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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter3 黒と白の殺し屋編
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第五十七話 【五分五分】


 悪態を吐いたディルモットは、ダガーを捨て飛び退いた。着地の際にほんの少し右足が疼く。


 傷の具合は浅いようだが、すぐに塞がるほどまだまだ化け物でもないようだ。



「アタシの仕事は無事に王子を送り届けること。他人にとやかく言われたくはないねぇ」


「君がそれで死ぬとしてもかい?」



 肩を竦めて銃口を向けたディルモットは、黒衣の青年の言葉に眉をひそめた。



「アタシが死ぬって?」



 不快感から呆れに変わったディルモットだが、あちらの表情は真剣そのものだ。茶化すことも躊躇うほどに。



「あの列車に乗れば、いくら君でも間違いなく死ぬ」



 体勢を整えた黒衣の青年は一度言葉を切ると、息をついて蛇腹剣を元に戻し、ディルモットのダガーを後方へ蹴り飛ばす。



「あの女の目的は__ッ!」



 黒衣の青年が言い終える前に、銃声がそれをかき消した。



「一度アタシに刃を向けたんだ。話すよりこっちの方が早い」



 拳銃を構え、ディルモットは微笑んだ。しかし、表情とは裏腹に殺意は異様だ。



「……元より説得じゃ無理だと分かっていたサ」



 黒衣の青年は頭上に蛇腹剣を構え、綺麗な姿勢で迎え撃とうとする。


 一触即発の状態。


 橋の上で日が落ちていく。

 赤い夕日が完全に消えようとした瞬間、先に動いたのはディルモットだった。


 力強く地を蹴り上げ、地面と水平に飛んでいくディルモットは、まず二発の弾丸を黒衣の青年に撃ち込んだ。



「何が狙いかな……!」



 当然、安直に放たれた弾丸など黒衣の青年は蛇腹剣で弾き落とす。


 ディルモットは答えなかった。

 あえて視線は黒衣の青年に向けたまま、蛇腹剣が当たるギリギリの距離まで攻めていく。



「無謀だネ」


「そうでもないさ」



 蛇腹剣を横凪ぎに振るった黒衣の青年に対して、ディルモットは飛んだ。


 青年の頭上を飛躍し身体を捻らせながら、銃口の引き金を引く。こちらも勿論、威嚇射撃だ。


 分かっていても、黒衣の青年は弾丸を蛇腹剣で弾く以外に選択肢はない。



「よっと……」



 その隙にディルモットは着地と同時に、黒衣の青年に捨てられたダガーを取り返すことに成功した。



「流石にこれがないとまともに戦う気は起きないねぇ」



 舌を打つ黒衣の青年に、ディルモットは息をついて左手にダガーを構える。


 悠長にマガジンを入れ替え、薄暗い景色を見据える。闇に溶け込めば、黒衣の青年は有利かも知れない。


 しかし、有利なのはこちらも変わらない。五分の戦いだ。



「悪いけど、アタシは死にたいんでね。もし殺してくれるなら本望さ」


「……」



 ディルモットの笑みに、黒衣の青年は顔を歪めた。唇を噛み締め、蛇腹剣を一振して一気に距離を詰める。


 蛇腹剣とダガーが何度もぶつかり、静かな橋の上で金属音が哀しく鳴り響く。


 お互いまだよく知らぬ身でありながら、師が同じであるかのように動きを重ねる。


 上からなら上でたたき落とし、下からすくい上げる攻撃には下がりながら横振りで応戦する。武器は違えど、戦いは完全に五分。


 __あとはどちらが身を削るかに掛っていた。



「ん……っ!?」



 素早く首を狙ったディルモットの攻撃は、蛇腹剣ではなく左腕によって防がれた。


 布を裂き、筋肉にめり込んだダガーは簡単に抜くことは出来ず、ディルモットは一瞬怯む。


 同時に蛇腹剣が下からすくい上げるように振られ、ディルモットは寸でのところで身を翻す。


 頬に赤い一線が走り、彼女の白い肌に一筋の血が流れていく。



「ハハッ、痛いね。やっぱり身体は張るものじゃない」



 左腕から滴り落ちる血を尻目に、黒衣の青年は再びディルモットのダガーを奪い取った。今度は拾われぬようにと、力強く橋の下へと放り捨てる。



「ボクも君と同じ人種なんだ。深手を負うくらいなら、軽いものを犠牲にする」


「あいつからの教えかい? 悪趣味なだねぇ」



 ディルモットは頬を拭い、血を払い捨てる。結局、頼れるのは一丁の愛用銃のみらしい。


 流石に橋下に捨てられたダガーを拾いには行けない。


 相手は左腕を負傷しているが、痛がる素振りはない。



「面倒だねぇ……」



 困ったように肩を竦め、ディルモットはお手上げといった様子で頬を掻く。



「ボクは本気さ。君の足を切断してでも止めてみせる」



 黒衣の青年は蛇腹剣を構える。


 ディルモットは逡巡した。


 ここで負けたらどうなるのか?

 列車に乗れば死ねるのだろうか?


 王子は__残されたアールスタインはどう思うだろうか。



「……アタシはまだ、何もしていない」



 ディルモットは吐き捨てるように呟き、拳銃を構えた。ほんの少しだけ、心臓が痛んだ気がした。




 

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