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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter1 魔臓器奪還編
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第八話 【油断大敵】



「金髪の男の子? そういう子はいくらでもいるわよ」



 軽く一杯引っ掛けながら、酒場で情報収集をしていたディルモットは、カウンターで頬杖をついて溜め息をついていた。


 酒臭さと男臭さが混じった酒場では、様々な者たちが集うため情報収集にうってつけだが、配膳娘に聞くのは間違いだったようだ。



「貴女、運び屋でしょう。ここは観光地だから、よくあることなのよね」



 配膳娘は皿の水滴を拭き取りながら、微笑んで肩を竦めた。



「最近、砦内で誘拐事件が多発しているって噂よ。子供ばっかり誘拐して、何処かに売ってるって話」


「そいつは物騒だねぇ」


「ええ、物騒。だから早く見つけてあげて」



 配膳娘は柔らかく笑うと、料理の皿をいくつか抱えホールへと走っていった。


 安酒を飲みながら、ディルモットは息をついて暫く考え込んでいると、空いていた右隣の席に一人の青年が腰を下ろした。


 青年はフードで顔を隠しており、明らかに怪しい出で立ちで、酒を頼むことなくディルモットの方へ身体を向けている。



「……やあ、初めまして」


「…………」



 馴れ馴れしい態度の青年に、ディルモットは一瞥することもなく席を立とうとした。


 だが、それを青年は慌てることなく制止する。



「残念だな。ボクは君が望む情報を持ってるっていうのに」


「悪いがそういうのは間に合ってる。商売なら他を当たってくれるかな」



 青年の言葉に飛びつかず、ディルモットはカウンターに銅貨を一枚置いて席を立つ。


 

「王子を探しているんだろう? 協力させて欲しい。ボクは君の味方さ」



 青年は口元だけを緩めて、ディルモットを見上げる。


 脅しでも威嚇でもない。

 純粋な好意。


 青年から感じ取れたのは、面白半分で首を突っ込むものではなく、全てを知った上での好意だ。


 殺気とは程遠く、むしろ全てを包み込むような安心感さえ与えてくる謎の青年。


 ディルモットは青年に背中を向けたまま瞬巡し、腰に手を当てて小さく息をついた。



「金は払わないし、一杯を奢るつもりもないが、それでも構わないなら聞かせて貰おうか」


「ああ、それでいい。ボクはお酒が苦手だから、簡潔に言わせてもらうよ」



 席に戻らないディルモットの背中を見据えて、青年は怒ることなく頷き、話を始めた。



「砦の入り口に構える骨董屋。ここに王子はいる」


「その根拠や証拠は」


「ボクがこの目で見たからさ」


「なら、何故そこで助けなかったのかねぇ。結局のところ、アンタはアタシの敵だろう」



 ディルモットの言葉に、青年は驚きはしないものの、次の言葉を詰まらせた。


 敵だろう。

 その予想は、ディルモットの中で確信に変わった瞬間でもあった。



「……そうだね。ボク自身は味方でも、ボクの組織は君の敵さ。だからこそ、ボクは君に情報を伝えることしか出来ない」



 青年は微笑んだ。

 

 彼の言葉に嘘はないだろう。

 だが、ディルモットには分からないことがある。



「アタシに味方する理由は?」



 腕を組み、心なしか苛立ちを隠せていないディルモットの問い掛けに、青年は迷うことなく言い切った。



「君を愛しているから」


「はあ?」



 ぶっ飛んだ理由に、思わず振り向き呆れ顔を見せたディルモットに対し、青年は立ち上がり笑みを見せる。


 

「そろそろ行かないと。信じるか信じないかは君の自由さ。君がもし信じてくれなくとも、ボクは君を貶したり憐れんだりしない」



 青年はディルモットを真っ直ぐ見据えて、一度強く頷き、ゆったりとした足取りで酒場の出口へと歩いていった。


 残されたディルモットは、呆れを通り越し不安を感じると、自らの二の腕を掴み首を左右に振った。



「……久しぶりに気持ち悪い奴と会ったな。こういうのは慣れたと思っていたんだが」



 ディルモットは中身のない酒のグラスをあおり、吐き気がするようなざわつく心を落ち着かせていく。


 だが、収穫はあった。


 収穫といって良いものかは未だ分からないが、これが嘘ならばアールスタインは手遅れとなるかも知れない。


 信じなければ、それはそれで手遅れとなるのだが。



「厄介なことで」



 ディルモットは酒場の賑やかさを避けるように、藁袋を背負って出ていった。


 確かめるためにも、突入するにしても、準備が必要となる。


 無駄な出費が増えることになるが、致し方無い。



「骨董屋は……あれか」



 外に出たディルモットは、酒の臭いを軽く叩いて落とすと、人混みに紛れながら砦の入り口付近へと近付いた。


 客足は少ないものの、店前には見たこともないような希少な魔法関連の道具が置かれている。しかし、店主の姿は見当たらない。


 奥に引っ込んでいるのかと思いきや、店内を覗いても店主らしき人物は見付けられなかった。


 これでは盗み放題だが、ディルモットには関係のない話だ。



「お決まりの展開らしく、何か落としていれば助かるんだけどねぇ……」



 おとぎ話や娯楽本では、誘拐された人物が手掛かりを落としていたりするものだが、そう上手い話は──あるもので。



「……血」



 骨董品が並ぶ店の前。

 地面に数滴落ちていた赤い斑点。


 塗料にも見えないことはないが、赤黒く、つい先刻落ちたものだと推測出来た。


 その赤黒い斑点は、店前から後ろに続いており、その先を辿っていくと、ディルモットは一台の荷馬車の前で止まった。



「まさか……」



 布で隠された荷馬車の付近には、赤黒い小さな斑点が幾つも見て取れた。


 驚愕しつつ、顎を撫でしゃがみ込んだディルモットは、地面を汚す赤黒い斑点を見つめ息を飲んだ。


 万が一、アールスタインがここで殴られ連れて行かれたとすれば、話し合いで解決など到底出来ないだろう。



「流石にまずいねぇ」



 王子が誘拐され、魔臓器まで悪人の手に渡れば、最悪を通り越してお終いだ。


 地面に付着した赤黒い液体を指で触れ、ディルモットは力強く拳を握り締める。


 準備などと悠長にしている暇は無さそうだ。


 見張りらしき奴等はいない。

 突入するならば今しかない。



「……さっさと終わらせようじゃないか」



 ディルモットは、ホルダーにしまった拳銃とダガーを確認し、藁袋の上からロングコートを着直し、揺れないよう紐を強く締める。


 周りの目を確認し、不審な動きをすることなく、ディルモットは骨董品屋の中に足を踏み入れた。





 



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