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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter3 黒と白の殺し屋編
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第五十六話 【黒衣の青年】


 右手に高い山、左手に鬱蒼とした森に挟まれた唯一の街道は、人一人通っていなかった。馬車や荷馬車が通っていてもおかしくないが、どうやらこの先は大きな町もないらしい。



「ここから右の街道を抜ければ大橋。そこから小さな集落を通って行けば、ギンムガム行きの列車がある都市があるはずです」



 地図を頼りに視線を上げたミリアは、まずは遠目に見える大橋へ指差した。



「結構遠いね……。あとどれぐらい掛かるんだろう」


「何も無ければ三日、足が見つかれば二日で着けるだろうさ」


「その何も無ければって絶対ウソだよね。もう何かあると思って行く方がいいよね」




 この旅で学んだらしいアールスタインは不貞腐れることもなく肩を竦めて溜め息を漏らす。


 いちいち説明する必要がなくなったディルモットにとっては有難い話で、懐からタバコを取り出して一本口に咥え、マッチに火をつけた。


 だが、それからの足取りは順調そのものだった。大橋に着く前に魔物が寄ってくるだろう予想は外れ、おまけに天気も良好。


 夜を迎える前に大橋にたどり着いた一行は、大橋の下で寝泊まりの準備を始めようとしていた。



「さて、役割分担はどうするかねぇ」



 藁袋を下ろし、ディルモットは川の冷たい水に手を入れ飲めるかどうかの確認をする。



「じゃあ、僕は木の枝を集めてくる」


「お供します。ディルさんは食材の準備をお願い致します」



 率先して動きたがるアールスタインと、それにお供するミリアが行ってしまうとなれば、野宿の準備はディルモットに委ねられた。


 

「アタシが作るのか?」


「はい。運び屋さんなら、料理くらいお手のものでしょう!」



 ミリアから期待の眼差しを向けられ、ディルモットは不服そうに眉をひそめたが、彼女には通じないだろう。



「ミリア! あそこ、森の方へ行ってみよう!」


「アール様! 急ぐと危険ですっ!」



 いつもながら走っていくアールスタインを、ミリアも急いで追い掛けていく。

 その姿を見送ったディルモットは、灰を落として橋の上へと向かった。


 弾は勿体ないが、肉くらい食べないと精が出ないだろうと、優雅に飛ぶ鳥の群れを見据える。


 だが、夕暮れ時の景色に目を隠した瞬間、大橋の向かい側から歩いてくる人物に眉をひそめた。



「久しぶりだね」



 柔らかい笑みと白い肌が特徴的な男は、それらを隠すように黒衣に身を包んでいた。


 左手で軽く振って挨拶してくる黒衣の青年に、ディルモットは怪訝そうに腰に手を当てる。



「もうここまで来たんだね。魔臓器の事件に巻き込まれたと聞いた時は心配して夜も眠れなかったよ」



 安堵した様子で胸を撫で下ろす黒衣の青年に、ディルモットは目を見開いた。


 親しげに話してくる黒衣の青年の手には、蛇腹剣が携えられていたのだ。

 それを鞘に収めようともしない。



「……そんな物騒な物しまってから話してもらおうか? アタシも食材集めに忙しくてね」



 チラリと上空を見れば、当然ながら鳥の群れは飛び立ってしまった後だ。


 そんなことは露知らず、黒衣の青年は顎に手を当てて困ったように首を傾けると、蛇腹剣を構えた。



「用件は、アタシの命かねぇ」


「命まで取らなくとも、足止めさえ出来ればそれでいい。君は負傷の差によって完治までに時間が掛かる。つまり、半殺しにすれば済む話さッ!」



 ホルダーに手を掛け飛び退いたディルモットに、黒衣の青年は地面を蹴りあげ水平を飛ぶように距離を詰める。


 だが距離はまだある。

 ディルモットは二発の弾丸を容赦なく頭と肩に向けて放った。


 その弾丸を避けるため、黒衣の青年は重心を右に傾け転ぶと、蛇腹剣で弾丸を弾いた。


 同時に、ディルモットは着地地点に一発放ち、中古のダガーを逆手に持って地面を蹴りあげる。



「列車にはあの王子だけ乗って貰う。君の仕事はここで終わりサ」


「人の仕事に茶々入れてくる男はモテないってねぇ」



 皮肉と共にダガーが蛇腹剣とぶつかり合う。


 一歩も譲らないつばぜり合いだが、黒衣の青年は膝をついている。

 力の差ならばディルモットの方が上手だ。そのはずだった。



「忘れたかい。ボクの剣は、只の剣じゃない」


「ぐっ!」



 蛇腹剣がその名の通り蛇の如く鎖で分解され、ダガーに込めていた力が一気に分散される。


 ディルモットのダガーは鎖に挟まると、全く微動だにしなくなったのだ。

 その隙を、黒衣の青年は見逃さない。



「ボクもサブウェポンは持っていてねッ!」



 そう言うと、黒衣の青年は足首から短剣を引き抜き、ディルモットの右足に斬りつけた。


 生暖かい血が吹き出し、夕暮れの光に照らされる。



「君にはかすり傷にもならないだろうネ。それでも、ここからだヨ」


「……鬱陶しい」



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