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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter3 黒と白の殺し屋編
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第五十五話 【助けたお礼】


「約束の物ですよ」



 バーの奥。ベルガルに手渡された物は、三枚のギンムガム行きのチケットだ。


「魔臓器の一件ですっかり忘れてたが、アンタは忘れてなかったみたいだねぇ」


「忘れる訳にはいきませんからね」



 しっかり三枚のチケットを懐にしまい、ディルモットは肩を竦めた。



「ディルさんが戦っていた間に、こちらも大変だったんですからね!」



 先ほどから蛇のように睨み怒りを露わにしているミリアに、ディルモットは溜め息をついて肩を落とした。


 ミリアの頬にはまだ癒えていない傷をガーゼで隠し、腕には包帯が巻かれている。


 聞くところによると、ミリア一人でベルガルの孫を救出したようで、チケットはある意味彼女の力が無ければ手に入っていないだろう。


 流石にディルモットも反省しているようで「悪かったと思ってる」と、向き合って謝罪を口に出す。



「僕のせいだよね……ごめん」


「い、いえ! 決してアール様のせいではっ」



 深く反省するアールスタインに、手をパタパタさせて動揺してしまうミリア。


 それを見て笑ったベルガルは、部下に囲まれている孫アベルを一瞥して柔らかく微笑んだ。



「まぁまぁ、アベルは無事でしたし今回は結果オーライというもの」



 大変な思いをしたのはお互い様ということか。


 何せ、ディルモットが魔臓器を潰さなければさらに被害は広がっており、この国は崩壊していただろう。


 ディルモットが倒れてからは、塔国は鎮火活動と民間の救助、城の復興などに追われている。


 現在、ジークフリードは塔国の救援活動に尽力しているようで、今は安全のようだ。



「そういえば、ダジエドとリーシェはどうした?」


「ああ、あのお二方なら昨晩のうちに運び屋協会に戻られましたよ」


「協会に?」



 ディルモットの疑問に、ベルガルは白髭を撫でた。



「何か言ってなかったかい?」


「いえ、特には……」



 その会話に、落ち着いたミリアが不思議そうに首を傾げた。



「リーシェさんはディルさんを尊敬しているようですし、何か言伝があっても良さそうですけど」



 ミリアの推測は正解だった。


 拒否をしても嫌という程くっついてくる女が、言伝も無しに運び屋協会に戻るということは、余程の緊急事態か。



「あの堅物騎士様のこともあるし、アタシらも早いとこ出発しようかねぇ」


「え!? 本気ですか……?」



 腕を組むディルモットに、焦りを見せるミリアは王子に視線を向ける。



「今王国に戻されたら、ここまでの苦労が水の泡なんだ。ジークには悪いけど、僕は行かないといけない」


「だ、そうだけど?」



 アールスタインの言葉に乗っかり、ディルモットはどうする?といった表情で彼女の決断を待つ。



「……分かりました。せめて、書き置きだけでも」



 ベルガルの部下にペンを借りたミリアは、簡単な言伝を走り書きして、ペンと共に手渡す。



「きっとこちらに顔を見せると思います。よろしくお願い致します」


「……仕方ない」



 渋い表情で受け取ったベルガルは、中身を見ることなく懐にしまうと、白髭を何度か撫でた。



「じゃ、忘れ物はないかねぇ?」



 皮肉っぽく笑ったディルモットは、酒場から出ようとして、小さな影に道を塞がれた。



「赤髪のお姉さん!」



 前を塞いだのは、ベルガルの孫アベルであった。どうやらミリアをご指名らしい。


 ミリアは膝を折り、姿勢を低くしてアベルの目線に合わせた。



「本当に助けてくれてありがとう。これ、あの実験室で拾ったんだ。魔力がどうとか言ってたから……お姉さんなら使えるかも」



 そういうと、アベルは小さな翠玉を取り出し強く前に差し出した。

 よく見るとそれは紛れもなく魔法の欠片であった。


 実験室で開発された魔法の欠片。

 用途や能力は未知のものであるが、騎士ならば魔法が使えると思ったのだろう。


 ミリアは魔法の欠片を受け取ると、なるべく笑顔でアベルに頷いた。



「ありがとうございます。大事に使わせて頂きますね」


「うん! お姉さん、頑張ってね!」



 アベルの純粋な応援に、ミリアは今度こそ笑顔で立ち上がり、魔法の欠片を強く握り締める。


 柔らかく手を振って、軽く頭を下げたミリアは急いで酒場を出ていった。

 先に出ていたディルモットは、街灯にもたれてタバコを吹かしていた。



「お待たせしました」



 と、再び頭を下げておさげを揺らす。


 しかし、ディルモットはタバコを咥えたままミリアを見つめ、全く動こうとはしなかった。



「ど、どうされましたか?」


「ん? いや、良い顔してるなと思っただけさ」


「良い、顔……ですか?」



 目を丸くするミリアを置いて、ディルモットは踵を返し町の出口へと歩き始める。



「自信が付いたってことじゃない?」



 ニッと笑ってアールスタインは彼女の背中を追い掛け、ミリアに「早く!」と手を振った。


 少しずつ意味を理解し顔を赤くするミリアは、ふと酒場の窓越しに手を振るアベルに気付き、手を振り返した。


 騎士とは、誰かを助けることで意味を成す。それが例え悪人でも、善人でも、大人でも子供でも変わらない。


 それを再確認出来た瞬間だった。



「置いていくぞ」


「はい! ごめんなさい!」



 遠くからディルモットに促され、ミリアは笑顔で走り出した。




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