた。

しかし、この男のここまでの執念みたいなもんを感じて、その先に何があるのかを知りたくもなってきた。

何が悪で、何が正義なのか。

一口では片付けられない何かを、俺はこの男から感じ始めていた。




と、ここで、それまでずっと無言で話を聞いているだけだったルイーダが口を開いた。


「ねーねー、話終わったぁー?さっきさ、この部屋来る前に、外で見たおいしそーなおやつ買ってきたんだよねぇー。皆で食べようよぉー。」


そう言ってテーブルの上に置いた紙袋には、一口大の何かのフライがどっさりと入っていた。


「おい、勝手に外に出るなよ。公安に目をつけられたらどうすんだ。」


「だって美味しそうだったんだもーん。」


「いや、それでいい♠️逆にその方が自然だ★初めてこの街に来た奴なら、こういうもんは食いたくなるもんだ♪」


「ん、確かに言われればそうかも。」


「あんまり肩肘張ってるとそれはそれで違和感が生まれるからな♥️俺達は普通の勇者ご一行♣️思ったことをやった方がいい♦️」


「なんか色々と難しいな。」


こんな駆け引きみたいなこと、アカデミーじゃ習わないしな。

普通に魔物退治してるだけじゃ、やらないような頭の使い方だ。

これはこれで、気楽にやるべきなのかもしれん。

ルイーダが紙袋を俺の方に差し出してきたから、その中身のフライをひとつ摘まむと口に放り込んだ。


「うえっ、なんだこれ?」


「白身魚のフライだねぇ。」


「いや、そうじゃなくて、なんだよこの味付け。なんか微妙に苦味と雑味があるんだが。」


「んー、確かにぃー。思ってたより不味いかもぉ。」


そう言って笑いながら、ルイーダはふたつめのフライにかじりついていた。

不味いんじゃねぇのかよ。


「こいつはこの街の名物でな、味付けにビールが使われてるんだ♠️」


説明をしながら噛りかけのフライを振って見せた。


「ビール?味付けに酒を使ってるのか?いや、ワインならよく聞くが、ビールって。」


「ま、独特なんだよ★この街は♪」


俺は窓から外を見た。

さっきまでは何もなかったのに、今は雨が降っていた。



つづく。

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